第21話 魔女の正気と従者の狂気
「…それで?
このアレックスが、今度こそ本物の『もう一人』って事で良いのか?」
「……………」
アレクサンダーと一通り必要な情報の交換を終えて、会話の相手をアイリスへと
戻したイザベラだったが……。
いざ視線を戻してみると、再び彼女は机に口づけしているかのように突っ伏した
姿勢になっており、その綺麗な金髪が見事に机上に広がっている状態だった。
…先程との唯一の違いは、今回は騒がしいどころかピクリとも動いていないという
ところだ。
「あ、あの……お嬢様?
お休みになられている、というわけではないのですよね……?」
気絶でもしているのでは? と思えるほど反応を返さないアイリスに、メアリー
は念の為に声を掛ける。
…すると、声の中に不愉快さを存分に滲ませて、アイリスが答え返してくる。
「つーん……起きてはいるけれど、もう知らないわ。
別に私が話さなくても良いみたいだし、貴方達だけでお話すれば良いじゃない」
突っ伏したままで話している所為で、声がくぐもって聞こえて、言葉の内容以上
に陰鬱な印象を与えてくる。
恐らくは、その口元は先程と同じく、つんと尖っている事だろう。
「お嬢様、お気持ちはお察ししますが……その態度は、あまりに……」
主のあまりにも酷い醜態に、メアリーが頭を抱える……。
しかし、そんな彼女の態度を見て、隣に座るアレクサンダーは「へぇ……」と、
感心した様子をみせた。
「…? どうした?」
「いえ……思っていたよりも曝け出せているんだな、と思いまして」
イザベラが、そんなアレクサンダーの反応に疑問を感じてその意図を尋ねると、
彼は自身の思った内容をそのまま口にしてくるのだった。
「アイは自由奔放に見えて、意外と他者の目には敏感……というか。
好き勝手している風に見せていても、領主の娘として失望させない程度には自分の
行動をきちんと律して、普段から周囲を意識してますから。
毎日のように屋敷を抜け出して従者に追い掛け回されても、町の人には親切で愛想
良くしているからこそ、彼らから微笑ましく見て貰えているんです。
そんなアイがここまで取り繕わない態度を遠慮なく見せるというのは……実は結構
珍しい事なんですよ?」
「ハッ! そうだったのかよ。
つまり、あたしには『もう気遣いは無しで良いや!』ってことか?
それなのに、他には猫かぶりとは……何とも小賢しい限りだな! アハハハッ!」
馬鹿にした口調の中に、僅かに楽しそうな雰囲気を漂わせて、イザベラが大きな
声を出して笑う。
それに対して、アイリスは無言のままで自身の足を机の下で激しく振っていた。
「…………(バタバタ)」
「しかし、そうか……そういうことなら、アタシの方も納得いったよ」
「…? 納得……ですか?」
笑いを収めたイザベラは、敢えてアイリス本人ではなくアレクサンダーへと話し
掛ける。
「いや、今日のアイは妙に子供っぽいなと思ってな?
