第12話 事故を期待される男
配信開始前から、嫌な予感はしていた。
【探索配信:天城恒一(Dランク)】
視聴者数:58,403
「……また増えてる」
数字を見るだけで、胃がきしむ。
昨日は“何も起きなかった回”だったはずなのに、今日はその逆だ。
【コメント】
・今日は何起きる?
・事故るまで帰れない配信
・期待してるぞ
・安全装備脱いで?
「脱ぎません!」
即答すると、コメント欄が草で埋まった。
「今日は、普通に探索します。
普通に、安全に、です」
【コメント】
・フラグ
・その宣言いらん
・逆に怖い
黒岩が横で咳払いをする。
「天城さん。
今日は一つ、企画があります」
「……嫌な予感しかしないんですけど」
「視聴者アンケートです」
「ほら来た!」
黒岩は端末を操作し、画面を共有した。
【アンケート開始】
『天城恒一の配信、
危険でも見たい? 安全第一で見たい?』
【選択肢】
・危険でも見たい
・安全第一で見たい
「ちょ、待ってください!」
恒一は慌てて言った。
「これ、聞く意味あります!?
危険って言われたらどうするんですか!」
「結果を見るだけです」
「それが一番怖いんですけど!」
【コメント】
・逃げるな
・民意を見せろ
・民主主義だぞ
「探索者に民主主義持ち込まないでください!」
言い合っている間にも、投票は進んでいく。
数字が、リアルタイムで変わる。
――60%
――65%
――70%
「……」
恒一は、何も言えなくなった。
【結果】
・危険でも見たい:72%
・安全第一で見たい:28%
コメント欄が一斉に流れる。
【コメント】
・正直な結果
・そりゃそう
・期待されてる証拠じゃん
「……期待、ですか」
恒一は、画面を見つめた。
「俺、事故を起こしたくて探索してるわけじゃないんです」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
「生きて帰るために、
危険を減らすためにやってるだけで」
【コメント】
・分かる
・でも事故る
・結果が面白いから仕方ない
「仕方なくないです!」
思わず声が荒れる。
黒岩が、低く言った。
「天城さん」
「……はい」
「この結果は、
“あなたが危険なことをしろ”という意味ではありません」
「じゃあ、なんですか」
「“あなたが存在するだけで危険かもしれない”
それを見たい、という意味です」
恒一は、黙り込んだ。
それは否定できない。
実際、自分は何もしていないのに、異常が起きる。
「……じゃあ俺は」
言葉を探す。
「歩くだけで、期待されるんですか」
【コメント】
・そう
・歩く事故
・存在がフラグ
「ひどいな!!」
だが、笑い声は出なかった。
探索開始。
今日のルートは、黒岩が選定した“限界まで安全な道”。
危険要素は徹底的に排除されている。
「……何も起きませんからね」
【コメント】
・逆に怖い
・起きないでくれ
・いや起きてくれ
矛盾した期待が、画面越しに伝わってくる。
十分。
二十分。
本当に、何も起きない。
視聴者数は、微妙に上下しながら横ばい。
【コメント】
・今日は静か
・事故待ちの沈黙
・空気重い
恒一は、ふと気づいた。
――静かすぎる。
自分の足音と、呼吸音だけが響く。
「……俺」
ぽつりと呟く。
「何か起きたら、
みんな喜ぶんですよね」
【コメント】
・……
・否定しづらい
・でもお前が無事ならそれでいい
その一文に、少しだけ救われた。
だが同時に、怖くなった。
(もし、俺が無事じゃなくなったら?)
探索終了。
今日も、異常なし。
配信を切る直前、
恒一はカメラに向かって言った。
「……俺は、事故を起こすためにここにいるわけじゃありません」
一拍置いて、続ける。
「それだけは、覚えておいてほしいです」
配信終了。
控室に戻ると、恒一は深く息を吐いた。
「……数字、下がりますよね」
「下がります」
黒岩は即答した。
「ですが、必要な回でした」
「必要?」
「ええ」
黒岩は静かに言う。
「あなた自身が、
“何を期待されているのか”を自覚する回です」
恒一は、苦く笑った。
「……嬉しくない自覚ですね」
「成り上がりは、
大抵そういうものです」
その言葉は、慰めではなかった。
次回予告欄には、もう新しい文言が出ていた。
【次回予告】
『事故が起きない回は、評価されない』
恒一は、その文字から目を逸らした。
――期待されるほど、
逃げ場はなくなっていく。
それを、はっきりと理解してしまったから。
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