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一本の効果

ポイント、ブクマ有難う御座います。


暇潰しにでも見ってってくれたら幸いです。

 永禄二(1559)年十月。


 織田家の財力と後ろ盾を用い内藤家の全力を持って勧められた養蚕は、真綿を細々と作っていた各所から蚕を集め急ピッチで最低限が整えられた。其れ等は岩倉城包囲において荒れた土地、特に岩倉城から井上城跡辺りを代官として勝三に預けられた領地で行われたのである。


 その結果を勝三は風邪をひいた祖父に変わって清洲城の一室にて報告を受ける。


 勿論、今は蚕を増やすのが先決であるが、それはそれとして生糸や絹織物が出来るかどうかという実績も、家中の雰囲気の為に必要な事であった。


「餌をしっかりやったのが良かったみたいや。繭から取れる糸の太さが全然ちゃうわ。これやったら木綿の織物だけやなくて絹織物も仰山出来るかもしれへん」


「それは良い。継続的に良い生糸は作れそう?」


「せやなあ、悪う無い思うけど。ああ、それと繭箱(蔟)使ったヤツは気持ち汚れが少ないって言ってたで。手間は多少なりあるんやけど使える繭が増えるし糸の質が高うなるって」


「それは良かった。じゃあ農家の言ってた蚕が三代目か四代目くらいで半分近く死んじゃうってのは何かわかった?」


「いやぁ無理や。そもそも蚕が何代にもなる程に飼育してへんから何でか分からへん。ああ、でも仕入先が減った分の蚕を追加したトコは多少やけど死ぬ数が少なくなった気がする言うてたな。だから時折、蚕を交換したりする言うてたけど。ほんで、そっちのが真綿の質も気持ちええ気がするって」


「よし、それもやろう。尾張領内の別の領地でも蚕を育ててもらうとして、その事を教えてくれた農家には後で金一封だな。繭箱の時みたいにお試しで蚕を繁殖させるときに定期的に別の蚕を混ぜて試して貰える?」


「わかった。何もせんのとしたやつ半々やな?でも四年後、いや二、三年後でええんちゃうんかな」


「ああ、そもそも色んな所から集めた蚕だから一段落してからでいいか。其の方向でよろしく」


「おっしゃ。分かったわ」


 そう意気よく言うと白雲四郎は途端に口をモニョモニョさせて勝三を見上げ聞きにくそうに。


「又八様と今川は大丈夫なん?」


 勝三は祖父を案じてくれた嬉しさと今川の強大さを改めて痛感して顳顬辺りを人差し指で掻いてから。


「爺様は試作して貰った綿布団で寝る様になってから順調に回復してる。今川に関しては余り口外できないけど不安に思う事は無いよ」


 ケロっと答える勝三。


「何や、心配しとったけど思ったより余裕そうやな」


「佐久間様達が砦を作ってるし何より殿って強いから」


「せやな、勝三はんもおるしな。でや」


 白雲四郎は言葉を切ると横に置いていた桐箱を開けスッと勝三の前に。


 中身は白く、そして薄く輝く布。


「木綿布じゃ有り得ない光沢だ。此れが絹織物?」


「せや。まぁ、木綿ばっか織ってて腕も鈍っとるし糸の質ももう一声やから、そこそこの出来やけど尾張で出来た初めての絹織物や」


「此の後、評定が始まる。その前に殿に見せよう」


「え、後のがええんちゃう?」


「大丈夫」


 勝三が言えば直ぐに信長の元へ。山口家の謀略によって敵に寝返った大高城に対して鷲津砦と丸根砦を建築して対抗させた信長は勝三の来訪を聞くと直ぐに来るよう岩室長門守重休に伝えた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ◯◯◯◯◯◯・・・・・◯・・・・・・

