幕間(マクアイ)を偶にバクカンって読んじゃう。幕府幕府って読んでる所為で
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総合ポイントが一万を越えました。マジでビビりました。急遽書き上げたこの話と普通に用意してた話の計二話を投稿します。
暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。
斎服山城は物々しい光景が広がっていた。練兵に用いられる広場には甲冑を纏う本備が土俵と竹束で壁を作っている。勝三と与三が土俵の裏に控え身を守るのだ。
尋常では無い。
彼等の壁の向こうには鉄の円筒で、言ってしまえば小さなドラム缶。茶釜を作るノリで鋳型を用いて作った縁が付き円筒と逆L字の縁付きの蓋である。その円筒に水を溢れるほど入れて勝三のバカ力で縁を巻く様に釘抜きを用いて巻いたのだ。早い話が水入り巻き締め缶詰である。
尚、これだけ作っておいて驚く事に勝三はコレを缶詰だと思ってない。嘘みたいなマジの話だけども缶詰の作り方なんて知らん。はんだ付けやらアーク溶接なんてある筈もなし鍛接や鋳掛けは水が入ってるのに熱するの怖いからパワーで解決した結果だ。ともかくその缶詰をバカ熱してた。
堀ってか塹壕の様に穴を掘って中央に窯を設置し、火を焚べる者達の上に溶かす予定だった鉄板の失敗作、歪んだ鉄板で屋根を作りバカ熱してる。
「で、コレは何をしてるの?」
与三は火薬を作るなどと言って勝三が奇妙な事を始めた酷く昔の記憶を思い起こしながら言った。勝三も与三と共に実験じみた事をするのは非常に久々の事で少しだけテンション高めに。
「水を熱すると湯気が出るだろ?」
「うん」
「アレ水より出てね?って思ってな。ほら蕎麦茹でる時にさ、減ってる量と合わねぇ気がしたんだよ」
「……言われてみれば?」
「じゃあ湯気が逃げない様にしたらどうなるかなって」
与三は思った。また変な事を思い付いたものだと。また今回はどうなるか、ともだ。そして戦場を切り取った様な有様を見る。練兵のついでと言えばそうなのだろうが。
「爆発でもしそうなの?」
「下手するとな。何か三、四倍にはなりそうだなって。鉄が弾け飛んだらヤバいだろ」
「そこまでなる?」
「一応な」
*水蒸気爆発は体積1700倍になるらしいから鉄片飛んだりすると普通に死にます。居ないでしょうが良い子も悪い子もマジで真似しないでね。詳しくは蒸気機関車爆発とか蒸気圧とか水蒸気爆発で調べよう。マジでえぇ……ってなるから。
「で、どれくらいかかるの?」
「わかんね」
与三は勝三を半眼で見上げて勝三は視線を逸らす。爆発するかもしれない変化を待たせる時間が分からないとかどうかと思う。そりゃ勝三だってそう思うもん。
「……まぁ付き合わせた全員にちょっとご褒美あるから。なんかあった時に居た方がいいからよ」
「何かある前提?結構危ないなぁ……」
「まぁ一応な」
それから四半刻ほどして缶が膨らみボッと音がした。全員が即座に頭を引っ込める。そしてカオォ……ンと蓋が落ちた。
そろりと勝三が頭を上げ与三が続き各々が頭を上げていく。皆んながジッとひしゃげた缶の蓋を見て与三がポツリ。
「水って凄いんだなぁ……」
「うん。スゲェな」
「で、コレをどう使う気?」
「水車あんじゃん?」
「うん」
「アレの回転を上下運動にして槌を上下させるやつの作図を描いたじゃん?」
「うん」
「コレ使って逆に回せねぇかなって」
「……紡績機作ってる途中なのに?」
「……出来たらいいなぁ。まぁでも紡績機よりはコッチのが楽そうだと思うんだよ。大砲くり抜いて作るだろ?」
「あぁ、水車の逆って言うんだったら棒でも入れて押し出すの?」
「そうそう。燃料とか鉄とか足りるかわかんねぇけど川がないと何も作れないからな。今は」
「なるほどねぇ」
「あとコロの代わりに滑車台に線路と車輪作ったろ?」
「あぁ、あのお試しの。もっと高炉や反射炉を増やそうってなるくらいには良かったね。最悪人でも押せるし」
「アレを牛とか使わずにコレで良い感じで動かせねぇかなって」
与三は拉た鉄蓋から勝三を見て。
「……頑張って」
