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episode.15 コーンスープと猫



「いや〜、夕方になって少し冷えてきましたね。この辺は寒暖差が大きいみたいです。今日のところは、そこの露店でスープを買って宿に帰ろうかと思います」


 市場の中でも奥に入っていくと、トオルの鼻をくすぐる甘い香り。これは日本人なら誰でも大好きな冬の自販機の風物詩。


「コーンスープか!」


 一際小さな露店、エルフのお婆さんが大鍋をかき混ぜている。中にはコトコトと煮込まれている黄色いスープ。露店だが小さなカウンター席があり、そこで食べて帰れるようだった。

 トオルは吸い寄せられるようにそこへ立ち寄る。


「おやまぁ、かわいいお客さんだねぇ。座っておいで。おばあちゃんの作るコーンスープいかがかね?」


「ぜひ、これはどんなものを使って?」


「この村名産のとうもろこしに北エルフ島から取り寄せたオジャガイモとすりつぶしてよーく煮込んでいるんだよ。たくさんの野菜のお出汁が入ってとっても美味しくて体があったまるよ」


 ここでトオルはさっきのバゲットをとっておけば良かったと激しく後悔したが、おばあちゃんにスープを注文するとカウンター席の小さな椅子に腰掛けた。


「その黒い板はなんだい?」


「これは記録を取っているんです。多くの人にこの村の美味しいもののことを知ってもらいたくて」


「おやおや、優しい人間さんだねぇ。はい、あったかいコーンスープだよ。召し上がれ」


 木の器に入れられたコーンスープ、パンを刻んでさらに焼いて作ったクルトンがたっぷり乗っかっている。

 トオルはたっぷりと物撮りをしてコメントが盛り上がっていることを確認すると、クルトンのカリカリが損なわれないようにあまり混ぜすぎずに一口。


「とろとろ甘々なのに、クルトンはガーリックが聞いてて最高だ」


「そうでしょう? あら、かわいい猫ちゃんね。おばあちゃん、猫ちゃん用のご飯もサービスしてあげましょうね」


「ナーゴ」


「あらら、そうよ。おばちゃんのお家にもおんなじ猫ちゃんがいっぱいいるのよ

。はい、どうぞ」


「すみません、いくら……」


「猫ちゃんの分はいいわ。スープは1杯200ゴールドよ」


 ケンシン用のご飯を受け取ってトオルはテーブルの上に置いてやる。味のついていない肉をほぐしたシンプルなものだが、肩の上に乗っていたケンシンは嬉しそうに鳴くと食べ始める。


<ヌッコかわいい>

<いいな、このお店>

<幸せ映像すぎる>


 投げ銭と同接はどんどんと伸びていく。トオルは配信にケンシンも映るような画角でスマホを置くと夢中でコーンスープを食した。様々な野菜の出汁、コーンとじゃがいもの甘みが、クルトンのガーリックがアクセントとなり何倍でも食べられそうな代物だ。


「うんまっかったぁ! それじゃ、みなさん。一旦宿の方に戻るので夕食配信まで今しばらくお待ちくださいね! それでは次回、エルフの宿で美味しい夕食配信編! またね〜」


 充電がギリギリだったのでなんとかまとめて打ち切ってしまったが、夕食の配信も人が集まるだろうかとトオルは不安に感じながらコーンスープを飲み切った。ほかほかと体の中が温まっていく。


「お兄ちゃん〜!」


 大きな声に振り返ると、リータがトオルの方に向かって駆け寄ってきていた。その奥には紙袋を抱えたナターシャが微笑んでいる。


「どうも」


「トオルさん、エルフの村は楽しんでいただけましたか?」


「えぇ、そりゃもう美味しいものばっかりで」


「よかった。おばあさん、コーンスープを持ちかえりで包んでくださる?」


 ナターシャはスープを注文すると紙袋をカウンターに置いて「ふぅ」と息をついた。中にはトオルが見慣れた野菜や見慣れない野菜がぎっしりと詰まっている。今夜の夕食の食材らしい。


「はいよ、ナターシャ。いつもありがとねぇ」


「はい200ゴールド。ここのスープはリータの大好物なの。トオルさん、もうすぐ夕食作りに入りますけど一緒に戻りますか?」


「えぇ、よければ俺のリュックに野菜入れちゃいますよ。ケンシン、歩いてくれるか?」


「ナーゴ」


 まるで言葉がわかっているかのようにケンシンは鳴いた。


「まぁ、ありがとう。トオルさん、ケンシンちゃん」


 トオルはリュックの中にナターシャが運んでいた紙袋を入れて背負うと、おばあちゃんに礼を言って宿に帰ることにした。

 






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