そりゃ、普段のコイツが『慎みある大人の女か?』と問われれば、アタシも即座に
首を横に振るだろうが……。
それでも、今日はいつもよりも格段に態度が幼く見える」
天真爛漫な自由人ではあるが、それと“幼さ”とは微妙に違うものだ。
少なくとも昨日までのアイリスは、今日ほどそういった印象を感じさせるような
態度を取ってきた事は無い。
「ライラのような小さい子供の前では年上らしく振る舞おうとするし、メアリーを
帯同している際は……まぁ、多少はその辺りが緩くなるきらいもあるが、それでも
主人として恥ずかしくないように意識している節がある。
…微妙に緩くなってしまうってのはメアリーをただの専属従者というより、恐らく
姉のような存在として認識してる分、自然と甘えが出ているだけなんだろうが」
「…………(バタバタバタッ)」
イザベラの説得力ある解説を前に、無言のアイリスのその足元だけが、どんどん
激しさを増していく……。
「つまり、以上の点を総合すると……だ。
コイツが今日に限って此処まで幼く見えるのは、アタシやメアリーじゃなく――」
まるで難事件を推理する探偵の如く指を立てて、そこまで語ったイザベラは、
その指先を視線の先に居る人物へと向ける。
「アレックス、オマエに対して甘えているから……だろうな」
「…………(バタバ――ピタッ)」
その瞬間、それまで激しく暴れていたアイリスの両足が、時間が停止したかの
ようにピタリと止まる……。
そして、そのまま数秒間……。
再びイザベラが声を発するまで、室内には無音の空間が広がった。
「“大人が子供のように振る舞う”ってのはな、そいつが単なる馬鹿でも無い限りは
『この人が相手なら、このくらいは許してくれるだろう』と考えるからだ。
つまり、相手の事を信頼し、その関係性に甘えているという事に他ならない」
アレクサンダーの顔に向けて立てていた指をサッと仕舞いながら、イザベラは
片方だけ口角を上げて、いかにも意地悪そうな笑みを浮かべる。
「いやいや、誇って良いと思うぞ?
なにせ、少なくともオマエはここに居る中で、最もこのお姫様から気を許されて
いるってことの証明に――」
「ちょ、ちょっと! フィー!!
私が黙っているからといって、何を言い出しているのよ!?
貴女の勝手な想像を、まるで本当の事のように話さないでちょうだい!!」
流石に捨て置けなくなったのだろう……。
ガバッと音がしそうな勢いで起き上がったアイリスが、つい先程まで突っ伏して
居た机に今度は両手を叩きつけて抗議の姿勢をとった。
「…お? なんだ? 一人で拗ねている時間は、もう終わりで良いのか?」
そして、そんなアイリスを前に、イザベラはニヤニヤ顔のままでそう尋ね返す。
表情からして、明らかに煽る気満々といった様子だ。
「ふん! やっぱり、フィーは魔女なのね!
時々だけれど、こんな風に凄く私に意地悪なんだもの!!」
ほんの数秒前のイザベラの言葉を借りるなら、その意地悪な行動こそ、信頼して
いるが故の甘えに他ならないのだが……。
…この時のアイリスは、自身の感情の高ぶりが勝ってしまい、そんなイザベラの
弱みを突いて攻撃するどころか、その事実にすら気がついていなかった。
「――いいえ、今のは完全にお嬢様の自業自得かと」
憤慨した様子で頬を膨らませていたアイリスだったが……不意に予想外の攻撃が
彼女の真横から降りかかって来る。
あまりに想定外の参戦者であり、更には彼女の予想に反して、完全に自分と敵対
した意見だったからか……。
アイリスは思わず「…えっ?」という声が、数秒の沈黙の後に漏らしてしまう。
「初めに会話を放棄して黙り込んでしまったのは、お嬢様でしたでしょう?
その結果、どのような会話が行われたとしても、文句を言う資格はありません」
「…うっ……ぐ……」
イザベラのように明らかに楽しんでいる風でもない、メアリーのその冷静な口調
と声が、アイリスの咄嗟の反論を封じ込める。
後はもう、何処か苦しそうな呻き声が断続的に漏れるのみだった……。
「………今日のメアリー、何だか妙に私に冷たくない?」
そんな、従者からの思わぬ口撃を前に早々に白旗を揚げたアイリスは、すっかり
意気消沈してしまい、思わずそう愚痴を零してしまったのだが……。
「そもそも、自分抜きで会話するように促されたのも、お嬢様ご本人です。
お嬢様が黙り込んでしまわれたから、イザベラ様も敢えてあのようなお戯れを口に
して、からかって来られたのでしょう」
その愚痴すらも次の瞬間には論破されてしまい、もう黙り込む以外には選択肢が
残されていなかった。
「クククッ……別にアタシは戯れのつもりはなかったがな?」
…そして、それを黙って眺めていた魔女は、窮地に立つアイリスに止めを刺すべく
更なる追撃に出たのだが――ここで予想外の反応が返ってくるのだった。
「…? 何をおっしゃっているのですか。明らかにお戯れだったでしょう?
