屋外でやっていること:歩く——『虎はなにゆえ強いと思う? もともと強いからよ』とは言いますがそれにもちゃんと理由があります
『虎や狼が日々鍛錬するかね』
上記ふたつは【花の慶次】でも特に有名なセリフですが、なにもこれは『才能さえあれば修行とかしなくてもいいんだよ』って意味じゃありません。
虎の中には虎の中で序列があり、狼の中には狼の中で序列がある。当然、鍛錬の差によって強さに違いが出てきます。
虎も狼も日々野生の中で鍛えているのです。もちろんそれは人間で言うところの筋トレなんかではありませんが。
そう、この言葉は『種の壁を越えるのは不可能。人間が虎になるのはいくら鍛錬しても不可能。人は人として鍛えりゃそれで充分』という意味だと解釈してます(自分は)。
だって前田慶次は実在の人物。漫画みたいに破天荒ではありませんが、武将としては名を残しているんですから。
この世に魔法は無いんですから、人間は鍛えなきゃ強くなれないんですよ。
前田慶次だって鍛えて鍛えて強くなったはずです。全く筋肉を使わずタンパク質も摂らずに筋肉もりもりになるなんてありえない。
んなこと言ってるやつがいたら、そいつは物理法則を逸脱しています。すぐお知り合いの研究者に連絡して引き取ってもらいましょう。人体を超越した人間として日本にノーベル賞をもたらしてくれるでしょう。楽しみですね!
……とまあ冗談はおいといて。
人間は『今日も明日もあさっても、これくらいトレーニングをしなきゃならない』って考えちまうと、途端に億劫になっちまう生き物です。
だから身体を鍛えるには、なるべくそれがトレーニングだと意識しないようにするのが1番なんです。
たとえば、趣味が登山の人。
登山楽しいですよね。
スマホのギラギラした画面をひたすら見続けることもなく(個人的な観想です)、町中の派手な色使いの看板を見ることもなく(個人的な観想です)、誰かに何を強制されることなく、ただひたすら緑豊かな風景の中を目標に向けて登り続ける。
登山道ってのはだいたい輝度もコントラストも低めなのがポイントです。目に優しい。
そして頂上までを登り切った瞬間、えもいわれぬ達成感を味わえる。それはまさに気分爽快。
山男や山ガールってのは好きで山を登っています。
登山ってのはかなり体力を消耗するスポーツです。これをジムの中でやろうとしたら、かなりのハードトレーニングと言わざるを得ないでしょう。
何よりも登山のシビアさってのは『嫌になったからor飽きたから、もうやめて帰ろっと』って甘えが通用しない点です。ジムでの筋トレなら飽きたらやめればいい。帰りたくなったら帰ればいい。
でも登山じゃそうはいきません。登ったら登った分だけ、自力で降りなきゃいけない。ケーブルカーとかロープウェイとかありますけど、少なくともその乗り場までは自力で歩かなきゃいけない。体力的に無理して登れば下手すりゃ死んじまう。
この『途中棄権できない』という点で登山は甘えを許さない厳しいスポーツなのです。
でも登山客はそれをツラいともやめたいとも思わず、自分から山に乗り込んでいきます。
なぜか。
それは楽しいから。
義務だったり他人から強制されたりするものはつまらなくても、自分が好きなことだから続けられるのです。
どんなトレーニングでも『好きなこと』もしくは『それがトレーニングだと意識することもなくできちゃってるもの』なら毎日続けられます(山男は毎日山を登るヘンタイ野郎という意味ではありません)。
個人的体験で恐縮ですが、私は以前、筑波山を登りました。
たしか1番距離の長い【白雲橋コース】だったと思います。そのコースをたどって女体山の山頂にたどり着き、さらに連絡通路を渡り男体山の山頂へもついでに登ってきました。
で、あいぽんの記録によるとその時に登った高さが、
【ビルの187階分】
に相当するそうです。
これ、もしただのトレーニングとして味気ない高層ビルの階段をえっほえっほと昇るだけだったらどうですかね。
池袋のサンシャインを階段で最上階まで登ってから、エレベーターで1階まで降りてまた階段で登る——ってのを都合3回で180階分、ただひたすら無味乾燥のビル内を登るだけだとしたら……。
これはっきりいってつまんないですよね。キツいですよね。
でもこれが登山なら耐えられるんですよ。
というか楽しいんですよ。
『虎はなにゆえ強いと思う?』
ってのはこういうことです。
楽しいことをやっていたら、いつの間にか鍛えられていたんです。
虎も、厳しい自然の中で必要に駆られて身体を使いまくっているから、虎として必要な筋肉が付くんです。動物園の中にいて全く運動しないおかげでデブった虎っての、たまにツイッターとかに流れてきませんかね?