 ◯◯◯◯◯◯◯・・・◯・・1・・・・

 ◯◯◯◯◯◯◯・・・◯・・・・・・・

 ◯◯◯◯◯◯◯・・・◯・・・・・・・

 ◯◯◯◯◯◯◯◯・・◯・A・・・・2

 ◯◯◯◯◯◯◯◯・・◯◯・・・・・・

 ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

 ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯・・・◯3・・

 ◯◯◯◯◯◯◯◯・・・・・・・◯◯◯

 ◯◯◯◯◯◯◯◯・4・・・・・・・・

 ◯◯◯◯◯◯◯・・・・5・・・・・・

 ◯◯◯◯◯◯B◯・・・・・・・・・・

 ◯◯◯◯◯・・・・・・・・・・・・・

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 A鳴海城・B大高城

 1丹羽下・2善照・3中嶋

 4鷲津・5丸根




 部屋に通されれば信長は地図を置いたまま勝三達を迎えた。岩室長門守重休が黙して控える。


「如何した勝三……白雲と言うことは絹か?」


「は、四郎(*)殿」


 勝三が言えば先程の桐箱を出す白雲四郎。信長は織物を取り出し見て。


「白雲、職人として出来はどうだ」


「ワイとしては納得はいかへんけど此れでも売り方によっては売れる思います。それに寺沢様と内藤様のおかげでもう少し質も上げられるかと」


 信長は徐に立ち上がり部屋の外へ出て太陽に絹を当てる。輝きを増した純白の布。


「白雲、確か井上城の元城主の一族で有るとかいう有馬の娘と婚姻していたな」


「は、はは」


「白雲衆として有馬を名乗り勝三に仕えろ。また養蚕の者を中島、紡績の者を重松として同じく勝三に仕えさせろ」


「か、忝う御座います!!」


 白雲、いや有馬四郎は頭を垂れた。


「勝三、母上(土田御前)が花嫁修行を終わらせたから吉日を選んで婚姻だ。それと有馬荘の者達が不安だろうから有馬主殿正の娘も結納の後さっさと娶ってやれ」


「は、はは」


 さて、勝三が凄い事になってるが当たり前の流れで有る。先ず井上城一帯に領地を貰ったわけだが嘘か真か元城主の一族を名乗る有馬主殿正が民に推されて反発。此れは武力的な色の物ではなく抗議ないし直訴と言う形であった。


 硬軟織り交ぜて絹糸などの収入を飴に、従わねぇなら出てけって鞭を合わせた寺沢お爺ちゃんの交渉の結果、分業して担当させた其々の白雲村の者達に井上城一帯に居住していた有力者の有馬、中島、重松の娘が嫁いで、自称有村主殿正の末裔の長女が勝三の側室になると言う形で落ち着いた訳だ。代わりに内藤家、延いては織田家に従うと言う形で。


 何せ地元民が反発したら領地経営もクソもない。地元民も身内にしてしまえば敗者とは言え酷い目には遭わない安心感がある。手っ取り早く身内にしてしまう方が双方共に都合がいい。


「そうだ勝三、又八老が調子を崩してから領地忙しいだろう。京から帰って以来茶も飲んでないんじゃないか?」


「そうですね、味は鮮烈に覚えていますが随分と飲めていません。茶坊主も……そう言えば又左衛門(前田利家)殿はあれ以降大丈夫ですか?」


「ん?あぁ、一度許したから大丈夫だろう。内蔵助(佐々成政)に面倒を見させているし又左《前田利家》は昨年結婚したばかりだぞ?大事にはならんだろうよ」


「ええ。私も祝いの品を送りましたから覚えてます。しかしあの茶坊主は口が悪い、悪過ぎる上にコソ泥ですから。立てる茶が意外と美味いのは認めますけど又左衛門殿(前田利家)は実直なので如何も不安で」


「勝三がそこまで言うのは珍し、くはないか。しかし罰を重くして助右衛門(愛智吉清)にまで寝返られたら目も当てられないしな」


「どうも十阿弥の印象は悪い。泥棒の様な事をした上に命乞までして態度も軽口も改めません。控えさせなければもっと良くない事が起きそうだと不安が拭えません」


「……そこまで言うなら一回きつめに言っておくか。勝三の言葉には理しか無いしな」


 勝三はホッとした。山口家の裏切りは記憶を信用しきれ無かった上に時期が分からず、林秀貞の裏切りは信長の精神状況から伝えられなかった。信光に関しては事故死の内容が分からず、道三に関しては距離や立場的にどうする事も出来なかったのだ。


 漸く信長の不利益を防ぐ事ができる。前田又左衛門利家の勇猛さは今川家が迫る今こそ必要だし、敵が目前に迫っているこの状況で家中での諍いと言う隙を晒すのは好ましくない。


