室内でやっていること:座る——昔のサムライはじじいになっても姿勢のいい人が多かった。なぜか?
昔のサムライって姿勢のいい人が多かったらしいんですよ。それはもうじじいになってもずっと。
幕末から明治初期の写真ってのを見てみても、わりとムキムキな人が多いんですよね。
当時は筋トレの理論も、筋トレ用品もなかったってのに。
江戸も明治も今も、同じ日本人です。むしろ今の方が栄養食品的なものとかプロテインとか豊富にあって、すぐ手に入る。肉体作りの面では恵まれているのに、なぜいわゆる【生活習慣病】とやらが問題になっているんでしょうか。
なぜなんでしょう。
たしかに昔の人って何をやるにしても人力で、結果、身体が鍛えられていったって面もあります。しかしそれだけじゃありません。
論理的に、ある部分が自然に鍛えられていったって面もあります。
それは背中です。
座り方です。
◆ ◆ ◆
現代人はだいたい座っていますからね。椅子を良いのに変えたら腰が痛くなくなったなんてのはよく聞きます。
室内でできることはそう多くありません。まあとりあえず座りましょう。
ちなみに、ソファにだらっとふんぞり返るのはダメです。
椅子の背もたれに寄りかかるのもダメです。
座るのが椅子の上でも座布団の上でもかまわないから、とにかく背筋を伸ばしてシャキッとしましょう。
背中を丸めるのはダメです。
机の上のモニターやスマホを見るのに頭部やアゴを突き出すのもダメです。
腰骨の中心から1本の背骨が頭蓋骨まできっちり直立している様子をイメージして、まっすぐ座るのです。
基本的にこれだけです。
ジム通いも必要なく、筋トレ時間も必要ない。
ただ、座る時にどこにも寄りかからず、上半身の体重を自分の筋肉で支える——ただコレだけです。
何て簡単なんでしょう。
なぜこれだけで身体が鍛えられるかって?
ちゃんと論理的に説明できます。
◆ ◆ ◆
大原則として、筋肉ってのはただ存在するだけでカロリーを消費します。
つまり、一度筋肉を付けてしまえば、あとはそれを維持するだけの軽い運動を続けるだけで筋肉さんが勝手にカロリーを使ってくれます。なんて効率が良いんでしょう。
この仕組みを利用しない手はありません。
人体の中で最も筋肉が集中するのは脚だといいます。ほぼ全体重を支えて移動させるためですからね。脚は筋肉が多くないといけない。
では脚の次に筋肉が多いのはどこか。
それは背中です。
本来哺乳類は四足歩行をしていました。
背中ってのは視界に入りにくい部分です。外敵からの攻撃を素で受け止めなきゃいけません。
それにヒッティングマッスルといわれる部分も背中にあります。人間は両手で道具を使うことで生物の頂点に立ちました。
棍棒で相手をぶん殴る。素手でぶん殴る。両手で相手を押さえ込む。遠距離から石を投げて相手を仕留める。
これらは全て背中の筋肉が大きく関わってきます。
打撃という面においては、腕がぶっとくある必要はそれほどありません。
まずは背中の筋肉量こそが重要なのです。
でもそのために毎日ジム通いしたり、毎日背筋100回とかは疲れますよね。
だからまずは座り方を変えるのです。
どこにも寄りかからず、肘なんかもつかず、ただ腰骨から頭蓋骨にいたるまで、背骨をシャッキリまっすぐ伸ばして座るだけ。
これをやると何が起こるか。
自分の上半身というものを、筋肉の力だけで支えることになるのです(厳密には100%ではありませんが)。
人間の上半身って結構重いですからね。まあ人体をバラしたことがないんで具体的に全体重の何パーセントくらいかはわかりませんけど。
例えばソファに寝そべるように座ると、どこで上半身の体重を支えることになるのか?
座面ですね。背もたれですね。だらりと寝そべっていたら筋肉なんか1ミリも使わないでしょう。
では椅子に座って背もたれに寄りかかると、どこで上半身の体重を支えることになるのか?
これは背もたれですね。事務用の椅子でフルバックのは珍しいんで、頭の重さだけは首や肩の筋肉で支えることになると思いますが。
で、みなさん椅子に座るときって、だいたいはモニターやノートや本なんかを見るためじゃありませんかね。
で、その時に知らず知らず、背中は丸まって、頭部は前に出て、アゴを突き出して——みたいな座り方になっていませんかね?
