横山の小競り合い
織田さん家の大鬼さんを読んで頂き有難う御座います。
一週間でブクマが百超えてポイントが三百くらい入った事が初体験でハイテンションで戸惑っています。ドラ◯エのセーブデータを間違えて消して凹みながらノブ◯ボを始めたら最初の年で島左近を登用できたのを思い出しました。
と言うわけで全力で無理します。来週日曜まで出来るかどうかはさておき書けていた物を含め一日に一話投稿します。
金曜か土曜あたりで19:00迄に投稿されなかったらヤ無茶しやがって、と思って下さい。
暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。
天文二十年五月、朝食を終えた鬼夜叉丸は与三と共に槍の鍛錬をしていた。与三は加納口の戦いで死んだ勝介の同僚の子供で今は内藤家が面倒を見ている兄弟の様な存在だ。
「与三、頑張れ。槍は後百回だ!」
「えっ……?」
「ん?」
「槍、はって何“は”って……」
「いや、この後素振りするけど」
与三は思った『本気?』と。加えて世話になってから何度目とも言えぬほどに思ったやっぱこの一族凄い通り越してヤベェ的な事もだ。
「武器に振られない様に」
「お、おう!!」
そう言うとゴウンッと風どころか周辺を圧し潰す様に金砕棒を鬼夜叉丸が振り、与三はファオンッと惜しいかな力がまだ足りないが筋が良い鋭利な刺突を。
「どうかな?」
「良い感じ良い感じ」
鬼夜叉丸が速度を上げて振り与三が感覚を忘れないように繰り返す。素振りながらも与三はボヤく。
「それにしても羨ましいな。鬼夜叉は身体が大きいから力も強いし」
「未だ未だだよ。与三みたいな機敏さや技術は無いし、力って言うなら早く父上みたいに金砕棒を両手で振れる様にならなきゃ」
戦で身を立てた勝介は鍛錬で金砕棒を二本振るう。自身の裁量で自由にできる給金と領地を貰える様になる事を先ず最初の目標とした鬼夜叉丸は、戦で手柄を上げる為に少しでも早く父の様になりたかった。
「うん、まぁ……なれるよ」
与三が若干ドン引しながらも絶対に成れるだろうという確信を持って答えれば鬼夜叉丸は嬉しそうに照れ。
「そうかな?」
と、年相応の微笑ましさを覗かせる。少年相応の純粋な向上心と父への憧れ。論ずるでも無く素晴らしい心の在り方。
在り方だけどさ。
何つーか。
うん……。
丸太振ってんだよね、どう見ても。11歳やぞ鬼夜叉丸。数え年だと十二だけど小学生じゃん。んでそんな鬼夜叉丸とか話しながら金砕棒、金砕丸太をマラカスみてーに振って丸太フォンフォンいわせてんすけど。
いや戦国時代っても限度があるって。いくら乱世っても鉄砕棒とか言う重量武器かも怪しい様な鉄板貼った唯の丸太を二本振るとかって発想が既に頭おかしいから。
微笑ましさゼロ。怖いわ、もう。
そんな感じで鍛練を終え道具を片付を始める。午後は主君である信長に付き添って坊さんの授業だ。遅れるのは勿論だが汗塗れで行くわけにはいかないので早めに切り上げる。
「随分デカいのがいるな!!」
と、随分デカい声。
そちらを向けば凄い派手なのが居た。簪を三本を差して片肌脱ぎの真っ赤な梅柄小袖に、黄色い女物の唐衣を腰に巻いている。握るのは三間半も有る朱塗の槍、腰に下げるは赤鞘の打刀、キャラ立ちが過ぎて歌舞くってレベルじゃねー。
そんな派手派手歌舞伎男がズカズカと近付いて来る。細身で有るが身長は五尺五寸を越えており極めて端正な顔立ちだ。信長を精悍快活な野性味のある貴公子と評せば目の前の男は端麗雄壮な野生の傾奇者と評すべきだろう。
何だろうか、見た目を現代風にいえば運動部で部活だけは真面目にするイケメン不良少年な感じ?
