前編
お気軽に読める作品となっています。
一応
この物語はフィクションです。
こういった言葉を使った事があるだろうか?
『めんどくさい』と。
1度や2度や3度、誰しも言った事があるかと思う。
もしかしたら、人によっては毎日の様に言っちゃう人もいるかもしれない。
例を上げるとすれば、学生ならば学校に行くのがめんどくさい。
授業を受けるのが、めんどくさい。
社会人であれば、職場に行くのがめんどくさい。
人間関係がめんどくさい等。
日々生きていく上で人生には、こういった心情になりうるイベントが大量に発生する。
それでも、人は生きてく為に『めんどくさい』と言いながらやりたくない事、逃げ出したい事に挑戦しなければいけない生き物である。
ここに、数十億人といる人類の中でも、人一倍めんどくさがりの高校男児がいた。
彼は何かにつけて『めんどくさい』を多様し、基本的に自分からは行動したがらない。
その性格から、人付き合いも面倒と考える彼は、人に関わらずに生きていきたいと願う。
しかし彼の存在を周囲の人達は放っておけなく、本人の意思は無視され巻き込まれてしまう。
これは、そんな彼の日常を記録した物語である。
ミーン! ミーン! ミーン!!
ミーンミンミンミンミンミー……!!
喧しく鳴くのは蝉の合唱。
このミンミン蝉と呼ばれる生物が活動を活発にさせる7月。
気温は上昇の一途を辿り、日によっては30℃の真夏日にもなる。
あまりの暑さに食欲は落ちて、アイスや冷たいドリンク類がバカ売れする季節でもある。
そんな直射日光が強く差し込む通学路を、背中を丸めて歩く人物が一人。
「はぁ……。めんどくさい」
しっかりとした寝癖がついた髪を、ガリガリと掻きながら、学生服を来た男児がトボトボと歩道を歩く。
まだ眠気から醒めていない非常に眠たそうな顔だ。
目やにや涎の跡が無いことから、必要最低限には身だしなみを整えているのだろうが、瞼がくっつきそうになっている。
まだ覚醒していない脳が、今すぐ家にUターンしてベッドにダイブしろと命令するのを何とか耐えながら、ゆっくりとゆっくりと歩く。
「ああ…………めんどくさい。帰って5度寝したい……。めんどくさい。学校行きたくない。何もしたくない……でもそれは許されない……はあ……めんどくさい」
いかにもダルそうである。
「……めんどくさい。今日は体育と授業がフルにあるし……めんどくさい……全部自習にならないかな。もしくは、学校に隕石降ってきて壊滅して休校とかにならないだろうか。めんどくさい。何で学生は学校に行かないといけないんだ。めんどくさい……こんなめんどくさい事をしなければならない俺は……不幸だ」
清々しい空気で満たされる朝の風景。
サラリーマンが鞄を片手に歩き、自分と同じ制服を着た学生が走って横を追い越していくのを気だるさ全開に見送る。
「…………朝からあんなに張り切って……元気だなぁ。どうなってるんだろう……皆どっか……頭でもおかしいんじゃないかな……。ああ……めんどくさすぎて……息するのもめんどくさくなってきた……」
『めんどくさい』を連呼しヤル気を微塵も感じさせない。
このめんどくさがりの彼の名は、『飽田 男堂』
17歳の高校二年生である。
ちなみに、名前が宛字なのは彼の両親がめんどくさがりで、また、いい加減な性格だからである。
たまたま男堂が生まれた当時、世の中は宛字ブームで、テレビを観ていた両親が「うちの子もこれでいこう」と、その場の勢いと、名前を考えるのがめんどくさいとの理由から決められた。
この子供の親といわれるだけあり、両親もまた同類のめんどくさがりだった。
一家全員が真性のめんどくさがりである飽田家。
この男堂のDNA元はどういう訳か、二人揃って美男美女、頭脳明晰、運動神経抜群、身体能力も人類トップクラス。
そして、本人達は必要としていないのに何故かあらゆる才能と適正が備わるという、頭がおかしい程の高スペックだった。
それをいかんなく受け継いだのが男堂。
顔はハイパーイケメンで、頭脳は飛び級で世界ナンバー1大学を首席で卒業出来るレベル。
圧倒的な身体能力は、あらゆるスポーツの世界記録を更新しまくった。
陸上、水泳、体操、球技など多岐にわたる。
あらゆる分野で記録や成績を塗り替えていく男堂。
世間は、彼を神童と呼び、その優秀さを見込んであらゆる機関がヘッドハンティングしたのが7年前。
結局は、本人の「めんどくさい」の一言で普通に母国である日本での進級の道を選んだのだが、その際世界的に有名な大企業、研究チームが思わず『もったいない』と言ったとか言わないとか。
チートじみた頭脳、運動神経、何をやらせても満点な才能、適正。
おそらくこの一家のDNAを研究すれば、人類の科学の発展に大きく貢献するであろう。
そのハイパーイケメンな顔は、異性と、一部同姓を惹き付けて止まず、すれ違う女性が次々と振り向く。
皆が、年齢問わず頬を朱に染め、ポーと、思わず目を奪われていた。
「あ、あの! すいません!!」
その男堂に、緊張を多分に含んだ声で話しかける人物が一人。
耳にスッと入る可憐な声だ。
「…………何で話しかけてくるかな……めんどくさい」
仕方なく振り向いた男堂の視線の先に立っていたのは、サラサラな黒髪ストレートを腰まで伸ばし、背は156cmぐらいで、透き通る肌、クリクリとした両目。
ふっくらとした、唇を持つ。
所謂、超美少女であった。