「ああ、義昭征伐終わったら使えなくなった大砲の中身くり抜いて棒突っ込んでやってみるわ」
「報告は?」
「そりゃするさ。さて代文割符配るぞー。あと飯作るぞー」
全く同じ時刻の大阪城信長の居館たる本丸で信長は茶坊主も無しに一人で茶を立て気儘に飲んでいた。手には数多の手紙がありそれらはすでに返信を終えていて記憶を呼び起こす為だけに見ている物だ。
「……まぁ見てみるしかあるまいな」
それは九州から齎された手紙の数々だ。信長の知るバテレンの所業と一致しない警句。毛利家の仲介で得た商人や有力者からの手紙。
今まさに傍に置かれたの物の内容は主に南蛮人に扇動された大友家の所業と技術力。それは少なくとも信長の知る宣教師達が行うとは思えない所業だった。
あまり読んでいて気持ちいい物では無い。だが何かしていないと気が休まらなかった。密偵を山ほど出してあの軍神の死に様が信じられない。
「勝三の料理本で何か作るか……」
信長が開いた一面は唐味噌汁と酒と昆布を水に漬けた出し汁を合わせ花鰹を入れて煮た汁と言う要は代用品を用いた麺つゆ的な物だった。
尚、麺つゆ程度を?と思うかもしれないが割と馳走の類である。先ず醤油っぽい物であるがコレは多聞院日記とかに載ってるヤツで唐味噌の制作過程で出来る物。酒は甘い酒を推奨し特に筑前の練酒で今は非常に希少、そして花鰹は朝廷に渡せる程のマジの献上品だ。
唐味噌汁も織田家領内で大豆の増産が始まったばかりで未だ未だ希少。正直言って信長でも偶にくらいの物で遊びに来た公家に出すとメッチャ喜ばれる。最近はうつけ揚げがちゃんと天麩羅してるし調理法も書いてた。
「……揚げ物か。一つ、二つなら。誰か居ないか!!」
信長は夕食を自分で作ると伝え蕎麦粉を練りに台所へ向かった。
大阪城内藤曲輪屋敷。此処の主人は実質的に女性である。信長の従姉妹にして養女。
彼女はすっげ久々にノンビリと気を抜いた茶会をしていた。何せ共に飲むのは気の抜ける相手であり戦友とのものだ。であれば気の張りようが無い話である。
「勝三様の仰っていた茶を揉むとは何なのでしょうか……?」
織田秀子はポツリと言った。勝三は意味の分からない事を呟く事が非常に多い。ただ意味は分からずとも彼女に限った話では無いが勝三の頭は玉手箱だと分かってる。
まぁ今回のは茶について未知の調理法を見つけたのだろうと思う。なんか緑茶とか聞いたこともない茶を所望された際に言ってた。同じ尾張の出身なのに見た事も聞いた事もない話だ。
養父の信長や勝介に問えば懐かしそうに糸車の事を話してくれた。そんな事ばかりだから彼女の旦那の言葉は聞き逃せないず、何かを勘違いしたか見間違えたかした物が上手くいきすぎる不思議な男。まぁ試作品とか言って屑鉄とか食えるか不安な物とか作り出すけど自分で処理するから御愛嬌。
「如何なさいました?」
織田秀子が視線を感じて見返せば山科稀。深淵の令嬢と言う言葉が似合う容姿を持ちながら何かを食べる際は頬をパンパンにさせる新たな戦友。生来の凄い眠そうな目を微笑ましげにした有村幸が白湯を出せば頬パンパンのまま山科稀が頭を下げてゴクンと飲む。因みにゴクン以外は所作完璧。
「姉様、勝三様が何か美味しい物を?」
なんか気持ち目を鋭く問う。商機を見出した者に似た瞳だった。内容は飲食関係だけど。
「また何時もの思い付きかと。今回はお茶の事ですから菓子とはまた違うと思いますよ?」
「菓子に合うお茶を知ったのかも知れません。唐国の煎茶の事でしょうか……」
「あら、そうかも知れませんね。勝三様はかすていらを食べる時に仰っていましたから」
彼女は事、食事に関しての感は並外れたものがある。もしかしたらそうかも知れないと微笑ましく思ってしまった。如何にも子供を相手にしている錯覚を覚えるのだ。
「勝三様の思い付き。如何にも期待してしまいます。期待しすぎもあかんのでしょうけど」
現に子供の様な表情で山科稀は自戒した。有馬幸が笑って。
「それは仕方ありませんよ。旦那様の思い付きと言えば木工師達が驚く様な物まで産み出してしまいます。その上で他の者の知恵も借りようとなされるのですから」
