技術者もってくれよ!! (質はともかく)三百倍生産量だ!!!!!
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暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。
安国寺 一任斎恵瓊はメチャクチャ黄昏ていた。これはケジメの為であり取引先への謝罪の為で場所は備中賀陽郡高松城である。と言うかもう泣きそうになってた。
凄い微妙な顔で彼を迎えたのは勝三と清水長左衛門尉宗治。無表情で迎えたのは宇喜多三郎左衛門尉直家だった。取引先の重役(勝三)と出向社員の責任者(清水長左衛門尉宗治)と提携企業の社長(宇喜多三郎左衛門尉直家)である。
分かりやすいかと思って会社に例えたが辞めようと思う。何か胃が痛くなってきた。
「先ずは三村家の暴走を止められなかった事を深くお詫びいたします」
安国寺 一任斎恵瓊が深々と禿頭を下げた。清水長左衛門尉宗治もそれに続く。
何せ織田家には兵器船舶物資兵糧に大砲を捨ててまで助けて貰った返し切れない恩があり宇喜多家にも兵糧米などの取引をして貰っていたのである。そもそも九州の戦いでボロボロの毛利家は万が一織田家と開戦したら文字通り手も足も出ない状況なのだ。寧ろ禿頭一つ下げる程度では如何しようも無いってか禿頭一つを下げるのが最低限の状況であった。
重要なのは詫びである。賄賂っぽく聞こえるだろうが菓子折の中身。それが重要となる。
「我等は近々上洛し臣従をしようと考えております。また願わくば備中に宇喜多殿に駐屯して頂き緩衝地として頂きたく。また児島郡は織田様にお譲り致します」
安国寺 一任斎恵瓊を除く全員が絶句した。それを理解しながら続ける。
「これは言えた義理では御座いませんが宇喜多殿には、此度の戦さに同調しなかった者達に寛大な処理を願います」
「え、あ、うむ。……おん」
宇喜多三郎左衛門尉直家は錆び付いた様に頷いてしまった。宇喜多家の現領地は十万石と少々であり備後を渡されればポンと倍になる様な物である。頷いてしまうのも当然と言うしか無い事だ。
しかも領地を譲り渡すと明言するのは只事では無い。内藤家と宇喜多家が御礼参りに進軍するに合わせて備中南部が速攻降伏し中部北部が鎧袖一触だったので事実追認と言えばその通りだ。とは言え未だに抵抗する者や毛利家の判断を待っている城もある。
全員の困惑の表情に安国寺 一任斎恵瓊は諦念を乗せて吐息を漏らす。既に隠せる物では無いし如何しようも無い状況だった。
「我等は領内の反乱を懸念せねばならず、既にその兵力にも事欠くような有様。備中全域を治める余裕が無いのです」
毛利家は内に幕府権威を抱えた事で安定性を欠いていた。そこに九州での大敗が重なり麾下国人の統制が危ぶまれていたのだ。その対応を前にコレだからもう如何しようも無い。
「ですが大殿と内藤殿に牙を向いた事の重大さは理解しております。また将軍は逃げ朝廷は御怒りなのは確実となれば最早」
安国寺 一任斎恵瓊は弱々しく首を左右に振る。
「朝敵となって恩人相手に勝てぬ戦さを起こすか恩人の助成をして安定を得るかの二択なれば選択とは申せませぬ」
早い話が朝廷の権威と織田家の武力を背景に領地の立て直しを狙い織田家を主君としてその天下を率先して認めるという答えだった。
交渉で弱みを見せるのは悪手だが今回の弱みは余りにもあんまりだった。宇喜多三郎左衛門尉直家さえ毛利家を責める気にはならない無惨さだ。勝三は十二分だと考えて頷きながら少し慮って考え。
「承りました一任斎殿。直ぐに毛利様の誠意を上様と主上に伝えます。それと兵はともかく九州征伐には御協力をして頂く事になるかと」
「承知致した。宜しくお願い致します」
天正六年正月の終わりに毛利家が織田家の傘下に収まる事が天下に知られ西国に激震が走った後でついでの様に義昭が朝敵認定され天下に激震が走った。
