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episode.27 まさかの配信と電気ウナギの化け物


「我、もふもふの神なり」


 大きな黒い長毛種の猫がトオルにのしかかる。クマよりも大きなその猫のずっしりとした体重、トオルの顔も埋まってしまうほどの毛。

 熱く、重い。


「し、死ぬぅ」


 蒸す様な暑さ、口に入る毛、重さ。トオルは息ができない。吸えない。苦しみに唸った

 すると……


「トオルくん、がんばれっ! がんばれっ! 頑張ったらご褒美にちゅうしてあげるよ!」


 突如としてそこにいるはずのない結衣の声。しかし、熱と重さでおかしくなったトオルは必死で答える。


「ど、どこにしてくれるん、ですかっ?」


「そりゃあ、す・き・な・と・こ」




 一番良いところでトオルの意識が覚醒する。

 瞼を開くと目の前には太々しい黒猫の顔。トオルの口元にはその猫の手がピトッとくっついている。肉球が唇と鼻を塞ぎ、ポップコーンのような甘くて香ばしさが漂う。


「こらドゥアン! すみません。こいつは俺の相棒で……俺がよく肉球の匂いを嗅いで喜ぶので善意だったのかと」


 カイがドゥアンと呼ばれた黒猫を抱き上げると申し訳なさそうに謝った。それを合図にトオルの周りで眠っていたネコたちがゾロゾロと動き出す。


「ご主人が喜ぶことたんまりやってやったぞ」

「俺様もふみふみいっぱいしてやったもんね!」

「へへ、たくさんあっためてやった!」

「餌くれたニンゲン、喜んでくれる」

「元気が出てネズミを取れたらたくさんあげましょうね」

「ニンゲンってのは小さくてカワイイわね」


 トオルは多くの猫の声を聞いてちょっと誇らしい気持ちになった。トオルの考えている猫像と実際の猫の声はさほど変わらないからだ。気ままで自分勝手でそれでも好きだと思った飼い主には愛を示す。

 ケンシンはトオルの枕元でまだ丸くなっていた。


「トオルさん、夜も更けてまいりました。奴が顔を出す頃……」



***


 夜の砂浜、異様なほどの静かで広いそこには微風が吹いていた。静かな海面にぬらっと光る黒い何か。

 月光で揺れている海面にビリビリと電流が走っている。


「あれが……古の?」


「はい、近寄れば最後。海にひきづり込まれあの電流で黒焦げにされるでしょう」


「あいつをどうにかどこかに飛ばす……か。そうだ、カイさん。これで戦いの記録を取っていただけますか?」


 トオルはスマホをカイに手渡して操作方法を教える。カイはスマホをみてかなり驚き、少年の様に目を輝かせた。


「トオルさんの国にはこんな素晴らしい記録物があるのですね。おぉ、まるでこの目で見ている様だ……」


「もし、止まったらこんな感じで文字が書いてあるところを押せば動きますんで。一応ネットも繋いどくか。クラウド保存したいし」


 トオルは瓶の中に小さなワープを作ってネット回線を繋ぎ、カイの足元に置いた。


「はい、これをトオルさんに向けて……おぉ! わかりましたぞ!」


 起きてきたケンシンが当然のごとくトオルの肩に乗っかると大きな欠伸。トオルにひと撫でしてもらうと「やっつけようぜぇ」と息巻いた。


「じゃあ、行ってきます」


 トオルは砂浜に落ちていた石を拾うとゆっくり波打ち際の方へと歩いていく。ゆらり、ゆらりと巨大な黒い尻尾が海面で揺れていた。


「多分……いやここがハワイと同じならって感じだな。そらよっと!」


 持っていた石を遠投する。ポチャンと海面に落ちた石、その音は確実に古の魔物にも届いていた。

 ゴゴゴゴと海鳴りが起き、海面が膨らんでそのうちに大きな黒い頭が月を隠してしまった。ビリビリ、バリバリと電気の走る音が響きトオルの立っている砂浜まで届きそうなほどだ。

 海面には感電死した小魚がぷかぷかと浮かんでくる。

 ぬるぬると特殊な体液に覆われた皮膚は刃も魔法も通さない。その上、一歩でも水に入れば電気を食らってしまう。軍隊を使っても勝つのは難しい相手だろう。


 けれど、トオルには関係ない。


「ぶっ飛べ! 火口の中に!」


 トオルは右手を海に向けて叫んだ。すると、ちょうど巨大なウナギがいる場所に大きな旅行扉トラベルポーターが出現し、みるみるうちに吸い込まれていく。体をうねらせ大暴れするも、旅行扉トラベルポーターには抗うことはできない。

 やつの作り出した大きな波がトオルの足元に到達する前に、やつの体は完全に吸い込まれていった。


 ドーン! 

 大きな音が背後からして振り返ると、溶岩の流れ出る火山が一際赤く光っていた。


「おぉ! 神の山が……トオルさん! これは一体どのような?」


「あぁ、旅行扉トラベルポーターであの化け物をマグマの中に飛ばしてやったんだよ。もう出てくることはないかな」


「おぉ、トオルさん。ところで記録の方なんですが……なんだか文字がたくさん」


「文字?」


「えぇ、一度記録が切れてしまったのでこちらを押してみたのですが……なにやら様子が」


 カイは申し訳なさそうにスマホをトオルによこす。スマホの画面を見てトオルは目を見開いた。


【無題】


<やべぇ、まじで倒しちゃったよ>

<ってかどんなCG?>

<これは生配信風の録画だろ>

<ってかチラッと写るオーガ族? のお兄さん可愛いな>

<ヌッコ! ヌッコ!>


同時接続閲覧者 50万人


<やばいやばい! トレンド全部Truチャンネルじゃん>

<ってかTruってトオルって名前なのなw>

<Love沼:Truくんかっこよかったよ! 大好き! 大好き!>

<Love沼:3万円の投げ銭>

<Love沼:3万円の投げ銭>

<ガチ恋さん荒ぶってて草>

<いや、流石にあれはカッコ良すぎるよ一瞬だったもん>

<まじでクオリティがすげぇ>


 荒ぶる結衣は置いて置いても今までにないくらいの投げ銭、閲覧者数。コメントも流れるのが早くて読めないほどだった。


「えっと、今日はこの辺で〜!」


 トオルは配信を切ると、魔物討伐を聞きつけ集まってきた村人たちに「村の英雄」として崇められるのだった。





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