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【第27回電撃大賞:最終候補作品】UNDERSHAFT ~史上最強の武器商人と呼ばれたケモナー、あるいは歴史の改変と世紀末の大英帝国についての楽しく有益な小著~  作者: 上地王植琉
Chapter. Ⅳ アンダーシャフトの娘(第二部:ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ディキシーランド)
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Phase.10 淑女たちの社交界




     10




「紹介するわね、こちらセーラとベッキー。それで、この娘がリジルよ」

「は、初めまして……」

「「ごきげんよう」」


 握手しようと咄嗟に手を出した少女に、セーラ・クルーとベッキーはともにスカートの裾を摘まんで儀礼的な辞儀で返した。

 リジルも慌てて倣おうとするが、上流階級の礼儀作法マナーはほとんど学んでいないに等しく、どうもぎこちない動きだけが残る。

 それを目ざとく認めたセーラは、「ちょっと来なさい」と新入りの手首を掴んで、他の婦人たちがいない個室に引きずり込んだ。


「あなた、亜人でしょ?」

「えっ……」


 動揺するリジルの一瞬の隙をついて、セーラはその帽子を遠慮なく剥ぎ取った。

 隠れていた獣の耳が露わになり、皮肉屋の淑女は満足げに頷く。


「やっぱりね。食事の時も室内帽ルーム・キャップを外してなかったから少し気になってたの。白い鳥なんか連れてるし、野蛮なアメリカン・スタイルのファッションなのかとも思ったけど、どうも社交界に慣れてない様子だしね。なんで半獣人ハーフのあなたが夜会に?」

「そ、それは……」

「セーラ!」


 慌てて二人の間に割って入ろうとするバーバラを手で制し、セーラは不敵に笑ってリジルの肩を叩いた。


「まあ、なんにせよ、度胸があるわ。そういうの、好きよ」

「……平気、なの?」

「別に。私はインド出身なの。獣人なんて見慣れてるわ。向こうにはカースト制度があるけど、英国ここの階級制度はそんなに厳しくないしね」


 セーラはそう言って、ほっと安堵の一息つくバーバラに視線を移した。


「で、バーバラ。どんな理由なの? 協力するわ」

「えっと……」


 カネトリから一通りの経緯は聞いているが、まさかそのまま伝えるわけにはいかない。

 バーバラが返答に窮しているのを見て、ベッキーが助け船に入った。


「セーラ、バーバラが困ってるじゃない。あれこれ聞かないほうが……」

「ちょっとぐらい、いいじゃない。別に減るもんじゃないんだし。あっ、もしかして……招待客の誰かとの色恋沙汰スキャンダルとか? ねぇ、そうなんでしょ!」

「えっ、えっ、スキャンダル!? なにそれ超聞きたい! 教えてよ、バーバラ!」

「…………」


 スキャンダルの単語が出た途端に一転して目を輝かせるベッキーに、バーバラはもはや孤立無援であると悟った。

 その時、バーバラはふとリジルと目が合った。状況に困惑し、どうしていいのかわからない、そんな表情を浮かべている。リジルの存在自体がスキャンダラスであることは間違いないが、そんな彼女をこの場に招き入れたのは、自分にこそ責任がある。

 成り行きとは言えど、婚約者フィアンセがいる身でありながら、あんな場所でデートをしていたのはカネトリの責任であり、この娘に罪はない。完全なる被害者だ。


 もとはと言えば、カネトリの性癖がすべて悪い。


 家にも帰らず、世界各地の戦場を転々として恨みを買い、なおかつ獣人好きファーリー・ジェントルマンというさがを持つ、厄介事には事欠かない変態武器商人。

 そう考えると、次第にバーバラの中で苛立ちが大きくなっていった。


「その、じつはね……」


 バーバラは咄嗟に頭を働かせ、前にミューディーズ・ライブラリーで借りて読んだ三文小説ペニー・ドレッドフルの物語を交えて話した。

 この少女は借金のカタに極悪非道の毛だらけ男ファーリー・ジェントルマンに売られ、夜な夜な匂いをすーはーされたり、身体をぺろぺろされたりなど、言葉にもできないような、いかがわしいことをされており、自分はその男の魔の手からリジルを解放するための手助けをしているが、借金を返済して自由の身にしてあげるには、お金がどうしても足りない。

 そこで、大変不本意ながら、『死と破壊の大商人』で億万長者である父親に話をするために、マキシム邸のパーティーに連れてきた……云々。


「……ぷっ」


 リジルの腕の中で、白カラスは思わず噴き出した。

 かなり脚色されているが、その極悪非道の毛だらけ男ファーリー・ジェントルマンとは明らかにカネトリのことだったからだ。

 撃たれた傷がまだ完全に癒えていないこともあって、最近ではカネトリも自重しているが、それでも以前ならば夜な夜な言葉にもできないような醜態を晒していたに違いない。


「…………」


 リジルもそれがカネトリのことを言っているのには何となく気づいたが、成り行きに任せて黙っていることにした。

 匂いを嗅がれたり、身体をぺろぺろされたのは事実であったし。


「そうだったの……かわいそう、リジルちゃん」

「なんて酷いのかしら! そんな変態はくたばればいいわ! 女性の敵よ!」

「ええ、本当にね!」


 憤りを示す二人の友人に、バーバラも強く同意した。

 どうして男という生き物はいつもこうなのだろう。いくら危険なところに行くなと言っても、娼館通いはやめろと言っても、少しも聞いてはくれないのだ。これなら、飼い犬のほうがまだ利巧と言うものだ。


「……でも、それなら、ちょうどよかったわ」

「どういう意味?」

「いい儲け話があるのよ!」


 セーラはいたずらっぽく目を光らせ、当事者である半獣人ハーフの娘に目を向けた。


「もしかしたら大金を得て自由の身になれるかもしれないわ。いい? よく聞いてね。今度のロイアル・アスコット大会で……」





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