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三題噺もどき3

羨望

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくじゅうさん。

 


 皿に盛られたサラダを口に運ぶ。


 少し前まではこれも大皿に盛られていたんだけど、一部食べないやつがいるので、小皿に盛られるようになった。まぁ、それぞれ好きなドレッシングで食べられるからいいんじゃないだろうか。いうて、胡麻ドレか青じそしかないけど。

「……」

 他のおかずは大皿に盛られている。

 今日は煮物と焼き魚。

 学生の頃までは、夕食にも白ご飯を食べていたのだけど、働きだしてからは食べなくなった。食事の量が減ったのもあるが、お酒を一緒に飲むようになったのが大きい。お茶とご飯ならわかるが、ジュースとご飯は食べ合わせたくない。

 大抵、梅酒か果実酒を飲んでいるから、それとご飯というのはあまり……な。

「……」

 それぞれ会話をしたり、テレビを見たりしながら食事を進めていく。

 どちらかというと、黙々と食べる人間なので、適当に相槌を打ちつつ、さっさと食べていく。

 会話しながら食べる必要あるか?と思ってしまう。いや別に、会話してもいいんだけど。それを強要はしなくてもいいよねってことだ。

「……」

 母は割とおしゃべりな方なので、テレビの感想を言ってみたり、仕事のことを言ってみたりと家のなかでは一番騒がしい。隣に座る父は慣れているので、適当に返事を返している。まぁ、あと少し酒が進めば、あちらも多少は饒舌になるはずだ。まだ飲み始めたばっかりだからな……まだテンションが低い父である。

 よくあんな人と結婚したなぁと思うが、それなりに仲のいい夫婦だとは思う。

 毎日変わらず、楽しそうに会話をしている。

「……」

 今の会話の話題はテレビの事。

 この時期になるとよくやっている、長時間番組だ。

 これはでも、先週していた番組の振り返りというか、総集編みたいなものだろうか。

 綺麗に編集されている感じがあるし、舞台裏って感じだもんな。

「……」

 画面の中では、様々なドラマが繰り広げられている。

 失敗や後悔や苦悩。

 それを乗り越えて迎える本番。

 全力で踊り、全力で走り。

 結果に涙を流し、喜ぶ人も居れば、悲しむ人も居る。

 互いに肩を抱き、慰め、励まし。

 きっと、彼らにとっては、忘れられない記憶になるんだろう。

「……」

 なんというか。

 こういうものを見ると、捻くれた思考に走る自分がいるのだけど。

「……」

 こんな、限られた、ごくごく一部の、選ばれた人にしかできない経験を。

 こうして、見せつけられるように、見ているのってたいしていい気分でもない気がする。

 この時期になると、こういうのっていろんなところで目にする。

 見たくないなら見なきゃいいけど、勝手に飛び込んでくるものは避けようがない。

 何かに全力で挑んで、悔し涙が流れるほどに走っている彼らが。

 忘れたくても忘れられない、いい経験といい思い出を作れる彼らが。

 羨ましいし。

 妬ましい。

 テレビに出たいとかじゃない。芸能人に会えて羨ましいとかじゃない。そんなものにはたいして興味もない。実際に会えば何かは思うかもしれないが、そこじゃない。

 忘れられない、これからを進んでいく上で糧になるものを得ていることが羨ましい。

 何もできなかったことを嘲笑われているような気分になって妬ましい。

 そういう理由で番組をやっているわけじゃないことくらい分かる。それでも、腹の奥底で黒々とした何かが、うぞうぞと動く。

 私もあんな経験をしていたら。忘れられない思い出があったら。何かに一生懸命になっていたら。失敗とか挫折とかを味わっていたら。

 何かが変わったかもしれない。

 少なくとも、今こんな風に彼らを素直に受け入れられないなんてことにはなっていなかったかもしれない。

 もっと違う選択肢がたくさんあったかもしれない。

「……」

 まぁ、こんなもの。

 ただの嫉妬だし、何を理不尽なことをって感じだけど。

 自分でもそう思うけど。

 やりたいこともない現状を見ると、尚更そう思ってしまうだけだと思うけど。

 そう思う何かがあることは確かであって。

「……」

 なんというか。

 進学からなにから、とんとん拍子で進んだのがよくなかったんだろうなぁ。なんて思いたくもないが。大した挫折も味わっていないもので。一生懸命勉強した記憶もたいしてないし。

「……」

 でも、大抵こんなもんだよななんて思うけど。

 でも、自分だけなのかななんて思うこともあって。

 さっきから何なのだって感じだけど。

「……」

 ようはまぁ。

 人生つまんないなって。

 それだけのことだ。







 お題:踊り・忘れられない・涙

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