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ガンガンいこうぜ 

ブクマ・ポイント・誤字報告有難う御座います。


前回、本多忠勝を出したのですが一箇所を除いて本多ムが全て本田ムになってました。逆に何故一箇所だけ合っていたのか。もう燃え上がれ〜燃え上がれ〜ってか(やっちまった感で)燃え上がるかと思いました。


更に今回は分かりにくい地図があります。


こんなんですが暇潰しにでもヒアュウィゴーしてレッツパーリィってくれたら幸いです。



美濃伊木山の麓で勝三の軽快な掛け声が響く。


「そいやー」


ゴウ、ってか剛と風を切り金砕棒が振るわれて敵兵をホームラン。顔面を兜諸共に粉砕された兵が放物線を描いて味方を巻き込みグチャーする。


「ていやー」


ゴウ、ってか豪と風を切り金砕棒が振るわれて敵兵をホームラン。肋骨を鎧諸共に粉砕された将が放物線を描いて味方を巻き込みズシャーする。


勝三だけではない。参陣する諸将の悉くが怒涛の勢いで敵を攻め立ていた。犬山城から木曽川を渡って、それこそ豪雨で溢れる濁流の様な勢いで伊木山を攻囲したのだ。それはもう内政で溜まった何かを発するかの様に怒涛と言うべき勢いで上陸を阻もうとする敵を屠る。


敵が籠城と遊撃に分かれて撤退すれば休む事なく対処した。信長が総大将として伊木山城の麓に控えて全体の指揮を取り、岩室長門守重休と池田勝三郎恒興が城を攻略し、森三左衛門可成と内藤勝三長忠が援軍に来た敵を押し返す。


敵の援軍が少々加わろうと小揺ぎもしない。


半刻もせず各軍に伝令が。


「伊木山城、開城致しました!!」


そうして伊木山の麓の本陣に諸将が集められた。皆が馬上だが信長は下馬は不要と言ってから。


「やはりこの援軍の規模と遅さを見るに義龍は死んだようだな。とすれば敵は混乱している、ないしは東濃攻略を急ぐべきだ」


いやに確信的な言葉だが唯でさえ西部に楔を打ち込まれた斎藤家が東部でも負ける事はあってはならない。そんな状況で派兵された援軍が少数かつ遅いとなれば相手には当主死亡に近しい程の混乱があると見て当然だった。


それは諸将も理解していて当然、敵が弱っている所に追撃をかますのは乱世の習い。ともすれば信長の考えに否は無く。


「伊木山は……その方、香川長兵衛と言ったな」

「は、はは!」

「渡河に続き攻城に於いても一番乗りを果たすとは見事、これより伊木を名乗り城を守れ」

「あ、ありがたき幸せ!!し、しかし城を頂きましても治める手立てが……」

「案じるな。親族を呼び寄せ長門(岩室重休)勝三郎(池田恒興)の指示を仰げば良い」

「は、はは!!それと兵は如何しましょう」

「確かにお前の麾下だけでは足らんだろうな。勝三、手伝ってやってくれ」

「はは。よろしくお願いいたします伊木殿」

「こ、此方こそ」


信長の小姓馬廻出身者は思った。『あ、これ信長様、考えるのメンドくさくなったから功績上げた清兵衛(伊木忠次)にブン投げたな』って。


信長はそんな空気を完全スルーして続ける。


「勝三を残して尾張に引き、俺たちは木曽川の完全制圧を目指すぞ。宇留間城は長門(岩室重休)勝三郎(池田恒興)、猿啄城を五郎左(丹羽長秀)与四郎(河尻秀隆)に任せる」

「は」

「任せてください」

「承りました」

「承知」

「俺は土田城から金山城へ向かって進軍する。三左(森可成)五郎八(金森長近)は付いて来い」

「はいよ」

「はは」

「よし。皆、飯を用意させている。一先ずそれを食ってから動こうぞ」


信長がそう言って鎧を着たまま昼食を取る事になった。


「勝三、お前は勝介に似て気持ち良い程よく食うな」


馬上での飯。内藤麺……インスタントラーメン擬きを飲み込んだ信長が言えば年長者達が確かにソックリだと笑う。


「いや、お恥ずかしい。戦場では料理の量も兵と同じとすべきだとは思うのですが、どうにもこうにも腹が減ってしまって」

「ハッハッハ、その身の丈では仕方ないだろうな」


信長の言葉に共に食事をしていた者達が然もありなんと頷く。新参の者で勝三の食事量を聞いた事しかなかった者なんかは圧倒されていたが、そんな彼等とても道理だと納得するしか無いだろう。