虎だって全く運動しなけりゃ弱いんですよ(それでも人間よりは何倍も強いんですが)。
人間も同じ。
毎日PCやスマホにかじりついてろくに運動しない30代よりも、富士山を自力で踏破できる70代の方が強いですよね?(実際ヤバいくらい元気な老人はよく見ます)
かといって、登山が趣味じゃない人に登山で鍛えろとか言っても、そりゃただの『義務』や『強制』なってしまって本作の趣旨に反します。
なのでそこは自分が普段やっていることを。
日常の中で、無理なく毎日できるレベルのことを書こうと思います。
ここまでが前置きになります。長かったですかね。まあ小説の地の文に比べりゃ随分マシなんでご勘弁を。
◆ ◆ ◆
では本題。
屋外で、日常の中で、毎日無理なく身体を鍛えるには歩くんです。
ただ歩くだけです。
こう書くと何やら詐欺師扱いされそうですが違うんです。ブラウザバックも【戻る】もまだ早い。
ここでちょいと人体構造の話をします。前章でも少し書いたことですが——。
人間ってのは、体重の大部分を骨で支えています。
座るかあぐらをかいて、徐々に身体を前傾姿勢にしていくと、ある地点で止まりますよね? 背中が弓なりになるって状態です。関節には可動域があるからそれ以上は曲がりようがありません。
どんなに重たい上半身でも、背中の骨と関節が支えてくれるのです。
で、これは脚でも同じです。
人間が普通に直立した時に、どこがその体重を支えているのか?
それは踵です。
人間の踵は人体のほぼ全ての体重を支えている、とても重要な骨なのです。だから踵の骨ってスゴく固いですよね。格闘技でも踵落としってかなりエグい威力があります。
で、ここでちょっと犬なんかを観察してほしいんですよ。
英語でそういう部分を【ドッグレッグ】っていうから犬を例に出しますけど、これはネコ科の動物でも同じです。
ぱっと見、犬の膝が人間とは逆方向に曲がっているように見えるあれ……アレって膝じゃないんですよね。
踵なんですよね。
じゃあ犬が地面に接地させてるあの部分ってなんなんだよ、とお思いでしょう。
あれはつま先なんですよ。
つまり、犬や猫なんかの動物は常につま先立ちをしているわけです。で膝のようで膝じゃない足首が【ドッグレッグ】で、その上には普通に(人間と同じ方向に曲がる)膝があります。
(このドッグレッグってたしかゴルフ用語だったと思うんで、実際に犬の足首をなんというのかは知りません)
でみなさん、ちょっとつま先立ちをしてみりゃわかるんですが——。
これ慣れないと結構キツいんですよ。
だって人間は踵という【骨】で体重を支えるのが普通だから。
踵を使わずに立つってことは【筋肉でほぼ全体重を支える】ってことなんです。
まあ最初はバランスを取れずにふらつくこともあると思います。なのでまずは室内で慣らしていきましょう。つま先立ちのまま室内生活が不自由しなくなってきたら、そこで初めて屋外でもつま先立ちで行きましょう。
なお、ここで言う【つま先立ち】って、なにも絶対に踵を付けちゃいけないってわけじゃありません。そんな強烈な縛りを入れたらそれこそ義務や強制になっちまいますからね。
そこまで厳密にやらないでもいいんです。バランスを崩しそうな時は普通に踵を付けるべきです。靴下の踵部分が床に擦れるくらいも全然オッケーです。
目的は、日常の中へ自然とトレーニングを溶け込ませることなんですから。自然にできないうちに無理をしても意味はありません。
だからたとえば階段の上り下りでは踵をきちんと付けるとか、そういう安全対策をするのが大事です。
ところで皆さんもうおわかりですね?
『虎はなにゆえ強いと思う?』
踵を使わず常時つま先立ちしているから、自然と鍛えられているんです。
毎日踵を付けて安定的に、しかし筋肉を使わず歩いている人と。
毎日踵を付けずにやや不安定ながらも、しかし筋肉を使って歩いている人と。
1日数時間の差が、数ヶ月、数年と積み重なっていけば、その差はとんでもないものになります。
片や、体脂肪率ン十パーセントのぶよぶよ。
片や、体脂肪率十数パーセントのスマート。
歩き方ひとつ変えるだけで、これだけ変わります。
さあ皆さんまずは歩き方を変えましょう。
できるだけ踵を付けず、背中を曲げずに歩くのです。
毎日数時間踵を付けて歩いたあとに、毎日数時間ジムで脚の筋肉を鍛えるよりは、
ただ毎日数時間踵を付けずに歩くだけの方が効率イイですからね。
人間ってのは毎日意識的に、定期的に運動しなけりゃいけないってなると、どうしても億劫になっちまう生き物です。
ですが【ただ歩くだけ】で普通に歩く以上の運動になるとなればどうでしょう?
最初の方は意識して踵を浮かして歩くことになるかもしれませんが、【ただ歩くだけ】ってのはやがて習慣になります。そうなれば意識なんてすることもありません。面倒くさいなんて思うことすらありません。
その人にとっては【ただ歩くだけ】。
それだけで相当量の運動をこなしていることになるのです。
そして身についた筋肉が、勝手にカロリーを消費してくれる。
人体の中で1番筋肉量が多いのは脚だといいますからね。そこに自然と筋肉が付いてくれて、脂肪を勝手に燃やしてくれる。
いつの間にやら贅肉とは無縁のボディを手に入れているのです。
虎や狼は人体工学も筋トレ理論も知りません。
四足獣にとって踵を浮かせて歩くということは、狩りをする上での瞬発力を得るためにとても大事なこと。だから誰に強制されるでもなく、必要なことを数千数万世代も繰り返してきた。
ただ必要なことをやっていたら、いつの間にか鍛えられていたのです。
苦労せず、楽して健康になるにはどうすればいいのか?
歩く時に踵を付けず、それが習慣化するまで身体に馴染ませて、毎日姿勢良く歩いてりゃいいのです。
それだけです。
なにも難しいことはないでしょう?