「俺は前田犬千代、荒子城主の四男だ。二人共宜しく頼むぜ」
そう言ってカラカラと笑う。鬼夜叉丸は知識に有る前田利家という有名な男の登場に驚き興奮するが武士として育てられた習慣で一礼し。
「大人衆勝介が子、内藤鬼夜叉丸で御座います」
「元大人衆与三右衛門が子、青山与三で御座います」
「大人衆、そりゃ益々もって丁度いい。俺も三郎様に仕えるかもしれねぇんだが鬼夜叉の先達、与三の坊、佐脇藤左衛門って御人の居場所を知らないか?」
鬼夜叉丸は父の同僚の名前が出て頷く。勝介が侍大将として備えを率いた時に副将として控えた事から交友が深かった。信長の下で足軽大将の一人に任命された小ちゃいが無茶苦茶強いオッサンで凄いイケメンの養子が居る。
鬼夜叉丸は時間を鑑みてから。
「着替えを待っていただけるなら足軽長屋か練兵場に居ると思うので案内しましょう」
「おお、すまねぇな!」
鬼夜叉丸達が那古野城下の足軽長屋に隣接する練兵場に向かえば兵達が槍を振っていた。この時代では下級武士とそれ以外の見た目に対した差異はないが、それでも見るからに武士の出身では無く食い扶持の為に雇われた雑兵の様だ。しかしそこらの雑兵とは違いやる気はある。一所懸命ならぬ一飯懸命に槍を振っていた。
そんな中、五尺に届かない身の丈の小男が槍を持った兵達の合間を練り歩く。眼光は鋭く万一逆らおうものなら即殺されるだろう恐ろしさと頼もしさのある侍だ。
「んむ」
槍を握り鋭い刺突動作を繰り返す大柄の兵の前に立ちジロリと見上げる。大柄の兵が小さな男に見上げられて喉を鳴らした。
ゾンと強まった小さな侍の眼光。
「六鹿椎左衛門、貴様筋が良いぞ!!」
「あ、ああ有難うごぜぇやす!!」
「確り食えッ!そして体力を付けいッ!駆ける足さえあれば一番槍も難しく無いぞ!!」
そう言うと小男は腰のあたり叩いた。大柄な椎左衛門と呼ばれた兵が思いっきり蹌踉めく。
「む、すまん」
小さな侍が少し慌てた様に謝意を示してから咳払いをして握っていた槍を構え突き出す。
鋭く、激しく、力強く、鉄板程度ならば貫くも易かろう熟練の一動作。郁枝の戦を生き残り、郁枝の敵兵を殺した、そんな激烈に練達した技巧に兵達も感嘆の声を漏らす。
「良いか皆、椎左衛門を見習えいッ!!
貴様らが功名を欲するならば駆けいッ、奮えいッ、そして突き殺すのだッ!!」
兵達が「応ッ!!」と目を輝かせて腹から声を出せば小男は二、三頷いた。
間が空いたので鬼夜叉丸達は小男、佐脇藤左衛門の元へ向かう。
「佐脇のオジキ!!」
犬千代が声を張れば小男が振り返る。
「ん、犬千代の坊か。それに鬼夜叉丸殿と与三殿」
「鬼夜叉の先達はともかく何で俺だけ坊呼び?」
「短慮で喧嘩早い所が治れば考えてやるわ。それと目立ちたがりを悪いとは言わんがな、戦にも出とらん癖に傾奇者を気取っておるだけの唯の悪目立ちも直せ」
犬千代は顔を顰め歯を噛み締めた。まぁ正直グゥの音も出ないし藤左衛門には絶対勝てない。
逆上したところで恥の上塗りだ。
「犬千代、御主の親父殿から話は聞いている。これから三郎様に会うのだろう?
戦働きは期待出来るが、ったく御主十五にもなって斯様な格好を。
見ろ、鬼夜叉丸殿は十二であの折り目正しさだぞ」
藤左衛門が勿体無いと首を振れば犬千代と鬼夜叉丸は。
「え十二?」
「え十五?」
お互いに視線を合わせ「え、本当に?」と計ったように問い、そして頷く。二、三パチパチと目蓋を瞬かせ。
「えと、十二になります。御無礼を致しました」
「いや、俺も随分若々しいとは思ってたんだが」
藤左衛門が分かると言わんばかりに苦笑いを浮かべ。
「まぁ二人供デカいからな」
そう言うに合わせ鐘が鳴る。幾度もはげしく繰り返される五度拍子の鐘。ガッと開く藤左衛門の双眸。
「陣触れじゃァッ!皆、戦の準備をして此処で待っておれいッ!!」
兵達が応と答えて散っていく。
「急ぎましょう」
鬼夜叉丸が言えば犬千代以外が頷く。
「うむ。犬千代、御主も着いて来い!」
「お、おう」
鬼夜叉丸は走る。短い距離だが一番に門へ入れば後ろから「早っ!?」って犬千代の声が聞こえた。評定を行う大広間まで行けば信長と勝介が戦準備を終えて座っていた。
鍬形の立物が付いた兜に紺糸威胴丸具足が信長で、飾りっ気の一つも無い無骨な筋兜に腹巻具足を着けた勝介だ。
「鬼夜叉、流石に早いな」
「は、何か御用があれば伺います」
「うむ、急ぎの出陣だ。妻達にでも言伝を頼もうか」
鬼夜叉丸が聞く体制に入る。何となくだが戦とは別のピリピリとした空気に気付いた。
