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NAISEIは添えるだけ 右手の様に

ポイント・ブクマ有難う御座います


暇潰しにでも見てってくれたら幸いです

 勝三に久々の仕事が無い一日が来た。無論、鍛錬などは有るが小姓や馬廻の仕事全般を覚えたのと合わせ、次席大人衆政秀も死ぬ準備に掛り切りとなって初陣以来休みの無かった勝三は英気を養う様に言われたのだ。


 だが休めよう筈もなかった。あの平手中務丞政秀が死ぬと言う事を誰もが案じている。


 勝三も休みとは言え、せめて信長の為になる事をしたかった。とは言え曖昧な知識を安易に披露するには立場と確信と証拠が無く、ならば給料を得てからの準備も済んでいる研究をしようと考えれば此の休みは好機であった。


 という事で勝三はこっそり貯めていた給金を使って津島に用事があった際に買っておいた胡麻油や椿油等の油類に鉄鍋などを大黒に背負わせた。尚、油を複数用意したのは何となくだ。


 強いて言えば塵紙に書いた製造方法を試すにしても条件を変えて試した方が良いと思ったからで有る。


「何してんの勝三?」


 昨日こっそりと用意しておいた灰汁の確認していると背にかかる声。勝三は来たかと覚悟を決め振り返る。


「おう与三。ちょっと来てくれ」


 勝三は慌てる事なく前々から考えていた誤魔化しを披露するために手招き。


「耳を貸してくれ」


 首を傾げながらも共に育った仲、血が繋がって無いだけの九割九部九厘兄弟、与三は何ら疑う事なく直ぐに耳を傾ける。


「実は火薬を作れないかと思ってな」


 与三の目が開かれた。バッと勝三を見ればシーと慌てた様に口の前に人差し指を立て与三はコクコク頷く。まだ若い与三でも火薬の重要性は分かるし、そんな物を作れるとすれば利点は計り知れない。


 そんな与三の表情に勝三は凄い罪悪感を覚えながら。


「滝川様の鉄砲勝負の時に火薬を見たんだけど木炭みたいに真っ黒だった。だから黒い粉を作れば爆発するんじゃないかと思ってな」


「うぅん……それは、難しくないかな?」


 勝三は兎も角、与三の方はどうなんだろうかと言う顔である。てか無理って言って無いだけ。


 何つーか現代的に言えば小中学校くらいの頃に遠くまでチャリで遊びに行ってみようぜとなって、冷静な奴が行けるか不安そうにしてる感じ。


 あの最終的には遠過ぎて道半ばで諦めて、しかも門限に間に合わないで親に割とマジで怒られるアレ。心配した親に超絶怒られるヤツ。


 閑話休題。


 まぁ、まだ数えで十三、現代で言えば12歳だからギリ許される。大人から見れば若い二人が見通しの甘過ぎる計画を立てたと笑うくらいのヤツだ。


「無理で元々さ。でも万一出来れば殿と皆んなのためになるだろ?それに黒い粉を作れそうな物は用意しちゃったし与三も手伝ってくれよ」


「まぁそこまでしたんなら分かった。手伝うよ」


 与三は勝三が小姓になっても金を使わなかったのはこの為かと、その忠義心に少し感心しながら頷く。


「助かる」


 勝三は与三に嘘をついた罪悪感に加えて、研究の第一歩が思ったより順調な滑り出しに喜ぶという複雑な心境で那古野城を出た。


 まぁ、研究ってか試作が正しいけど。てか未だ一回も作ってねーのに良い滑り出しって言って良いのだろうか。


 二人は大黒と小白に荷物を背負わせ一里(約4㌔)程の距離の庄内川の川辺まで走った。だいたい四半刻(約三十分)で到着したからコイツら確実にヤバイ。確信を持って言うけど前々前世が飛脚か、さもなければケツにロケットブースター付いてるってコレ。


 酒壺一つを持って門前に立つ。


「恃もう。鯰の爺様はいらっしゃるか」


 ヌッと爺さんが出て来た。勝介に紹介されたここ一帯の河原者を纏め上げる爺さんだ。


「勝介殿の、勝三様だったかね」


「はい、その通りです」


「それで何用かな?」


「鯰の爺様、少し河原で試したい事がありまして」


 そう言って勝三は酒壺を差し出せば、鯰の様な髭を揺らしながら老人は目を瞬かせ。


「わざわざこんな物を?何する気だね」


「危ない事をする気は無いのですが火を焚くので」


「うぅん。まぁ森や家の無いところでやってくれ」


 さて与三に変な顔をされながら塩と灰を混ぜたりのカモフラージュである無駄な事を行う一方で、薪の灰の灰汁と油に酒を使った本命の石鹸になったら良いな液を小壺に入れ放置したら黒くなるかもと適当ほざいて持って帰る準備をする。


 まぁ後は石鹸ができる事を祈るのみだ。


 そして勝三は誤魔化す用に買った残り物の残りを見て。


「与三、まだ分かんないけどやっぱ火薬を作るのは無理だったな。なんか蕎や麦の粉はただの炭になっちまったし」


「うん。まぁ冷静に考えればこんなので作れるんなら織田家でも作ってるよね」


「そうだな」


「て言うか灰汁を油で揚げるのは二度としないでくれる?アレは火傷するかと思った。てゆーかよく混ぜれたな。しかも洗ったら鍋泡まみれになったし」


「アア、アレナー、オドロイタワー」


 一先ず塩の混ざった物だけ回収しながら話す二人。遠巻きに河原者の子供達が見ていた。石鹸作りの工程で死ぬほど熱した油と灰汁を混ぜた際に出た煙に何をしているのかと遠巻きに見ているのだ。


