びっくり箱
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暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。
休暇、厳密に言うと戦の後始末と軍略の復習を終えて、領地から妻と側室や家族と共に清洲の屋敷に戻った。
自身で集めた兵の初陣だった訳で褒賞だったり戦後の補填などと領地で勝三本人が処理すべき事が多かったのだ。
だが勝三は大人衆。重臣としての仕事もある。領地経営だけではいけない。
てな訳で明日からの仕事を控えた勝三は、各所への挨拶を終えて夕食を済ませ妻と側室にせがまれてオ◯ロやってた。
「本当に清洲は栄えていますね秀子様」
「ええ何せ御養父上様の居城ですもの」
眠たげな瞳を輝かせて言う有馬幸に花嫁修行を清洲で受けていた秀子はニコニコと頷きながら頷く。姉妹の様な二人を微笑ましく眺めていた勝三は視線を盤面に戻してギョッとする。
自分の黒が気付いたら殲滅されていたのだ。ほぼ盤面が白く染まった事に冷汗を流しながらも勝三は。
「そういえば鷺山殿と会って如何でしたか?」
「お代わり有りませんでした。ね、幸殿?」
「はい。それに良くして頂きました。押せ路もお強くて。あと姫様方も興味を持たれて、石がないので碁石をつかって楽しんでおられました」
勝三は発案者どころか既存のゲームをパクった者としてせめて負けられないと必死に考えて一手。なお典型的な角を守り過ぎてやられる悪手だ。
勝三はオ◯ロに勝つ為に二人に頼んでいた話の結果を問う。女性物の絹の服を宣伝する為に信長の妻や側室達に協力を打診したのである。理由は適当に勝三領地で出来た服を御礼として進上して着て貰おうというだけの事だ。
「団子の礼の小袖は?」
「喜んで下さいましたよ。もちろん直子様も」
「やはり唐物程の質は望めませんが柄を変えられる事や値を考えれば十二分であると」
秀子が言えば幸が続く。勝三は適当に取り繕った理由である団子の事を思い出し懐かしさを覚えながらもハッと。
逆転の道を探す。
「それは良かった。あ、此処だ」
「ああ!」
「そこは!」
そんなふうに何時もの感じで嫁さん達と戯れていると気配。
「すまんが少し良いか?」
勝介である。
「これは父上。どうぞお入りください」
「義父上様」
秀子と共に幸が頭を下げて迎える。
「秀子様、幸殿。すまんな、少し勝三と重要な話をせねばならん」
勝介は邪魔をする事を申し訳無く思いながら座る。
「勝三。二、三伝えたい事がある。まず先の戦で斎藤方が乱れていた理由が分かった。浅井だ」
「浅井、確か父上が使者と交渉に当たってましたね。一体何が?」
「ああ、六角の配下に肥田城主の高野備前と言うのがいてな。それが浅井に寝返ったのだ。牽制の為に長井甲斐守も進軍していたのだろう」
「あー、成る程。慌てて帰ってきたのなら妙に敵が慌てていたのも頷ける」
「なんでも浅井は六角を敵に回すと同時に斎藤も敵にした。越前朝倉、北近江六角、美濃斎藤に囲まれたのだ。何がしたいのか分からん」
勝三は凄い顔になって首をかしげる。勝介も父と同じ疑問に加えてもう一つの違和感に首を傾げ。
「え、と。朝倉と浅井って同盟してないんですか?」
「ん?ああ、今のところはな。まぁ、朝倉も加賀一向一揆と争っているらしいから今後は分からんが。大丈夫か?」
勝三がブワっと汗をかいて滝の様に。父勝介の言葉に両頬を叩いてから。
「はい大丈夫です。……父上は浅井朝倉の事、良くご存知ですね?」
「うむ。知ったのは最近だがな。浅井家からの使者である三郎左衛門尉が言うには」