「鉄砲もそうなんですが船の部品。それと御貸しの陣笠鎧の方を急いで欲しくて。特に陣笠鎧は船内で用いるので簡素で小さい方がいい」
勝三にそう言われたのは備前長船福岡の福岡一文字の刀匠の一人たる横山七郎衛門祐定だった。
「手回し機とか鉄火鉢か。防具に関しても分かりましたわい。農具は遅うなるが勘弁くださるんじゃろ?」
「それは勿論。無理をさせる気は有りません。それに反射炉の鋼は太刀を造るには不満でしょう?」
「まぁ玉鋼に比べれば酷いもんじゃが十分使えるじゃろ。それにおかげで道具も安くなったし金具の仕事は山の様で食いっぱぐれずすみますからの。あぁそれと水取りも少しかかりそうじゃわい」
「あら。まぁでも、それも仕方ないですね。凹凸螺子の方は?」
「大筒なら出来そうなんじゃがな……。どうしても物が大きゅうなり過ぎるわ。削って調整はしてみたが。まぁ何かと使えそうではありましたわい」
「無茶ばかりで申し訳ない」
「いやいや全く有難い事に仕事が多くて槌振りが辛くて敵わん程じゃ。特に牛に轢かせる大爪鋤何ぞ尋常ではないしの。湯治に行く者も多い事多い事」
横山七郎衛門祐定が腕を振りながら戯けて言うと勝三はふと思いだした事があった。昔なら鉄が足りず作れなかったが今なら出来る物がある。一角船で各地から砂鉄どころか鉄鉱石や石炭を集めて造るのだから。
「じゃあ水車に菱形か摘み上げた餅みたいな形をハッ付けて槌を上下にできる機械とかどうですか?動かすのに水車を作るんで川に手を入れる必要が有りますけど。鉄穴流しも大規模化したいし堤防も作れますし一石二鳥だ」
横山七郎衛門祐定が察した顔をした。無限に利益を齎してくれ過ぎる存在。それに対する畏敬に勝三は気付かず。
「棒の先に突っかかりを付けて重し代わりに槌を垂らすか。いやそれより水取りの取手部分を変えればいいじゃん……。円の淵に棒を止めて両端を輪っかにして螺子で止めて先に槌を吊るせば。ああ、真っ直ぐ落ちる様に支えがいるよな。そもそも紐で十分か?まぁ後で絵を描いておきますよ。一先ずは座の方々にはオマケする様に伝えておきます」
「大鬼様はどんな頭しとんじゃ……」
横山七郎衛門祐定は完全に引いていた。だいたい勝三が高炉だの反射炉だのを作って失敗はあれど何か成功してしまったせいで鉄の生産量がイカれてきているのだ。また鍛治師として驚嘆だがこれだけでは無いのだから。
最近は勝三が値段や材料的に断念した物の試作品を作れちゃうのである。例えば材料的に完全に生産量が限られていた石鹸とかも凄い事なってた。炭作りやらで灰の産出量が爆増して硝石の生産と合わせて灰を集めてる。更に産鉄の増加と技術習得を兼ねて油を絞る圧搾器の生産により石鹸の生産量が増えてる。
ほんの一例がこれで思い付きで鍛治に使うベルトハンマーの機構を勘違いした代物を提案して見れば感嘆と言う感情で呆れて物も言えない。
尚、勝三が今思い描いているのは水車を用いたピストン機構だ。要は蒸気機関車の逆で円運動を上下運動に変えようとしてた。この時代では得られない知見と知識にこの時代この立場故に思い付き思い出す事が多いのだ。
「まぁそれはそれとしてじゃ大鬼様」
「如何しました?」
「古備前ってあるじゃろ?」
「都が平安にあった頃から鎌倉にあった時に隆盛したっていう綺麗な備前の刀でしたね」
「うむ。アレ、作りたくてな。真金っちゅうモンが備中の賀陽にあるんじゃが。ちと採掘したい物があるんじゃよ」
「採掘と言うと砂鉄とは違う物が?」
「うむ。上手くいくか分からんのじゃがそれを入れて吹子を良く拭かせれば真金が出来るかもしれん。白い石とか焼いた貝を水と混ぜた物とか唐国から得た菱苦土石とかな。まぁどれも金がかかるで大鬼様が備中にも手が伸ばせると聞いて。まぁもし出来上がれば褒美に良いのではと」
