冒険の目的
夕日に染まるひんやりした大地、ここは森ダンジョン。
とりあえず、体は動かない。少し焦げ臭いが、私は今は寝ていたいのだ。
「おい……ろ!………てるぞ!」
「……っ………………!」
「まさか…………………………な……」
かすかに聞こえていた誰かの話す声。それは、私の意識と共にだんだんとはっきりしだす。仲間の声。皆、無事なのか?
アニヤ「…………もう大丈夫なのかしら?」
ホルド「すごいなリナは?あの時もこうだったのか?」
アニヤ「目を開けて、リナ?」
冷たい手が私の頬を撫でる。その冷たさに声が出る。つか、リナって私の愛称だ。
私『…………ヘカテリーナは』「長いからって、皆でつけた。」
私はゆっくり体を起こした。まだボーッとする頭を左右に振る。
私「ねぇ?私って変わったとこある?」
ホルド「え?さぁ?」
アニヤ「どこも変わってないんじゃない?」
そんな二人の顔を見る。
しかし、ぼやけて見えている。
アニヤの顔なんてめっちゃ近くにあるのに。確か、目がどうとか言われてたような?
ホルド「しかし、リナの体、真っ黒だったのにほとんどもとに戻ったな。」
アニヤ「これなら、私の回復魔法で治せるかも。」
ポワワワ……
ズヒュゥゥゥン!
私「ほぐっ!」
アニヤの回復魔法なんて私にはつかえない。その分、魔力消費量が余計にかかる。
私「も、もういいわ。」(プルプル)
私はようやく自分の衣服を確認した。
みかわしのマントは焦げてボロボロ、ぬのの服は同様にボロボロ、スカスカ。
ほとんど服を着てない。パンツ一丁の状態だった。残ってるマントで乳首は隠れてるのが救いか……
私「ヘルメーカーが残ってるのは救いね。」
アニヤ「一丁はエクレアに持っていかれたけど。タスラムも。」
2丁あった銃は片方がない。魔砲もない。
ヘルメーカーはリボルバーだけど、連射は効く。魔力弾で銃身の摩耗が増えるだろうけど、まだまだ使えるはず。
ホルド「魔石もほとんど取られちまった。」
アニヤ「今は命だけでも助かったことを喜びましょう。」
一人はすでに死霊。
一人は猫化とか言うバッドステータス。
一人は魔力も体力も残り僅かな瀕死状態。
言わいる、壊滅状態だ。
私「お腹すいた……」
ホルド「俺も。」
クチーテァの店はまだまだ遠い。なのに空はほとんど暗くなっている。見渡す森は暗く、暗がりからは何かが徘徊してる音がする。
この状態で帰るのか。幸い、猫ホルドのヒゲとアニヤのスニーキングスキルがある。
私「行きましょう。」
ホルド「俺が先行する。」
クチーテァの店にたどり着いたのは深夜だった。
カランカラン
私「つ、ついた!」(はーはー)
ホルド「長かったぜ〜。」
アニヤ「モンスターを避けて、迂回してたからね。」
クチーテァ「おか、ええ!何その格好は!?」
死霊の憑いたパンイチ女子と黒猫が真夜中の森を抜けてきたのだから驚くのも無理はない。
とりあえず、お風呂入りたい。体が冷え冷えだ。
説明はそこそこにして私達は先に一息つくことにした。
私の借りている寝室にクチーテァが入ってきた。
ホルドから経緯を聞いたであろう彼女は私が何者であるか話してくれた。
クチーテァ「魔女は戦略魔法を一つしか使えない。けどあなたのは辺津鏡とマカル返しの玉がある。」
私「マカル返し?」
クチーテァ「蘇生の戦略魔法。二つ以上持ってるのはアヌと呼ばれる魔女の上位種。」
私「私はアヌ?」
クチーテァ「確実にそうね。目にクマのない魔女なんて珍しいとは思ってたけど。」
へー、お母さんは普通に魔女なのに。
クチーテァ「どこかでアヌの血が入ってたのかも?魔女と交わることで稀に顕現するらしいわ。それと。」
?
