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脳筋供が膳の後

「良いぞ、流石は俺の子だ!!」


「有り難う御座います父上!!」


 丑の初刻(凡そ1時)、空が未だ黒みがかっている頃、田園の最中にて大小二つの影が猛進していた。それは朝っぱらから砂を詰めた俵を背負った内藤勝介と子の鬼夜叉丸である。


 勝介は大きな俵一つを背負い二つ担ぎ鬼夜叉丸は一つ背負って、なんか古武術とかやってる人の足運びである摺足っぽい感じで走っていた。


 凄いホバークラフトみてーだ。何だろうか、速度と勢いが尋常じゃ無いのだが擬音表現するならサササササを通り越してスゥーーーーみたいな進み方してる上に土煙エグいから。


 勝介に至っては俵がホバークラフトの推進用のアレ、あのーデカイ扇風機に見える。もうちょっと明るくなれば朝日射す田園風景に土煙上げて猛進する凄い光景が広がってたろう。妖怪か何かと間違えられそうだなコイツら。


「父上、後三杯です!」


「三か、良し任せい!」


 漸く空が青みがかった頃に走り終えた二人は城の中央にある井戸の水で汗を流しそのまま日課を始めた。勝介が紐を引っ張れば井桁という木枠から水がたっぷり入った釣瓶がヌッと顔を出し鬼夜叉丸が水瓶に流し込む。


 正直、下男の仕事と言えばそうだが鍛錬になるからと二人して水瓶を運ぶ。


「今日は昨日取った猪肉でしょうか?」


「御主は本当に肉が好きだな鬼夜叉丸」


 そして卯の正刻(凡そ6時)。信長に挨拶に行く。


「御早う御座います。三郎様」


「御早う御座います」


「おお、相変わらず一番か。二人共、今日も頼むぞ」


「はは!」


「はっ!」


 挨拶が終われば朝食まで鍛錬の再開だ。六人張りの強弓を勝介が引き絞り、大人用の弓を鬼夜叉丸が放ち、続いて大小の鉄砕棒を揃って振る。


「お、良いぞ鬼夜叉丸、どっしり腰を下ろし全身で振るのだ。先ずは気迫、それを忘れるで無いぞ!」


「はい!!」


「ハッハッハ良し良し!!」


 和気藹々としてるがマラカスみたいな勢いで鉄の塊を振ってた。勝介とか一丈(約3㍍)くらいの金砕棒二つをシャカシャカ交互に振ってる。米俵八俵《480㌕》くらいなら平気で担ぎ上げるとは言えバケモンじゃん。


 何コノ人達ホントに人間?


「勝介様、鬼夜叉丸。御飯が出来ましたよ」


 そこへ竹の声。尚このカーちゃんも米俵五(300㌕)俵なら普通に担げる。勝介は振っていた金砕棒をピタリと止めて担ぎ。


「おお、朝餉か。行くか鬼夜叉丸」


「はい父上!!」


「うーむ。副菜は何かな」


 この時代は一日二食が基本だ。勝介の家では大体が辰の正刻(凡そ8時)ごろに朝餉で、申の刻(凡そ16時)ごろに夕餉を食べる。


 父の勝介、母の竹、子の鬼夜叉丸は三人共大柄であり食う量が尋常じゃない。


 三人家族で一日に主食を二十合(3㌕)近く食べ、それに味噌を使った汁物と漬物という一汁一菜で、稀に津島の港で取れる海産物。更に稀な例だと鷹狩りなどで狩った野鳥に猪や鹿などジビエとでも言うべき獣肉も食べた。


 二十合の主食の内で基本的には玄米、麦飯で足りない場合は粟や稗に黍なども腹の足しにする。


 鬼夜叉丸は此の時代だと肉食は禁忌だと思っていたのだが、大っぴらには言わないものの意外にも狩猟で得た物なら普通に食うようで、父勝介が曰く浄土真宗の坊さんが食っても念仏唱えとけばOKつってたそうだ。


