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街道一の弓取り 上

感想、ブクマ、ポイント、誤字報告有難う御座います。


なんかメッチャ書けたしハンパにするのも微妙なので感じなので三話投稿します。正月近いし。


暇潰しにでも見ってってくれたら幸いです。


それでは皆さん良いお年を。

 永禄三(1560)年五月。信長は脆弱という評価を受ける前に自身が出陣し、松平勘四郎信一と田原戸田氏を破って品野城を奪還した。更に桑下城と落合城の二城も奪い取り織田家の強靭ぶり、とは言わずとも今川家と殴り合えると示してみせたのである。


 その報告を受け陣取り合戦では織田家を下せないと確信し、織田征伐を決意した今川大膳大輔義元が駿府から出立する。


 その報せは雷鳴の様に東海道を駆け抜けた。


「松平次郎三郎(元康)に大高の包囲を突破されたとの由!!」


 伝令が発言して評定の間から下がると織田造酒丞信房が口を開く。


「こうなっては沓掛城の今川大膳大輔(義元)も動き出すやもしれんな。籠城か、打って出るか」


「籠城、しかして六角が本当に援軍に来るでしょうか」


「まぁ俺も来るか怪しいと思うぞ林殿。必ず援軍が来ると確信出来るのなら籠城も出来るのだがな」


「仮名目録の事を思えば公方を祭り上げる六角が我らに手を貸すのも頷けます。守護不入、公方の権威の否定となれば神輿を担ぐ価値を喪失させる規定にございますから、しかし……」


「まぁ、そんな理由だけで援軍は寄越さんだろうな。六角は三好に対抗する為に背を任せる使い捨ての盾が欲しいのだろうよ」


「成る程、どう動くか分からない甲相駿三国同盟に対する盾ですか」


「うむ、とは言え織田と結ぶよりは尾張を飲んだ今川と組みたいだろうがな」


 大人衆筆頭の二人が判断しかねていた。先程の伝令にて分かる状況は以下の通りである。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ・・・・・◯・・・・・・・・・・・・

 ◯・・・◯・・1・・・・・・・・・・

 ◯・・・◯・・・・・・・・・・・・・

 ◯・・・◯・・・・・・・・・・・・・

 ◯◯・・◯・A・・・・2・・・・・・

 ◯◯・・◯◯・・・・・・◯◯・・・・

 ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯・・・・・C

 ◯◯◯◯◯・・・◯3・・・・・・・・

 ◯◯・・・・・・・◯◯◯・・・・・・

 ◯◯・4・・・・・・・・・・・・・・

 ◯・・・・5・・・・・・・・・・・・

 B◯・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 A鳴海城:岡部丹波守元信

 B大高城:鵜殿長門守長照・朝比奈備中守泰朝・松平蔵人佐元康(徳川家康)

 C沓掛城:今川治部大輔義元以下本隊


 1丹羽下:水野帯刀忠光

 2善照:佐久間右衛門尉信盛・佐久間七郎左衛門信辰

 3中嶋:梶川平左衛門尉高秀・梶川七郎右衛門一秀

 4鷲津:織田玄蓄允秀敏・飯尾近江守定宗・飯尾茂助尚清

 5丸根:佐久間大学助盛重




 勿論、評定の間で喧々諤々と論ずるのは大人衆だけでは無い。勝介が地図を眺め顎を撫でながら。


「如何致すべきか。鷲津さえ抑えておけば鳴海への水軍による兵糧の運び込みは抑えられますが」


「持久戦にも限度がありますよ備後介(勝介)殿。それに鳴海の敵兵が余りに多いってのも問題だ。勿論、敵の兵糧も早く無くなるがコッチも無闇にゃ手を出せない」


「うぅむ、三左衛門(森可成)殿の言は尤もだ。四郎左衛門(簗田広正)殿が大高の船着場を焼き払ったが佐治水軍は強力だ。千秋殿の麾下にある水軍衆は互角に渡り合っているが敵の糧道を断つのにも限界があるか」


