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【第27回電撃大賞:最終候補作品】UNDERSHAFT ~史上最強の武器商人と呼ばれたケモナー、あるいは歴史の改変と世紀末の大英帝国についての楽しく有益な小著~  作者: 上地王植琉
Chapter. Ⅳ アンダーシャフトの娘(第二部:ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ディキシーランド)
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Phase.11 紳士の一勝負




     11





「賭け……ですか。正直、賭けにはもうこりごりなのですが……」

「〈マスター〉との一件では儲けたそうだな」

「割に合わない厄介な案件でしたよ。おかげで脇腹に穴が空きました……」

「武器商人にとっては勲章みたいなものだ。なによりだ」


 アンダーシャフトは素直に笑い、すぐにもとの油断のない目つきに戻って続ける。


「賭けという言葉が嫌なら、少し言い方を変えよう。私と勝負するのだ、ワイゲルト。なに、ほんの余興に過ぎん」

「そう言って余興で済んだ例がないのですが……」

「私にとっては人生のすべてが余興なのだよ。……それに、だ。君がアンドリュー・アンダーシャフトの名から逃れようともがいている、それ自体が余興だとは思わんかね?」

「…………」


 カネトリは答えなかったが、その沈黙が答えだった。アンダーシャフトはみなまで言わず、条件だけを提示する。


「私に勝てば、そうだな……。望み通り、猶予を与えることにしよう。現状維持だ。現場にいたいならば、そうすればいい」

「負ければ……?」


 その問いに、アンダーシャフトは口調を変えずに即答する。



「アンドリュー・アンダーシャフトを継いでもらう」



 その言葉は、カネトリにはまるでピシャリと雷が落ちたように感じた。

 ついに、ついに、この時が来てしまったのだ。

 今まで逃れていた判決の時が。

 一気に動悸が激しくなり、頭に血が上るのを感じた。バーバラとの結婚、莫大な血塗られた富……その他諸々の事象が頭の中を駆け巡る。

 一介の武器商人に過ぎないカネトリは、カール・オオタ・ワイゲルトですらなく、次世代の『死と破壊の大商人』――八代目アンドリュー・アンダーシャフトになるのだ。


「そ、それは……」


 からからに干上がった舌を何とか動かして、なんとか言葉を綴ろうとした時、アンダーシャフトは一息吐いて、肩を竦めてみせた。


「……と、本来ならそう言いたいところなんだがね。正直、あれこれ言ってきたものの、私も相棒のラザラスも、まだ現場を引退する気はない。とくに今は稼ぎ時だ。だから、そうだな、私が勝ったら君にちょっとした『お使い』を与えることにしよう」

「ちょっとしたお使い……ですか」


 場の緊張が一瞬にして飽和する。カネトリは脱力してソファーから崩れ落ちそうになるのをなんとか堪えた。


「…………。……内容を聞かせてもらっても?」

「うむ。レット・バトラーという男を知っとるかね?」

「いえ。ですが、名前だけはどこかで聞いたことがあります」

「南部の武器商人だ。狡猾な男だよ。戦争中は北軍の海上封鎖を突破して物資を送る封鎖破り(ブロケード)で財を成した。スカーレット・オハラの『北風は去りぬゴーン・ザ・ノーザンウインド』を読んだことは?」

「ああ。どおりで……」


 劇中ではヒロインのスカーレットをたぶらかす冷血漢として描かれていたはずだ。

 主人公(作者)はそんな悪役に惑わされながらも、別のアシュリー・ウィルクスという貴族の男と真実の愛を見つけることになる。

 ただの小説の登場人物に過ぎないと思っていたが、どうやら実在していたらしい。


「バトラー商会には南北停戦後の南部連合再建レコンストラクションで世話になってな。南部でのアンダーシャフト砲の販路拡大に協力してもらったのだ」

「アンダーシャフト社のビジネス・パートナーということですか」

「そうだ。そして、レット・バトラー……あの自称愛国者の狡猾な男と、私はこういうやり取りをした。『協力のお礼にもし次に南部連合で戦争が起きれば、アンダーシャフト砲を十二門と機関銃を十二挺、最新のアンダーシャフト銃を百二十挺、そしてその弾薬を進呈しよう』とね。それで今回、この約束を履行する必要が生じたわけだ」

「それは……一大事ですね」

「なに、たかだか一万ポンドちょっとの物資プレゼントだ。そこまで気負うこともないだろう」

「そうですか……」


 カネトリはゴクリと唾を呑んだ。

 それはいつも行商で扱っている品物のざっと十倍に相当した。

 しかも、今は平時ではなく、戦争中なのだ。北部合衆国艦隊が先の南北戦争でやったように海上封鎖を行えば、輸送費だけでも数百ポンドのコストになるだろう。


「ちなみに、場所は? もし、バージニアの港に陸揚げするだけでしたら……」

「テネシー州、ナッシュビルだ。ちゃんと届たまえよ。……ああ、もちろんだが、今回の輸送にかかる支払いは君持ちだ。罰ゲームなんだから当然だろう?」

「それはお使いではないのでは……」

「そうかね? なら、言い直そう。君に『負債』を与えると」

「…………」


 完全な赤字確定。最悪だ。陸揚げして物資を引き渡すだけならまだしも、現地にまでついていかないといけないとは。

 南部連合国にはギルドの支部が首都のリッチモンドにしかない。つまり、物資の輸送に伴う護衛や情報提供など、現地からの諸々の支援が受けられないということだ。

 もしアンダーシャフトのお使いを行うことになれば、孤立無援の状態のまま、土地勘のない南部で大量の物資を輸送しなければならない。その上、テネシーはケンタッキー州に隣接する北部合衆国との境界州だ。

 今現在、戦場はまだバージニアの東部戦線に留まっているものの、いつ戦線がテネシーまで伸びてもおかしくはない。

 カネトリは落胆のため息を堪え、顔を上げてアンダーシャフトを真正面から見据えた。


「お使いをすると決まったわけではありません。勝負の内容を教えてください」

「ああ、そうだな」


 アンダーシャフトは楽しげに頷き、懐から財布を取り出して一枚の紙幣を取り出した。


「二十ポンド札だ。これを使おう。勝負の内容はじつにシンプルだ。明日から始まるロイアル・アスコット大会……君は参加するかね?」

「いえ、そのつもりはありませんでしたが……。勝負というのは、まさかダービーですか?」

「その通り。明日の大会中、この二十ポンドをより多く増やしたほうが勝ち。賭け金がなくなった時点で、その方が負け」


 アンダーシャフトは二十ポンド札をひらひらと振り、胸を張って弟子に告げる。


「英国人らしく、一勝負といこうか」




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