怪力に秘伝技 岩砕きを覚えさせますか? →はい いいえ
ポイント、ブクマ有難う御座います。
有難い事にブクマが五百を超えてました。重ねて御礼申し上げます。テンションが上がったのとストックが有るので二話更新します。
暇潰しにでも見てってくれたら幸いです、
弘治元年、清洲城で勝三は死んでいた。名作の一つと名高い昔のボクサー漫画風に言えば燃え尽きたぜお父っつあんって感じ。
文机の上には書類の山、山、山だ。しかも勝三だけでは無い、書類山脈が部屋のいたるところで鎮座していた。
信長が清洲に移り先ず行ったのは普請である。戦火によって、と言うか正直に言えば柴田権六勝家の焼いた町の復興として、住民の食事や住居の世話を含め城下町形成の必要があったのである。
住居や城を作る乃至増築する事で臨時の収入を住民に与える所謂、公共事業という奴だ。勿論、此れにより清洲を信長の色に染めることが出来るし、住民に食住を与え円滑な統治が出来る寸法。
並行して、と言うか清洲統制の一環として普請を使い正確な住民や予想税収の把握作業がある。
ともすれば重臣待遇の勝三が暇な訳が無い。白湯を飲み干してから木簡を広げて。
「凡そ働ける男が三千少々、女子供が四千強程か」
自分の整理した石垣普請に参加した人数を確認して頷く勝三。清洲城下の協力する者だけでこの人数ならゆくゆくは信長直下の兵を二千程は集められそうだと報告書に記す。
加えて住民懐柔を理由に戦傷者の戦後支援策として絹や綿産業の提言書を書く。信長の母である土田御前の祖父である土田下総守政久に紹介された津島の有力国衆で信長の姉婿の大橋勘蔵重長が津島に来ていた堺商人から聞いたと言う大舎人の話を添えてだ。
「あ、中務丞様が居ないから上方と交渉するには武衛様に頼らないといけないな……」
要相談と付け足して信長の元へ向かう。
「勝三様!!」
すると背に掛かる声。足を止めて振り返れば面長で頬骨が突き出て顎が小さく猿のように大きな目の小男が六本の指を大きくフリフリ振りながらすばしっこく近付いてきた。
小男と言っても相当なもので四尺七寸届かずの身の丈。六尺七寸の勝三と並ぶと絵面が凄い。
まさに巨人と小人だ。
「此れは藤吉郎殿」
勝三が一礼をすれば恐縮した様にペコペコと頭を下げながら。
「いやいや。おとな衆の勝三様に頭を下げさせたとあっては此の六指め、小者如きがと叱られてしまいます」
「いやいや藤吉郎殿の方が年長な上、普請の手際を思えばそうはいきません。それに唯の礼儀に御座いますよ」
勝三が困った様な苦笑いで答えれば藤吉郎もとい、後の豊臣秀吉も同じ様な顔で頭を掻き。
「いやはや織田家の皆様は儂の様なモンでも気にせず受け入れて下さり戸惑うばかりで」
そう言って人好きのする顔でニカッと笑う。
「勝三様、新たに任され集めた普請帳に御座います。なんと安食郷の人夫まで参った次第で」
「おお、有難う御座います。昔、戦場になった安食の者が来たとなればそれは重畳。しかしこうも人が増えると勘定方が悲鳴を上げそうですね」
「ニャッハッハッハ。民は皆、飯を欲しておりますれば、それに我等が忙しいのは良い事で御座いますよ」
少し世間話をしてから藤吉郎と別れて信長の元へ。
総責任者の信長の隈凄い。
「お疲れ様で御座います殿」
「ああ、うん。お前もな勝三」
どこか儚げに笑う疲労感満載の信長に報告書を渡す。
「人夫二千九百八十三人、飯炊四千六十七か。なかなかの数だな、ん?」
信長は提言書を見て少し考え。