お嬢様が最も気を許しているのが私以外の人物だなんて……ありえない事です」
「えっ……あ……あー、うん。それは……そう、だな……」
本当に何の疑いも無い……含みが全く無い様子で、不思議そうにイザベラにそう
聞き返すメアリーを前に、イザベラの悪戯心が一撃で粉砕される。
森に生きる長命な魔女をして、『ここは深く突っ込んではいけない』と思わせる
程に、この時のメアリーの言葉は空恐ろしいものがあった……。
「メアリー……私、あなたのそういう所が、ちょっとだけ怖くなる時があるわ」
「………え? えっ?」
心底、不思議そうな顔でパチパチと素早く瞬きをしながら皆の顔を見回している
メアリーを逆に見返しながら……その場に居る彼女以外の全ての者達は思った。
『ああ、そういえば――ある意味、一番ヤバいのはコイツだったな……』と。
常に冷静で、的確に判断・行動ができる真に有能な従者ではあるのものの、主人
への愛情の数値は完全に限界値を振り切っており、常に暴走状態……。
時には冷たい態度を取ったり、長いお説教をする事もあるが、それもその想いが
人一倍強いが故のこと。
この『メアリー』という人物は、アイに何かあろうものなら、相手が神だろうが
悪魔だろうが、迷わず突撃していくような……危険な思想の持ち主なのだ。
…普段の落ち着き払った態度に騙され、調子に乗って無意識に“ライン”を踏み越え
てしまえば……魔女であるイザベラでさえ、何をされるかわかったものではない。
「ま、まぁ……冗談はこれくらいにして、だ。
アレックス、オマエ個人の事は知らんが、家の方ならアタシも多少は知っている。
特に、この前の件では新しい染料の材料に必要な植物の種の取り扱いを急に頼む事
になっちまったらしいな?」
一秒でも早くメアリーの狂った発言から話を逸らしたかったのか……。
イザベラはあからさまに話題を転換して、アレクサンダーにそう話しかける。
「経緯はどうあれ、アレは魔女という立場のアタシが気まぐれに俗世へと介入した
影響でもある。
突然の事で色々と面倒をかけちまったと思うんだが……」
とりあえずは、アイリスにイザベラ自身が調達した物を例の染色工房へと届けて
貰う事でその日は対応出来たものの、今後もずっと出所不明の材料を使わせるわけ
にもいかない。
そこで、町の商会を通じてアレクサンダーの店で取り扱って貰えるようにと、
後日、アイが以降の流通に関する話を持ち掛けたのだった。
「あ、いいえ! それは大丈夫です!
あれに関しては主に俺の親父が手配したんで、殆ど俺は何もしてません。
それに、親父も他人の為になる事をするのが生き甲斐みたいな人なので……。
大変というより、むしろ喜んでやっていましたから、気にしなくても良いですよ」
「…そうか、すまないな。
まぁ……だとしても、アタシがオマエの父親に会う機会は無いだろうからな。
代わりと言っては何だが、一応の礼は言っておくさ……感謝している」
そう言って、イザベラは組んでいた足を解き、手を両膝に置いてから静かに頭を
下げて、行動でもって感謝を伝えた。
至って真面目な、そのやり取り――だったのだが、ここで何故かアイリスが立ち
上がり、両手で口元を覆って目を見開いた。
「そ……そんな!?
あのフィーが、素直に謝罪とお礼を言うなんて!!
大変よ、メアリー!! 今すぐ屋敷に帰って備えましょう!?
きっと、これからとんでもない規模の嵐が来るに違いないわ!!」
散々からかわれた仕返しのつもりなのだろう……。
大げさに『これは驚いた!』といった演技で、イザベラを挑発するアイリス。
再び始まった“おふざけ”に、また室内の空気が弛緩していく……。
「…おい、そこの不良貴族。
オマエ……アタシの事を何だと思ってやがるんだ?」
「…えっ? 何って……口の悪い、自称魔女のお子様……かしら?」
まさに、売り言葉に買い言葉。
『不良』と呼ばれたアイリスが、イザベラに『お子様』と返して対抗する。
「よ~し……ちょっとジッとしていろよ?