 森三左衛門可成と織田(内藤)備後介(勝介)秀忠も悩む。林佐渡守秀貞が頷いて。


「敵曰く四万五千、恐ろしいのは揃えられない訳ではない事ですな。無論それは後方の人員を含めての話でしょうが、そもそも水軍の物資輸送が必要な時点で少数では無い事は確実。前線は万に等しいでしょう」


「あらら、そりゃ武田北条の援軍も有り得そうだ。北条水軍まで来たりしてないだろうな?さてさて如何致しましょうかね」


 森三左衛門可成が辟易と笑えば上段の信長に皆の視線が行く。肘置きに突き立てた腕で頬っぺたグニってなるぐらいに顔を支えさせてる信長は不貞腐れた様に。


「ハァ……何で俺の戦いはいっつも敵の方が多勢なんだろうな、全く」


 そう言えばと皆が頷き少し笑う。其れを薙ぎ払って来たのは信長と家臣達であるのだから。


 とは言え数的不利で常道的な戦を望むべくもなく、信長は気の進まない心情を顕にした吐息一つ博打打ちの様な策を幾つも浮かべては却下する。


 そして一つ、酷い博打を腹に決めた。


「朝廷と幕府の横槍があって父上だったから何とかなったが、俺が守りに入って如何にかなるとは思えん。俺の数少ない経験で言えば村木砦の時でも参考にするか」


「と、言いますと?」


「うむ、三左(森可成)。皆が話していた通り敵が多いなら兵糧攻めだ。もう、腹たつし更に敵後方へ踏み込んで沓掛城を奪って今川の退路と糧道を完全に絶ってやろう」


「成る程、今は両軍が南の海での戦いに目が行っている。村木の時とは逆に陸地を少数の精兵で進めば難しく無い。流石は織田の御大将に御座いますぞ殿」


「だろう佐渡守?さて、急ぎ援軍に向かわねば北側の諸城が敵に下る」


 信長は跳ね起きる様に立ち上がる。


「そうと決まれば是非もない。皆、準備せい。熱田にて待つ」


 そう言って去って行く信長を見て皆は思う。林佐渡守秀貞の前で村木砦とか言っちゃうあたり相当テンパってんだろうな的な事を。


 林佐渡守秀貞も苦笑いを浮かべて。


「斯様に運の末とも言うべき状況なれば配慮も欠けて当然でしょう。それより光明を。」


 そうフォローした。


 その後、丸根と鷲津の砦が攻撃されていると言う火急の報告に心を落ち着けるため信長は岩室長門守重休、丹羽五郎左衛門長秀、内藤勝三長忠を連れて奥に。信長の妻鷺山殿と嫡男奇妙丸以下、信長の妻子達が並ぶ。


 信長は妻子達に笑いかけ振り返り。


「勝三、験担ぎにお前が鼓を叩け。元服の時に言った勝つぞと言う意気を込めてな」


 勝三は思った。


 マジで?って。


 何せ鼓とか打った事ねぇもん。この大一番でやった事の無い鼓打つとか何の罰ゲームだって話。勝三だって験担ぎくらいするもん。


 ちょっと本人には長い時間、他者から見ればほんの一瞬硬直したが意を決して。


「は、初めてですが精一杯努めます」


「よし。まぁ慣れてないだろうから俺が言葉を切ったら二、三叩け」


 信長は扇で迷い払うようにバサリと広げて一呼吸。


「人〜間、五十ね——」


 バッスン!!!!!


