信長総大将+若様の戦+息子+大戦+手本終了−ツッコミ役=?
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北山の麓で沼と川と海に囲まれた城が建っている。その城の浜の向こう海の上に西から数多の白帆が進んでいた。角を生やし三角の帆を張り観音開きに二枚の帆を広げる最も巨大な船の上。
「アレが魚津城か。城というか湊だな。だが要衝に置いてある」
旗艦を乗り換えた織田右近衛大将信忠が言った。評定は済ませており陸に柴田軍団の側面を守る体で軍勢を置き、海から主力を叩きつけ一挙に魚津城を落とす算段だ。魚津城は退路に相当する地であり大筒を用いる価値がある。
倍以上どころでは無い兵を当てれば敵の対応能力は飽和して当然で、だからこそ魚津城攻めは危険だが難しい戦いでは無い。
が、それはそれとして、だ。総大将である織田右近衛大将信忠は懸念する。
「で、敵の船が全くないのは普通か?」
「そう言えば皆、訝しんでは居ましたな」
河尻肥前守秀隆が淡々と、しかし綽綽と答えた。今回の戦は次代の側近、即ち若い連中も居る。浮き足立たない様、殊更に余裕を感じさせる為。
しかし織田右近衛大将信忠は大将として懸念点を聞いておきたい。歴戦の将たる傅役の意図は分かるが開戦前に答えが欲しかった。だから少々の、そうムクれた様に。
「それは爺もだろう。現状で船はないのはおかしい。此れでは敵は撤退さえままならん。とすると敵の策の可能性が高い、が。割く兵が上杉にあるのか?」
「越後の、と言うより上杉の兵力は万は越えますまい。越後を覆う越中、信濃、出羽、関東を含めましても万と少々。しかし其れ等の国にも最低限の守兵は必須に御座います。実際に兵を割いているのは武田家や北条家の話を鑑みれば先ず間違いないかと。兵站んも鑑みれば越後まで我等が進んで漸く万を越えましょう」
「うむ。まぁ物見も出したし遊兵も多めに確保した。陸からの伝令も来ないか。これ以上は憂悶、怯懦となるか」
船の事は頭の片隅に留めつつも度が過ぎる警戒は士気に関わる。そう大勢である事は間違い無いと織田右近衛大将信忠は一息。
「開戦!!」
凛々しく、いっそ美しく戦場に響く号令。
交戦旗が登るのに一歩遅れて法螺の音が響き渡り広がる。一斉に舵柄が倒され綱と滑車と梃子を伝って舵と船体が傾いて帆が動く。魚津城に一角船の群が突進していった。
其処からは正直言って大村城攻めより酷。
「うわぁ……」
こう言ったのは織田右近衛大将信忠。でも皆んな気持ちは同じである。やった側の全員があんまりな光景うわぁ……って。
それは先行した五隻の船団だ。他の船団は直進だがこの五隻は一度大きく切り返し浜に鋭角に突っ込んで行って乗り上げ城へ腹を見せた。其れ等の一角船敦賀丸が率い五隻からなる四貫砲四十九門、西洋帆船が乗っけるデミ・カノン相当の一斉射が齎したソレ。轟音と共に魚津城の西側の物悉くを平らにしてしまったのだ。
当たり前だが白煙の中に盲撃ちで防ぎ矢をブチ込みまくってるあたり徹底してる。やってる側の反応では無いがまぁ、そう言う反応にもなるよねっていう。……うん。
しかし其れは俯瞰で物を見れる位置にいる場合だ。
「良し!!行くぞお!!」
旗艦十二門一角船菅浜丸が帆を上げて錨を下ろし制動機として、浜に上がった敦賀丸を盾にして止まる。碇の綱が伸び切り敦賀丸の横腹に一角が触れる事なくピタリとだ。菅浜丸の横腹に綱の網が降ろされ続いて金砕棒を担いだ大武者が立った。
