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ラァウンツー ファイッ!!

ブクマ・ポイント・いいね有難う御座います。おかげさまでランキングにも載れました。


暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。

「クソ!もう移動したのか!!」


 勝三が吼えた。ある種の象徴となった金砕棒さえ持たない。弓と太刀のみ。


 睨み見る光景は伽藍堂の村。織田家によって半ば拉致の様な避難に反発した村人の亡骸が残る。残るのは使い潰された草鞋くらい。


 もう何度目かも分からない空振り。金砕棒なら此処まで外す事は無いのに。


「……半分焦土作戦じみた真似したってのに未だ動けるのかよ。いやそれより、だ」


 村の中を見て回った勝三は驚嘆して呟いた。戦国時代で可能な範囲の物であるが言わば焦土作戦。親不知を渡れば敵は進まざる負えないが故に成したソレ。敵の死地とも言うべき範囲を龍が暴れ回っていた。最早これは正気では無い。


 戦国時代の当然だが今回の様な場合だと各地にある敵の支城には自軍の兵を分け抑えとして配置する。それは兵站と言うか糧道の確保としてと言うのも大きいが敵地で包囲されない為のものだ。要は敵の拠点から敵を出難くさせて本隊で敵の要衝を落とす。


 漫画的な例えになるが、此処は任せて先に行け、をいっぱいやる感じである。現状の上杉家に寄せれば魔王(信長)は俺が倒すから四天王(勝三)は任せたぜ的な。それを全くやってねぇのだ。


「最低限の押さえが必要な場所にさえ兵を割いてねぇ。こっちの思惑を読み切ったにせよ肝が太過ぎるぞ」


 問題はコレだ。例えば渡河地点。武田家の軍勢が籠る城を対岸に置いた地点である。


 織田家側の意図としては敢えて虎の子(武田勝頼)が送った虎の子たる武田の赤備の姿を見せて兵力の調整をする積もりだったのだ。結果として最初こそ抑えの兵を置いていたが、それを止めてただ強行軍を開始したのである。敵の兵力や進軍速度の調整用に、何よりも撤退時の撃滅の為に控えていた勝三が追う側にされていると言えば異常性も分かるだろう。


 マジで待ち構えてた側が追うって何?って感じである。コレ鬼ごっこちゃうぞ戦やぞ、上杉軍数百ちゃうぞ、下手すると万ぞ。こんなんイカれてんだろって話。


「こりゃあ一戦は必要で、その一戦は死戦になるぞ」


 勝三は敵が魚津城に到着しているのだろうと半ば諦めていた。それ程に上杉軍の行軍は怒涛、いや狂気染みていたのだ。彼等の前にある万物悉く、立ち塞がる物も、立ち塞がる者も、須く唐竹割りにしており、それを追った勝三が終ぞ天神山城に到着してしまったのだから。天神山城は魚津城から北東に一里に四半理里(約5㌖)の距離、即ち敵は凡そ七里(約28㌖)近い距離を一日で突破したのだ。


 勝三は知らない、厳密に言えば戦の事は知っていても細かくまで把握していない柴田軍と上杉軍の戦った手取川の戦い。酷い話だと本当にあったのか、とまで言われるが本当に有ったのなら正気では無いし、無いなら無いでそれくらいなら出来てしまうと思われる程に上杉軍は精強なのだ。その竜の牙を後知恵で評せば楽観していたのだと勝三は悔いる。


「てか、またかよ!!俺、今回の戦いスカされてばっかじゃねぇか!!」


 魚津城は非常に堅牢だ。元から地形を生かして堅牢だった上に水上の要塞とも言える完全武装の一角船を数隻が残している。しかし此の異様なまでに激烈な上杉軍の突破力を考えれば織田右近衛大将信忠の身が不安だった。だから若干テンションがおかしい。


 若様は結構前に出たがるからなぁ……。とかちょっと思ってるあたりマジで与三あたりに一発殴られた方が良い。別に勝三が悪いことしてんじゃ無いが無自覚というか天然ボケの領域に片足突っ込んでる。