だって軍中で一番デカいもん。


むしろ勝三が食べている量は三人分に相当する量、インスタントラーメンで言えば5袋入と同じくらいで有る。だがその食事量で鉄柱ブン回して一組二組(二十から五十人)を平然と潰せるんだったら費用対効果的なアレでお得な気さえもしてくる。


何だろうか、軽油で動く戦車的みたいな。


「勝三殿は昨日の戦でも常に前線で戦っていましたからねぇ。私の一番槍など運ですよ」


椀から口を離した香川長兵衛忠次が言えば口から蕎麦ビローンしたままの湯浅甚助直宗がニュッと出てきて。


かふほーはは(勝三様)だはんは!!」


「武功を思えば飯の量など些事だな」


岩室長門守重休が呟いた。確かに雑に例えれば一般的な武士が中戦車で、勝三は超重戦車みたいなモンである。先ほども言った通り費用対効果もあるのだから燃費なんて気にしてられないというか些事だろう。


皆が一頻り食べ終わると信長が己が顎を一撫で勝三を一瞥して黙り込む。自然と向けられた家臣の視線の中で勝三に向き直り。


「勝三。義龍が死んだと言う話、凡そ間違いない筈だが気を付けてくれ。お前なら問題はないだろうが東濃攻略の間は此処が壁となる」

「はは、重々気を付けます。それにしても義龍がこんなに早く亡くなるとは意外でした」


勝三は斎藤玄竜義龍の死はもう少し後の事だと思っていた。それこそ斎藤玄竜義龍が死んで一年やそこらでバカ息子に代わり即座に稲葉山が落ちた記憶があったのだ。要は勝三の中で美濃攻略は既に成ったような心持ちが有ったのである。


そして勝三は信長の言葉で気付く。自信の抱いた楽観、戦を前にして最も恥ずべき内心に。


気を引き締めて。


「全力で敵を迎え討ちます」


「ああ、頼んだ」


信長は勝三の顔に安堵し笑って頷いた。


因みに勝三の記憶。いや、敢えて印象というが、実のところ義龍が死んで直ぐに斎藤家が敗北する訳ではない。無論、内容はともかく少なくとも五年は信長の手に稲葉山城が落ちる事はなかったのだ。


それを思えば慢心は禁物だろう。いや考えてみれば、そもそも戦に出るのに気を抜くなという話だが。


「武田殿がやたらと婚姻に乗り気になった時点で想定はしていたが舅殿の仇を討ち損ねたな」


信長は軽妙に答えるが幾分と苦味が強い呟きだった。第二の父とも呼ぶべき舅の仇討が叶わなくなった悔いが纏わりついたのだ。


「殿、そういえば西は如何でしょうか」


その思いを重々承知している勝三は話題を転換しようと問うた。


「ん、西か?そうだな。吉兵衛(村井貞勝)藤吉郎(木下秀吉)に稲葉、氏家、安藤、不破の四家と交渉させているがなしのつぶてだ。どこの家も東濃を取られると見た上で降るのを拒んでいるからな」

「東西に渡河地点を作ってまだ足りませんか」

「ああ。武田浅井との同盟の話を進めてから一度、稲葉山に攻め込んでみようかとも考えている」

「あの城を……」


勝三が薄くとは言え少々の怯みと辟易とした様な言葉を漏らした事に諸将が驚く。こんな鉄柱振り回してる様な奴がどうした的な驚きの中で岩室長門守重休が気付いて。


「ああ、そうか。勝三は稲葉山に使いに行った事があったな」

「ええ、麓の居館へ向かう途上、見たのですが山頂に築かれた城を落とすのは難儀しそうで。たぶん尾張の全兵を結集して強攻すれば落とせるとは思いますが被害がどれ程になるか」

