第10話 底辺探索者、スポンサーがつく
配信を終えたあと、天城恒一はしばらく椅子から立ち上がれなかった。
体が重い。
疲労というより、感情の後処理が追いついていない。
「……比較、きつかったな」
事故を起こした。
しかもプロ探索者・速水レイの安全設計を壊しかけた。
あれは笑えない。
コメント欄も、いつもと違っていた。
【コメント】
・今日は草生やせなかった
・ガチで危険なやつ
・面白いけど怖い
・一緒に潜りたくはない
「……まあ、そうだよな」
恒一は小さく息を吐いた。
そのとき、控室のドアがノックされた。
「入ります」
黒岩だった。
今日はネクタイを緩めている。
それだけで、事態の重さが伝わってきた。
「……怒られますか」
「いいえ」
黒岩は首を振った。
「評価会議が、今終わりました」
「……評価、ですか」
「ええ」
黒岩は端末を操作し、画面を見せる。
【ダンジョン庁 内部評価】
・再現性:不安定
・危険度:高
・制御性:低
・注目度:非常に高い
「……ボロクソですね」
「正直に言えば、はい」
黒岩はため息をついた。
「ですが」
画面が切り替わる。
【特記事項】
・現象の中心は天城恒一
・本人の意思とは無関係に発生
・現時点で代替不可能
「……?」
恒一は眉をひそめた。
「それって」
「あなたがいなければ、
この現象は“観測できない”という意味です」
黒岩は、まっすぐに言った。
「危険ですが、
**価値がある**」
その言葉に、恒一は何も返せなかった。
「それで」
黒岩は話題を切り替える。
「スポンサーの件ですが」
「……来ました?」
「正式に、来ました」
端末に表示されたロゴ。
大手装備メーカーの名前だった。
【探索配信公式スポンサー契約(仮)】
「……俺に?」
「あなたに、です」
黒岩は頷いた。
「理由はシンプルです。
“何が起きるかわからないが、誰も目を離せない”」
「それ、褒めてます?」
「マーケティング的には、最大級の賛辞です」
恒一は、乾いた笑いを漏らした。
「……嬉しいはずなんですけど」
「ええ」
「全然、スッキリしないですね」
黒岩は、少しだけ表情を和らげた。
「正常です」
その日の夕方。
正式発表が出た。
【ダンジョン庁発表】
『探索者・天城恒一のランクを
EランクからDランクへ昇格させる』
【コメント】
・昇格きた
・早すぎ
・事故でランク上がる男
・でも妥当?
スマホを見つめながら、恒一はぼんやりしていた。
「……俺、成り上がったんだよな」
少し前まで、家賃に怯えていた。
配信も、誰も見ていなかった。
それが今は、
スポンサーがついて、
ランクが上がって、
公式が管理している。
――はずなのに。
「……なんでこんなに、落ち着かないんだ」
その理由は、分かっていた。
事故では済まない。
運だけでも済まない。
自分の存在が、
周囲の安全設計を壊す。
それを、今日初めて突きつけられた。
夜。
一人になった部屋で、恒一は配信アプリを開いた。
次回配信の予定欄。
【次回予告(仮)】
『Dランク探索者・天城恒一』
『検証継続』
「……検証、か」
スマホを置き、天井を見る。
「俺、ここにいていいのかな」
問いかけても、答えは返ってこない。
だが一つだけ、はっきりしていることがあった。
もう、
**元の場所には戻れない。**
事故で始まった配信は、
いつの間にか“世界が監視する現象”になっていた。
天城恒一は、
その中心に立ってしまったのだから。