「まぁ良い。鬼夜叉や絹、若様に傷の一つでも有ったらボコボコにしてやんよ」


 勝三は半ばキレ気味に漸く追い付いた仲間が引いてきた牛に引っ張らせていた金砕棒を掴んで言った。


 ……やっぱ己が他者から如何見えるかなんて人間そう分からんけど拳骨二発は喰らわされるべきだと思う。


 マジ何も悪く無いけど子供が真似するでしょーがって誰かツッコむべきだ。


 尚、それが出来そうな与三はコッチに来ている途中で船の上。


「少し急ぐぞ!!」


 一方、その頃の魚津城。


 の、ちょい手前。方貝川辺り。


 エゲつねぇ事が起きていた。


 ……エゲつないってかクソやばい、とかの方が良いかもしれない。


「あの、ホント帰りましょうや若様」


 政戦万能の文化人にして海の益荒男が有り得ないくらい動揺しながら言う。滝の様な汗というより大瀑布の様な冷や汗をダヴァらせてだ。そらもう汗ダヴァダヴァ過ぎて滝か川である。


「左近将監殿、だが上杉の勢いを殺さねば危ういのは確かだろう。また、それを成すには小勢では如何しようも無い。此処(魚津城)が落ちれば段取りも総崩れだ」


 一方で若き天下人の次代は至極尤もな事を言いながらメチャクチャ嬉しそうだった。勝三の時代なら今年でちょうど二十となり、ちょっとややこしいが、勝三の記憶であれば成人である。しかし起きてクリスマスプレゼントに気付いた子供の様な笑顔がそこに有った。


 滝川左近将監一益としてはマジで勘弁して欲しい。選りに選って一番ストッパーになれる傅役は信長のトコに報告行ってた。ほんで何が一番ヤベェって実際に攻撃がした方が良いってトコである。


 そりゃ重要な事ではあるが浮ついてるのは余りにもヤベェ。とは言え敵の気勢を考えれば少数では危険が多く迎撃部隊がやられれば敵の気勢は寧ろ増す。だから滝川左近将監一益は思わず。


「……ハァー」


 心底故の溜息に後ろめたさを覚えた織田右近衛大将信忠はそれを隠す様に少々怒りましたと言わんばかりの顔で。


「如何した?」


 気持ちは分かりつつも面倒臭そうにボリボリと頭を掻いてから。


「あー、まぁ万一があるといけねぇんでハッキリ言わせてもらいますが無茶はぜってぇ御法度ですぜ。特に勝三みてぇなのは無し……あの、コッチ見て貰っても?」


「アー!!聞こえない!!アーアー!!」


 滝川左近将監一益は目を細めてムンズと耳塞ぐ腕を掴んで若人の掌をその耳から離し。


「ダメですからね」


 織田右近衛大将信忠はマジでメッチャ嫌そうに頷いた。父親、傅役、勝三に諭されてるから酷く渋々だ。余りに児戯が過ぎるとも取れるがそれは憧憬と緊張が為。


 全てを己が決定して戦を差配し何より生き残るのは義務。それは次代の天下人として育てられた若人にとり覚悟の上だし、武将として敵にとって不足など有る筈も無い敵だった。どころか敵が軍神ともなれば切迫感に追われもする。


 武者震いと言うには身を固くする真っ当な危機感。それが怯懦へと成らぬ様に己の抱いた憧憬を幸いに子供じみた真似をして戯ける。そもそも自分の身の重要性は憧れた人々に重々教えられてきた。


「分かった分かった左近将監殿。だがそもそも先鋒は傅兵衛(森可隆)平八郎(団忠正)だ。私の出番など凡そ無いだろう」


「いやぁ、まぁ、そりゃあ普通ならそうなんですがねぇ。敵が敵だし戦ってなぁ万事が万事って言って足りねぇ程にゃあ思い通りに推移した試しがねぇ。気ぃ付けて足りないってこたぁ無いですよ」


