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episode.34 おかえりケンシン



「ナー」


「お預かりしていた……はい、白いメインクーンですね。賢くていい子ですねぇ〜。この子の爪に犯人の皮膚があって。それに鑑識チームにはよくなついていてかわいくてぇ」


 明らかに変わり者といった感じのメガネのお姉さんはケージの中のケンシンにデレデレと話しかける。

 その横で三井が小さく「職務中、市民の前だぞ」と呟いた。


「ふえ、すみません。はい、出てもいいわよ」


 ケンシンはケージの扉が開かれると、目の前に立っていたトオルに飛びつき何度も鳴いた。

 この世界ではエルフの祝福の効果がなくトオルは彼の言葉が理解できなかったが再会を喜びもふもふと背中を撫でる。


「あの、三井さん」


「どうしましたか?」


「他の盗まれた犬や猫たちは……?」


 トオルが気がかりだったのは、他の配信者の犬や猫だった。衰弱している個体もいるとの報道があったし、配信者の中には本当に動物のことを考えていない人だっていたかもしれない。

 このままここにいれば保健所送りに……? と不安に思っていたのだ。


「あぁ、ケンシンくんが最後だよ。ちゃんと他の犬や猫は飼い主が現れてね。無論、被害届が出ていたからだが……さて、今回はご協力ありがとう。君の配信でたくさんの情報が本部に届いたおかげで犯人を割り出すことができた。けれど、配信は諸刃の剣だ、いつどんな奴がどんな感情を抱いて見ているかわからない。発言や行動に注意するように」


 三井はそうトオルに注意するフリをしながらケンシンをそっと撫でた。その顔は必死でデレデレするのを抑えているようにトオルには見えた。


(多分、もふりたかったんだな)


「あの、ありがとうございました」


「礼を言われることではないよ。困ったことがあればいつでも連絡するように」


 トオルは三井と鑑識のお姉さんに礼を言って、警察署をあとにした。腕の中でゴロゴロというケンシンを大事に抱きしめて。



***



「ってよ〜、俺すげ〜活躍したんだぜ! あいつに3発も本気パンチ食らわせてやったってわけ!」


 ナターシャが苦笑いをしつつ、、ケンシンの前にはエルフ猫たち御用達のエルフ豚のねこまんまをを置く。


 ケンシンはあのマサトと戦った武勇伝を話しつつむにゃむにゃと食べる。


「俺の浅はかな考えでお前を危険に晒してすまなかったよ」


「いいってことよ! 俺が囮になって悪もんを倒す……! 俺たちらしいよな!」


「ケンシン……」


 ケンシンはまだ幼いからか、勇敢すぎるのか先の出来事に恐怖心はなかったようでトオルは安心したのか心配なのかわからない気持ちになった。


「でも、しばらく預かってほしいって……とても大変だったのね」


 ナターシャはトオルの前に暖かい紅茶をおくと、ねこまんまに夢中のケンシンを見て眉を下げた。


「すみません。もう少し頑丈な家ができるまでの間です。あの、ちゃんと部屋代はお支払いしますので……」


「いいのよ、ケンシンちゃんは私たちの命の恩人……恩猫でもあるのだし。しばらくの間はこの宿の看板猫をしてもらおうかしら?」


「いいぜ! ナターシャには世話になったからな! トオル、早く新しい家頼んだゼェ、まぁあの住み心地の良い家も好きだけど……ご近所の猫が言ってた猫扉とか走り回れるひろーい部屋とか!」


「おうおう、生意気だなぁお前は」


「俺様の家だ! 心して探せ!」


 ケンシンの故郷であるエルフの村に彼をしばらく預かってもらうことにして、トオルは新しい部屋探しを考えていた。ある程度セキュリティがよく、過ごしやすく配信に集中できる場所。


「それじゃあ、またちょくちょく見に来ます。ナターシャさんよろしくお願いします」


「えぇ、もうトオルさんもここに住んだらいいのに。なんて、たまにはこの宿にとまりにいらしてね?」


「えぇ、ぜひ!」





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