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episode.35 結衣と食べ歩き?


「葉山の高級マンション?」


 結衣は目を丸くした。というのも、トオルが内見に行く予定の1ヶ所が超高級低層マンションで、なんと場所は葉山。湘南の美しい景観が自慢の物件はなんと大家の太田さんが管理しているそうだ。


「そう、ここの退去の相談をしたらさなんと太田さん、ここ以外にもたくさん賃貸を持ってるらしくって……俺ならどこでも審査通すって言ってくれたんだ。今はこの葉山の物件と杉並区の高層マンションで悩んでてさ……だからその」


 結衣はトオルが広げたパンフレットを見てあの大家のおばあさんが意外とやりてだったことに驚いた。


「すごいね、あの大家さん。どうしてこのボロアパートに住んでるだろう?」


「あのさ、結衣ちゃん。よかったら、湘南江の島方面の内見……一緒に行かない? もしよければなんだけど、結衣ちゃんが嫌じゃなかったら……」


「いく!」


「よかった」


 結衣の即答にトオルは心底安心しつつ、早速スマホでタクシーを呼んだ。



***



「うんまぁ!」


 二人が最初に訪れたのは生シラス丼のお店だ。海の香りと波の音に癒されつつ、ぷりぷりで食感の良いシラスに醤油をかけてかっこんだ。


「トオルくん、配信しないの?」


「えっ、でも結衣ちゃん嫌だって言ってたろ?」


「あの時はごめん。私ね、トオルくんの配信に自分が出ることで雰囲気が変わってしまうのが嫌だったんだ。だから……そのね。トオルくん。私をスタッフとして雇ってくれないかな。ちゃんと配信でリスナーの人に説明してさ、マネージャーとして」


 ミニシラス丼をおくと結衣は真剣にトオルを見つめた。


「マネージャー……か」


「うん、まだ大学生だけどゆくゆくはちゃんと支えていけたらって思ってる。これから案件とかそれから税金のこととかそういうめんどくさいわからないことを私が調べてサポートする。もちろん、ケンシンくんのお世話もトオルくんが不在の時は任せてね。異世界まで毎回ついていけないかもだけど……ね?」


「結衣ちゃん……ありがとう。頼んでもいいかな?」


「もちろん。じゃあ、早速だけど、私が行き道で考えた食べ歩き配信計画話すね!」



 結衣はさっさと配信の準備を始め、その間にトオルは結衣が作った計画書を読む。シラスをふんだんに使った小さいピザを食べ歩き、その後は大きなタコ煎餅でサクッとお口直し。

 その後、ミニカップのポキ丼を食べたらデザートはほろ苦いコーヒー味のジェラート!


「か、か、完璧だ……」


「はい、トオルくん。配信の準備できたよ」


 結衣はそういうとスマホをトオルに寄越しにっこりと頬んだ。


「あのさ、結衣ちゃん。やっぱり今日は配信なしにして俺と新人マネージャー結衣ちゃんの親睦会ってことにしない? まぁそのいわゆるデートってやつ」


「へぇっ?」


 結衣は推しからの唐突なデートの誘いに喉の奥がなるようなおかしな声を出した。彼女の目にはもうトオルしか写っていないが、顔が出れないように必死で平静を装う。


「いやだったら……配信にするけど、でもほらこっちの世界は食べ歩き配信モザイク処理とか大変だしさ」


「そ、そ、そうだよね! いこっか!」


 結衣は残りの生シラス丼をかっこむと水も一気に飲み干した。


***


「まずは……ミニピサ! うまそ〜! 結衣ちゃん、何味にする?」


「私はさっぱりマルゲリータかな」


「おっけい。俺はシラスピザにするから一口あげるよ」


「ふえぇえ! いいの?」


「先に結衣ちゃんが齧っていいよ」


 結衣の期待とは違った返答をされて膨れたが、熱々のピザを受け取ってその美味しそうな香りに興味を惹かれる。


「じゃあ、もらうね。いただきます」


 結衣はトオルのシラスピザにかぶりつく。熱々のシラスは先ほどの生シラスとは打って変わって柔らかく甘い潮の香り。控えめなチーズと香ばしくパリッと焼けたピザ生地なんとも言えないハーモニーだ。


 結衣がかじった後、トオルも一口。あまりの美味さにもう一枚買えばよかったと後悔するのだった。


 ぺろりとミニピザを食べた二人は、今度はおおきなタコ煎餅を半分こ。一匹のたこをプレスして作るド派手な演出に湧き上がり、結衣の顔の3倍はありそうな煎餅をパキパキと折って半分に。


「海の近くだからか魚介の感じがいいなぁ」


「だね、トオルくん。ほっぺについてるよ」


「ん、まじ」


「とってあげるね」


 結衣はトオルの頬についた煎餅のかけらをとってパクり。可愛く微笑んでみせたのでトオルは赤面する。彼にとって好みの女の子がこんなふうに接してくれるのは初めてであったし、江ノ島の人混みの中でも結衣はずば抜けて可愛い。

 

「ありがと」


「そうだ。この前の配信のポケ丼? だっけあれってこっちの世界のポキ丼に似てるのかなぁ。見てたらすごく食べたくなっちゃったよ。さ、次行こ」


 結衣に連れられてやってきたミニポキ丼のお店、名物のシラスがたっぷりで以前異世界で食べたポケ丼よりは日本らしい「出汁」の感じる味付けであった。


 トオルは鼻に抜けるワサビとニンニクに食欲をそそられ、結衣はぷりっぷりのえびに夢中になった。


「さっきの生シラス丼もよかったけど、ハワイアンなこっちも最高だ。結衣ちゃんマジで店選びのセンスすごい」


「私をマネージャーにしてよかったって思ってもらいたいもんっ。さ、最後はジェラートだよ」


 結衣の案内でデザートまで堪能し、トオルは優秀で美人なマネージャーを手に入れたのだった。


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