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ラァウンワン ファイッ!!

感想、ブクマ、ポイント、いいね有難うございます。ちょいちょいランキングにも載せて頂きました。


暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。

 英雄、それは人々に敬慕される者。


 英雄、それは鮮烈にして華々しい者。


 英雄、それは無理も難題も越え得る者。


 英雄、それは誰もが焦がれ誰もが成りたがらない者。


 英雄、それは何よりも無思慮で厚顔無恥な呼びかけ。そう呼ばれるに足る者達の苦労を思えば余りに酷な言葉。そう呼ばれる者を見て勝手に感じ入った者が吐く物。


 だが敢えて言おう。


 だが敢えて呼ぼう。


 彼は英雄だ。


「ヤベえ!!流石に楽しくなってきた!!最高だわ!!」


 冗談の様な話で冗談の様な戦いである。当初の目的と言うか狙いは勝三を、少弐朝臣内藤備前守勝左衛門長忠という天下無双の男を退けたと思わせる為の、織田家最強どころか今世代最強の男を退けたと言う希望を見せる為の配置。一当てして帰るだけの難しいが単純な話の筈だった。


 実際に宮崎城で一度敵の勢いを削り夜間に城を出るまでは想定通り。織田家の将軍だが尖兵として粋軒昂な敵を即死させあの世行きにして気合いで何とかしようとした敵を薙ぎ倒したのだ。


 山道を登ってきた敵に城門を開けて左右城壁含め三方向から狭間筒での狙撃、置き楯を構えた敵の銃撃は金砕棒担いで潜り込み足元を薙ぎ払い、撤退する敵への追撃など瞬間移動のようで殿に残った敵の猛者を地面に叩きつけたのである。だが誘引の為に悠々と撤退を始めたところで敵に食いつかれ数的不利となり本当の撤退となったのだ。退路は隘路でそれも越後の鬼神ともなれば勝三が出ざる終えなかった。