「深田の叔父上と広見城主の中条小一郎から丹羽氏の内乱に兵を出してくれと頼まれた」
「万千代様ですか!?」
驚き思わず問うた鬼夜叉丸に苦笑いを浮かべた信長は首を振り。
「いや違う。一色丹羽氏だ。
藤島城主右馬允が岩崎城主若狭守と子の右近大夫の今川への寝返りを伝えてきた。小競り合いとは言え末森の親父殿は将軍の使者の手前動けん無いだろうから俺が出る」
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1守山城・2那古野城・3末森城
4岩崎城・5広見城・6藤島城
「叔父上と合流後、岩崎城を囲んでいる右馬允と合力し一戦交える事になるだろうな」
信長は勤めて明るく言うが今回の戦は余り気の進む物では無い。何せ父信秀が動けず信長の出せる兵力は六百程で、その三分の一の二百程は練度も低かった。
また父が動けない所為で叔父信次と戦の主導権争いが起きる恐れが有り、そんな状態で連携が取れる訳が無いのだ。
「まぁ、とは言えだ。示威行為程度の気楽なものになるだろう。良い行軍演習になるわ」
だがカラカラと笑って言う。織田弾正忠家の当主が動けない所為で示威行為程度しか出来ないと言うのが正しかったとしても。
勝介が口を開く。
「丁度、末森には婚儀以来、和田和泉守殿と備前守殿の御両名がいらっしゃいますれば能く能く問い質さねばなりませんなァ……」
鬼の如き形相、ジクジクと炙る様な怒気が漏れている。
ムッチャ怖い。何時もはメッチャ優しいから余計に。鬼夜叉丸は本気でチビるかと思った。
まぁ仕方の無い話ではある。将軍の戦略を達成させようとしてる和田の二人からすれば斎藤道三を舅に持つ信長は敵に等しい。ともすれば信長やその家臣と仲良くする訳が無いし、本人は兎も角その更に下の者達が高圧的になるのも然り。
そりゃ信長の下に居る者が良い感情を抱く訳がねー。
「まぁ、うむ。そう言う訳で早ければ明後日には帰ると伝えてくれ」
信長が勝介の形相に冷静になって、苦笑いを浮かべながら言った。
「さて皆が来た。鬼夜叉、軍議をするから下がっておけ」
信長が言えば甲冑の音、鬼夜叉丸は「失礼します」と言って一礼してから下がった。丁度、信長の家臣達が来たので一先ず廊下の端で邪魔にならない様に頭を垂れて跪けば入れ替わる様に甲冑姿の家臣達がゾロゾロと入っていく。
信長達の出陣を見送ってから信長の見送りに来ていた正妻と側室に言付けが有ると伝えれば居館へ来るように言われた。
正室が鷺山殿、側室が直子という。
鷺山殿は有名な濃姫、信長の一歳年下で齢十七だ。背が低く美しい黒髪を垂髪にしており、大きな黒い垂れ目が特徴的で、性格は芯が有り温和と母性を感じさせる見た目の美少女である。
直子は大野木城主塙右近の娘だ。齢十四だが長身の確り者である。束ね髪で、どちらかと言うと目鼻立ちの確りしているハキハキした見た目の美女だ。
二人が並び濃姫が口を開く。
「さて鬼夜叉丸殿、殿の言伝とやらをお聞かせ願えますか?」
「は、出陣は一色丹羽氏の内紛を収める為との事、また示威行為が目的故に早ければ明後日には帰るだろうと」
「あら、明後日となれるなら随分と近いのですね」
「鷺山様。一色丹羽氏の居城、岩崎城であれば五里も有りません」
「あらあら」
直子がそう言って補足すると濃姫は朗らかに二、三頷いて。
「では、鬼夜叉丸殿。折角いらしてくださったのですからお団子でも食べましょうか」
「お持ちします」
連携プレー。断る間も無く白味噌を付けて焼いた五個の団子を竹串に刺した代物がデーンと盛られた皿が。
「あ、えと、忝う御座います」
鬼夜叉丸は腹が減っていたので有り難く頂いた。しかし正直、主君が戦に行ってるのに団子食ってて良いんだろうか的な思いが凄い。
濃姫は鬼夜叉丸に笑いかけ。
「大丈夫ですよ。三郎様は負けても死なない。たぶん、そんな御方ですから」
濃姫は直子に礼を言ってからパクリと団子を食べ。
「それにもしもの事があった時、この城を守るのは私達です。英気を養わねば」
不安が無い訳では無いだろう。だが濃姫は信長の事を信頼していると言う事だ。鬼夜叉丸はそんな粋で気概に溢れた様に感化されながら憚る事無く団子を口に運んだ。
「御両人様方、馳走になりました」
そう言って帰る鬼夜叉丸を見送りながら二人は。
「まぁまぁ彼の人が人を使って言伝を下さるとは」
「珍しい事で御座いますね」
「ええ直子殿。今、負け戦に行くのが余程お辛いのでしょう」
「お慰め致さねば」
「膝枕、足が痺れるのですよね」
「ふふふふ代わり番こですね」
そんな事を話ていた。