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いつかの誰かのスタートライン

作者: ひじき

僕は、生まれて初めて恋をした。

私は、生まれて初めて恋をした。

彼女は太陽のように朗らかで誰に対しても優しく、運動も勉強もできる、完璧な人だった。

彼はどんな課題にも真摯に向き合い、いつもその場を陰ながら支える月のような人だった。

正真正銘、一目惚れだった。彼女は入学式の新入生代表挨拶を完璧にこなし、同級生から上級生までの多くをを釘付けにした。僕も、一瞬で虜になった。そのつま先から髪の毛の一本にすら可愛さを感じてた。まあ、その時は高嶺の花だって言って諦めようとしてたんだけどね。

最初は、ただ少し気になる位だった。でも、君よりは早かったのかも。一年の夏、文化祭の実行委員会で君は、一年では誰も成し遂げたことの無かった観客動員数1位を宣言したよね。みんな白い目で君を見てた。安定とか平穏が好きな大多数にとって君は敵でしか無かった。実を言うと、私もその一人だったんだ。でも君は、本当に成し遂げかけた。君の努力が導いたあの祭り屋台は、私の心を揺らしたんだよ。でもそのときはまだ、名前すら知らなかったから。

二年に上がって同じクラスになったときは舞い上がった。でも同時に、住んでる世界の違いを痛感した。

君は教室では影に徹していて、私は近づくことを許されなかった。なにか、なにかきっかけが必要だった。

そんな僕に、チャンスが訪れた。文化祭の実行委員。去年もやってた二人、敏腕Pなんてレッテルを貼り付けられて僕と彼女は面倒ごとを押しつけられた。でも僕の目には二度と無いかもしれない、最高のチャンスとしてうつった。

君は多分予測してなかったよね。去年君が宣言したことと同じことを、今度は二人で宣言するなんて。たのしかったなあ。結局達成は見送りになっちゃったけどね。先輩のあれはずるかったよね。

告白は僕からだった。夜景に見とれていた彼女に、突然声をかけたんだ。緊張しすぎて、何度も作り直した台詞なんか、ひとつも出てこなかったけど。

告白は彼からだった。文化祭の帰り、いつもとは違って見えた夜景と君の顔。あの時、君のほうを見たら笑ってしまいそうで目をそらしてたんだ。夜景に見とれていた訳じゃ無かったんだよ。ずっと君のことを考えてた。だからうれしかったんだ。告白の時の、君には似合わない、いつになく真剣な顔。新しい君をまた知れたようで。

告白から一年と半年、砂糖ましましになった生活をおくっていた僕らは、高校を卒業した。環境の変化は別れを誘うなんて周りからは脅されたけど、僕らには何の関係も無かった。違う大学に違う学部。元々趣味も合わなかった僕たちの会話は確かに大きく変わったけど、恋の熱は冷めなかった。

私が演劇で、君は医療。本当に大変だったね。お互いに空き時間は少なかったし、お金も無かったから、、、この時期は寂しかったな、、、ほんと、人生で二番目くらいに。でもこの時期があったから、私たちは強くなれたのかもしれないね。

僕らは卒業してまもなく、結婚した。かけがえのない人生のパートナーに、家族になったんだ。この頃、僕は幸せすぎて、こんなにもらっちゃっていいのかなんて贅沢な悩みを持ったりもしたくらいで。本当に楽しかった。

私たちが新しい命を授かった日。君がなんて言うのか、楽しみでもあったけど、少しだけ不安もあって。でも、伝えた瞬間泣き出すとは思わなかったよ。おかげで二人で泣きながらも大笑い。お父さんは立派だけど泣き虫なんだよって、この子にも伝えてあげたかったな。

彼女の舞台を僕は何度も見に行った。そう、何度も。彼女は主役から脇役、時にはモブだってこなすすごい役者だった。そんな一面を見て、思い出して、泣いて。だから感想を聞かれたときには、いつも彼女を怒らせていた。ちゃんと劇全体を楽しめって、彼女の口癖の一つだった。