「丁度いい。評定に集った者達に茶を出させている。俺たちも評定前にゆっくりと茶でも飲んで、ついでに一言くれてやるか」


 信長の言葉に頷いた。さっそく十阿弥が呼ばれて此の場の皆で茶を飲む。


 茶の味は良いのだ、味は。


「まぁ言わば茶礼こそ茶湯の真髄でしょうなぁ。しかし拙僧としては歴々御存知の闘茶こそ花と思いますれば」


 ただ茶坊主の微笑、厳密に言うとニヤついたシタリ顔と逐一鼻につく言葉の羅列が気に障る。


 勝三は闘茶とか聞いた事がねぇ。全然、御存知じゃねぇから。


「大尽ならずとも舌さえ有れば茶の味は分かるもの。その味の分からない初心の者に立てるよりは歴々の如くにこそ出しがいのあるもので」


 なんか凄い事言ってる。さっきまでもてなしていた評定に集った誰かの陰口だ。


 控えめに言って村田珠光(侘び茶創始者?)が入れてた茶ブッかけるレベル。


 飲んでる間くらいは黙ってて欲しい。


 信長が吐息を漏らし。


「黙っていろ」


 一言。まぁ何時ものやり取りで勝三もよく覚えている。だいたい山口家の経験から信長が慎重になっていなければ愛知氏の事があっても問答無用でクビ(解雇)かクビ(物理)にされるんじゃないかって程度には煩い。


「それと此の際、言わせて貰う。内蔵助(佐々成政)の顔に泥を塗る気か?又左(前田利家)でなくともあれだけの事があって態度を改め無ければ普通は殺すぞ」


「……御存知だったので?」


「当たり前だ。清洲で陰口など吐けば嫌でも俺の耳に入る」


 脂汗を垂らす茶坊主を信長が鼻で笑う。


「控えるのだな。身の振り方を考えろ。又左(前田利家)に唐竹割にされたく無ければ」


 勝三は唐竹割りと言う言葉に何を言ったのかと驚愕した。一応、この茶坊主の為人を鑑み噂や人伝いに聞いた上での不安だったが嫌な予感ほど嫌になるくらい的中するものだ。事が起きる前に対処できて何よりである。


「さて勝三、長門、評定に向かおう。それと勝三は白雲衆の三人に一字くれてやれ」


「はは」


「あ、有難う御座います」


 信長の鶴の一声で白雲衆の代表三人は勝三の家臣となる。


 機織の者を有馬四郎勝光。


 紡績の者を重松喜八勝続。


 養蚕の者を中島与次勝元。


 初めての勝三の直臣であった。


 さて勝三は信長の側に控える小姓の一人として対今川への評定に出た。まぁ小姓の仕事は岩室長門守重休と丹羽五郎左衛門長秀に任せ見学と言うのが正しいだろう。そして他の参加者は尾張一国を得ただけに多かった。


 大人衆として林佐渡守秀貞と織田造酒丞信房。


 連枝衆として織田三郎五郎信広と織田喜六郎秀孝。


 吏僚衆として村井吉兵衛貞勝。


 美濃衆として森三左衛門可成。


 黒母衣衆として河尻与四郎秀隆。


 赤母衣衆として前田又左衛門利家。


 御伽衆として内藤備後介(勝介)秀忠。


 元信勝家臣として柴田権六勝家。


 最後に簗田弥次右衛門政綱(*+)、簗田四郎左衛門広正と簗田左衛門太郎正次の簗田家の三人。


 こんな感じで凄い人数が増えた。


 先ず蟹江からの敵を防ぐ為に滝川彦右衛門一益が増援に向かう事を信長が皆の是非を問えば反対意見など出ようはずもなく決定。続いて美人の極み過ぎて男か女か分からない残念ボーイが。