「——ん?」


 鈍い破裂音に何事かと振り返る。音の元は白目を剥いて凄い勢いで汗を垂れ流す勝三と大穴の空いた鼓。あーあって顔の岩室長門守重休と、苦笑いを浮かべた丹羽五郎左衛門。


 勝三がデカい図体を縮め思いっきり穴の空いた鼓を持ってシュンとして。


「も、申し訳有りません」


「プフ」


 信長は驚きの顔をクシュっとして吹く。そして口抑え肩を震わせてプルプルしたかと思えば。


「ヴフッ……ッフフフフ、ハハ、ハーッハッハッハッハッハ!!!」


 ムッチャ笑い出した。大軍の襲来に緊張しまくってた所為で妙なツボに入ってしまった様である。妻子達も笑いを堪えたり爆笑したりで大変だ。


「ギャッハッハッッハッッハッッハッッハ、ヒィ〜は、腹が、ッハッハッハッハッハッハ!!!……苦しッ……クッククク、ッ、ひーっ、ひーっ」


 うん。信長が笑い過ぎてピクピクしてるけど桶狭間前に死なないか不安になるレベルだ。つーか勝三の地位的に仕方がないが、もし信長が笑い死んだら勝三の未来を変えた行いの中で最も大きな事になっちゃうんですが。


 まぁまぁの時間を使い笑って、まぁまぁの時間を使い、ただ一杯の酒を薄めて注いた杯を持って仕切り直し信長は座す。


 落ち着いて鼓は無い。尾張で作った低温殺菌の試作酒。


「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如く也」


 併呑。


「一度生を得て、滅せぬ者の、有るべきか」


 杯を置いて呟く様に、しかし流々と重々しく、笑って言った。


「フフ、螺吹けッ!!具足寄越せ!!」




 尾張愛知郡沓掛城。豪奢な武士供が彼等に相応しい豪壮な鎧を纏って左右に列なして座す。そんな彼等を率いて叡慮悠然と其処にあるのは街道一の弓引き今川大膳大輔義元。


 ただ地図前にし黙座していた。


「敵が来るなら伊勢湾沿いだろう。大穴で鳴海を狙うかな。蔵人佐(徳川家康)が上手い事やってくれたのだ。私達も早く進軍して周辺を安定させるべきだろうよ」


左衛門佐(松井宗信)殿の言う通りです。それにしても大高の包囲を破るとは父となれば強いものよな、元より才ある蔵人佐(徳川家康)ともなれば尚の事か」


 静謐とした老将たる松井左衛門佐が言えば痩身矍鑠とした老将たる朝比奈丹波守親徳が言葉を添えた。二人の老将の言葉に大柄で猛々しい壮年の男が頷く。


「うむ。なれば大膳大輔(今川義元)様、若造供が為、早速此の源五郎(瀬名伊予守氏俊)は出陣致したく」


 家臣の言葉に薄っすらと開けた瞼。微笑みを共に。


「頼もしい。任せるぞ」


「はは!では、御歴々。失礼致します」


 主人の威風に心地よさを感じながら一足先に瀬名伊予守氏俊が城を出た。彼を見送ると今川大膳大輔義元は改めて臣下に状況を再認させる為に朗々と。


備中守(葛山氏元)も清洲に向かって出陣した頃だろうな。河内の道円(服部左京進友貞)坊と上手く合力出来ればいいが。それに鳴海城の丹波守(岡部元信)の事を思えば早く増援と物資を送ってやりたいが大高周辺を安定させねばならん」


「なれば我が君、大高に居る備中守(朝比奈泰朝)殿と松平蔵人佐(徳川家康)が反攻出来るように先発隊を出して中嶋砦を突いてやっては如何か」


将監(庵原忠縁)、良案だ。誰か名乗り上げる者はいるか」


「では私めが」


「頼んだぞ内匠助(井伊直盛)


「はは」


 此の数刻後、全軍の準備が整い今川大膳大輔義元が立ち上がる。白鎧に陣羽織を羽織り今川家伝来の太刀を握って。


 その偉大なる外聞に違わぬ様相に違わぬ大国の主人てしての気概と責任、何より後を託す若人達と無き師を背負う其の様は富士が動き出したかのような威風堂々たるものだった。

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