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episode.12 ハンバーグと推測


「うんまぁ」


「よかった、おかわりもあるよ」


「結衣ちゃん、ありがとう」


「いいえ〜、じゃあ今度バズった動画の収益が入ったら駅前のセイゼリアに連れて行ってね」


「セイゼでいいの?」


「うん、私あそこのドリアが好きだけど1人だと入りにくくてなかなか行けないんだよね」


 結衣特製のハンバーグはデミグラスソースのスタンダードな作り。けれど、混ぜ込むパン粉を牛乳でふやかしているおかげでふわふわ食感で食べ応えは抜群。本格的にナツメグを使っているおかげで肉の香ばしさはお店のものに近い。


「中はふわふわなのにちゃんと肉感があって、表面の香ばしさ、肉汁じゅわーっと出てきて最高だよ〜」


 付け合わせのベイクドポテト、にんじんのグラッセ、バターコーンとバターブロッコリーも彩鮮やかでどれもこれもトオルの口によく合う品だ。その上、シンプルなコンソメスープはお口直しに最適。


「喜んでくれて何よりだよ。ハンバーグは得意なんだっ」


 トオルは久々の美味しい手料理に舌鼓を打ちつつ、目の前の超美人な子が自分のために作ってくれたものだという現実に夢を見ているかの様だった。


「そんなんでいいならいくらでも! っていうか、ちゃんといままで集ったお金も返さないとだしな。ほんと情けなくてすんません」


「いいのいいの。私がやりたくてしたことだし……っていうか話の続き聞かせて?」


「あぁ、そうそう。それでこのネコ、異世界から連れて帰ってきちゃったんだよな」


「ナー」


「ネコって、名前はつけてあげないの?」


「そういや、そうだなぁ。なんか流れで飼うことになったし……?」


 トオルはハンバーグのおかわり分を頬張りつつ、リュックの上に丸くなっているネコを見つめた。真っ白でもふもふな美猫。メインクーンという種類らしいでまだまだ大きくなるらしい。

 ちなみに性別は男の子だ。


「可愛い猫ちゃんだよねぇ。トオルくん。この子は男の子だっけ?」


「うん、美猫だけどダークオーガに立ち向かうほど勇敢だしな!」


「へぇ〜、じゃあかっこいい名前がいいかな? そうだ、強い武士の名前とかはどう?」


「結衣ちゃんって結構面白いこというよな。けど、確かにこいつぽいわ。よし、ネコ。気に入ったら鳴いてくれよ」


「ナー」


「ふふふ、本当に言葉がわかるみたい」


 結衣がふっとトオルとネコをみて笑うとトオルは真剣な顔でスマホと睨めっこしつつ、ネコに問いかけ始める。


「ノブナガ」


「……」


「ヒデヨシ」


「……」


「イエヤス」


「……」


「ムサシ」


「……」


「宮本武蔵もだめかよ〜。じゃあコジロウ!」


 ネコは相変わらずの無反応でフイッとそっぽを向く。そんな一人と一匹の掛け合いをみて結衣はクスクスと笑う。


「ケンシン!」


「ナー!」


「お前、上杉謙信の良さがわかるのか!」


「ナーゴ!」


「よし、今日からお前はケンシンだ。いいな」


「ナーゴ!」


 しゃがれた声で鳴くとケンシンは満足したのかおおあくびの後、2人に背を向ける様に座り直すと丸くなった。



***


「ということは、ワープはトオル君の力だったってことなんだ……」


「多分、ってかほとんどそうだと思う。俺の仮説だけど、俺が願った場所に特定の条件でワープすることができるって感じ。多分、願えば見たことのない場所でもいける……西の貯水湖なんて見たことなかったけどちゃんとワープしてたし」


「発動条件は腕の痛み?」


「それはわからん。帰りは別に痛くなくてもワープ生成できたし……」


 結衣はテーブルに紙を広げてワープの条件について簡単な図式を書いてまとめていく。


「ワープの中を通れるのは、いったいどんな条件なのかしら? コグーっていう食物系は持ってこれなかったんだよね?」


「そう、紙袋だけになってた。だから、お互いの世界にないものは行き来できないと思ってたんけど……でもよく考えると俺のスマホとかデジカメとかあっちにはないものは持っていけてるから謎深いって感じ」


「確かに……それでケンシン君がこっちにこれたことを考えると……」


 2人は顔を見合わせて首を傾げた。

 それもそのはず、ワープできるものの対象があまりにも不確定すぎるのである。2人の近くで眠っているモフモフ猫がこの世界にいる猫と同じとも限らないし同じかもしれない。

 ワープはリュックに入っていたからできたのかもしれないし、ケンシンがトオルに懐いていたからケンシン自身がトオルと一緒にいたいと願ったからワープできたのかもしれない……といった様に理由は無限に見つけられるのだ。


「むずいけど……まぁ便利ってことでいっか」


「私、トオルくんのそういう楽天家なところすごく好きよ」


「わお、告白されちゃったよ」


「ちょっと思ったんだけどさ……そのワープ空間って異世界の人には見えていたのかな? 例えば、可愛いエルフの女の子とか」


「そんな様子はなかったな……みんな結衣ちゃんと同じこと言っていた様な。光が走って俺とダークオーガが消えたって。宿の方にはワープが常時あったけどリータやナターシャさんには見えてない様だったぜぃ」


「ってことはやっぱり、ワープする瞬間に光が見えるけどそれ以外の間はワープ空間があるけど見えてはいないってことでしょ?」


「確かに、今も押し入れにあるけど」


 結衣は見えないわと首を振った。


「これはあくまでも提案なんだけどね。トオルくん。もしも、ワープ空間の大きさや出現条件をトオルくんがもっとコントロールできる様になったらさ」


「はいはい、お代官様?」


「小さなワープ空間を出し続けて、食べ歩き配信できるんじゃない? だってワープんそばなら電波がつながるわけなんだし」


「結衣ちゃん! 天才!」


 思わずハイタッチをした2人、トオルはこの後デジカメが水没したことを思い出して余計に落ち込むのだった。

 一方で結衣は、家に帰った後推しと触れ合った手を洗うか洗わまいかで3時間悩むのだった。



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