帽子
「さて、艦に入ったはいいがこれからどうする気だ?」
するとサラはしばし黙り込んだ。白目をむいているからビックリしたがきっと未来を見ているのだろう。
「・・・・・・やっぱり」
「何が やっぱり なんだ?」
「尚人さんのお友達がこの艦にいるんです。」
「いや、そういわれても何がなんだか・・・」
友達といったって俺は何にも覚えちゃいないんだ。
「とにかく行かなきゃ」
「何で?ていうか何処に?」
「もう!牢屋に閉じ込められてるの!」
☆ ☆ ☆
こそこそと廊下をサラとともに歩いている間も俺は何かもやもやしていた。
だいたい何でこんな事に巻き込まれるんだ?
俺ってそんなにすごい人だってのか?
その“友達”って言うのは俺の中ではすでに記憶が無いわけだし、これから記憶が戻る補償だって無いのに、助ける必要は果たしてあるのだろうか?
「こっち!!」
「うわあっ」
「黙って」
ぼけっとしていた俺は気づかなかったが、前方から兵士がこちらへ向かっていた。
「 ―― 」
サラの手が口にあてがわれていたので息が苦しくなった。
「う―っ サラ手、手!」
「あっ、ごめんなさい!」
「いいよ。 でもさあ」
「何?」
「いや、何でこの艦の中の道が分かるのかなって」
「あ。そういえばそうだ。」
驚く事にサラ自身もただ本能のままに動いていたというのだ。
白目をむいていなかったから未来を見ていたということではなさそうだった。
と、すれば
「もしかして、ここにきたことあるの?」
サラは首が取れるかと心配するほど横に振った。
何もそこまで・・・
「まあいいや。道案内はサラに任せるよ。」
☆ ☆ ☆
「この階段を下りれば牢屋です。」
「そのようだな・・・」
「そういや一つ気になってることが」
「手短にどうぞ。」
「その帽子は取らないのかな?」
「えっ!?」
「だってさ、それは動くのに邪魔だし目立っちゃうよね?」
「・・・」
「あっごめんね?いいんだ、気にしないで」
「・・・・・・切な・・だから」
「うん?」
「大切な、物だから」
「誰に貰ったかは忘れたけれどどうしても捨てられないの」
「そっか。なんかごめんね」
「な~に言ってんですか さあ、行きましょう!」
そうして俺達は階段を下りていった。
特に見張りはいなかったし、暗くも無かったが階段は異様な静けさに満ちていた。
コツコツと階段を下りる二人の足跡だけが空間にこだましていた。
突如、視界が開けた。
あまりに唐突だったので、はっと息をのんだ
そこはいくつかの鉄格子の部屋が廊下に面して並んでいた。
廊下はここからでは何メートル有るかさえ分からなかった。ただ、廊下に響く靴の音から警備の者が巡回しているのだろうとは予測がついた。
「さて、どうしたもんか」
「戦闘・・・ですね?」
「できませんよ。俺は。」
「私も初体験です。今回が。」
そのフレーズは少し破廉恥だよな・・・と思いつつ心を決めた。
「二手に分かれるか?」
「いえ。まとまったほうが合理的でしょう。さあ、これを持って。」
拳銃だった。
初めて握った拳銃。黒々と光って重かった。命の重みか?
「あの。忠告ですけど。わあ~ とか言って大声出さないでくださいね。」
「わ、分かってるよ」
危ない大声出すとこだった。
「さあ。いくか。」「ええ。」
俺達は静かにしかし弾けそうな心臓の鼓動とともに、廊下へと踏み出した。
はずだった