「……うむ。肝に銘じよう」


 滝川左近将監一益は歴戦の男。織田家で五指に入る猛者。その忠言の価値は余りに高い。


 次代の天下人が片貝川の上流、断崖と林の影に軍勢を隠した。




 万葉に斯様な歌がある。落ち激つ片貝河の絶えぬごと、今見る人も止まず通はむ。大伴家持とか言う人の歌だそうだ。


 意味としてはバチクソに激流パねぇ片貝河は止まらねぇ、今見てる連中もマジ止まらず通るんじゃね?的な感じらしい。


 少なくとも今読んだら意訳はそんな感じだっただろう。何と言うか龍は水や水害を連想させる。また猛進する軍勢はのたうつ龍そのものだった。


 だからって越後龍が神力でも用いたかの様に飛沫一つ浴びずに濁流じみた片貝河を渡って見せるのは異常だった。


 それに続いて急流と軍流、二つの激流が交差する。


 だが神力なんて物の例えで偶然でしか無い。それこそ奇跡的に合ったとて軍神だけの物。当然の帰結で疲労困憊の上杉の兵が流れた。


 だがそこは軍神率いる上杉軍である。瞬く間に二千程の兵が渡河を完了させ、橋頭堡として守りを固める為に半円状に布陣した。とは言え策無き背水。


「今だ!!!」


 一気呵成、猪突猛進、鎧袖一触。


 一番槍を競った森傅兵衛可隆と団平八郎忠正が突っ込んだ。即応したのは軍神だった。いや正確に言う。


 軍神の備しか反応は不可能だった。他の部隊は強行軍と渡河による疲労で立つのがやっとの有様。自明の理という物だ。


 唯一軍神の張った壁は森傅兵衛可隆の突撃の勢いを殺し乱戦へと傾れ込むが、しかし故に団平八郎忠正は止まらず上杉軍を貫いた。


 また最精鋭が即座に加わり防衛戦の形成前に本備えが団平八郎忠正の開けた穴をこじ開け押し出す。


 多勢に無勢である。要は、だ。大半の上杉軍はプールから上がって立ち上がろうとした所に、ドロップキックくらって叩き落とされたに等しい。そして濁流に戻された敵へ一撃。


 そんな嵐の様な襲撃を上杉家に与えてから水上水中と言う地の利を用い少々の乱戦。織田家は軍神の後退に合わせて凡そ同時に引き上げた。


 追撃を懇願する声はあったが織田右近衛大将信忠はそれらを嗜め魚津城に帰還。最低限の守備兵を残して一角船に乗り込み北進を急がせる。


「軍神、越後龍とはよく言った物だな……」


 十八門一角船敦賀丸の船室で織田右近衛大将信忠が感嘆を漏らした。控えていた滝川左近将監一益も思い出しただけで溢れた冷や汗を拭って頷く。五年は年を取った様に錯覚する様な表情だった。


「戦の流れは圧倒だった。それこそ負ける要素なんて欠片もねぇ。だいたい行軍距離を考えりゃあ上杉が戦う余力を残してる訳がねぇんだ」


 ブルリと身を震わせ一息。


「だが、勝った今でも腰を抜かしそうになりますぜ。軍神の野郎の目は最後までコッチを伺ってた。名に違わぬってもんでしたね」


 そう。戦の流れは完璧だった。次代の天下人のあるべき姿として最上の代物だったのである。龍を倒す英雄譚とするには十二分。


 だが軍神自らが殿となって暴れ出した時は誰もが敵の正気と己が目を疑った。信長が祖父を救う為に出陣した大良での戦いなどで殿を担ったと聞いたことはあったが当時の信長と今の軍神では規模と価値が違う。それだけ軍神を追い込んだ事は確かだが恐ろしい程の反撃を許してしまった。


 追撃の献策は切迫と弱った上杉家を今討たねば殺されると言う強迫観念からの物だ茶程で有る。


「我、毘沙門天、足り!!」


 そう高々とその身を晒して吼え、次代の天下人の軍勢で最も精強な森勢を蹂躙、極限まで殿軍として身を晒していたのだ。


 当然だが違和感しかなかった。当たり前である。いったい何処に数十万石の当主が身を晒して殿なんぞするのか。先頭に立って突撃の時点で割と大概なのに殿はマジで論外って話じゃない。だからこそ追撃は不可能だった。


 何がタチ悪いって上杉家の狙いとしては軍神を餌に逆に敵を川に引き摺り込んで織田家の次代を殺す気だったのだから恐ろしい。


 何故わかったかと言えば軍神が居なくなってから撤収した弓鉄砲を集中配備した備が居たからだ。


「やはり事前の策通りに動くべきだな。さぁ龍が居ぬ間に今町(直江津)を焼くぞ。一角船の航続距離がバレてなければ良いが……」


「怖い事言わんで下さいや」


 一方その頃の勝三。


「ミィツケタ……」


 ()退()する上杉軍の前に横陣を敷いていた。


 勝三はキレている。信じられないくらい激昂していた。許せる物ではない。


 上杉家との緒戦での己の間抜けぶりに。


「オワッテンダヨ……」


 て、言う自己評価だった。いやアレである。普通に上杉家が出来る限りの事前準備、要は強力な部隊との接敵回避に注力した結果だ。


 戦場の霧という錯誤を当然とした隠れ蓑がある。その霧を晴らすのは凡そ敵の兵数と彼我の間にある拠点の状況。その霧を晴らす為に拠点の状況を織田家がある程度制御して敵の位置の補足を可能にしていた。それが故に上杉家にとっても織田家の臨進軍路が余りにも露骨だった弊害である。