「手傷を負った者の案、悪くは無いが絹は唐や明の物の方が質が良い。その辺りが問題だが、まぁ自家で使う分の出費は抑えられるか。それに綿はいくらあっても足らん。大給松平が清洲を得た祝いに木綿を持って来てくれていたな……。
よし。次の評定で議題として出してみるとしよう」
「はは、有り難う御座います」
信長は頷いてから。少し思い詰めた様に。
「梅岩叔父上から喜六郎が守山に入った孫十郎の元へ頻繁に出入りしていると聞いた」
「喜六郎様が?確か御方様たっての願いでまだ末森にいらっしゃった筈……まさか!」
「うむ。勘十郎と母上が叔父上を寝返らせようとしているかも知れない。初っ端から梅岩叔父上だと警戒していると伝える様なものだ。手土産でも持って様子見に行ってくれ」
「……佐久間様と殿の昵近ぶりに恐れたのでしょうか?」
「かもしれん。だが俺はお前も関しているのでは無いかとも思うが」
「俺が?」
勝三が首を傾げると信長は思わず。
「ハハハハ!!戦ではああも聡いのに自分の事には鈍いのか」
困った顔になった勝三に詫びつつもクツクツと笑って。
「何でも権六がお前の事を自身と同等かそれ以上だと評したとかで弾正双鬼とかいってな。お前の事を西の大鬼、権六の事を東の大鬼と呼んでいるそうだ」
「それは、評価が過ぎて照れてしまいますね」
「フフフ、控えめな事だ。まぁ気晴らしに馬を駆けさせるついでと思って頼む」
「はは、有り難う御座います」
そう言って勝三は退室した。工業機械の様に仕事をこなす村井貞勝と丹羽長秀に使いに出る事を伝えてから大黒に跨る。尚、二人を囲う書類連峰と汗と共に滴る血涙は努めて無視した。
土産として信長が津島に頼んで清洲城下に移転させた酒屋から樽を受け取りハッと。
「灰入れるヤツ試してねぇ……!!」
今は忙し過ぎるが丁度、酒屋も出来た事だし忘れない様にしようと心に決めて照り付ける日光の下で出発した。半刻も掛からず守山城へ行けば竜泉寺の下にある松川の渡し、庄内川に納涼ついでで釣りに行っていると侍女が教えてくれる。
なんか小骨が引っかかる様な感覚を覚えて言われた場所まで向かった。河岸に馬が何匹か止めてあり十人足らずのオッさん達が釣り糸を垂らして納涼と釣りに興じている。
馬を降りて向かえば信長の叔父が魚を釣り上げた。
「おお、見よ大きな鯉じゃ!!」
「お見事です!この須賀才蔵、感服いたしました」
「ノハハハ!!だろう!!?儂の腕も捨てたモンでは無いわ!!!」
護衛の一人が勝三に気付いてイソイソと鯉を魚籠に入れていたオジサンに耳打ちする。
「ん?おお西の大鬼か!!」
梅岩信光より若く、信光や信長より大きな目をしていて顔立ちは余り似てないが声がデカくて血を感じる。そんな織田孫十郎信次が手を振って迎えてくれた。
尚、魚は声で逃げ散ったと思う。
勝三は片膝をつき。
「孫十郎様、お迎え頂きまして忝う御座います。主人、上総介様から言付かって暑中見舞いに酒を持って参りました」
「おお、真かな!!深田で助けられ酒まで世話されては申し訳ないな、ノハハハハハ!!」
孫十郎信次が護衛に囲まれながらイソイソと酒樽を受け取ると程同時に。
「馬を降りろ無礼者ッ!!」
何事かと見れば護衛の一人、確か須賀才蔵と言う名の者が弓に矢を番え引き絞っていた。鏃の先を見れば若武者が馬に乗ったまま近付いて来ている。
勝三は一応だが孫十郎信次達の前に出て鯉口を切っておく。そして見覚えのある顔に気付いた。
「最後の警告だ!!」
「待ッ!!」
矢を放つ須賀才蔵、射出された其れを勝三は慌てて掴んだ。
勝三に握り折られる矢。
……人間辞めてない?
