空から落ちてきた子
ここは、魔術が使える世界。その世界の一つ、シオンという村から少し離れた森に囲まれた場所にあるアスター学園の一室。一人の女の子が部屋を薄暗くして机に向かって悩んでいた
「困ったな、うまくいかない……」
手に二つ指の間に挟んで持つ試験管を持つガチャガチャと強めに鳴らし、グシャグシャと肩まであるピンク色の髪を掻いて分厚い本を睨む
「この薬品とこれを組み合わせるって書いてあるのに……」
独り言を呟きながら、机に無造作に置いていた沢山の薬品を適当に手に取り、分厚い本に書かれた内容と薬品を見合わせて、また髪をグシャグシャと掻いた
「ちょっとミコト……」
背後からため息混じりに名前を呼ばれて振り向くと、部屋の入り口で紫色の長い髪の女の子が立っていた
「なんだシアか。ビックリした」
「先生たからミコトは調合はしては駄目だって何度も言ってるよね?」
シアの言葉に返事をせずにまた薬品と睨み合うミコトにシアが怒りながら近づいて、ミコトが読む本を奪い取った
「聞いてるの?」
「聞いてるよ。しつこいな」
シアに言い返しながら本を奪い返し、さっきまで読んでいたページを探すためパラパラと本をめくる。シアがはぁ。と一つため息をついて机の上に無造作に置いている薬品の一つを手に取った
「ねえシア、それ取って」
「それってなに?」
「それだよ、それ」
ミコトがなぜか本棚に置かれた空の試験管を指差す。シアが仕方なく試験管を手に取り、ミコトに渡すと、側に置いて用意していた薬品をそーっと試験管の中に入れはじめた
「今度はなんの……」
調合が気になったシアが様子を伺うと、試験管の中からゴボッと不穏な音と共に白い煙が溢れだしてきた
「ちょっとミコト!なにをしたの?」
「なにってこの本の通りに……」
ゴボゴボと聞こえ出す試験管に焦りつつミコトに聞くと、本を見てのん気に返事をした。その間に白い煙が更に増え、二人の視界を奪っていく
「ヤバい、逃げよう」
シアがミコトの腕を引っ張り廊下に出る。白い煙も廊下まで溢れだし、近くにいた生徒達が騒ぎに気づき集まりはじめる
「シア、逃げるよ」
今度はミコトがシアノ腕をつかみ、生徒達をかき分け階段を降りていく。玄関を抜け校庭に着くと、突然ミコトが立ち止まり空を見上げた
「……今のなに?」
空を見上げたまま呟いたミコト。その声が聞こえなかったシアが息を整えつつ校舎の方に振り向くと二人を追いかけてきた生徒達を背に騒ぎを聞いた先生の一人が二人に向かって叫んでいた
「二人とも、戻ってきなさい!」
「あーあ、見つかった……。仕方ない、ミコト行こう」
校舎の方を見ながらシアがミコトに声をかけるが、ミコトは返事も動きもせず空を見上げたまま
「ミコトどうしたの?」
と、シアがまた声をかけると、ミコトが空を指差した
「今、森の方に誰か落ちてきたよね?」
「えー、そんなわけ……」
シアが指差した学園の外にある森の方を見た瞬間、ミコトが突然走り出した
「えっ、ちょっとミコト……」
シアが呼び止める声を無視して、あっという間に去っていく。校舎にいる先生や生徒達とミコトを交互に見た後、更に遠く走っていたミコトの後を追いかけるようにシアも走った
「この子……」
ミコトが何か落ちた場所と見られる先に着くと、青い髪の女の子が倒れていた。少し屈んで女の子の様子を見ていると、遅れてきたシアが息を切らしてやって来た
「その子が空から落ちてきたの?」
「だと思うよ。生きているかな?」
「魔術が使えるなら生きているんじゃない?」
「でも、ちゃんと使えないから落ちたんじゃ……」
「確かにそうかも……」
生きているか確認するため、ミコトが女の子の頬をつつき、シアは体を揺らす。しばらくユラユラと体を揺らしてみても起きないままの女の子に、二人困ったように顔を見合わせた
「一応生きてるみたいだけど、どうしようか」
「とりあえず、学校の医務室に運ぼう」
「じゃあ私が運ぶよ」
女の子をおんぶをして歩き出すミコト。シアは女の子を落とさないようにゆっくりと歩く後ろ姿を見て動かない
「どうしたの?」
来ないシアに気づいたミコトが振り向き声をかける。声に気づいてもシアは空を見上げ動かない。ミコトが首をかしげてシアの様子を見ていると、雲が太陽を隠したのを見て、シアが目を閉じ、ふぅ。と深呼吸をした後、女の子をおんぶをしたまま待っているミコトにニコリと微笑んだ
「なんでもない。死なれちゃ悪いから、急ごう」