「落とせるだけ、か。今の兵力でその評価は頭の痛い話だな。稲葉山城を落とすなら仕上げとして包囲するのが無難か」


信長が面倒くさそうにボヤく。干し魚を咥えた湯浅甚助直宗が首を傾げれば香川長兵衛忠次が。


「城を落としたって衝撃は与えられますが維持出来なきゃ無意味ですから」

「なろほど」


ピロっと口から小魚の尾っぽを出す湯浅甚助直宗に、信長へ白湯を持って来た菅谷九右衛門長頼が。


「……口に物入れて喋らない」

「ふぁい」


勝三は一考して。


「殿、そろそろ権六(柴田勝家)様に奉行ではなく将として働いて頂いては如何でしょう?」

「うーん。確かに権六の兵は三河の戦いを経ても壮健だが、しかし城や町を作るのに人手がな」

八郎右衛門尉(中川重政)様や兵庫助(蜂屋頼隆)殿も戦が無ければ奉行仕事でしたか」

「その通りだ。そんな状況で今、権六に抜けられると死人が出る。証文発行には信用が大事だからな」

「皆んな一杯一杯ですからね。権六(柴田勝家)殿が来てくれれば美濃攻略もすぐに片付くと思ったのですが」


美濃攻略を早め、いや既に結構早いのだが、上洛戦までに万全の準備をしておきたいと考えた勝三の言葉に信長は気の早い事だと笑って。


「まぁ焦るな勝三。稲葉山攻略、ひいては美濃攻略なんて親父殿さえ成せなかった大事業だ。気長にやるさ」


そう信長が気負わず言って食事は終わり勝三達防衛部隊を残して尾張に帰還した。




勝三は与三の提言にて防衛陣地を構築する事にした。


木曽川の対岸にある伊木山城に篭っても即座の援軍は期待できない。故に伊木山の西部にある正月山圓檀寺を要塞化し、東部の上陸地点から西部に船を移して退路を確保し、北部から城に向かう道に簡易的な障害物を並べる事にしたのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー山山凹山ーーーーーー

ーーーーーー山山山山凹山山山ーーーー

ーーーーー山山山山山凸凸凸山山ーーー

ーーーーー山卍山山山山山山山ーー◯◯

ーーーーーー山山山山◯◯◯◯◯◯◯犬

◯◯ーーーーーー船◯◯◯◯◯◯◯◯山

◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ー城

◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ーーーーーー→

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

山伊木山・◯木曽川・凸伊木山城

凹障害物・卍正月山圓檀寺


「俺たちは作事と警戒を担当しますので主水正《中島》殿と甚助(湯浅直宗)殿は飯の準備をお願いします。坂井殿と生駒殿が増援を連れて来てくれる筈ですので千と百人分程あれば十二分かと」

「了解しました。いくぞ甚助(湯浅直宗)

「おう義父様」


今度は伊木清兵衛忠次に。


清兵衛(伊木忠次)殿は城の補修に手伝いは必要ですか?」

「いえ、北の登城道を塞ぐだけで十二分だと思うので」


一頻り指示を出し終えた勝三は伊木山の北東の位置に陣営を築いていると、犬山城に後詰めとして控えていた坂井右近将監政尚が着陣した。


陣容は坂井右近将監政尚の楽田衆三百、林新次郎通政の沖村衆百、賀島帯刀長重が百、道家三十郎が百。


勝三の率いる三百、伊木長兵衛忠次の百、中島主水正の百。


合算して約千百となった。


勝三が坂井右近将監達を迎え食事を取っていると蹄が地を蹴る音が。


「敵襲、敵しゅーーーーーー!!」


そんな声が響いて勝三達の前で跪いた。


「伝令、敵が向かって来ております。その数、凡そ千!!」


続け様に第二報を携えた伝令。


「伝令!敵戦陣は一文字に三つ星、敵は長井隼人佐!!」

「もう来たのか。陣営どころか城の補修も出来てないぞ。いや、ちげぇ増援が遅いのか?つーか妙に小出しな気がするな」


勝三の戦況分析の正否はともかく長井隼人佐道利は関城城主にして東濃に加え北濃の方面軍指令である。その立場の男が来たという事は東美濃の主力が伊木山奪還に来た訳だ。


辟易とした様に言う勝三に坂井右近将監政尚が笑って。


「良いじゃないか。その主力を撃滅すれば殿の主導する東濃攻略は容易になる。それに敵の数が数だ」


「確かに千ぐらいなら余裕ですね。東濃侵攻の意図がバレても問題ですから早いところ迎え撃ちましょう」


伊木山城と圓檀寺に守備兵を残して船を発見されない様に伊木山の北東に出陣。


しかし、陣営を整えさて攻めかかろうという時になって二頭波頭立波の旗をはためかせた千ほどの軍が合流。斎藤家二千に対して織田家は千程となったのである。戦場の霧というヤツだ。




