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お隣さんとは戦の最中、お隣さんからタレ込み聞いた。得しか無いから準備をしたのさ、彼国の行末、末期はなあに

ブクマ・ポイントありがとう御座います。


暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。

「いいかーいくぞー!」


 勝三の気の抜けた、朗らかとさえ評すべき声が響く。相対する長柄組の足軽達が喉を鳴らして槍衾を構えた。三列の三間槍が穂を垂れるように勝三へ穂先を向ける。


「確り構えろ!!気を抜くな!!!」


 組頭が切迫と共に叫んだ。


 そんな声に勝三は砂を詰めたデケー俵をポンポンと、鞠の様に掌で跳ねさせ弄んだ。そうやって重さを確認してから俵を縛る縄を掴みクルクルと回りだす。ゆっくりと、しかし着実に回転速度を上げて行き俵が遠心力に合わせて浮いていく。


 もう絵面がアレ。フォー◯ガイズの障害物。棒を中心にハンマーが回ってるヤツにしか見えん。


 だが更に速度が上がる。


 グルグルと。


 速度が上がる。


 ヴォンヴォンと。


 もうコマに見えてきた。


 ついぞ効果音がフォンフォンに変化したところでギャッと足でブレーキをかけてゴーシュート(紐から手を離し)た。


「ッダァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 どう見てもハンマー投げ。違うのは弾道、縄をピンと伸ばして一直線に進む砂俵。向かう先は三列の槍が並ぶ衾、穂先が俵を迎えようと揺れ動き集まって衝突。


 ッパアアアアアアアンなった。俵四散して砂ブワッサアって撒き散らす。兵も前列三人が声も無くボーリングのピンの様にブッ飛んだ。


 ベチャと落ちた兵に組頭と五人頭が駆け寄り。


「オメッ石突きちゃんと地面に刺せっつってんだろーが!!」


「全くだ!!お前らだけじゃなく俺らどころか皆んな死ぬんだぞ!!」


 超絶キレる。そりゃ俵を騎馬武者の突撃に見立てた槍衾の訓練だ。その訓練で防げなかったと言う事は即ち中央突破されての全滅を意味する。


 怒られてもしゃーない。


 内藤家の足軽兵(正規兵)の日常は警邏が無ければ調練を受ける。先ず午前に六里(約24㌖)走って腕立て腹筋スクワットなどの基礎鍛錬、午後に六里(約24㌖)走って隊列の訓練してから各組毎の鍛錬だ。


 飛脚とかに比べれば割と人間しててホッとした。コイツら走る時にフル装備だけど。


 他の場所でも与三が騎兵に流鏑馬の特訓をしたり、岩越二郎高綱()が鉄砲隊に射撃訓練を施したりしてる。


 更に岩越梅三郎高忠()毛利藤十郎忠嗣()は軍役衆にお借し槍を振らせていた。


 今の勝三直下の兵力は領地の発展に合わせ五百前後を目指し三百を越えている。被害の分に加えて増兵しており相応に鍛錬を重ねる必要があって今回の調練は人数が増えた事による問題が無いかの確認だ。


 鍛錬に問題が無い事の確認を終えた勝三は城に戻って銭束を数えていた。此れは津料関銭でジャラジャラとは、まぁキッチリ束にしていて言わないが大量の収益だ。場合によっては一日にして十貫を超える事もある。


 特に井上城の五条川側に建てられた絹津が物品の出荷に重宝されているので有る。勝三の領地の道は兵達が日に十二里(約48㌖)も走り彼等によって踏み固められ道は安定しており治安も良い。更に井上城から小牧山城と岩倉城へ続く二つの真っ直ぐな大通りは、勝三が石工に臼と共に作ってもらったローラーで整えられていた。大八車的なモノや牛車が横に四台並べる道が中心地に向かって平坦に伸びるのは輸送において大きな意味を持つ。


