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第10回 覆面お題小説  作者: 読メオフ会 小説班
4/11

お手紙倶楽部

拝啓

こんな風に改めて貴方に手紙を書くのはなんだか気恥ずかしいですね。

何故筆を取ったのかと言いますと私、お手紙倶楽部なるものに入ったのです。こちらが面白い倶楽部でして毎年11/23におんぼろビルのちいさな一室に誰とも知らぬ人たちが集まって無言で手紙を書くんです。朝9:00に集まって各々持ち込んだ便箋に文字を綴り、満足したらお部屋の1番前の机にある箱の中に入れて帰るんです。ドキドキしなら行ったらね、小学校の頃みたいに前ならえした机が並んでいるんです。まだまばらにしか人が居なかったもんですから後ろから2番目の窓際特等席に座りました。黄色く色付いたイチョウがはらりはらりと葉を落としていました。すっかり季節は巡って秋のようです。貴方は紅葉よりも食欲の秋でしたか。舞茸の天ぷらやさんまの刺身に舌鼓を打ったり、似合わないモンブランを食べに行ったりした思い出が目の前をよぎります。覚えているかしら?

それでは、また。

敬具

2024.11.23秋本深月

秋本健吾様



拝啓

前にお手紙を書いてからもう1年も経ったようです。あっという間に月日は過ぎ去っていきますね。あの日のことは忘れられないけれどだんだんと記憶へと変わっていきます。今年も後ろから2番目窓際の席に座りました。去年もここに座ったはず...、たしか。今日はぽかぽかと暖かく思わず欠伸が漏れます。しばらく早起きしてなかったものですから。あれから1年慌しかった日々も落ち着きを取り戻しましたよ。だらだらしてるように見えるかもしれませんが生気を溜めているのです。......言い訳かしら。ちょっとだるんとしすぎかもしれません。

そういえば自宅を片付けていたら色鉛筆とスケッチブックが出てきました。久しぶりに描いてみたら思いの外良い作品ができました。昔取った杵柄でしょうか。今度飾りますね。

それでは、また。

敬具

2025.11.23 秋本深月

秋本健吾様


拝啓

今年もお手紙を書く時期がやって参りました。お手紙というのはお話できないこともも書けてしまう気がします。一方的だからかもしれませんね。私の手元には放たれた言葉は残りません。そう考えるとどこかおしゃべりに似ていますね。だから女の子はお手紙が好きなのかもしれません。

私も幼い頃は女の子たちとお手紙交換したものです。授業中に手紙を回したり、可愛く折った手紙プレゼントに忍ばせたり。貴方には話したことはなかったけれど恋文を書いたこともあるんですよ。思い出すだけで恥ずかしくて転げ回りたいような思い出だけれど。貴方にも節目節目で書きましたよね。なんて書いたのかしら。覚えていらっしゃる?貴方からは一度も貰えなかったわねえ。いつか貰えたら嬉しいのに。男の子は書かないものなのかしら。

最近マフラーを新調しました。しっとり落ち着いているけれど華やかに彩るマスタード色のマフラーです。素敵なお色ってお友達にも褒めてもらって良い気分です。気づいてくれるかしら?

それでは、また。

敬具

2026.11.23 秋本深月

秋本健吾様



拝啓

すっかり秋めいてきましたね。こちらは元気に過ごしております。子どもたちも無事大学を卒業し家を出ていきました。大福みたいにふくふく可愛かったあの子たちももう24歳と26歳です。私たちも歳をとるものですね。可愛かったと思ったら生意気になり、反抗してきたと思ったら大人びたり。毎日が声が絶えなかった我が家が今やしんと静まり祭りの後のようです。やり切った充実感と一抹の寂しさがミルク珈琲のように混じり合っています。飲んだら甘いのかしら、苦いのかしら。

秋の入り口にお友達と鎌倉観光に行きました。青空の下紅葉が頬を染め始め爽やかな風が吹いていました。美術館に行ったり美味しいランチを食べたり大満足な1日でした。お友達と別れ帰りの電車でうとうとしていたら貴方の夢を見たのです。その日は子どもたちの運動会で貴方は徒競走をして私はその後ろ姿を見ていました。そんな私たちを柔らかな秋の風が頬を撫でました。はっと目が覚めると最寄駅でした。貴方が起こしてくれたのかしら。もう少し夢を見せてくれても良かったのに。でも会えたのは嬉しかったです。

それでは、また。

敬具

2027.11.23 秋本深月

秋本健吾様


拝啓

今年は11月末なのに上着が必要ないくらいに暖かい日が続きます。以前一緒に東北旅行に行った時は2人して寒さに凍えましたね。季節外れの寒さで観光よりも暖を取ることがメインになってしまいましたっけ。何よりもその事を鮮明に覚えています。

この間お兄ちゃんが彼女を連れてきました。2人とも緊張していてこちらまで緊張してしまいましたよ。彼女は大変可愛らしいお嬢さんで嬉しくなって構い過ぎてしまいました。嫌なおばさんじゃあなかったかしら。貴方も私の実家に挨拶に来る時とても緊張していたわね。いつも尻に敷かれている父があんな顔してるの初めてみたわ。今は仲良くやっているかしら?2人が帰ってからこうやって年は流れていくのだとしみじみしてしまいました。最近時の流れがなんだか不確かなのです。確かに季節は巡っているのですが過ぎている自覚がないのです。気づいたら季節の真ん中にぽんと放り出されているような。きっと気付いたら冬になってまた一つ季節が巡っているのでしょうね。若い頃はあんなに季節を謳歌していたのに。貴方ともっと季節を重ねたかったわ。

それでは、また。

敬具

2028.11.23 秋本深月

秋本健吾様


拝啓

紅葉も盛りを迎えましたがそちらには秋の便りは届いているでしょうか?

実家の庭のみかんも今年はたわわに実りました。今年はお兄ちゃんとそのお嫁さんが来てくれてみかん狩りをしました。とても美味しいみかんに育っていましたよ。子どもたちが幼い頃はみんなでみかん狩りしましたね。貴方は張り切っていたけれど中々上手く行かなかったですよね。懐かしい思い出です。

先日貴方の7回忌がありました。その時魂が仏様の元で修行を積んで、ひと段落し一人前になるのが7回忌だと知りました。7回忌を迎え一人前になったのでしょうか?私は6年経っても貴方のことがまだ忘れられません。ふとした瞬間貴方が居てくれたらと思ってしまうのです。一人前にはまだ程遠いようです。

今までお手紙を書いてきましたが今年でおしまいです。お手紙倶楽部には3つのルールがあるのです。宛先は今は手が届かない人、所属している人と話さない、6回までしか書いてはいけない。そして書かれたお手紙は集められ燃されます。秋の風にたなびかれ貴方の元に届いたかしら?

お手紙倶楽部に暗い顔をして来た人達も帰る時はどこか清々しい顔をしているように感じるのです。きっとお手紙にはそんな浄化作用があるのでしょうね。私の顔はどうだったかしら?

貴方に手紙が書けて良かった。届いていたら嬉しいなあ。

それでは、また。

敬具

2029.11.23 秋本深月より愛を込めて

秋本健吾様


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