これって例えるなら、釣り竿が大きくしなっているようなものなんですよ。
釣り竿が人体のどこに相当するかというと、背骨ですね。
つまり、背中を丸めるこういった座り方も、ろくに筋肉を使っちゃいないわけです(ソファでだらーんとするよりはマシですが)。
で、こういう座り方は今すぐやめましょう。
ただ座る時にどこにも寄りかからず、背中をシャキッと伸ばすだけ。
これだけで背中に自然と筋肉が付いてきます。
これを毎日続けるだけで、筋肉を維持するのには充分です。
あとは起きてる時も寝ている時も、筋肉さんが勝手にカロリーを消費してくれます。
簡単ですね。便利ですね。
◆ ◆ ◆
たったこれだけ? と思う人はいるんじゃないでしょうか。
ただまあ考えてみてください。
現代人は毎日平均して数時間は椅子に座っているといいます。
その椅子に座る数時間——ある人はだらしなく背中を丸めて座り、筋肉は付かず贅肉の塊。
ある人は背筋を伸ばしてシャキッと座り、背中に筋肉が付いて勝手にカロリー使ってくれる。
毎日数時間の差が、数ヶ月、数年と積み重なっていけば、その差はとんでもないものになります。
片や、体脂肪率ン十パーセントのぶよぶよ。
片や、体脂肪率十数パーセントのスマート。
座り方ひとつ変えるだけで、これだけ変わります。
さあ皆さんまずは座り方を変えましょう。
寝そべらず、寄りかからず、背筋を伸ばして座るのです。
毎日このように座ることは、すなわち自分の上半身である数十キログラムを毎日筋肉で支えることになるのです。
つまり、知らず知らずのうちに、自然と筋トレができちゃっているのです。
何の道具を使うことなく、専用の時間を確保するでもなく。
なにもキツいことじゃありません。
ジム通いの必要もなく、筋トレするわけでもなし。
ただ座り方をちょいと変えるだけで、気付けば筋肉が付いていて、勝手にカロリーを消費してくれるのですから。
ちなみに【筋肉を付ける】ということに忌避感を覚える女性はいると思います。
「やだ〜ムキムキになっちゃう!」
とかいうやつですね。
ですがまあそれは杞憂です
心配しなくても、この程度のことでムキムキになんてなれません。
ボディビルダーじみた筋骨隆々の肉体ってのは、肉体作りだけに人生を捧げた人間のうち、さらに才能ある人だけがたどり着ける領域なのですから。
座り方で自然と鍛えられるのは、人体のうちで最も基礎的な部分である【体幹】です。
読んで字のごとく幹ですね。それをパンプアップさせるにはまた過酷なトレーニングが必要なわけでして。
間違っても座るだけじゃムキムキになんてなれませんのでご安心を。
◆ ◆ ◆
で、最初にあった【サムライのじいさんはなぜ姿勢が良いのか?】って部分ですが。
これはもうおわかりですね。
刀を振るうのに最も重要な筋肉は背中。
背中を自然と鍛えるのには、ただ姿勢良く座っていればいい。
だからサムライってのは正座でもあぐらでも、いつも背筋をピンと伸ばして座っていたのです。
毎日数時間だらしない姿勢で座ったあとに、毎日数時間背筋を鍛えるよりは、
ただ毎日数時間姿勢良く座っているだけの方が効率イイですからね。
人間ってのは毎日意識的に、定期的に運動しなけりゃいけないってなると、どうしても億劫になっちまう生き物です。
ですが【ただ座るだけ】で運動になるとなればどうでしょう?
最初の方は意識して背筋を伸ばして座っているかもしれませんが、【ただ座るだけ】ってのはやがて習慣になります。そうなれば意識なんてすることもありません。面倒くさいなんて思うことすらありません。
その人にとっては【ただ座るだけ】。
それだけで相当量の運動をこなしていることになるのです。
そして身についた筋肉が、勝手にカロリーを消費してくれる。
いつの間にやら贅肉とは無縁のボディを手に入れているのです。
ああ念のために言っときますが、体脂肪率10パーセント台ってのは健康体ですからね?
『贅肉は敵だ!』
とばかりに身体を絞りにしぼって体脂肪率ひとケタとかにしちまうと、それはそれで健康面では危険です。
過ぎたるは及ばざるがごとし。何事もほどほどに。
人体工学も筋トレ理論もなかった戦国や江戸の時代——サムライたちはこのことを本能的に感じ取っていたから、日々姿勢良く座っていたんじゃないでしょうか。
まあたしかにこれだけだと重い刀を振るうには筋力が足りないかもしれません。
ですが我らは現代の一般人。
ンな重い槍や大太刀を振るう必要はなく、米俵を担ぐ必要もありません。
日々の生活で健康に暮らせるレベルまで、筋肉が付いてくれればそれでいいのです。
これ以上のレベル——ボディビルダーを目指したいのならそれ相応のトレーニングをどうぞ。苦難の道があなたを待っています。
本作はあくまで【一般人】として、健康的な肉体を手に入れるにはどうすればいいかを考えるものです。
苦労せず、楽して健康になるにはどうすればいいのか?
ソファにだらけず、椅子の背もたれに寄りかからず、毎日姿勢良く座ってりゃいいのです。
それだけです。
なにも難しいことないでしょう?