 てか坊さんもコソコソ食ってるらしい。


 んな訳で肉バリバリ食った。そりゃ背丈も伸びるわ。


「さ、頂くとするか」


 妻の竹、鬼夜叉丸、そして竹の手伝いをしていた与三が座れば勝介が言う。今日の朝食はデーンと山盛りの玄米に麦を混ぜた麦飯と猪の味噌汁に蛸の味噌和えだ。正直な話、獣臭いがタンパク質を欲して止まない鬼夜叉丸には気にならない。


 猪の味噌汁を口に麦飯をかっ込む一家。対して与三は蛸の味噌和えを行儀よくパクパクと食べる。


「与三、九九はどうかな」


「もう諳んじるに苦は有りません。勝介様、算術も重要とは思いますが私も朝の鍛錬をしたく思います」


「うぅん……与三右衛門殿の子に無理はさせたく無いが」


 与三は余り身体ができていない。顎に手を添え悩む勝介は与三の目に気付いて。


「そうだな。そろそろか」


「では!!」


「うむ、明日から共に鍛錬をしよう」


「はい!」


 喜色満面に答える与三。


「良かったですね与三殿」


「やったな与三。頑張ろうぜ!」


「うん!!」


 竹と鬼夜叉丸の嬉しそうな言葉に、歓喜抑えず頷いた。辰の下刻(凡そ9時)になれば勝介は仕事だ。


「さて仕事だ。今日は足軽達を調練してくる。鬼夜叉丸、与三、確りと学んでくるのだぞ」


「はい!」


「はい!」


 よしよしと言いながら二人を撫でて二、三頷き。


「竹、家の事は任す」


「はい。行ってらっしゃいませ」


 織田家は織田月厳の津島占領を契機として勢力を強め信秀が一挙に領地を大きく広げた。


 それこそ勝介の父は織田弾正忠家の一家来で足軽頭を束ねる程度の存在であったが主家の伸長に合わせて部下が増え、勝介が織田弾正忠家臣内藤家を継ぐ頃には家老と呼ばれるようになり、遂には下向して来た公家の見舞いに主人の代わりに出向く迄となったのである。


 だからこそ人を見る目と教育は慣れている。常に勝介は肥大化する織田家に仕える新たな家臣を選別教育して来たのだ。


 その中でも武勇において特に目を掛けていた者が居る。


「青山藤六、戸田宗二郎、賀藤助丞」


 は、と腹から声を出し頭を垂れる三人。背が低い者でも六尺五寸(165㌢)の身の丈で、積年の鍛錬からなろう剛強な体躯をしていた。


「御主らは此れより先手足軽衆として仕えい」


 先手、先陣だの先鋒と言う意味だが勝介は信長の為に精鋭部隊を新設する気でいた。騎馬に跨り雑兵では無く足軽を率いて敵陣をこじ開ける部隊だ。


 その為に信秀と勝介は織田弾正忠家の中で馬上戦闘を得意とする猛者を集めた。三人は勝介と共に信秀の護衛を担っていた者達なのだが、護るべき信秀が病に陥った為に彼らを部隊として転用しようとしているのである。


 例えるなら後に出来る織田信長の母衣衆の前身と言える代物で徳川家康の旗本先手に近い物と言えるだろうか。


「前々から話しておった様に馬一匹はそのままに替え馬二匹に百貫を与える。早速見せてもらうが足軽は集まったか?」


「は、勝介様。既に練兵場揃えて居ります」


 齢三十程で与三の遠縁の青山藤六が答えれば二人が頷く。


「それは安堵した。頼もしいな。早速、足軽達の鍛錬を始めるか。先ずは鎧を着て馬に追従出来る様にせねばな」


 勝介が笑いながら言えば三人が「しごいてやりますか!」とか「知行分は働いてて貰わねば」とか「ホッホ此の老骨に劣る者は、ですなぁ」つってんだけど、


 コレ足軽、早速死ぬんじゃねーかな。

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