内藤家の親族
名前の前に*のマークが有る人物はオリジナル武将か名前不詳の人物にオリジナルの名前か、名前だけしか分からない人物の名前を流用しています。
暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。
一先ず信長の備が完成した。数としては八百程。
織田信長を総大将として内藤勝介達足軽を率い敵陣に突っ込む騎馬武者と弓衆と混成させ使用する鉄砲衆を率いさせた橋本伊賀守一巴を置く。なお信長の周りには護衛や使番として近衆である岩室長門守重休、金森五郎八長近、佐々孫助成経、伊藤清蔵祐之などが控えている。
前線には織田造酒丞信房と織田勝左衛門信高を中心にした足軽部隊を置き副将的な立ち位置で何人かの人物が置かれていた。岡田助右衛門重善、下方弥三郎貞清、浅井新八郎政澄、毛利新介良勝などで、特に意気盛んな者として加納口で討ち取られた千秋紀伊守季光、毛利藤九郎、岩越喜三郎の三人それぞれの子供達である千秋四郎季忠、毛利藤十郎忠之岩越喜三郎二郎高定などだ。
毛利藤十郎忠之と岩越喜三郎二郎は寺沢又八道盛の弟達の子で、鬼夜叉丸の母竹が寺沢又八秀存の娘なので従叔父達である。
さて、鬼夜叉丸は祖父寺沢又八道盛と従叔父達に彼等の妻子と会っていた。今川との戦い安城合戦で討ち取られた寺沢次八存継と寺沢孫八存氏の三回忌故だ。
法事の諸諸を済ませて親族が集まれば皆で膳を囲む。少なくなった一族の近況報告だ。
「お久しゅう御座います」
鬼夜叉丸がそう言えば。
「うむ、五尺七寸は優に有ろうかな。一際大きくなったな鬼夜叉丸よ」
と寺沢お爺ちゃん六十歳。
「ムーッハッハッハ、勝介殿と竹の子じゃァ当たりメェよォ伯父上!!」
と毛利従叔父ちゃん三十九歳。
「全くだ。勝介殿の御一族も強く大柄な方々だった」
と岩越従叔父ちゃん三十八歳。
「父上、伯父上様方、御壮健そうでなによりで御座います」
と竹母ちゃん三十七歳。
「又八様のおかげで御座います」
と勝介父ちゃん三十九歳。
絵面が完全に進撃◯巨人。男児に関しては赤子を除けば子供含めて皆んな五尺を超えている。一番小さい毛利藤丸でも五尺だ。
平均身長が160㌢行かない戦国時代では皆んなデカ過ぎる。
老いて尚、六尺の身の丈を持つ又八お爺ちゃんは先に信長の元に仕えていた勝介に。
「勝介殿、此れからは藤十郎と喜三郎二郎を宜しく頼む」
「御義父上、頼むなど。藤十郎殿と喜三郎二郎殿と馬を並べられる事は甚だ心強い事で御座います。むしろ此方こそお頼みしたい所存に御座いますれば」
「勝介殿にそう言われちゃァ照れちまうぜ!なぁ喜三郎二郎?」
「全くだ」
大人達が酒飲んでワイワイやってる横では子供達がワイワイやってた。
岩越喜三郎二郎高定の子である岩越喜三郎高元と岩越二郎高綱、岩越梅千代の岩越の三人。
毛利藤十郎忠之の子である毛利蘭と毛利菊に毛利藤丸の毛利の三人。
で、最後に鬼夜叉丸を合わせた七人。
尚、年齢順では数え年で二十の喜三郎、次が齢十七の二郎、齢十六の蘭、十二の鬼夜叉丸と菊、齢十一の梅千代で最後に齢十の藤丸だ。
「御目出度う喜三郎、二郎。聞いたよ、三郎様の備に従叔父上様達と参加するって」
「おう、有難うよ鬼夜叉」
兄の岩越喜三郎が礼を言えば二郎が照れ臭そうにしながら。
「兄上と一緒に頑張るさ。鬼夜叉も再来年には元服かな?」
「鬼夜叉は一際大きいもんね」
「ねぇー」
毛利蘭と菊が同意する。藤丸は食べて居た瓜を飲み込み。
「俺も元服したいな。鬼夜叉か梅千代くらい大きければ良いんだけど」
「いや鬼夜叉は兎も角、藤丸は僕とそんなに変わらないじゃないか」