伊木山の東部に広がる各務原の丘陵に斎藤家、いや一色の旗が翻っていた。陣中央では齢十五の一色左京大輔龍輿が床机に腰を下ろして伊木山の手前に並ぶ敵を見据えている。


「此の一戦、美濃の今後を決める」


父も着ていた祖父以来の甲冑たる紅糸中白縅胴丸を纏う一色(斎藤)左京大輔龍輿には自覚があった。


己が余りにも若過ぎるという事を。例えば自分だって己の半分も生きていない様な幼子に、己の命どころか一族と家臣領民の未来を掛けられるかと問われれば其れは否だ。国人達が協力を渋り信長に寝返るのも頷ける。


故にこそ織田上総介信長という奇跡の勝利を掴んだ男に抗える才を示さねばならない。


「しかし飜るは三つ藤巴。敵はかの内藤ですか」


一色(斎藤)左京大輔龍輿は竹越摂津守尚光の言葉に頭痛がした。それこそ泰然自若に振舞いながら既に心がヘシ折れそうだ。そもそも総大将としての初陣が己の父を散々苦しめた織田信長と言う男の腹心中の腹心たる内藤勝三長忠などタチの悪い冗談でも勘弁して欲しい話だ。


だからこそ気骨と若さ故の楽観、そして矜持のみで怯える心隠して淡々と口を開く。


「そうか。ならば美濃だけではなく尾張の今後をも決める戦という事だ」


「ガッハッハッハッハッハッハ!!」


ズン、と一色左京大輔龍輿の横に一人の男が立つ。小柄で胴長短足、捻れ切った髪と髭が生えた顔は戦傷の浮かぶ肌。鼻は右の鼻翼が削がれており、唇は膿の後か歪んでいて、覗く歯は数本抜けている。


有り体に醜悪と言って良いほどの傷跡が残る顔だが唯々その眼だけは美しく爛々と燦然燃えていた。


「皆、聞いたかッ!!」


がなる様な声が発され燃える眼が諸将の顔を一つ一つ捉える。


「齢十五(14)左京大輔(一色龍興)様が奮起しておられる!!大鬼の武名を知り尚も取り侮るでも無く、恐るでも無く、取り繕うでもない。端倪すべからざる胆力よ」


岸佐渡守信周。本人のみならず息子、更には嫁まで勇猛と名高き堂洞城主。


屈強な配下、猛者供を率いる雄々しき首領が鍛え抜かれた岩の如き腕を掌広げてバンと突き出す。


「なれば我等は如何にする!!」


捻りこむ様に拳を握りこむ。


「奮起だろう、奮起すべきだろう!かの大鬼を討ち取れば高名は当然、褒美とて城の一つさえ望めようよ!!」


剛と、豪と、轟々と。の気勢が天を穿って打ち上がる。すかさず一色左京大輔龍輿が膝を叩いて立ち上がり。


佐渡守(岸信周)の言、尤も!!この、一色左京大輔龍興、天地神明と此処に在る諸将に誓って約束しよう!!」


笑みを深め。


「大鬼を討ち取れば将兵、身分問わず伊木山城と共に甲州金を一握りを褒美に使わす!!!」


己が言葉に思わず血気盛んに叫ぶ将兵を見ながら一色左京大輔龍興は岸佐渡守信周を一瞬見て。


「陣を張れ!!それと岸佐渡守信周は少し話がある。使いを送るから少し待っていてくれ」


岸佐渡守信周が呼ばれるのを待っていると使いに出した者が戻って来た。良く鍛えた体躯の齢二十五程だろう男で足の長い長身。縮れた髪を強引に総髪にしていて顔は鋭い瞳に小さな口と鼻筋の通る美男。何処か不敵に笑う様は勇猛ながら凛々しい表情だった。