 上杉家にとり織田家の戦略を戦術でひっくり返す以上は敵の弱点に的確且つ用意できる最大の兵を当て無ければならなかった。


 織田家が此の時代の拠点、即ち半分蛮族みてぇな村民を制御したのが先ず狂ってて、そして上杉家が早い話が飯も食わさずに前進とか狂ってる。ヤベェのとヤベェのがヤベェ感じで争った結果だ。まぁ其れは其れ、此れは此れとして。


 勝三は己が許せない。


「ダカラ、マジダ」


 汚名返上は敵の撃滅で成す積もりだった。黒金の鎧兜に黒駒の甲斐八升に跨り黒金の金砕棒を握る。九尺(約210㌢)に届こう身で六尺(約180㌢)の馬体に跨り一丈半(約4.5㍍)の得物を握ったのだ。満ち満ちた戦意は鬼に相違無く黒い大鬼が顕現したかの様であった。そして鬼の相貌が竹に雀紋の旗を睨む。


「突撃イイイイイイイイイイイイイイ!!!」


 ドっと。たった五十騎。十分だ。


 如何な上杉軍とて、だ。上野(群馬)で戦い 出羽(秋田山県)で戦い越中(富山)で戦い信濃(長野)で戦い、また 越中(富山)で戦い目的を諦めれば行軍が出来ている時点で異常である。


 もうちょっと想像しやすく言えば日本海などを用いた水運があるとは言えだ。165㌖移動して戦い、360㌖移動して戦い、390㌖移動して戦い、180㌖移動して戦い、150㌖移動して戦い負けた帰りに襲われた形である。例えとして移動を遠征に変換して戦うの所を運動部の部活動にでも変えれば上杉家のヤバさが少しはわかるだろうか。


 まぁ死ぬよね普通に。余裕で死ねるよね。その最後に暴走族に襲われる感じ。


 終わってない?


 勝三の記憶にある中国大返しだって230㌖やぞ。勝三は知らんけど北畠顕家だって1000㌖とかじゃん。事前準備と略奪と船ありきとしてモンゴル軍かって話だ。


 そしてそんな人智を超えた所業、それを成し得た益荒男達が黒い大鬼の一振りで三人、下手をすれば五人と死んでいく。


 それは無粋に、何より有りの儘に言えば機械的だった。稲刈りか酷い時など除雪車の突進の様に黒い鬼の生み出す黒によって紛う事無き英雄たちが轢き殺されて行くのだ。勝三に続く騎馬隊も酷い物で向かおうが逃げようが止まろうが射殺した。


 後に生き残った者達が言うには黒金の後光を背負った黒鬼が矢を撒き散らしながら仲間を砕いて迫って来たなどと言っていたそうだ。


「いやぁ……俺よか鬼神だろうよ」


 それの前に立ちはだかったのは本庄越前守繁長だった。


 風切り音と言うには重々しい轟音を背負い、地面では無く亡骸を踏み砕いて蹄を鳴らし、背から全てを貫く矢を発生させる鬼の馬群。


 そんな真黒な大鬼の前に筒を担いで立ち塞がったのだ。


「お前さんもやったらしいなぁ……!」


 可笑しそうに言う本庄越前守繁長が構えるのは抱大筒。城門破砕に用いる代物で鬼を討とうと砲口を馬の頭に。ドウッと黒を倒す鉛玉を追って白煙が広がった。


 黒駒の顔に直進する拳程の鉛玉。


 大鬼が回していた黒金を止めて振り上げれば人馬一体に黒馬が大きく斜め前に跳ねた。それはポロか馬球か日本であれば打毬を髣髴とさせる。だが動作は騎馬での追撃に於いてあり触れた馬上からの一振り。


「牽制にもなりゃしねぇ……」


 鉛玉はガンと打ち返されて飛ぶ。己に向かって迫るそれを首傾げて避けた本庄越前守繁長は大きな溜息。振り返れば当然だが遂に起きた壊乱。


「あーあー最後かねぇ……コレが」


 頭垂れて二度目の嘆息は全身脱力させた様なダラリとした様。しかしガッと上げた顔には月の様に口角を釣り上げ眼光を輝かせいていた。そして走り大身槍を大地に突き刺し棒高跳びの要領で飛ぶ。