「おお!是非お願いします。てかそれで良い鋼が出来るんなら反射炉にブチ込んでみようかな?てか貝だったら骨とかでも出来そうだし白い石の採掘もさせてみるか……。よし働き口が増えるな」
「あ、いや。そこまで期待されると困るんじゃが」
「いやいや気負わんでください。でも、もし良い鋼が出来たら御礼しますよ。良い鉄が増えればできる事も更に増えますから」
「そりゃあそうじゃのう。じゃあ出来たら仰山の鬼柳でも頂こうかの。なかなか飲めんでな」
「飲んできます?」
「そりゃあ有難いのう」
この数年後に横山七郎衛門祐定に米百俵、刀匠座には銀三掬いが授与される事となる。
尚、その時の古備前っぽい物は一振りが皇家に、一振りが織田家に、一振りが内藤家で持つ事になった。
まぁ、さておき。
「失礼致します。殿、宇喜多殿が」
最近小姓として雇った大谷紀之介と石田佐吉が現れた。
「あら、来たか。横山殿、申し訳ない。用事が出来てしまいました。国割の事ですので外せません。お詫びと言っては何ですが鬼柳を五樽程持って行ってください。座の皆さんと飲んでください」
「五?!か、辱く」
「いや申し訳ない。紀之介、すまんが酒蔵に案内して酒を手配してくれ。ついでに依頼書の方を持って行ってくれるか?」
「おまかせ下さい!」
「佐吉は俺の案内を頼む」
「は」
先導された先は斎服山城の会所。頭を下げて待っていたのは宇喜多三郎左衛門尉直家。九州征伐で勝三の麾下に入る事になったのだ。
また織田家への臣従の証として嫡男の宇喜多八郎を預ける事になっていた。
「宇喜多殿、良くいらっしゃいました」
勝三がそう言って腰をおろすと宇喜多三郎左衛門尉直家が頭を上げる。
「備後の方は如何ですか」
「触りしか分からんが問題はねぇじゃろうと思います。大鬼様の戦いぶりと織田様の傘下に入った事が効いた様じゃ。もちろん油断はできんのじゃが随分と易いわ」
「では出兵は出来そうですか」
宇喜多三郎左衛門尉直家はニヤリと笑った。
「お陰様で千ばかりは出せそうじゃわ」
「そんなに……?幾ら何でも領国の方は大丈夫なんですか。千、か千五百くらいしか残らないでしょう?」
「ああ、いや。え、何でウチの兵力を知っておいでなんじゃ……?」
「此の前の戦の感じから凡そ」
これは宇喜多征伐の時の情報が大元だが言わぬが花である。
「いやぁコワぁ……。ああ、それでじゃが清水殿がな。何とか穏当に済まそうとしてくれておって助かっとる。毛利殿の面子もあるもんじゃからコッチも強う出れんしな」
「清水殿には一筆書いておいた方が良さそうですね」
「助かりますわい」
「では本題ですが九州征伐の際の弾薬兵糧は此方が受け持ちます。今月中には朝廷の使者が帰ってくると思いますのでそれまでには。私は明日にでも出立して評定の予定ですので」
「征夷大将軍が朝敵か。武家としては何とも。感慨深いもんじゃ」
「まぁ室町の将軍は初代からして朝敵になってますし慣れたもんでしょ。延元の戦だか何だかでしたっけ?」
「いや大鬼様、朝敵って慣れるモンじゃ無かろうに……」
「そうですね成れる者じゃない。主上さえ堪忍袋の緒が切れたって事です。ヨシアキノヤロウブンナグッテヤル」
宇喜多三郎左衛門尉直家はちょっとアレ?って思ったけどスグにゾッとして何も言えなかった。勝三は割とキレている。
「まぁ兎も角も九州では宜しくお願いします」
「そりゃあ此方こそじゃ」
「はい。さて、では八郎殿は」
「当然、連れて来とるよ。今は控えさせとる。と言うか弥右衛門殿に預かって頂いとるわ。何じゃっけ?内藤様が作った紙飛行機とか言う凧に御執心じゃ」
「そりゃあ良かった。菓子でも出しましょう。顔を合わせて宇喜多殿と御母堂は出立まで御留まり下さい。客人用の屋敷がありますので」
「深甚じゃ。感謝いたします」
で、大阪城。
軍議が開かれていた。宇喜多家との臣下従属の折衝を終え、毛利家に港湾に関する折衝が済み、大広間で来たる九州征伐に付いて信長の腹心中の腹心三名だ。当然他にも居る。