その綺麗に手入れした金髪を、一瞬で黒焦げのチリチリに変えてやる」
「!? くっ……それはいけません!!」
一応は冗談だと判ってはいるのだろうが、万が一に備えてメアリーが間に割って
入って、アイリスを見るイザベラの視線を咄嗟に遮ろうと試みた。
…しかし、状況的に両者共に机を挟んで椅子に座ったままだった為に、メアリーは
窮屈そうな中腰で机上に身を乗り出すような形になってしまっており……。
傍から見れば、もう完全に喜劇の様相を呈してしまっていた。
「…あ、あはは……は……」
そんな寸劇を一人、傍観していたアレクサンダーは、馬鹿馬鹿しい目の前の光景
に呆れると共に、あまりに想像とかけ離れた魔女の人格に内心では戸惑っていた。
(まぁ……アイが慕うような人なら、まともじゃないわけはない……よな?)
此処に連れて来られる時には、『森の魔女に紹介するわ!』と言われて、何を夢
みたいな事を言っているんだ? と思ったアレクサンダー。
…だが、通い慣れた川へと続く何も無い森の道の途中で、アイリスにポンッと肩に
触れられたかと思うと、目の前に突然、別の道が現れた時には言葉を失った。
待ち受けていた魔女の姿が想像の真逆だったのにも驚かされたが……それ以上に
アイリスの彼女に対する気安さの方にこそ驚かされた。
…大抵の人は、アイリスと接していくにつれて2度は印象を裏切られる事になる。
1度目は、堅苦しさが抜けてくる頃。
見た目の可憐さからは想像していないであろう、その天真爛漫さを知った時だ。
幼い頃から叩き込まれている貴族らしい立ち居振る舞い、芸術品のように整った
顔立ちに加えて、見事なまでの金髪碧眼。
その容姿から、さぞかし控えめな性格の“淑やかな箱入り娘”かと思いきや、地元
では従者と町中を駆け回って鬼ごっこを繰り広げるのが日常、と……。
年に1度、有るか無いかの社交界でのみ接するような、形式上でしか付き合いの
無い貴族達には想像すら出来ない話だろう。
そして、2度目。
こちらは、一定以上の信頼関係が築けていないと知ることすら出来ないのだが……
先の話の中にもあったが、アイリスは意識的に『自由人』を演じている節がある。
だからこそ、ある程度までしか“自分”というものを表に出さないように日頃から
心がけているし、意図的であるが故に、自身の発言・行動もある程度コントロール
している。
そういう意味では、イザベラに対するこれまでの発言には、その自制をきかせて
いる様子は殆ど見られなかった。
頭の中で思っている事をそのまま……とまでは言わずとも、多少は相手が不快に
思うであろう内容でも、遠慮なくぶつけているのは、実のところ非常に珍しい。
アイリスと多くの時間を接している者でもない存在で、ここまで明け透けに言い
あえる関係を短時間で作りあげられているのは、十分に驚くに値する事だった。
「あの……ところで、イザベラさん。
その染料の材料の植物知識についてなんですが、僕の方からも良いでしょうか?」
「…ん? ああ、構わないが……やはり何か問題があるのか?」
そんなイザベラだったから、だろうか……。
初対面であるアレクサンダーも、さして緊張せずにそう切り出す事が出来た。
「いえ……実は、例の染料に使う材料なんですが、ウチで扱うと決まった以上は、
俺も知識としてきちんと知っておいた方が良いかと思ってまして。
アイに教える際には、俺もそこに同席させて貰えるとありがたいんですが……」
仕入れから出荷までのほぼ全てを主に父が請け負うのは間違い無いのだろうが、
だからといって無知であっても良い事にはならない。
ましてや、健康被害があったものの代替品としての商品なのだから、正しい知識
を得ておくに越したことは無い。
