出発
一方、剛希、雅弘、良平、翔太の四人はロシア軍の輸送艦の中にいた。
「ちっ、暑苦しーんだよ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
皆それぞれ様々な思いを抱いていたが、誰も口を利けなかった。
昨日のこと――――
とらえられた4人は、他の捕虜とともに横浜港付近の政府の建物の中にいた。
そこはコンクリート造りの長方形の部屋で、600㎡ほどの大きさだった。
部屋の中心には古臭い電球が一個ぶら下がっており、それ以外に明かりが無かったため部屋は薄暗かった。
「なんかマズい雰囲気じゃね?」
「ああ。まさかここまでとはな。」
「殺されたりなんて・・・しないよ な?」
「まっさか! それはねえだろ」
「だって俺らは大切なロシアへの貢物だもんな?」
言い切って翔太は、はっ とした。(やばい。これは俺らの仮定に過ぎないんだった。)
「な、なんだって?!」
「貢物って何のことなんだ!」
「私達はこれからどうなるって言うのよ~!」
案の定、他の捕虜がどっとわめきだした。
「いや、だからそれはまた別の話で・・・」
「落ち着いて! 大丈夫ですよ!」
こうして4人はその応対に追われる事となった。
「畜生!馬鹿翔太!あいつ後でボッコボコに―――」
「―黙れ!愚民ども!」
突如どこかのスピーカーから聞こえてきた声に一同は黙り込んだ。
「貴様らを捕らえた理由を単刀直入に言う。」
空気が張り詰めた。
「―これよりロシア帝国の奴隷となって忠誠を尽くして貰うためである!」
捕虜達の顔が蒼白になっていく。
「―尚、貴様らの戸籍はすでに抹消済みだ。よって貴様らはもう日本国民ではないっ!」
青かった顔が続いてどんどん赤くなっていく。
「待て!いいかげんな事を言うな!」
「何の権限が有ってそんな事が出来るんだ!」
「人権侵害だ!」
「そうだ、そうだ!」
皆口々に反論する。次第に暴言を吐くものまで現れた。
「―これは日本国としての決定であり、その権限をもって行っているのだ。―よって貴様らに反論の余地は無い! 以上」
一同は怒りを通り越して唖然としていた。
「・・・・なんだよ、それ」
「ええい こんなとこなんかいられるか!」
「ドアをぶち壊してやる!」
しかし肝心のドアが見当たらなかった。
その日は夜通し泣く者や、愚痴る者、呆然と生気を失ってしまった者があふれていた。
かくして、彼らは今ここにいるわけだが牢屋のような部屋に強引に詰められたので大変窮屈であった。
「ここは通信できないのか・・・」
無線を手に翔太がつぶやく。
「妨害電波が出ているんだろう。仲間と連絡を取り合われたら厄介だからな。」
剛希が答えた。
「尚人は無事かなあ。」
「ああ。何とかやっていればいいけど。」
彼らを乗せた船 Arktourus はロシアへ向かって出発しようとしていた。
コツコツ・・・
靴の音がする。 (やばい!誰か入ってきた!)
そう思った尚人はとっさに掃除用具入れに入ろうとしたのだが
ガッターン!!
モップを倒してしまった。
(ああ。これで俺の人生は終わりだ。女子便の変態野郎として、社会的地位も剥奪されてしまった・・・。)
「お待たせ。もっと上手に隠れててよ。これじゃバレバレですよ?」
そこにたっていたのはサラだった。
「はぁ、死ぬかと思った・・・」
「さあ、早く!もうすぐ出発です!」
この後、俺の腰が抜けていて5分ほど立てなかったのは、俺とサラだけの秘密となった。