君は私が出る舞台には必ずと言っても良いほど来てくれるし、私の休日にはきまって一緒に居てくれる。なのに私よりずっと稼ぎがいいんだから不思議だったけど。初めて見た仕事モードの君は、あのときとはまた違った真剣な顔で、またうれしくなっちゃったんだ。それと同時に、思ったんだ。私も、真剣にならないとって。

幸せは本当に一瞬で、その後には必ず不幸が訪れる。彼女の主治医から聞かされた、信じたくは無かった、いきなりの余命宣告。早すぎだ。毎週お互いの体調はチェックしてたし、彼女に変なところが無いか気にかけるようにもしてた。そもそも、彼女のための医学だったのに。

私、上手く演じられていたみたい。彼にこのことを告げるには、まだ早かったんだ。幸せを壊したくなかったんだよ。治らないものだっていうのは分かってたし、君がなんて言うのか、怖かった。本当はあの日、このことも分かってたんだ。でも、どうしても言えなかった。ほら、君はせっかく医療を学んだのに無力だったなんて話は嫌でしょ?それに、私も目をそらしたかったんだ。25年生きてて、最初で最後のわがまま。君は泣きながら、嗚咽を隠すこともできないで。でも、それでも私を許してくれた。抱きしめてくれた。そうしてるうちに、日をまたいじゃったんだよね。だから私は言ったんだ。誕生日おめでとうって。

君は何度もうなずいて、言ったよね。「次も、その次も、いつまでだって一緒に居よう。それで、毎年笑い合いながら誕生日を迎えよう。」

その言葉は、誰のどんな言葉よりも私の中に刻まれたんだよ。

なにもかも、納得できなかった。確かに幸せだった僕と彼女の時計は、最初から他の人よりも早く進んでた。そんなの、納得できるわけがない。理不尽だ。でも、嘆いても結果は変わらない。今の僕に変えられないのなら、せめて今は。そう思った。そして迎えた8月28日。彼女は持ち前の笑顔を絶やさず、静かに息を引き取った。彼女は3ヶ月と言われた余命を待たずして逝ってしまった。明後日が、彼女の誕生日だった。


僕は葬式では泣かなかった。式は、粛々ととりおこなわれ、誰一人として取り乱す人は居なかった。今思えば、不気味でしかない葬式だった。誰も泣かないばかりではなく、彼女の親族は僕以外参加しておらず、参拝者は劇団の関係者ばかりだった。だが、当時の僕は気にする余裕すらなかった。すべてが終わった後、僕は大学で知り合った教授の研究室にこもった。

そこで、調べて調べて調べまくった。彼女の死、その解決法。そして、彼女を取り戻す手立てを。睡眠も食事もとる気にならず、一週間が経過し、今に至る。

もう、限界だった。体に力は入らず、目は常にかすんでいる。少しでも油断すれば意識は飛び、それが自分の最後になることも薄々分かっていた。それでも僕は、諦めなかった。諦められなかった。

そしてついに力尽きたその時、声がした。

「気に入った。俺と契約をしろ。お前をどうにかしてやる。」

彼女の居ない世界に、、、生き長らえたところで、、、

「誰がそんなことするかよ。ちゃーんと彼女を救える可能性を授けてやるさ。契約すれば、だけどね。」

本当、、、なんだな、、、

「ああ本当さ。俺は悪魔だが嘘だけはつかない。」

なら、、、

「契約内容聞きすらしないで契約とは、、、本当に面白いな。」

さて、最後まで聞き取ることはできなかったが、、、まあ成立でいいだろ。

「今度こそ破れるといいな。俺を。」

そして物語は始まりを迎える。


この短編は、ここで終わりです。どうだったでしょうか?かなり色々な謎があると思いますが、そこは本編を読んでいただければと思います。では、またどこかでお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 視点の移動がテンポ良く、短編ということもあって一気に読めてしまう作品。壊れやすいガラス細工のような愛を紡いでいく佳品。 [気になる点] 本編がどうなるのか気になります。
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