「孫十郎(謹慎オジサン)叔父上から山崎城に詰めた竹村(長方)殿が松平監物丞(家次)の品野城攻略を願っていると」


「ふむ、喜六郎(織田秀孝)。状況を説明してくれ」


「はい兄上。下和田の領地争いで敗訴して以来降伏を勧めて参りましたが、安城松平の倅が三河統治を任される形になり三河の反今川の機運が下がっていますので」


 喜六郎(織田秀孝)が報告を終えると三郎五郎(織田信広)が膨れた様な顔になり。


「あの三河者が定書一つで靡くか。今川が松平の三河支配を認めたからこそだろうに」


 不満モリモリに言った。十年前に安祥城で三河衆の統制が取れず今川松平連合に捕まった記憶が刺激されたのだ。


「俺は個人的にも状況的にも三河が固まる前に一戦かました方が良いと思うぞ三郎(信長)」


「うむ。皆はどう思う?考えが有れば気にせず言ってくれ」


 信長は納得した様に頷きながらも念の為に問う。しかし評定の者達は品野攻略にに反対意見は無く織田造酒丞信房がその様子を見て。


「品野攻略、よろしい事かと」


「よし。喜六郎(織田秀孝)、孫十郎(謹慎オジサン)叔父上に確と伝えてくれ」


「はは!」


 信長が頷いて。


「さて最後に弥次右衛門」


 簗田与次右衛門政綱(*+)が頷く。


「武衛様の追放、金子等々の温情感謝致します。我等簗田家は此れより上総介様にお仕えいたす」


「ああ、気にしないでくれ。武衛様の事を知らせてくれて助かった。それを踏まえれば感謝する此方の方だ」


「はは、勿体無き御言葉。加えて出羽守(四郎左衛門広正)に城を頂いた事も含め感謝申し上げます」


 まぁアレである。なんか今川家の掌の上で全力ブレイクダンス踊り狂わされて追放くらった斯波義銀の家臣達の受け入れパフォーマンスであった。


 それらが終われば内政の事を話して勝三が絹の進歩を見せて御開きだ。


「皆、御苦労だったな。茶でも飲もう。あぁ、坊主には黙るように言っておいたから安心しろ」


 評定に出席した者達皆が笑う。


 ……尚、本日二度目の茶会である。勝三の見立てでは信長は京でガチに茶の湯にハマったと見て良い。てか、そうでも無ければ別の茶坊主を雇うに決まってる。


 皆で揃って茶の用意をしている部屋に向かう。信長が直々に先導して茶の用意した部屋へ。


「何だその目は侍女風情が!一度切ると言った癖に此の首は未だ繋がっている!嫁御に鼻の下を伸ばしながら歌舞伎者を自称する輩こそ情け無いだろう!!」


 激昂した茶坊主の叫び声が茶室の中から聴こえて、後ろからブチィッって聞こえた。


 勝三は思う。


 もう殺して良いんじゃねーかなコイツ的な事を。でも殺して一番困るのは前田又左衛門利家と信長である。


 いや、殺しても良いんだけど裁判を挟んで断罪ってのが重要なのだ。


 御成敗式目から考えれば悪口の時点で流罪か牢にブチ込まれる。窃盗放火は前例を参考に断罪するものだが凄い慈悲深くて鼻削ぎで割と死刑が妥当なのだ。だから茶坊主は額面通りなら鼻削いで流罪であるが、外交的理由でムッチャ叱られるだけの実質お咎め無しだった訳で、何か勘違いして調子に乗ってるくさい。


 柴田権六勝家と森三左衛門可成と共に前田又左衛門利家を羽交い締めにしながら勝三は頭を悩ませた。


 気分的には殺っちまえだが支配者である信長の目の前で人を殺すとなると信長を無視した事になる。とすれば信長の意思を脇に置き刑は厳し目にしなければいけなくなる。だって曲がりなりにも統治者を無視してもいいって言う既成事実になってしまうのだから許しちゃいけない事だ。


 んでそうなると前田又左衛門利家の殺害の罪は死刑、流罪、財の没収、状況から死罪で切腹ぐらいが凡そ妥当になってしまう。


「離せ!!あの野郎ォブッ殺してやるッ!!!!!」


 逃げ散る侍女と腰抜かす茶坊主。


 茶坊主は前田又左衛門利家を勝三達が抑えている事に気付いて顔を赤く染めて立ち上がる。勝三達は逃げるのだろうとホッとした。ここまで来れば愛智氏もなんも言えない筈だ。間を置いて裁判して十阿弥の首を切れば丸く収まると。


「この似非歌舞伎者がァッお前など怖くはないぞッ!!!!!!」


 そう叫ぶと前田又左衛門利家の額を扇子で引っ叩いた。


 扇子のパァンという音を最後に無音。


 其の耳が痛くなる様な無音の中で茶坊主ドヤァ。


 ・・・・・。


「ガァアアアアアアアアアアア!!!」


 前田又左衛門利家が鬼と般若と金剛力士像足して怖さ10倍にした顔から発する魂の叫び声をBGMに全員が呆然とした。いやマジで何してんの?って思考さえ出来ないレベルで。んな頭真っ白になっちゃったので利家を抑えていた三人も思わず力を抜いてしまう。


 拘束が緩んだ事にすぐ気付いた利家。


 素早く抜け出し飛びかかる様に太刀を抜けば銀が煌めいて。


「そうかッ!!なら死ねェッッッ!!!!!!」


 直下、


 ……うん、唐竹割り。


 いや、そりゃぁね。


 最終的に前田又左衛門利家は森三左衛門可成、柴田権六勝家、内藤勝三長忠の助命嘆願により出仕停止になった。対して前線の城を持つ愛智助右衛門吉清は一色入道と号して頭を丸めると共に詫状を送ってきたので裏切りは無いと思う。


 とは言えこんなアホみたいな事が起きたのは今川家の進出が故である。信長は辟易とする様な愛智氏との意思疎通、それこそ双方が腫れ物に触れる様な談合の末に敵の強大さを痛感した。

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