有馬幸は勝三から頼まれ故郷で織物の改善案を考えた者に金一封を渡す為の仲介役も任されていた。仕事が楽になる為の術から機織り機の改善案まで提案書の提出を受け取る仕事である。これは関連する職人や人足に信用されている幸にしか出来ないことだ。
勝三のそう言った姿勢を見ていれば。
「少なくとも悪い事にはならないですしね。唐国の書物でも見てみましょうか」
「それは良いです。丁度、明日は堺で魚屋さんにお邪魔しますし私も」
「ほなら私は父上に聞いてみますね。朝廷に何かあるかも知れません」
三人して笑って情報を集める程度の信頼はあった。さてさて現代的なだし茶が生まれるのは割と先の話、その制作過程で紅茶が出来ちゃうのも先の話だ。今は三人は楽しそうに菓子を食べ麦湯を飲む。
関川口河口。此処は直江津が広がる。昨年めっちゃ燃えたばかりの地。
またエッグい燃えてた。
立て直したんだろうなぁって家からギリ残ってた建物までバチクソ燃えてた。
「えぇ〜……」
それをドン引きで見てるのは滝川左近将監一益。燃やした側の人であるが非常にショックを受けていた。その横にはキレまくってる河尻肥前守秀隆。
「ワァアアアアアカアアアアアアアア!!!」
泥目、橋姫、生成、般若、真蛇で言うと真蛇くらいの顔で叫んだ。
その監軍達の視線の先は春日山城の支城砦の一つ長池山砦だった。メチャクチャ織田木瓜の旗が翻っておりメチャクチャ本備えがカチコミしてる。森傅兵衛可隆の弟とか鉄砲隊引き連れて敵の砦の屋根に乗り込んで鉛玉ブチ込んでた。
非常に合理的な言い訳を以て喜び勇んで本備えは敵の砦へ猛攻をかましてる。
「行くぞ鬼夜叉、絹!!」
「やっふううううう!!」
「いやこれ以上はダメですって奇妙様!!絹も落ち着けって!!また怒られるぞ!!」
「えぇーー……」
「ケチーー……」
信忠と絹千代が渋々。ほんと渋々って感じで金砕棒を下ろしてシュンとする。鬼夜叉はぷんぷんしながら。
「全くもう」
信忠本備え小姓馬廻衆は改めて思った。内藤鬼夜叉丸が居ないとウチやばいなって。マジで思考が突撃過ぎるのだ。
ほんで割とそれが効果的だから、うん。
右近衛大将信忠はパパそっくりである。身分不相応に注意し難い効果的突撃癖とか。気に入った相手には徹底して甘くゴリゴリに聞き分け良いトコとかは特に。
「まぁ鬼夜叉が言うのも尤もだ。また爺にどやされる。だがあの軍神が死んだのが事実とはな」
信忠は何とも複雑な感情を込めて言った。これは凡そ織田家全体に言える感覚である。あれ程強かった鮮烈なる男があっさりと死んだ事実を受け止めきれなかった。便所で死んだとか聞いた時はキレた者さえいた程だ。特に軍神の居た戦場に在陣していた者にはタチの悪い冗談に他ならない。
ただ前線にいたからこそ少なくとも上杉家に大きな変化があった事だけは確信出来たのである。元から悪かった敵の動きの悪化ぶりなどは相当な事が起きねば有り得ない程だったのも確か。故に保有している最強戦力を船舶に乗せられるだけ乗せて上陸したのだ。
したら迎撃は碌にいないわ、港に揚がれば春日山城に最も近い砦から兵が出てくるわ、少なくとも軍神が居れば有り得ない対応。
「……急がせるか。支城砦の悉くを落とし春日山城を包囲する。修理亮もそろそろだろう」
そう一先ず落ち着いた信忠は淡々と支持を出し始めた。
「歳をとったな……」
勝介は呟く様に言った。今浜の屋敷で三つの土俵で御手玉しながら。昔なら五個くらい行けたのにと口惜しい。妻鯨に抱えられた孫達がキャッキャしてるのが慰めだった。コレで老いって何?
「そう言えば義父上は?」
御手玉を継続しながら勝介は妻に 寺沢又八道盛の事を聞く。春日井郡の井上城城代である。一日の七割を寝て過ごす様になった古老。
「この前、勝三が送ってくれた桃の瓶詰を食べて少し元気になっていましたよ。食欲も少し戻ったみたいで」
「ああ、それは良かった。最近は日に六合しか食わないと聞いていたからな。食べられる物があれば安心だ」
「かすていら何かも喜んで食べてますよ。あとは餡包みとか。元気だった頃の三倍くらい食べるんです」
「……甘い物が食べたいだけではないよな?」
「…………たぶん」
「ま、まぁ仕事もしてくださってるしな、な」
「そうですね」
この数日後の事コッソリ水あめ舐めてる爺さんが発見された。