そんな男が口を開く。


「父上、叔父上には少し遅れると伝えて参りました。それにしても大鬼が相手とは腕が鳴りますね」


淡々とした抑揚の無い声、しかし煌々と燃える様な戦意を内包していた。息子の言葉に岸佐渡守信周も戦意を燃え上がらせてニと笑い。


「うむ!!その様子では勘解由(岸信房)も尾張の大鬼が如何程の物か血が滾って仕方ないか!!」

「当然で御座います父上。孫四郎(岸信近?)も初陣で鬼退治が出来れば誉だと」

「ふふ、そうか!!小賢しくも愛らしき我が孫もか!!」

「ええ、困ったもので弟に勲を聞かせると言って聴きませぬ」

「ガッハッハッハッハッハ!それは大変だ。この調子では新右衛門(岸信宗?)まで初陣に出せと言い立てそうだな!!」

「フフフ、困ったものですな」

「全くよ!!」


美醜対極にして身魂同等に清らかたる親子。パッと見れば似ても似付かないが確かに彼等の眼はそっくりで爛々と美しく燃えている。


二人が今か今かと開戦を待っていると一色(斎藤)左京大輔龍輿からの使いが現れ、親子が案内された天幕の中に入ればギョッとした。


一色(斎藤)左京大輔龍輿が深々と頭を垂れていたのだ。


「岸殿、感謝する。どうか此の私に力を貸してくれ」

左京大輔(一色龍興)様、恐れ多い事に御座いますれば如何か頭を上げていただきたい」

「すまん、気を遣わせたな」

「何故その様に頭を下げられるのかお聞かせ願いたい」

「ああ、堂洞衆には後軍先鋒に配置させて貰う。大鬼が前軍を突破し疲労した所で岸殿には大鬼の足止めをして貰いたい」

「成る程、損害を覚悟で大鬼を縛り上げ、全軍が壊滅した時には殿として敵を防げと」

「有体に言えばその通りだ」


そう言ってもう一度頭を下げる若き国主。至らない自覚、目の前の主人からそれを感じ取った岸佐渡守信周は一際に大きく息を吸い。


「ガッハッハッハッハッハッハ!!何の何の、御大将に左様な事をされては此の信周、奮起せざるを得ませぬな。左京大輔(一色龍興)様は人の使い方を分かっておられるようだ!!どうか堂洞衆が戦、御笑覧あれいッ!!」


そう言ってニッと笑った岸佐渡守信周は深く一礼してから息子と共にガチャガチャと音を立てて己が陣に向かった。


「感謝する岸殿。さぁ我等も戦場へ向かうぞ!!」


近衆が応と答え斎藤家の今後を左右する戦が始まった。


一色(斎藤)左京大輔龍輿眺める並ぶ陣容は双方が鏡合わせ。しかし一色(斎藤)は相手の左右を覆う兵数の余裕があった。両軍共に平野だが長い草と泥濘を避ける為、そしてそれらを避ける為に、幾らかの備が縦陣で迫り対峙する。


場所は伊木山の麓、おおよそ各務原の大伊木山古墳辺り。


数を思えば負ける戦では無いが同時に負けられない戦でもある。だが後軍先鋒として進む岸佐渡守信周の存在のおかげで心は落ち着いていた。


そう。落ち着いて戦場を見て、味方の穴を塞ぎ、敵の騎兵による回り込みを抑えればいい。


後軍は堂洞衆と加地田衆を先鋒、竹越摂津守尚光を次鋒、三段目が一色(斎藤)左京大輔龍輿率いる本備である。


前軍の方向から法螺の音が響き、ややあって伝令が駆け込んできた。


「伝令ッ、前軍が弓戦を開始致しました!!」


一礼して即座に帰っていく彼の背を眺めながら一色(斎藤)左京大輔龍輿は思わず呟く。


「始まったか」


唯一言。だが、しかし現代で言えば中学生の少年と言ってもおかしくない齢で一国を背負う者の万感の思いが篭もっていた。


「伝令、敵前進!!」


前軍の長井隼人佐道利が気を使って細かに戦況を伝えてくれており、ただ目の前で流れていく戦場を茫洋と眺める以上に戦況を理解する。


次の伝令が駆けて来るのが見え槍戦、いや織田家ならば鉄砲が先かと考え。


違和感。


伝令が滑り込む様に跪き。


「前軍左翼部隊先鋒仙谷隊、壊滅!仙谷治兵衛(久盛)殿、行方知れずに御座いますッッッ!!」

「何だと!?」


思わず問うた一色(斎藤)左京大輔龍輿が視線を上げ馬上で立ち上がれば、友軍を蹴散らしただろう敵の一隊が戦場を大きく迂回して側面からの突撃を狙っていた。


「伝令!!」


自身の選択によっては死さえ有り得ると理解して声を張った。




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