「いや……アタシはまだはっきりと『教えてやる』とは言っていないんだが?」
…しかし、魔女は『コイツは何を言っているんだ?』と言わんばかりの顔で、そう
返してくる。
その顔はごく自然な様子で、冗談で言っているのか、本気で不思議に思っている
のかの判別が非常に難しい。
「あ……ああっ、お嬢様!? こ、これは非常にマズい流れです!!」
すると、それに誰よりも早く反応したのは当のアレクサンダーではなく、黙って
アイリスの髪を黒焦げから守ろうと奮闘し続けていたメアリーだった。
横から机の上へと身を乗り出すような格好のまま、首だけアイリスを振り返ると
危険な目つきのまま、彼女はとんでもない事を言い出す。
「さぁ! 今すぐにイザベラ様の靴を2人で一緒に舐めましょう!!」
こちらはイザベラとは違い、確認するまでもなく本気の顔だ。
その発言を受けて、アイリスは内心で『やはりこうなったか……』と、両目を覆い
たくなる思いだった。
今日のメアリーは、屋敷を訪問してからこちら、なんとしてもイザベラに教えを
請うべく気負い過ぎるあまり、冷静さを保つのも精一杯といった様相だった。
時折、自分が関わった物事に取り組む際に、似たような状態になるのを見てきた
アイリスにとっては、予想通りではある。
…だが、そんなメアリーを初めて見る人物の反応たるや――
「…メアリー、オマエはオマエで少し落ち着け。
今のオマエは、ちょっと……いいや、かなり怖い奴になってるからな?」
言い伝えの魔女ともあろう者が、完全に気圧されて……眉を顰めていた。
「いいえ! 私は至って冷静です!!
お嬢様の未来の為ならば、私の舌の一枚や二枚っ……!!」
…ヒートアップしたメアリーは、そんなイザベラの反応には気付けない。
悲壮感漂う表情で、一大決心をするが如く、歯を食いしばりながら言い放つ。
しかし、そんなメアリーの興奮状態についていけないイザベラは、若干引き気味
ながらも、1つずつツッコんでいく……。
「なんでそんなに必死な顔になってんだよ……。
…というか、靴を舐めたくらいで舌がダメになるって発想もおかしいし、そもそも
アイも一緒に舐めるのなら、全く守り切れていないと思うんだが……?」
「だ、大丈夫です! お嬢様の舌は私より頑丈です……きっと!」
「いや、そこが希望的観測じゃ、専属従者としてはダメ過ぎるだろ。
そもそも、何が原因でアタシが靴を舐められて上機嫌になると確信したんだ。
そんな事をされても、単純に気持ちが悪いだけなんだが?」
「え!?」「ええっ!?」
混迷を極める会話は、着地点を確定出来ずにそのまま彷徨う……かに思えたの
だが、イザベラの言葉に驚いた2人分の声をもって、唐突に終わりを迎えた。
「………おい。
メアリーはともかく……そこで何故、アイまで意外そうにしていやがる」
そうして、急に無音になった室内に、イザベラの不愉快そうな低い声が響く。
…ここだけ切り取ってみれば、いかにも『森に棲む悪しき魔女』らしい迫力だ。
「い、いえ……魔女ならそういうものなのかな~……と思って」
反射的に反応してしまったものの、どう考えても自身の専属従者の暴走発言と
しか言いようの無い会話なのに、思わず共感してしまっていた部分があった事を
指摘され、微妙に居心地が悪そうにする、アイリス……。
そんな2人を前にして、比喩ではなく、実際に頭を片手でこめかみを押さえる
ような格好で抱えながら……イザベラが大きな溜め息を吐き出す。
「オマエ等の中の魔女のイメージは、いったいどうなってるんだよ……」
苦しそうに呻くような声でそう零すイザベラの様子と、一連の会話をただ傍で
眺めているだけだったアレクサンダーは……心の中で密かに呟くのだった。
(これ、もしかしなくても……魔女よりもアイ達の方が変な奴なのでは?)