勝三の手中の矢を釣られた鯉の様に口をパクパクさせて見る須賀才蔵に勝三は頭を下げ。
「失礼、ですが彼の方は」
勝三は馬が近づいて来るのに気付いて直ぐに片膝を突く。
唖然とする一同の元に引く程整った顔の若武者が首を傾げてやってくる。
「孫十郎叔父上、遅くなり申し……如何されました?」
織田喜六郎秀孝だった。護衛全員は勿論だが信次まで顔面蒼白である。不思議そうにキョロキョロと周りを見て勝三に気付きビクッとする喜六郎。
「か、かか勝三殿!!?」
今気付いたんかと言うツッコミを忘れそうになる程に挙動不審っぷりが尋常じゃない。……ちっこいからハムスターみてぇ。
「お久しぶりに御座います?」
「あ、あの、はい。噂はかねがね……」
「喜六郎様は何用で此方に?」
「あ、いやその、た、たまたまです。そう、偶々!」
まぁ織田喜六郎秀孝の存在が寝返りの証拠みたいなモンだ。しかし、それこそ暑中見舞いとでも言えば良かったのだが偶々で来る訳無いじゃん
「たまたま?」
当然の反応、不穏な空気を勝三が訝しめば須賀才蔵を始め護衛達が太刀の柄に手を添えて信次に目配せを。喜六郎秀孝はオロオロしている。
勝三は明敏に感じ取り石以上岩未満の塊を掴んで立ち上がれば青筋を浮かべ。
「今の殿は連枝衆の力を必要としています。それに清洲を手に入れてから人出が幾らいても足らない状況、今であれば謹慎程度で手を打たれるかと思いますが御話頂けますか?」
勝三が言えば孫十郎信次と喜六郎秀孝は目を合わせ太刀を抜き護衛も続く。
勝三は疑念を確信に変えて据わった眼に吐息一つ、足元の石以上岩未満の塊を突き出して。
「フンッッッ!!!!」
握り砕いた。
「皆様。今ならば、取り計らいますが?」
青筋ビッキビキでガチギレしてる勝三に周りの全員がナイアガラの滝レベルで汗を垂れ流す。
そりゃ岩砕いたもん。もうポ◯モンじゃんこんなん。剛力か怪力か。
つーか考えてみて欲しい。凡そ六尺七寸の大男が、いや自分より一尺から一尺七寸以上の身の丈の鍛え抜かれた体躯持つ男が敵意を向けて来る様を。
やってる事ガチで鬼じゃねーか。
ヤバイってコイツ。
「津木蔵人の策を採用した勘十郎兄上と母上に頼まれて断れきれずに孫十郎叔父上を寝返らせました。すみませんでした」
「その、兄上を討った道三の兵を入れた事が納得出来ず話に乗ってしまった。本当にすまなかった」
信長の前に出頭した二人が自白すれば信長は怒りはしたが二人の気性と状況に加え勝三の取り成しで、情状酌量として二人を勝三預かりで謹慎とし守山城に弟の喜蔵秀俊を入れた。
まぁ特に孫十郎信次に関しては甘いっちゃ甘い処罰だが人手が必要なのと、マウンテンゴリラと同じ檻に入れられた様なモンだからね。うん。
罰ゲームってレベルじゃねぇから。
尚、もう一度言うが二人は謹慎である。最初は遠慮してた勝三だが信長に確り働かせる様に言われたのと忙し過ぎて最終的に。
「待って下さい勝三殿、助けて、二日は寝てない!!本当にもう無理です!!見てください、山ですよコレ!!」
「あ“あ”何で裏切っちゃったかな儂ィ!え、増えた建築材料の見積もり立てろって?いや、あの、まだ人夫と飯炊きに出す今日の飯の量の計算終わってな、あ、はい、やらせて頂くから、うん。岩砕くの止めよう、な?儂一応連枝衆なんだか……すんません、はい、すんません、本当に」
みたいな感じになった。
此処でもう一回、言う。
謹慎である。