「先方は何と?」
「織田がだめなら余裕がない故に朝倉と交渉するとほざく。見上げた胆力だ、俺を見ても慄かなかっただけの事はある」
「そりゃあ戦場にいない父上を恐れる者など居ません。父上は御優しいですから気を抜くと幼子どころか犬や小鳥さえ寄ってくるではないですか」
勝介は恥ずかしそうに唸ってから。
「むう……う、むー。まぁとりあえず浅井と盟を結ぶやもしれんな。戦場でお前の感じた理由だろうな」
そして続けて。
「それで次に美濃を殿が、三河を右衛門尉殿と三郎五郎様が、河内を彦右衛門殿と喜六郎様が当たる事になったのは知っているだろう?」
「それは勿論、伺っていますが……」
「うむ、単純な話そのせいで其処彼処で米が足らん」
「米が足りないという事は水田の拡張が追い付かないのですか?」
「そうだ。有り体に言えば開墾が進まん。それで相談なんだがお前が領地に広げた道具を幾つか紹介しないか?」
「鉄製股鍬とか千歯扱きとかですか?」
「うむ。アレは農民達に好評だったし少し使っただけでも価値がわかる。鉄が足りなくなるかもしれんが新田開発を任されている佐渡守達も喜ぶだろうと思ってな」
「時間は掛かりますが良案ですね。でも股鍬はまだしも千歯扱きは後家に仕事を与えないと」
「ん?ああ成る程。まぁやる事は沢山あるだろうが別の収入を用意してやるべきか。ならば一先ず蚕でも育てさせるか?」
「その方向で殿に相談してみましょう。他にも案がないか評定で議題に出しましょうか。流石にタダで渡せるものでは無いですしね」
「うむ、そうだな。改めて邪魔をしてすまなかった。それと津島の清兵衛殿が火入れと柳樽の礼だ」
勝介はそう言って折紙に包まれた礼品を置いて部屋を後にした。勝三が礼品を見てから完全に忘れていた事にハッとしてから、オセ◯に戻ろうと振り返れば秀子と幸がメッチャ目キラキラさせてる。
まぁ端折るけど惚れ直したらしい。ただ勝三は嫁さん達に脳筋だと思われてた事に気付いて若干ヘコんだ。何を凹んでいるのだろうか。正直、殿で退がれないヤツは脳筋である事に違わないと思う。マジで。
翌日、評定を終えた勝三は思い出した事を実行する為、足早に城下に向かった。紙座へ行き二貫程で紙束を買って筒を作る。まぁ本当は油とかを染み込ませるのだが所謂、紙製薬莢って代物を作って信長の元に持って行こうと思ったのだ。
「失礼致します」
「勝三か、入れ」
信長の声に一礼して入室すれば丁度、橋本伊賀守一巴の子である橋本伊賀守道一と話していた。父と同じく鉄砲師範であり尾張領内の火薬製造を一手に担っている。
「伊賀守様、丁度良かった」
「私ですか?」
勝三の言葉に首をかしげる橋本伊賀守道一。しかし直ぐに納得して。
「という事は火薬や火縄の事ですね?」
「ほほう、また何か良案を考え付いたか」
時間はかかるが農業の問題に一定の解決の目処が立って上機嫌な信長が笑う。
勝介は二人に頷き。
「はは、昨日津島の清兵衛殿から火入れと柳樽の礼を頂きまして折紙に包まれた笄の箱を見てふと思い立ちました」
「ふむ、本当に考えが柔軟だな。今度は一体何だ?」
「早合の様に油か、硝煙を溶かした水に浸した薄紙で弾と火薬を詰めたらすぐ撃てないかと思いまして」
勝三が買った紙束から一枚を取り出して筒を作り見せる。その中に鉛弾と火薬を入れるのは言わずもがな察せられた。
「ふぅむ……どうだ伊賀守」
「試してみねば分かりませんが考えとしては分かります。単純な事ですが思い付きませんでしたな」
「よし伊賀守、諸々を融通するから勝三の案が使えるか試してみてくれるか?」
「はは」