「あ、あの……ごめんなさい。いきなり話しかけてしまって。でも、どうしても……お話ししたくて……」
モジモジと両指をつつき合わせながら、チラチラと恥ずかしそうに目線を向けては外す。
男堂の身長が高い為に、必然的に上目使いになる。
世の男性達には、たまらない仕草のオンパレード。
しかし、男堂的には何一つ着弾ポイントではないらしい。
普段と変わらずな、めんどくさそうに返事を返した。
「…………めんどくさい…………嫌だけど…………手短になら、いいよ……めんどくさいけど」
めんどくさがりで極力は人と関わりたくない男堂。
だが決して他人を無視したり、一人孤独な世界に閉じこもる訳ではない。
話しかけられれば、めんどくさそうに応えるし、質問されれば、めんどくさそうに返す。
自分から行動までして関わろうとしないだけだ。
「えっと……あの……その……」
勇気を出して男堂に話しかけた超美少女であるが、本人を前にするとしどろもどろになる。
形のよい唇が震え、頭は沸騰しそうになるのを何とか我慢している。
「ご、ごめんなさい。そのですね……。えっと……そ、そうだ深呼吸! すう~ふう~すう~ふう~」
一生懸命に深呼吸して自分を落ち着かせようとする超美少女。
「…………めんどくさいから、早くして……」
その様子を黙って見ていたのだが、中々進まないのでめんどくさいけど先を促す男堂。
「こ、こないだは! 怖い人達に絡まれていたのを、た、助けて下さり本当にありがとうございました!!」
勢い良く頭を下げ深々とお辞儀をした。
気持ちがこもった見事な45度である。
「…………こないだ…………何だろう……思い出すのめんどくさい……」
「2日前のことです。強引に腕を掴まれ、車に押し込まれそうになっていたわたしを、助けてくれました。わたし、怖くて怖くて。もう駄目だと思っていた所に、あなたが来て悪い人達を倒してくれたんです」
「…………2日前…………」
少しだけヤル気を出し、そんな事やったっけと記憶を辿る男堂。
「…………ああ……そういえば……そんなめんどくさいこと…………やったなぁ……めんどくさかったなぁ……」
やっと思い出したらしい。
特に自分にとって重要な事以外は、直ぐにポイしてしまう性格。
今までも、こうしたお礼をされるのは幾度となくあったりするのだが、男堂はそれを覚えていない。
理由は、覚えておくのが『めんどくさい』からである。
「それで……ですね。わたしを助けてくれて、優しくしてくれて、それが凄い素敵でかっこよくて……。だから……あの……い、今、あの……お付き合いしている人はいるん……でしょうか?」
顔を朱に染めて、恥ずかしそうに何とか言葉を紡いだ超美少女。
それにどう答えようかと、コンマ数秒。
超優秀な頭脳で考える男堂。
選んだ言葉は。
「……めんどくさい」
「え?」
「……めんどくさい……」
もう一度。
「あ、あの……」
「めんどくさい……から……彼女は、いない」
「そ、そうですか!」
男堂の返答に、今度は嬉しそうな顔を浮かべる超美少女。
「で、でしたら……あ、あの! よろしかったら、お名前教えてください!!」
ガバッと、勢いよく頭を下げる超美少女。
綺麗に整えられていた黒髪が、またファさと、宙を舞った。
「……めんどくさい…………飽田男堂……」
「あきためんどうさんですね! わたしは、綺羅 恵と言います!」
「……もう行ってもいい? めんどくさいから」
「またお話ししてくれますか? わたし飽田さんの事をもっともっと知りたくて」
濁り一つ無い綺麗な瞳をキラキラと輝かせながら、恵は男堂に確認する。
「……………………それ……は……めんどくさいな」
それに返す言葉はお決まりのフレーズだ。
「なるべくお邪魔にならない様にしますので。お願いします」
にこりと微笑み、グイグイと押す恵。
最初のガチガチの緊張感も薄れてきたらしい。
大人しそうな、おしとやかな外見から少しばかりのギャップを見せ、奮闘している。
その恵の必死さと、押しの強さに圧倒された男堂は、真面目に応じた。
非常に珍しい事である。
「…………少しだけ……ならめんどくさいけど……いいよ。それじゃあ…………もう行く……はあ……めんどくさかった……」
恵の脇を抜け、再び学校へと向けて男堂は歩き出した。
超美少女な恵に好意的に話し掛けられても何のそのである。
世の思春期の男子達が見れば悔し涙を流すか、何でお前だけと、男堂を集団リンチをしても可笑しくない。
もっとも、それは失敗に終わるであろうが。
理由は、ケンカで男堂に敵う者は居ないからである。
圧倒的な身体能力と、格闘技の才能まで併せ持つ男堂に勝てるのは、もしかしたら地球上には存在しないかもしれない。
「あっ……行っちゃった。でもお名前聞けて良かったぁ。あきためんどうさん」
メモ帳を取り出し、名前を書き込む恵。
それを大切そうに胸元で抱き締めた。
「今までは、話しかけたくても恥ずかしくて出来なかったけど……。やっとお話し出来て、お名前も聞けたんだもから。これからは、頑張らなくちゃ! わたしに振り向いてもらえるように!! ファイトッ! 恵!」
両拳を天に突き上げ、ヤル気のポーズを取る恵。
去って行く男堂の背中を、熱い視線で見送った。
お読み頂き、ありがとうございます!
先に前編だけ、投稿しました。
お楽しみ頂けたのなら、嬉しいです。
後編は、少し時間かかるかもですが気長にお待ち頂けるとありがたいです。