 加えて井上城下では駅馬制を整えるついでに公共事業として馬借を始めた。荷駄隊の大八車や荷車に牛や駄馬が平時に余るので貸し出せる様にしたのである。


 そりゃ商人なら皆んな寄るって。


「宿、増やすか」


 さて領地の税収を確認した勝三は井上城の奥へ戻る。今の勝三の家庭内状況は、凄い。いや家庭というとアレだが戦国時代なのでまぁ何と言うか、家族それぞれにこなさなければならない事が多過ぎる。


 一先ず勝三は領地経営と織田家大人衆としての仕事に浅井との外交交渉と軍事力の増強。これらは説明するまでもない。


 次に正妻の織田秀子は小牧山城で他の臣下や織田家領内全域に対する折衝や交渉など。特に養蚕伝搬や絹取引更には外交官という例えが相応しいだろう仕事も担っていた。信長の妻側女、家臣の妻達、他国の有力者の妻、津島や熱田の豪商など立場や身分に応じて礼節に則り挨拶やら手紙やら贈り物やらと忙しい。


 最後に側室の有馬幸は井上城で二人の補佐を行う形だ。補佐と言っても井上城の有力者たる有馬の長女で、白雲村の者とも縁が有り仕事は多い。実務的な事は寺沢お爺ちゃんに任せてるが何せ顔が効く訳で、仲裁役や領民の不満や要望を勝三に伝えるメッセンジャーとして顔を出さなきゃならない事が多いのだ。


 だからどうしたって一家団欒の時だって仕事の話になる。有馬幸が迎えてくれたが早速そんな話だ。当然の事で苦ではないが何か大変そう。


「津も随分と手狭になりました。滑車台(ポリスパストス擬)付きの船着場と倉の数を増やして欲しいとの声が多いですね」

「それは重要だ。しかし滑車台は地盤がなぁ。あ、とは言え先の長屋の事も合わせて有り難う」

「いえいえ、秀子様は如何ですか?」

鷺山(帰蝶)様を頼って美濃にも手紙を出し始めて、この前戦った岸殿の奥方と渡りを付けたって」

「まぁ、もうですか?」

「何でも向こうも此方に興味が有ったらしくて。それに皆、美濃の有力者に渡りを付けて居るようだよ」

「まぁまぁ」


 そんな感じで近況を語らった翌日、勝三は急遽小牧山城に呼ばれた。


 大黒に跨り急ぎ登城した勝三を大広間で迎えたのは信長に父勝介は勿論、林佐渡守秀貞に柴田権六勝家など集められる家臣という家臣が揃っている。


「お待たせ致しました。一体何が?」


「勝三、稲葉山が落ちたぞ」


 信長が言えば勝三はハッとした。思い当たる記憶が確かにある。竹中半兵衛による稲葉山乗っ取りだ。


「内乱ですか?」


「聡いな。安藤伊賀守(守就)と娘婿の竹中何某が落としたらしい」


「情報元は?」


「噂に商人と国人達だ。丸茂、市橋からは使いも来ていて特に丸茂は西美濃の有力者たる稲葉の縁者だからな。相違あるまい」


「確か市橋は藤吉郎殿と共に西美濃の国人に調略をしていた筈。そこから確たる話が無いという事は我等と同盟を結ぶでもなく自立するつもりでしょうか?」


「現状はそうだろうな」


 沈黙していた柴田権六勝家が片目を開いて整った鋭い顎に手を添えて言う。


「失敗しても最悪は稲葉山を奪取したと言う実績をもって我等に降ればいいと考えているのか」


 信長はだろうなと笑って頷く。


「有り得る話だな。そもそも斎藤家に対して反旗を翻しても立ちいかんのは安藤伊賀守(守就)ほどの御仁なら分かるだろう。十中八九、自分達を高く売りたいのだろうな」


「その気が無かったとして分断した美濃など落とすのは容易い、か」


 そう言うと柴田権六勝家は信長へと向き直り主人信長の意向を伺う。


「殿、軍勢を美濃に向けて駐屯させますか?」


 信長は首を振る。


「いや今は放置こそ重要だ。戦が続いて兵力が揃わず東美濃攻めの継続が辛いとでも流布してな」


「唐突に攻勢を弱めるのも疑念を持たれましょう。一度、此の権六に美濃攻めを任せて頂けませんか?愚行をお許し頂いた私が殿や内藤殿が戦う中で兵を持て余し、のうのうと城で過ごすのは憚られます」