「冗談じゃねぇ!!!」


 銀円と黒円が二つ。


 前者は大身槍で後者は金砕棒だ。


 北に波飛沫に岩と南に断崖に木。


 鬼神と大鬼が東西。


「ケハハハハハハハハハハハハハ!!」


 鬼神が笑い飛沫砂塵を払って円がぶつかり火花を散らす。


「やっと!待ちに待ったこの時が来たぜ!!」


 勢いで真横に飛ぶに合わせ身を捻り木の幹へ立って笑う。


「しかもオメェは総大将で殿かますバカ!!」


 幹を蹴飛ばして大鬼に斬りかかり流れる様に突いて払う。


「そしてンなバカやって頷く無双の武勇!!」


 三蓮撃を避けられ一呼吸の後に降ってくる地砕く金砕棒。


「たまらねぇ程に血肉が湧き立つ戦いだ!!」


 辛うじて避けて大身槍振り落とせば金砕棒が受け止めた。


「本ンッッッッ当最高だぜ少弐備前殿オ!!」


 一方的に捲し立てられた勝三は黒鉄握り小揺るぎもせず。


「全ッッッ然、褒められてる気がしねぇ!!」


「褒めてる訳ねぇだろ殿するバカなんて!!」


 戦いは早く重い。


 本庄越前守繁長は木や岩を足場に飛び跳ねていた。


 京の五条の橋の上ならぬ(越州)の難所の崖の下。


 勝三が木を薙ぎ倒し岩を投げて引き離そうと暴れる。


 隘なる地の死戦。


「ッシ!!」


 本庄越前守繁長は地を這う様に飛び跳ねて勝三が飛ばす枝や岩を避け掬い上げる様にその足元にあった石を掴み投げる。


 鋭く飛んだ飛礫は勝三が振り回す金砕棒によって粉へと変わる。


 波も砂塵も木屑さえも粉々にする黒い円。


 だが故に飛びかかった。


 己も同じく盾代わりに回していた大身槍の回転を止めて突き出す。


 金砕棒は重く勢いが止まらない。


 鋒が進む。


 が、それは倒された木に止められた。


 勝三が咄嗟に掴みヘシ折って己の盾とした木にだ。


「ケハハ、いや細いたぁいえ。普通に人間のやるこっちゃねぇぜ大鬼殿よォ。今、雷みてぇな音してたぞ」


「いや、鬼神殿。あんな猫ってか虎か獅子みたいな動きされながら言われましても。て言うか穂先思いっきり貫通してるし」


 本庄越前守繁長が片眉をあげ。


「あ……」


 しまったと言わんばかり。


 そして勝三がニヤっとした。


 木に大身槍が突き刺さってる。


(ふん)ヌァッ!!」


「ックソガァア!!!!」


 勝三は気合い一喝ブン投げて本庄越前守繁長は慌てて槍を横薙ぎに振るう。


 ボッと発破された様な音と共に投げ飛ばされた木は半ばから唐竹割にされていた。


 勝三が舌打ちし本庄越前守繁長が安堵して大きく息を吐き即座に飛び退く。


「あっぶねぇ……」


 ゾっとした。本庄越前守繁長は心底恐れた。そして笑った。


「やっぱイイわアンタ」


 勝三はワッシィ……と顔を歪める。


 メチャクチャ嫌そう。


 まぁ超イヤだし。


「ンだその顔、大鬼テメェ」


「いやコエェーですよ」


「鬼神だぞこちとらナメ、てはねぇな。と言うかナメろ。そして死ね」


「何つー理不尽」


 素っとボケた様なやり取り。


 しかしその言葉よりも応酬するのは死そのもの。本庄越前守繁長の大身槍が周り勝三の金砕棒が回る。何方の一撃も当たれば死に直結する物だ。


 体重を乗せた大身槍は大木を貫き体諸共回した金砕棒は岩を砕く。


 刺さった大身槍を支点に体を回して散弾の様に飛んだ石飛礫を避け、着地すると共に大身槍を抜き振り払う。


 暫しの停滞に波風が響いた。


「帰って良いスかね?」


「……そりゃあねぇだろ大鬼さんよぉ」


 宮崎浜の淵で偶発的と言うか強引に始まった二匹の鬼の戦いだが、勝三は普通に帰りたかった。


 強い相手と戦うのは良い。良いけど作戦がオジャンになるのは困る。


 なんせ若様の戦いに泥を塗りかねないのだ。あと若干テンションに付いていけねぇ。が、引くに引けない。


「冷めた事ォ吐いたんだ。逃がさねぇぞ大鬼。その首置いてけやァッ!!!」


「ああああ!!もう!!取ってみろやア!!」


 なんか両方急にブチギレた。


 そこからは言語を絶す様な鬼神と大鬼が人外の戦。


 とは言え既に地砕き浜削り。


「来ぃやあアアアアアアアアアアアア!!」


「行くぞぉラアアアアアアアアアアア!!」


 大鬼の咆哮に鬼神が共鳴し獅子か虎の如く鬼神が槍を握り飛びかかる。


 浜に足を取られて尚も俊敏なそれは次の瞬間には大鬼の目の前に在り。


 そして槍を突き出す事を諦めて空中で身を翻して槍を振れば黒が迫る。


 それは大鬼の持つ無双の怪力が黒金の棒を用いて空に描く横薙ぎの扇。