まあ親族の集まりなんていつの時代も似たようなモンだ。それこそ三回忌で有れば故人を偲び大人組と子供組に分かれて駄弁って食って。現状、織田家が再編の為に忙しい所為でもあるがクヨクヨしてる暇が有る程に余裕は無い。
それこそ必然的に部隊再編の話になる。
「俺も三郎様の力になりたくて今年に元服をしたいって願ったんだけど父上と母上にまだ早いって言われたしなぁ。喜三郎は四年前で二郎は去年だったよな?」
「ああ、十六の頃だ。確かに十二辺りから元服するものだけど鬼夜叉は若の重臣だしな」
「そういえば若って大丈夫?最近、変な噂も少なくないよ?」
「ああ、横山の戦いから変な噂が流れてるけど昔とそんなに変わってないさ。相変わらず派手好きだけど優しくて真面目な方のままだよ」
スルリと蘭が鬼夜叉に向き直って。
「そうそう、鬼夜叉に言伝を頼まれて居たんだったわ」
「言伝?」
「ええ、姫様方が」
鬼夜叉丸の顔に一筋の汗が伝う。ニヤニヤと揶揄う様に笑う蘭。
「養徳院との間に新たな御子が生まれましたら。また鬼夜叉丸の背に乗せると仰っていましたよ」
「いや、断りはしませんが駄目でしょ主家の姫様方を背中に載せるとか……」
「良いのですよ、験担ぎですから。それに織田家の姫たる者、男の一人や二人乗り回せずに如何するのですか」
「えぇ……」
昔、鬼夜叉丸が新年の挨拶に同行した時に幼子の相手をした事が有り、その際にせがまれてオンブしたが抜け出した六の姫で、彼女が一年間全く体調を崩さなかった事から験担ぎにされてんのだ。
尚、面白がった五女から下は全員おぶってる……ってかおぶらされてる。
「んまぁ、殿と奥方様が宜しいのでしたら姫様の無病息災を願って背負わせて頂きます」
苦笑いを浮かべて応えた鬼夜叉丸に蘭と菊が笑う。明日からはまた元服に向けての鍛錬だが、仲のいい毛利と岩越の家の人達と鍛錬ができる。
与三も合わせれば賑やかになるだろうと心躍らせた。
三日後、勝介は信長に呼ばれ一室に案内される。通された部屋で熱い白湯を頂き火鉢で身を温め待っていれば、一番家老林秀貞と二番家老平手政秀が入室してきた。
「待たせた」
二人に湯気の出る白湯が出されると信長が一言添えて入って来て車座になる。察するに家老達のみを呼んでの相談事だろう。
「先ず面倒な事に予定通りに弾薬が底をついた。それは良いが伊賀守と熱田の者共が言うには細川と三好の戦で堺で硝石の買い占めが起きた事で当分揃わんそうだ」
「うぅむ、効果的に使うなら最低でも百発分は必要に御座いますが」
「勝介殿、言う数となると。
……堺の取引先の一つで硝石を扱う納屋の商人が曰く所、受注した分を揃えるに二年か三年は欲しいとの事で御座いましたな中務丞殿」
「うむ。相違御座いません佐渡守殿」
折角、鉄砲隊を揃えたのに活用出来ないのでは如何しようも無い。だが弾薬は高く今の織田家には無理に集めることは難しかった。まぁ、派手に鉄砲を使い信長の備に鉄砲組を入れた事で敵に弾薬が無い事は当分バレないだろうが。
「鉄砲組に関しては投石と弓を持たせるとして寧ろ良い事です。これから若の敵は身内になる可能性が高いですからな」
林秀貞が細い目を鋭利にして漏らす。状況的に仕方の無い話だが御家騒動の可能性が高い事から秀貞は最悪の事を考えて口を開いた。
一方で平手政秀は気楽に口を開く。慇懃実直ながら粋たる茶目っ気爺的に。
「まぁま、表立ってとはなりませんが若が今川の敵である限り武衛は味方に出来ましょう。何せ武衛と今川には敵の敵は味方と言うに十二分に過ぎる因縁が御座いますからな」
「うむ、尾張守護の名分は大きいな。佐渡守、爺、勝介。なれば如何だろうか、来年辺り藤島の丹羽を攻めよせようと思うが」