「成程、見たことの無い別部隊が来たとなれば今までの軍勢が動けない証左となる訳ですね」


 林佐渡守秀貞が頷く。頷くがメッチャ嫌そうな顔だ。ちなみに信長も嫌そう。


「権六。お前は今、尾張の盾だぞ。それに勘十郎が治めていた地のみならず尾張ではお前の誠実さは良く知れている。あと単純に今政務から抜けられると死ぬ」


「……お褒めの言葉、忝く」


 大男たる柴田権六勝家が末文を無視して残念そうに労いの言葉に深く頭を垂れる。己の最も得意とする戦に参加出来ず役に立っていない感が有ったのだ。あと文書発給とか飽きた。武器振りたい。


 道連れ......失礼、仕事仲間が減らずホッとした顔の文官たち代表、林佐渡守秀貞が口を開く。


「では様子見という事で、美濃が内乱によって国力を更に落とし結束が緩まるのを待つという事ですな?」


「そうだ佐渡守(林秀貞)。此方も少々無茶が過ぎたからな。犬山織田家との戦いから東濃まで戦続き、手を緩めん為にも一度土台を整えなければ」


 信長の肯定に尾張の内情を良く知る糸目を更に細めて林佐渡守秀貞が頷く。領地の拡大とは戦によって成る物だ。そして戦をすれば元の領地は疲弊する。また奪った領地も戦によって疲弊するのは道理。


 と、すれば何処かで区切りをつけて国力の根幹を担う領地に手を入れなければならない訳だ。幸いにも織田家には綿や絹などの国力を回復させる手段がある。


 林佐渡守秀貞は丁度いいと提言を一つ。


「では絹や木綿が金になり蕎麦の価値も出た事で米を取るべき田を綿畑にしようとした者が現れました。禁令を出すべきかと」


「それはマズイな。拡大すれば戦続きで上がった米の値が更に釣り上がるぞ。飢饉でも起きれば目も当てられん。米だけは確りと作らせておかなければ」


 村井吉兵衛貞勝が食料を第一に考えるのは当然と知りながら苦笑いを浮かべ。


「堺で売っている綿や絹の織物の収入を思えば少々、止め難いですが」


 他の者もつられて笑いながら信長が。


「そうだな吉兵衛(村井貞勝)。しかし米作りに適さん田は未だしも米が取れる田はな。水田に適した地での米以外の作物を作る事、米を作っている田を変える事、此の二つを禁令として発表しよう」


「それだけでは反発も有るのでは?」


「内藤殿の言葉、尤もだ。だが今は開墾の助成もしている。それを思えば不満も少ないだろう」


「そうだな権六(柴田勝家)。皆はどう思う?」


 信長が問えば皆、反対は無いようで新たな禁令がもののついでに決まった。


吉兵衛(村井貞勝)権六(柴田勝家)と共に禁令を纏めておいてくれ。それと話を戻すが佐渡守(林秀貞)は一応、藤吉郎に伊賀守(安藤守就)の事を仔細調べるように伝えてくれ」