織田家総領、織田太政大臣信長。
山陰軍団長、丹羽越前守長秀。
山陽軍団長、内藤備前守長忠。
四国軍団長、岩室長門守重休。
山陰副団長、木下筑前守秀吉。
山陽副団長、簗田右近大夫正次。
四国副団長、塙備中守直政。
参加者は以上の七名だ。
「この度、俺は九州を征伐する。主上の御心を解せん事は許し難いからだ。後もう良い加減鬱陶しい」
そう言った信長は真面目な顔だが思いっきりほっぺた膨らんでた。尚、実際のところはメッチャ口に物入れて喋ってるからモゴモゴ言ってて聞き取るのは無理だ。もう子供みたいに突き匙と匙を握りしめてる。
モゴモゴを聞かされた側が理解できるのは事前に話が通されており、この場にいる全員が信長の心中を察し又とても近しい思いを抱いているからである。朝廷という権威は非常に有意義な物であるのは百も承知で、その朝廷の権威は織田家にとって重要で、であれば家臣にとっても守るべき物。
そしてそれはそれとして義昭に関してはテメッボケカスゥッってテンション。だから他の者達もすごい真面目な目付きだし実際に深く頷く。まぁ信長と同様にカステラで頬っぺたパンパンだけど。蚕は寒さが苦手で囲炉裏だけでは足らない場合があるので作った試作品鉄火鉢で作ったカステラ。子供みたいに突き匙と匙を握りしめてるけど。
「ゴク……ン」
凄い大きな音を立てて信長が茶を飲んだ。となれば明朗に話す事が出来る。
「九州は、さて。毛利殿の話だと兵は多く見積もって五、六万と言ったところか。まぁ二百四十万石は越えんだろ」
これは厳密に言えば毛利家と石見銀で関係を持った博多商人の嶋井宗室茂勝と神屋宗湛貞清からの物である。当然それは凡その物で憶測も混じっていたが不確定とはいえ情報の有無であれば有った方がマシだ。またそれだけ分かれば十二分である。何せ織田家は戦力的な余裕があるのだ。
信長の軍団は山城河内丹羽摂津和泉の五ヶ国は九十六万石。大雑把に兵力にすれば二万四千。直轄大船数三十二隻。
丹羽越前守長秀の軍団は若狭丹後丹波但馬因幡伯耆の六ヶ国は九十三万石。大雑把に兵力にすれば二万。直轄大船数二十三隻。
勝三の軍団は播磨備前美作備中の四ヶ国は九十五万石。大雑把に兵力にすれば二万三千。直轄大船数二十六隻。
岩室長門守重休の軍団は紀伊淡路讃岐阿波土佐の五ヶ国は七十二万石。大雑把に兵力にすれば一万五千。直轄大船数二十八隻。
この大船と言うのは兵員三百以上を乗せられる船だ。そして備中の戦闘を踏まえた勝三の提言により輸送艦隊の場合は五隻艦隊を基本とし、三隻で兵員約千人を送り一隻を護衛として一隻を兵糧物資を運搬させる形だ。百々のつまり何処の軍団も四千人を揚陸でき十隻以上の戦闘艦隊を組めた。
「先ず周防から攻めると言う話を漏らしてから勝三は豊後に攻め入ってくれ」
「は」
「長門は勝三に船を貸してやってくれ。俺の方の船も回す。一万も一挙に上陸させれば橋頭堡は築けるだろう。勝三と俺の兵を送り終えたら長門は薩摩へ向かえ」
「承知」
「五郎左は最後に博多へ行って貰う。ただ山陰は右大将に船の大半を貸しているから俺と勝三の船団を使え。船戦も起こるだろうしな」
「承りました。お借りいたします」
「先程も言ったが勝三の後詰に俺も出るから敵の目は豊後に向くだろうが油断はするな。九州の橋頭堡が出来れば南蛮坊主のオルガンテノとフロイスに此方側の高山を行かせる。それと長門は日向の伊東を連れて行け」
ここまでが事前に説明していた事だ。謂わば改めて作戦を確認し、そして変更の無いという通達である。信長が一杯茶を飲み。
「さて——」
襖パァンッて鳴った。皆んなスッ転びそうになったが堪え開いた襖を見れば切迫した森乱だ。珍しい事である。
「急報ッッッ!!」
今?とは思った。
「上杉不識庵謙信、亡くなったとの由!!」
皆んな絶句した。