「この油はまだ熱いな」


「ああ。冷めるまで待とうか。鍋は幾つか有るし蕎麦粉が余ったから間食に蕎麦の切麺でも作ろうぜ。椀と箸は持って来てるから」


「蕎麦で?まぁ小麦はほぼ無いしね」


 蕎麦粉に水を入れて混ぜる。それを平たく伸ばして打粉を。前世の記憶様様である。一方で与三は片付けをしながら。


「油、全然冷めない。まぁ切麺を食べ終わる頃には冷めてるか」


 与三の言葉に勝三はハッとした。油と麺と言うのでインスタントラーメンを思い出したのだ。


「与三、油を温めてくれ」


「ん?良いけど……」


 勝三は一先ず蕎麦を茹でる。もう一つの鍋で味噌を煮込んだ。そして茹でた麺を持って来たは良いが一回も使わなかったザルに出してお湯を切った。そして少しだけ取っておき蕎麦を椀に持って与三と自分の間に置く。


「細っそ。器用だなぁ勝三は」


「だろ?ほい味噌汁」


「有り難う」


 味噌汁(マジの味噌だけ汁)に茹でた麺を入れて啜る。与三は片眉を上げて。


「え、蕎麦の切麺、美味。びっくりした」


ふぁ(ああ)ほれふぁふぉはっは(それは良かった)


「勝三、火薬よりこっちの方が喜ばれるんじゃ無……うわ半分近く無いじゃん、全部食う気か!?」


「ズゾゾゾゾゾゾヌグ、んな訳ないじゃん。後はお前のだよ」


「あぁ、それはごめん。ザルに残ってる切麺も食べよう」


「いや、これは揚げる」


「揚げる?」


 勝三は頷くと麺の水を更によく切ってから油にブッ込んだ。


「何やってんの!?」


 ジュワァヴォと音を立て跳ねる。油を大義なく無駄にし、そのまま食えばクッソ美味い物を眺めて呆然とする与三。


「糒みたいなの作れないかなって」


 何やってんのコイツって目で勝三を見上げる与三。勝三は揚がった麺を取り出して。


「なんか日持ちしそうじゃね?」


「いや針金みたいになってるけど」


 勝三は脂が切れると余していた味噌だけ汁に投入して火にかける。麺が解れたら蕎麦だが味噌ラーメンっぽい何かが出来上がった。与三はそれを受け取りながら複雑そうな顔で食べようとする勝三を見る。


「どう?」


「ちょっと油っこいけど悪くない。胡麻油の風味がする」


 与三も続く。


「うーん。まぁまぁ、うん。糒よりは良いかも。ただ油に入れない方が好きだけど」


「これも殿に持って行ってみようぜ」


 と言うわけで信長に持って行った。女中に驚かれながら作り上げて先ずは蕎麦を食べて貰った後で蕎麦のインスタント麺を食べて貰う。


「何方もなかなか美味かった。二人共器用だな。蕎麦の切麺は文句が無い。揚麺の軍糧に関しては蕎麦粉は安いが油が高いのがな。まぁ戦さ場で士気を思えば軍糧の種類が増えるのは嬉しいから油は油座にどうにかなるか」


 信長は二つの料理を食べて腹を抑えながら言う。だいぶ腹がヤバイ。


「火薬は作れ無かったけど良い料理は出来たな勝三」


「火薬?」


 与三の揶揄いと賞賛混じりの言葉に思わず問う信長、与三はまさか話しかけられるとは思っておらず少しテンパりながら。


「あ、その。勝三が火薬を作れれば殿や皆んなの助けになると色々試した序でに出来たので」


「それは……本当か鬼夜叉」


 信長は思わず幼名で問うえば勝三は照れながら。


「考えてみれば馬鹿な事を考えたものですが黒い粉を作れれば火薬になるのではないかと思いまして」


「黒い粉が火薬か?ハッハッハ!!」


 信長は勝三の心意気に対する嬉しさと、その有りがちな早とちりに微笑ましさを覚え、それらを混ぜた照れ笑いを浮かべながら。


「火薬は海の向こうから運ばれてくる硝石という白い石の粉を木炭と硫黄の粉末に混ぜて作る物だ。日の本で作るには伊賀守(橋本一巴)が曰く家畜小屋や古家の土から採れると国友が申していたらしい」


「それは」


 勝三は記憶にある古土法らしき情報に顔を驚きの表情と共に赤くする。それならば培養法も試してみる価値は大いにあると思ったからだ。


 しかし信長は寡聞を恥じたのかと慰めるように。


「いやいや俺も知ったのは最近の事。それに、そんな事より俺はお前達の思いが嬉しい」


 信長は少し考えてから。


「そうだな、蕎麦の切麺を両三蕎麦と、切麺を揚げた物は内藤麺と呼ぶとしようか。両三蕎麦は評定や祭りの時にでも家臣や民に食べさせ、内藤麺はどれ程保つか確認してから検討よう」


 信長は嬉しさ大爆発させてニヨニヨしながら言う。二人が合わせて礼を言うと頷いて。


「よし、その心意気、褒美に双方に之定の小太刀を送ろう」


 之定とは美濃の二人の名工の片割れ、和泉守兼定の作品の通称だ。二人は大盤振る舞いに目を見開き二人はバッと頭を垂れて。


「有り難き幸せ!!」


「感謝致します!!」


「うん。喜んでくれて何よりだ」


 この後、尾張国内で地味に両三蕎麦と揚げ物ブームが起きた。更に、正月に悪ノリした信長が海老揚げてみようぜって感じで燥ぎ出し、便乗した勝三の所為で卵を使わない天ぷらならぬムニエルっぽい何かが出来上がる。


 此方はうつけ揚げと命名された。


 ......一応だけど両三蕎麦の事を蕎麦切りで良くね?とか言っちゃダメだよ。

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