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episode.1 底辺配信者、再び異世界へ行く


「うひょ〜! 異世界サイコ〜!」


 もう一度、あのワープ空間に入ったトオルは小汚い小屋に美しく着陸した。窓から見える景色は明らかに異世界のものだ。


「皆さん、驚くなかれ。今、俺は異世界にきています! 電波が通じないので動画ですがお許しを! これを機に動画投稿もやってみようと思います!」


 トオルは底辺配信者である。

 基本は「雑談配信」といってダラダラとスマホに向かって話すだけの配信をしているのだが、元々は動画投稿者・動画クリエイターのようなキラキラした世界に夢をみて始めたのだ。


「これで俺も世界一のプラットフォームWouTubeわうちゅーぶでバズってWouTuberの仲間入り……なんつって!」


 どうして彼が雑談配信ばかりをしていたのか、その理由は一つ。


——動画企画には金がかかるから


 だった。

 WouTubeでトップと走る層といえば「凝った動画」「爆買い」「TV番組規模の企画」「歌」「プロレベルのゲームプレイ」が多い。そのどれもに共通するのが、ある程度の金か才能が必要ということだ。

 例えば、凝った動画を作成するのには動画編集で使用できるCGソフトや著作権フリーのBGMを有料で買ったり、人によってはプロレベルの編集者を付けている場合がある。

 爆買い企画はもちろんのこと、歌ってみたや企画、ゲーム配信だって音割れしないように防音室があったり、スタジオを借りたり……と結局ハイクオリティでバズるための動画には金がかかっているのである。


「異世界ってことはもう全てが揃ってんじゃん! さて、編集のことは考えずに俺がここでできる企画を考えよっと」


 とりあえず、藁のベッドに座ってトオルは考える。本物の亜人やオーガを写すだけできっと視聴者は「すげークオリティ!」と喜ぶだろうとトオルの脳内は花畑が咲いている。


「けど、闘ったり痛いのは嫌だし……となると俺ができるのは『食べ歩き企画』か?  異世界人だしモザイクしなくてもいいとして……完璧だ……!」



 小屋から街の通りに出てみると、行き交う人間・亜人・オーガ族や小人たちはそれぞれ商売をしたり、買い物をしたりと動きとしてはトオルが生きている世界と変わらない。

 その上、彼が何よりも安心したのは「言葉が理解できる」という部分だった。



「どうだい? コグーの串が一本 60ゴールド破格だよ!」

「え〜ママ〜! これほしい」

「ダメよ、昨日も買ったでしょう? 我慢しなさい」

「ね〜、まーくん。今日は外食にしようよ〜」

「家でゆっくりしようぜ」


 さまざまな種族がそれぞれ楽しそうに繁華街を歩く。俺のワープ空間が開いた小屋は庶民的な商店街の近くに位置しているらしく、香ばしく肉を焼いていたり、いわゆる惣菜屋・スイーツ店のような露店がずらっと並んでいる。

 西洋風なこともあって、果物や野菜が並べられていたり市場……と呼ばれる場所のようだった。


「お兄ちゃん、珍しい格好だね。コグー肉の串はどうだい? 今朝ハンターたちがとってきたとれたてほやほや! 霜降りのいい肉だよ!」


 トオルに声をかけてきたのは獣の耳が生えたおばちゃんだった。クマの耳だろうか、おばちゃんなのが残念だが、若い時は美人だったようで自信に満ち溢れている女性獣人だ。


「おっ、いいね」


 コグーという聞いたことのない生き物の肉に怯えつつ、目の前で炭火焼きされている串焼き肉はまるで霜降りの牛串、滴る油の香ばしさにトオルは食欲をぐっと掴まれる。


「なんだい、その黒くて四角いのは?」


 屋台のおばちゃんはトオルの持っているカメラを指差していった。というのも、彼は、串焼き肉を撮影しているのだ。


「あ〜気にしないでください、記録を取ってて……その串一本いただけますかって俺、金ねぇ」


「にいちゃん、そりゃすごいね。そんな鮮明に絵を残せるのかい。金がないならこの路地を入ったところのセイデンの質屋に行きな。みたところにいちゃんは異国出身だろ? その耳についてる耳飾りなんか高く売れるんじゃないかい?」


「お、いい情報。おばちゃん。ありがとう」


「はい、お金手に入れたら戻っといで」


「うぃーす」


 トオルは安物のピアスを外してポケットに突っ込むと、獣人のおばちゃんに教えてもらった質屋へと駆け込んだ。

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