「承った」

「は」

「はは」


 三人が頷くと信長は勝三に視線をやり。


「皆、急な呼び出し御苦労。各人持ち場に戻ってくれ。それと勝介と勝三は少し話がある」


 全員が退出すると信長がコッチに来いとチョイチョイ手を振る。父勝介と共に信長の前に座れば信長が口を開いた。


「ここ数日は木曽川の北岸で続いていた抵抗がパタリと止んだそうだ」

「なるほど猿啄城の五郎左衛門(丹羽長秀)様と宇留間の勝三郎(池田恒興)様の報告ですか。では犬山の長門守(岩室重休)様は何と?」

「何かあった事は確実と見ている」

「なれば三左衛門(森可成)様の東美濃攻略も易くなるでしょう。稲葉山が落ちたのなら主力は奪還に向かわねばならないでしょうから」

「うむ。そうすれば東濃と斎藤家の仲も決裂するだろう。伊賀守(安藤守就)がどれほど保つか知れんが今の内に硝石の事で相談したい」

「それで俺を」

「ああ、お前の協力で養蚕と共に肥料として硝石作りも広がっている。硝石の出来を見たいという話は分かっているがここで一押し出来れば一気に戦況が傾く。勝三が作っていた硝石土を半分程を譲ってくれ」

「承りました。四、五年は様子を見たかったのですが、この後は美濃を取る重要な一戦となるでしょうから」

「助かる。これで火縄を十全に使えるだろう。フフ、ともすれば稲葉山とて落とせるやもしれんな」


 信長と硝石の事を話し合う。勝介と共に硝石の秘匿方法などの確認を再確認して、それを終えると二、三のさしたる価値も無い雑談を交わして己の仕事に戻った。


 井上城に来た序でに大人衆として仕事をこなす。文書に信長や林佐渡守秀貞の次に連著し押印を。それを五十枚程、勿論内容に不備がないか確認してから判を押して手伝う。


 次は養蚕関係の諸問題に対する協議の申し出の日程調整と、書簡などで済む問題に対しての返信。失敗した場合の補填割り振りなども勝三が采配する。

 桑畑などは漸く勝三の領地で餌として使える様になり、野生化した桑の葉の買い入れを完全に取り止めたくらいで暗中模索も良いトコだ。

 それでも尾張で最も絹に対する経験があるのは勝三な訳でしゃーない事である。


「尺技で増えるとは言え桑畑をもっと増やさないとな。蚕大食いだし」


 更には千歯扱きなどの木製農具の譲渡や伝播を対価にした未亡人やこの時代に石女と呼ばれる女性への紡績関連の仕事の斡旋依頼。開墾を担当する奉行への備中鍬の借用状態の確認、堺との交渉結果の確認と卸す生糸と織物の確認などなど。


 ついでに織田喜六郎秀孝に堺からの手紙を渡される。


「まったく九郎左衛門(塙直政)様には頭が下がるな。妙に愚痴が多いけど」


 勝三の確認した手紙には望郷の思いがデロデロに漏れた報告書。絢爛たる堺も故地に敵わず候といい加減に帰りたいと言う文言が三回書かれており、堺の商人の熱量に疲れ切ったと書かれている。


 まぁ重要なのはそこじゃない。


 上洛した時に世話になった各所には様々な融通の礼として胴服(羽織)綿入れ(半纏)を一組送っていた。人数は四名で魚屋の田中利休宗易と納屋の今井彦八郎兼員、それと松永弾正忠久秀と彼の主人たる三好筑前守長慶である。畿内の超上層部の彼等が好んで着てくれたおかげで、尾張産物を渇望する声が高くなったそうだ。


 特に綿入れ(半纏)を望む声は尋常ではなく次の冬までに何とか仕入れさせて欲しいと、堺の会合衆から相談があったので何れ程送れるかを伝えて欲しいとの事である。


 勝三は生産見積と割り振りを思い起こして返書を認め。


「アレ、これ何で俺が書いてんの?絹はともかく綿に関しては喜六郎(織田秀孝)様が返書認めるやつじゃん」


 こんな感じで勝三にしては平穏な年を過ごす事になったのである。あと織田喜六郎秀孝の事は普通にチクった。

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