「若、中務丞殿の言は甚だ尤もなれど朝廷と公方に言い訳が立つでしょうか」
秀貞が言うと政秀は笑う。
「大樹にせよ朝廷にせよ私が腹を切れば話を済ませられましょう」
信長と秀貞がギョッとした。
それはそうだ。何せ笑って死ぬと答えたのだから。
「いやはや昨今、万葉さえ忘れる始末。
ここまで生きれば正に巻向の山辺響みて行く水の……何でしたかな、若」
「水沫の如し世の人吾等は、か」
「然り。歌の通り儂等は水沫の如し、しかして幸運な事に彼奴等泡などとは違って儂は死に場所を選べる上に死に価値を頂けますれば」
「爺の好きな歌は此の世にし楽しくあらば来む世には、虫にも鳥にも我はなりむだろうに」
政秀は一本取られたと笑い。しかし寂しげに首を振る。
「吐血が止まず腹に岩のような腫物が出来まして、もう長くは御座いません。それに儂程では御座いませんが勝介殿」
政秀が言えば勝介は頷き。
「三郎様、息子鬼夜叉丸を来年、元服させて頂きたく思います」
訝しむ信長。そんな彼の前に小指の半分が無くなった右の腕を突き出す勝介、信長の見慣れた無骨で逞しく傷だらけの腕だ。此の腕に武術を教わり小さい頃は此の腕に抱えられて馬に乗った。
袖を捲れば真新しい膿んだ傷。
「如何も身体が動かぬと思っておりましたが此の様です。少々、口が開け難く手の震えが止まりませぬ。傷も治らず鍛錬とて金砕棒一本を振るうのがやっとに御座います」
金瘡医も可能性を示唆し、勝介にも自身の症状に近しい状況になった戦友の記憶があった。
「弓剃りになって喚きながら死ぬ積もりは御座いませぬ。しかし如何なるかは未知数。願わくば戦場にて死ぬか、死ぬに備え子の元服を見、若の腹心を残して逝きとうございます」
「儂の家は若様と諍いが有りましたのでな。勝介殿の子が若様の腹心として残れば爺も憂いなく死ねまする」
信長は目を見開らいたまま微動だにしなくなった。
「若……?」
秀貞が問う。信長が一切表情を変えず。
「許さん」
ポツリと。
「許さんぞ爺ッ、勝介ッ!!」
そして吼えた。
「今、御主らが居なくなって俺は如何すれば良い!!認めんぞ、認めん!!」
敵意さえ感じる瞳で。
「俺を残して親父も死ぬと言うのに御主等迄も死ぬと言うのかッア!!!」
慟哭が如き叱責に勝介と政秀は困った様な嬉しいような口惜しさを滲ませる笑顔で。
「申し訳御座いませぬ。しかし勝介殿は兎も角、儂は助かりませぬ。せめて残りの命を若が為に使わせて頂きたく思います」
言葉終われば頭垂れる両名に信長は見開いた目で歯を食いしばりながら何か堪えるように力む。
一転脱力し吐息を漏らした。
「爺、勝介。済まん、取り乱した。佐渡守も」
三人は気にしていないと首を振る。信長は改めて。
「なれば今川方の城を攻める。いや、状況を考えれば来年までには寝返る者も在るだろうな。どれ程の兵が集められるか分からん」
「ふむ……厳しい話、梅岩様は勘十郎様や清洲岩倉の牽制に残って頂く事になりましょう。最悪を申せば若様の兵のみにて戦う事になるかと」
「で、あるか。梅岩叔父上の助成が受けられんのは辛いが。良い、逆に揃い切った備の精強ぶりを見せてやろうぞ勝介」
「は、御立派に御座います」
秀貞が一瞬、逡巡して。
「若様、若狭守が和睦を蹴った事を鑑みれば、やはり駿河と繋がってと見るべきかと。ともすれば尾張の東は危険では御座いませんか?」
「用心すべきだと?」
「は、正に。加えて相手によっては顔見知りなれば戦が後の禍根を残さぬ手も御座います」
信長は頷き。
「佐渡守の言尤もだ。三位の師に聞いた孫子兵法にも戦わずに勝つことこそ最上だと書いていたな」
来年、鬼夜叉丸の元服と信長の出兵が決まった瞬間だった。