そんなこんなで、八月にまた美濃で戦った以降は勝三は奉行として開墾などの助力や兵站管理の手伝いをしたりして過ごしていた。
「勝三様、少々宜しいですかね?」
西三河賀茂郡制圧の為に梅ヶ坪、伊保、八草の城に加え挙母城までの物資運送代を算出していた勝三は視線を下げる。六本の指で大量の竹簡や巻物を抱える木下藤吉郎秀吉だ。
「これは藤吉郎殿。西美濃での御活躍聞きましたよ。何でも殿の命に従い森部に砦を作られたとか」
「あ、いやいや。あれは勝三様のおかげに御座いますれば。勝三様と共に戦ったからこそ儂程度が出張っても美濃の方々が良く良く手伝ってくださいましたんですよ」
「謙遜が過ぎますよ藤吉郎殿。御一緒致したのは福束の戦を含めて五度のみですし砦を作られた事は藤吉郎殿の手柄ではないですか」
「そう申されましても福束の事が有ったからこその今の儂ですよ。あーそれで、本題で御座いますれば」
「本題……?」
「ええ、そのー、勝三殿の領地で作られてる絹一反って幾らしますかね」
「絹ですか?まだ売れるほどの数もありません。木曽川辺りの荒地に桑畑でも出来ればもう少し落ち着くと思うんですが何とも言えません」
「いつ頃売りに出しますか?」
「うーん。一応、堺への販路は有りますが売れるかどうかの確認をしてる最中でして。それこそ今は殿や重臣の方々に贈物として譲る事の方が多いですよ」
「......うぅん。それは難しそうだ」
「どうしたのですか?」
「あ、いや、あの、これでして」
そう言ってちょっと泣きそうになりながら小指を立てる木下藤吉郎秀吉。勝三は寧々だと察してニコニコと。
「惚れた方に絹を送ろうと?」
「ええ、まぁ。絹の一反でも送れば先方のお袋殿にも認めて貰えるかと思ったのですがね」
「成る程、しかしすみません藤吉郎殿。未だ生糸を作り出して二年目、作れる事が分かった程度で領内に売る分にはこれからでして、尾張で売るという所までとなると量が余りないのです」
「いやいや勝三様、儂が無理を言ったんで謝るなんて辞めてくだせえ。津島か熱田に行って木綿の反物でも見てみますわ」
凄い落ち込みっぷりのまま去る木下藤吉郎秀吉に何か居た堪れなく思った勝三は今年の絹の出来を聞いておこうと心に留めた。こう、半端に余ったら帯でも贈ろうと。
「勝三殿、そちらは済みましたか?」
そんな勝三の背中に入れ替わる様に執事っぽいミドルの声。
「ああ吉兵衛様、ちょうど今持っていこうと思っていたところで。喜六郎様と彦右衛門殿なら不安は有りませんが一応の為に津島が封鎖された場合の想定もしておきました。たぶん今年は米が高過ぎて戦えませんよ」
「うーん。揚げ切り蕎麦、失礼……内藤陣麺で兵糧の代用をしてみては如何でしょう?」
「成る程、かけあってみる価値はあるかと。ああ、それと絹の事ですが……」
「堺で売れそうですか?」
勝三が不安そうに問えば村井吉兵衛貞勝がうなずいて。
「ええ。有るだけ全ての反物が売れたそうです」
「え?」
「後で確認をお願いします」
そう言われて話を聞けば数百貫になったらしくブッたまげた。なんせこの時代の絹は完全な輸入品である。命までかけて船に積んで持ってくる訳で時価になる訳だ。
そんな代物なのだから高い。だが織田家の絹はそれに比べれば安く、色艶は劣るが丈夫さではいい勝負ができている。絹物を着ていると言うステータスが欲しい者は勿論、特に矢を防ぐ為の母衣など軍事利用とするには織田家の絹は手頃なのだ。そりゃ見栄を張らねば命が危うく、そもそも戦の多い都周りでは嫌でも売れる。
内藤勝三長忠、体調不良や強敵の前に膝を突く事はあれど稼ぎ過ぎて腰抜かすとは思わなかった。




