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事故を起こさないダンジョン配信者は、なぜか世界の異常が見えてしまう   作者: 相馬カイ


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13/27

第13話 事故が起きない回は、評価されない

 配信を開始して五分。


 天城恒一は、はっきりと“嫌な数字”を見てしまった。


【探索配信:天城恒一(Dランク)】

 視聴者数:61,204 → 57,890 → 53,112


「……減るの、早くない?」


【コメント】

・事故待機

・今日は何もなさそう

・見る意味ある?


「探索者としては、意味しかないですからね!?」


 思わず語気が強くなる。

 だが、コメント欄は容赦がなかった。


【コメント】

・安全なのは分かる

・でも天城に求めてるのそれじゃない

・事故らないなら他行くわ


「……」


 言い返せなかった。


 今日のルートは、完全安全。

 昨日以上に黒岩が念入りに選定したものだ。


 罠は解除済み。

 モンスターは単独行動のみ。

 異常報告、ゼロ。


 探索者としては、理想的。


「……問題なしですね」


 恒一が言うと、黒岩は頷いた。


「はい。

 本日の探索は、模範的です」


【コメント】

・模範的=つまらん

・教科書配信

・事故男じゃない


「事故男って呼ばないでください!」


 叫んでも、虚しい。


 視聴者数は、さらに減る。


 53,112 → 49,008 → 45,331


「……数字、見ない方がいいですかね」


 ぽつりと呟く。


【コメント】

・メンタル削れてて草

・でも事故らないのは偉い

・応援はしてる


 その“応援”が、余計に刺さった。


 ――応援はするが、見続けるとは言っていない。


 探索は順調に進む。

 本当に、何も起きない。


 恒一は、気づいていた。


 自分の中にある“ズレ”が、

 今日はまったく顔を出していないことに。


(……よかった)


 本来なら、安堵する場面だ。


 だが。


(これで、いいんだよな……?)


 疑問が消えない。


 探索終了。


 無事帰還。

 報酬も問題なし。


 だが、配信画面の数字は冷酷だった。


【配信終了時 視聴者数】

 38,417


 開始時から、二万人以上減っている。


「……現実、ですね」


 恒一は、乾いた声で言った。


 控室に戻ると、黒岩が端末を操作していた。


「天城さん」


「はい」


「本日の評価です」


「……怖いんですけど」


「探索者としては、満点です」


「配信者としては?」


 黒岩は、一瞬だけ言葉を選んだ。


「……厳しい」


 恒一は、苦笑した。


「ですよね」


 黒岩は続ける。


「すでに、切り抜きが出始めています」


「……どんな?」


 黒岩は画面を見せた。


【切り抜きタイトル】

『事故らない天城は偽物』

『期待外れDランク配信』

『もう事故男じゃない』


「……偽物?」


 胸の奥が、じわりと痛んだ。


「俺、ちゃんとやってるのに」


「ええ」


 黒岩は否定しない。


「ですが、

 “期待されている像”からは外れています」


「……じゃあ俺は」


 言葉が詰まる。


「事故を起こさないと、

 評価されないんですか」


 黒岩は、すぐには答えなかった。


 少し間を置いて、言う。


「いいえ」


「……」


「ですが、“評価される物語”からは、

 外れ始めています」


 その言い方が、残酷だった。


 夜。


 一人になった部屋で、恒一はスマホを見ていた。

 おすすめ欄に、自分の名前が並んでいる。


 だが、タイトルはどれも似たようなものだった。


『事故男、終わる』

『天城恒一、ピークアウト』

『もう何も起きない』


「……まだ、何も終わってないのに」


 呟きは、誰にも届かない。


 そのとき、一件の通知が届いた。


【速水レイからのメッセージ】


 短い文章だった。


『一人で抱え込むな。

 次、話そう』


 恒一は、スマホを握りしめた。


 事故が起きない回は、

 評価されない。


 その事実を、

 はっきりと突きつけられた一日だった。


 次回予告欄には、

 さらに不穏な文字が表示されている。


【次回予告】

『切り抜きが、勝手に物語を作る』


 ――物語は、

 自分の手を離れて進み始めていた。


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