スッ
彼女は私の目を指さしている。やめて、先端恐怖症なの。
クチーテァ「あなたは最初来た時、黄色い瞳だった。今は茶色。」
私「え?そうなの?」
あー、猫は色覚が人とは違うんだっけ?
アニヤ「そうなの?私も灰色の世界だから……」
なるほど。
私「それと視力も落ちてて、何か関係あるのかな?」
クチーテァ「マカル返しは有限で、蘇生の度にどこかしらが変形する。アナタは目に出るのね。」
多分、三原色の色の変化だろうから、
青⇒緑⇒黄色⇒茶色⇒赤
私「あと何回も使えなさそうね。」
管理人もそんな事言ってたし。とりあえず、メガネが欲しい。
クチーテァ「アナタ達は何と戦ってるの?」
アニヤ「魔王マーシェル。一度は倒したけど、今は勇者クリュソスの体を乗っ取って、外に出たみたい。」
クチーテァ「クリュソス?あの王子様の?」
アニヤ「私は奴隷身分にされた同胞の解放と森の開発中止と保全を条件に旅に同行した。
ドワーフのホルドも理由は似たようなもの。クリュソスも王位継承権がかかっていた。」
クチーテァ「へー、複雑。なんにしても、やばい案件に絡んだわね。私も。」
王国の敵、魔王マーシェル。それを倒す旅に同行するのに国王は条件を出していた。
彼女曰く、
森の開発に抵抗して王国と戦い、敗北したエルフは奴隷として市場に出回っている。
ドワーフ達も低賃金で炭鉱や鉱山で働かされている。
アニヤとホルドは明確な目的を持っていた。私はなんで同行したのだろう?
私「これからどうするの?このダンジョンを抜けられたら。」
アニヤ「私は体が欲しい。そして、森に帰るわ。」
クチーテァ「ホルドも帰るって。魔王に乗っ取られた次期国王が約束を守るわけないとか言って。」
私「私もとりあえず、家に帰ろうかな?」
クチーテァ「あ、そうそう!これをあなたに渡そうと思ってたのよ。スーツの仕立て直し出来たわよ?」
はい。
そう言うと彼女は黒のスーツを手渡してくれた。
肩、胸部、腰回りには艶消に仕上げたミスリルアーマーがくっついている。これで乳首も下の筋も気にしなくて済む。
開いていた胸元は閉じられていて猫は装備できそうにない。
クチーテァ「お代は緊急だったから後払いでいいわ?」
うぐ。まぁ、いつまでもパンイチでいるわけにもいかないし、ありがたく着ておこう。
イソイソ
ミスリルアーマーだから硬いけど重さはさほど感じない。家に帰るまでの辛抱だ。大事にしよう。
私「ありがとう、クチーテァ。」
深夜
私は不安で寝付けずにいた。皆は実家に帰ってクリュソス、魔王マーシェルの影に隠れながら暮らしていくつもりなのか?今日みたいな襲撃に怯えながら。
アニヤ「まだ寝ないの?」
私「アニヤは夢を諦めるの?」
アニヤ「夢?」
私「冒険に参加した理由。」
アニヤ「あぁ、それね。」
ドッカァァァン!
衝撃とともに店が傾く。その後も絶え間なく破壊音が続き止まりそうにない。
アニヤ「え!?」
私「何?!襲撃?!」
ベッドから飛び起きて、ヘルメーカーのガンベルトを腰に巻くと、急いで店舗エリアにむかった。
クチーテァ「きゃぁ!」
そこには手負いのビーストがいて店をめちゃくちゃに破壊していた。
クチーテァ「どうしてここを!」
巨大なビーストはこちらを向いて片言の言葉を放った。
ビースト「テガラ!ノロイ、トイタ、マジョ!クビ!モッテカエル!」
アニヤ「あ!あの時の!」
腕の傷、折れた角。私の攻撃のあとだ。ビーストの怪しく光る目がこちらを捉えた。
ビースト「ウ!オマエ!ドウシテ?!」
ビーストが踵を返して逃げようとする。エクレアや魔王にこちらがまだ生きていると知られてしまう。咄嗟に私はヘルメーカーを抜いた。
ドゥン!