 槍棒が交差して空気を押し除け広がり雷鳴雷光と見紛う音火花が轟く。


 そう打ち返された勢いまま槍を身に固定する様に握れば周り進む鬼神。


 その奇妙な宙を槍と共に回りながらの直進は槍の振り下ろしを落とす。


 その奇妙でしかし鋭利な槍の一撃は逆輪を掌底でカチ上げられて防ぐ。


 過ぎ去った鬼神の槍は着地した木の枝を軽々と切り落としてまた飛ぶ。


 羽の淵に当たれば全てを断つ竹蜻蛉が飛びかかって大鬼が全てを捌く。


『北畠散位(具教)かよ!!』


 十数号撃ち死合う交差を繰り返して漸く冷静になった勝三は攻撃を去なし弾いて伊勢での戦いを思い出していた。


 元の時代で言えば星間戦争の緑のじーちゃんの様に、今の時代に沿って言えば牛若丸の様に、まぁ飛び跳ねた牛若丸も正確に言えば江戸時代辺りっぽいが舞う鬼神。


 ただ持ってるのは笛や太刀ないしライト◯イバーではなく大身槍、んで何がタチ悪いってライト◯イバーくらい切れる。


 一瞬一火。止めどなく火花が郁恵散る。だが音と衝撃は極めて重い。


 曲芸軽技の様な動きである。飛んで跳ねて宙を周り回って四方八方から迫るは死。小柄どころか大柄な身体が残像さえ残し迫る。


 尋常では無い手合だ。勝三はそう思う。五年前なら負けていた筈だ。


「〜〜っテメェ一体全体どんな体力してやがる大鬼ィッ!!」


 息を切らせる事は無い。無いが人生で続けた事の長期戦に鬼神が距離を取って思わず吼えた。それは唐突にも感じた。


 が、当然である。外から見れば大鬼は防戦一方、鬼神は攻勢一方に見えた。それは正しい光景。


 だが考えて欲しい。その場で立ってる者と四方八方飛び回ってる者の何方が疲れるか。極端だが状況はソレである。


「掛かりましたね鬼神殿、いや本庄殿。俺は体力を残していた。優位は此方にあります」


「……クソ。メチャクチャ腹立つシタリ顔で普通のこと言ってるのに事実だから何も言えねぇ。てかテメェ守り硬すぎだろ壁かよ」


「え?照れますね」


「嬉しそうにすんな腹立つわ」


 鬼神も大鬼も言葉を交わしながら隙を窺う。


 棒は周り槍は不動。


 唐突にゴッと突風、不意の其れ、目を瞑る。


「……ッチ」


 鬼神は不満そのまま舌打ち一つ腕で顔を守った。飛沫と木の葉が唸り目を守る為に。腕を下ろせば無人。


「野郎アレだけ言って消えやがった。罠張ってやがるな。させるか!!」


 木と断崖が消えて浜の奥へ目をやれば大鬼の背中は遠い向こう。


「……アイツ、足早くね?」


 追おうとしてハタと気付く。


 気付いて思わずドン引きして足を止めた。


 甲冑フル装備に金砕棒持って浜ダッシュの速さじゃねぇ。


「ハァーーーーーーーーー、あ」


 鬼神はながぁ〜い溜息を一つ槍を担ぐ。


「罠と分かって突っ込めってか」


 振り返って有る筈も無い希望を見た兵を見てコッソリともう一度タメ息を漏らした。


 その後の上杉軍の進軍は順調だった。非常に鬱陶しい馬防柵や木を退けるのに時間は食ったが被害なく進軍し南保城まで進んだ。


 だがそこまでだった。背の横尾城に兵を割き南保城に兵を割き館之(三枚橋)城へ向かう為に渡河地点を見つけ渡り赤備えを見る。見覚えのある赤備え。


「山県だなアレは」


 軍神が遠くを睨み呟く。その言葉を聞いて誰もが視線を追った。そして確かに甲斐で討ち損ねた赤備が越中に居たのだ。幻かと己が目を疑い愕然とする。だが錯覚では無かった。


「態と見せ付けて参りましたか」


 千坂対馬守景親が淡々と言えば軍神は頷く。


「これで誰も気()休められ()くなった」


 稀有な軍神の苛立ちが混じりの呟きだった。


 さて上杉家の現状である。分かりやすく言ってしまえば備中高松城の毛利軍に等しい。何の因果か西の事象が東で起きたのだ。


 だが毛利家より尚酷い状況である。単純に兵数や将の数もそうだが上杉軍は駐屯できる拠点や土地がない。どころか武田の赤備に何時攻撃を受けるか分からない状況だった。その状況で味方の包囲された松倉城まで行く必要がある。


 それは誘引策だとわかって尚、政治的に必要な事。上杉家の政治力の根幹にあるメチャクチャ戦争に強い印象。その崩壊と上杉家の確実な経済的死を天秤にかけた結果だ。


 そう何方を選んでも滅びるなら一矢報いる。


「成る程なぁ……」


 窮鼠猫を噛むと言う。だが此処は窮龍が居た。いや、まぁちょと窮し過ぎてるけど......。

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