 フワリと浮く様な飛翔の軌跡は鬼神の眼光と穂先の銀光だけが続く。地面から抜けた大身槍はしなる様に軌道を描いくが黒が迫り。


「え?」


 勝三は驚愕した。またもや走馬灯の様に蘇る小さな武士より武士らしい公家の老人。北畠散位具教の曲芸じみた戦いの才能。彼の老人は歳分不相応に戦意を持つが年相応に小型だったが鬼神は違う。剛力相応に大柄な体躯で余りにも軽やかに己の金砕棒を蹴り足場としたのだ。


 いや、そこにも驚いた。驚いたが本当に驚いたのはその次の動きである。大身槍を突き付けるでも無く横に薙ぐでもなかった。空中で大きく身を大の字に広げて飛びかかってきたのだ。


 未だドロップキックとかのが理解できた。だが故に実態その身を投網代わりにのしかかって勝三を落馬させたのである。余りの意表に勝三はそのまま落馬してしまう。


 続く馬群先頭の藤堂与右衛門高虎が慌てて散開指示を出して避けた。そして勝三は反射的にせめて道連れにしようと片腕で引き剥がし放り投げる。結果としてズズンと大鬼と鬼神が落ちた。


「ガッ……ああ!!」


「ゴアッ……?!」


 互いの落下地点は数歩の距離。


「ガアアアアアアアアアアアアア!!!」


 と、大鬼が吼えて腕も使わず飛び立ち上がり金砕棒を握り、今立とうとする本庄越前守繁長へ駆け出し襲う。


「イ、テテテ……うお!」


 それに大身槍を杖代わりに何とか立ち上がった本庄越前守繁長は飛び起きた。振り上げられた金砕棒が落ちて地を破砕して尚も止まらない。一撃一撃が必殺で地面に当たれば土塊が炸裂する。


「……待っ、クソ!!ちょと待て」


 待つ訳が無い。それを承知で思わず言ってしまう程の勢いと数と圧力。塗りつぶす様な黒の合間を縫う様に鬼神は飛んで屈んで下がって逸らして避け続ける。足元から時折だが飛ぶ土塊は視界の邪魔で大身槍を振るう余裕さえ奪う。それ悉く必殺。


「……ッ!!」


 黒が落ちて砕け跳ね上がり炸裂する地面を鬼神が避けた。


 鬼神が避けた後には噴火口状の陥没と散乱した土が残る。


 星代わりに黒い鉄塊が落ちて月の肌が如く変わっていく。


 最早それは流星群の様に降り注ぎ噴火の様に噴き上がる。


 無限にも感じる時間が過ぎて数えるも億劫な死を避けた。


「クソアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 だが先に痺れを切らしたのは大鬼。全身全霊に全集全力を叩き込む。その一撃は正に鬼のソレだった。


 大地を圧し割らんばかりで土塊どころ地表そのものが分厚い本を閉じる様に捲れ上がる。


 最早それは敵も味方も意味不明で驚天かはさておき実際に動地だった。普通に理解できる訳がねぇ。誰も理解できない。


「巫山戯ろよ!!!」


 鬼神は間一髪で飛び退いた。


 その着地先は驚く馬廻達だ。


 無論だが勝三の味方である。


「あーあー……」


 本庄越前守繁長は一帯を見渡し満足そうに頷く。地表が重力に合わせて崩れ行き大鬼の相貌が光った。次の瞬間には一直線に迫り対して大身槍を投げ捨てるように地へ突き刺す。


「はい!降参!無理!!」


 何処か満足げに両手を上げる本庄越前守繁長の腕の一寸先でビタリと金砕棒が止まった。


「多少は逃げたクセェしもう十分尽くしたろぉよ。って事で本庄家は織田家に降伏するぜ大鬼殿よ。俺ァ頭丸めても良いし腹切っても良いぜケハハハハハハァ!!」


 数日後に本庄越前守繁長が松倉城と交渉の末に河田豊前長親が自刃。下間丹後法印頼総および下間筑後法橋頼照以下の本願寺勢は斬首され開城。


 越中国は織田家の支配する所となり内容はともかく外から見れば竜頭蛇尾な結果を残し越中の戦は終わったので有る。

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