サッ!
ビーストはその巨体に似合わずに素早く避けた。頭を狙うんじゃなかった。
ビースト「テッタイ!ホウコク!」
ホルド「クチーテァ無事か?!」
猫のホルドも駆けつける。途端にクチーテァに抱きかかえられる。
私「丁度いい!ホルドはクチーテァについてて!」
半壊した店を出て外へと逃げるビーストを追いかける私と反対にクチーテァは店の奥へと走った。
私「逃がすか!」
アニヤ「森よ!」
ズザザザザ……!
ビーストの行く手を木々が塞ぐように集まる。
ビースト「ウガァ!コウナッタラ!」
ビーストは振り向きざまに大きな爪で攻撃してきて、追いかけていた私を弾き飛ばした。
私「う!」
ドカァ!
壊れた壁に激突する。
目が悪いから確実に仕留めるには近づかないと、と慌てていたのが悪い。しかし、
私『あれ?何ともない?』
ビーストは立て続けに爪から真空波を放ってくる。
私は防御態勢をとる、
フワッ
強烈な真空波が当たってるはずなのに、体はなんともない。周囲の、店舗建屋が吹き飛ぶだけだ。
アニヤ「どうなってるの?」
今、装備している神代のスーツのおかげか?
私『とりあえず!』
ドゥン!ドゥン!
足を撃ち抜かれた、ビーストがその場に大きな音とともに倒れる。
ビースト「エ、エクレア、サマニ!」
私「死ね!」
放った弾丸がビーストの頭に命中する。
ボコボコ
ボッシュウゥゥー!
音を立てて膨らみ、そして破裂する。その巨体は声も上げることなくその場に伏した。
アニヤ「まるで、東洋の暗殺拳ね。」
そんなのあるの?行ったことないから知らんけど。
私は店の奥に迎い猫を抱いて震えていたクチーテァを見つけた。
私「エネミーは排除したわよ。」
クチーテァ「私のおうちがぁ。」
ホルド「ここは安全じゃないぞ。早く、隠れないと。」
クチーテァは猫を撫でながら気を落ち着かせているようだ。ホルドも黙ってされるがままにしている。
ホルド「……もう、許しちゃおけない。俺は実家の村に行く。」
クチーテァ「?」
は?従来と目的地が一緒だ、どうするんだろう?隠れ住む、ワケではないようだが……?
アニヤ「私も、伝説の弓のありかを聞く。」
ホルド「俺も似たようなもんだ。爺さんたちに伝説の掘削機の在処を聞くつもりだ。奴の体に大穴開けてやる!」
クチーテァ「私は幽世のリサの店に隠れとくわ。」
ホルドとクチーテァは見つめ合っている。
ホルド「これが終わったら、すぐに迎えに行くから。」
クチーテァ「うん。約束。」
チュッ
クチーテァはホルドの鼻先にキスをして立ち上がった。
私『いつの間に、この二人、ここまで進展したんだろ?』(ヒソヒソ)
アニヤ『さあ?』
鏡の中へ消えていくクチーテァに手を振り、名残惜しそうなホルドを頭に乗せて私達は店をでた。
辺津鏡からバイクを取り出し、エンジンをかける。エクレアに気が付かれる前にここから離れなければ。
アニヤ「消音移動!」
うるさかったエンジン音が嘘のように消える。
私「あ、できた。」
アニヤ「もしかしてと思って試してみたけど、ものにも使えたのね、この魔法。」
ホルド「行こうぜ?俺が目になってやる。」
ナイス猫目。
シュイイィィィ……ン
私たちは闇夜に紛れてその場をあとにした。