「粟屋殿、息子達の事。頼みます。鬼夜叉、絹、(正式な)初陣に備えて良く見ててくれ」
誰あろう、勝三だ。なんか妙にカッコ付けてっけど。思いっきり滑ってるけども。
「……」
粟屋越中守勝久は白目を向いた。
「えーっと……ハイ」
鬼夜叉丸は恥ずかしそうである。
「……落ち着いてね父上。ホントに」
絹千代は超冷静にツッコミんだ。
まぁアレだ。現代的価値観もまた勝三の一部である。単身赴任の親的な感じの勝三は息子達に何かしてやれる好機に燥いでいた。残念ながらストッパーが居ねぇから暴走してるって言っても良い。兵員交代が悔やまれるばかりだ。
まぁ空回りまくってるが。なんなら歯車だとすれば噛み合うべき歯がない状態で高速回転してる様な有様だけど。まぁ、うん、開戦は開戦である。
「とうっ!!」
勝三はそう言って欄干より飛び降りる。
で、ドッボーーーーーーーーンいうた。
駄々滑り此処に極まれりって感じよね。
「未だ伝馬船を降ろしてませんよ!!?」
少々遅いけど粟屋越中守勝久がツッコミながら欄干を掴み下を覗き込む。何か水面の上に立つ鉄の柱の下に黒いクラゲが浮いてる。覗き込んだ者達は信じたく無いがアレが織田家で最強と言われる勝三だ。
粟屋越中守勝久は頭形兜って上から見るとクラゲっぽいんだなぁって思った。
織田家家中の軍事評価において三本の指に入り、様々な技術を生み出して巨万の富を築いた男。
今は空回りクルクルの張り切りパパ。だが海水に浸かって少し冷静になったらしい。てか首まで海に浸かったら冷静にもなるよね。
「……意外と深いな」
メッチャクソにテンション下がった勝三が呟いた。息子も同僚も部下も何も言えん。凄い気不味い。どうしてくれるん……この空気。
「……粟屋殿、伝馬船の用意を。あと未だ深いんで気を付けるよう言ってください。火薬を濡らさないように」
恥を承知で勝三が船を見上げて言う。どの口が正論言ってんねんと勝三の自己嫌悪が爆発するが粟屋越中守勝久はホッとした。変な空気を払底し継続しない様。
「……承った」
注意はしたんだけど海水ドボンからの余りにも淡々とした真っ当な指示に返事を絞り出す努力が必要だった。
アホとマトモの差が凄いて。富士山と駿河湾の高低差くらいあるって。
……さてハッチャケた約一名が泳いで傍に避ければソイツを除いて整然と準備が進む。
「伝馬、つけろッ!!」
粟屋越中守勝久が声を張れば水夫達が手早く縄を放り投げる。菅浜丸の傍にまで進んで止まっていた伝馬船が縄を受け取ればその綱を引いて沿う様に泊まる。一角船を起点とした船橋の様にも見える光景だ。
伝馬船とは要はカッターボートであり船の乗り入れや物資搬入、船の沈没時に使う手漕ぎ船だ。基本は凡そ救命用に船に載せた小型の物を言うが今回の様な場合は曳舟している小早程度の物も其の内になる。
伝馬船の後部左右に漕ぎ手が並ぶ、前部には弓鉄砲を持つ兵が乗り込み正面には置き盾、後は全て将兵がギッチリと載せられていた。移動可能な兵は一隻で三十がギリギリであり竹束なども有れば更に減り二回か三回に分ける必要があった。
「じゃあ俺はこのまま行くんで竹束落として貰えますか!」
「え?」
何か言ってる元ヤル気空転クラゲ(勝三)。粟屋越中守勝久は戦中なのにボソッと聞き返す事しか出来なかった。
そらしゃーない。
空回りで言ってんのかガチで言ってるか分かんねぇもん。
ただ勝三は淡々と。
「いや、俺デカすぎるんで」
「……確かに?」
ツッコミ役が今死んだ。ほんと与三はコッチに向かってる途中で、交代要員を下げる為に次郎が居らず、せめて稲田 大炊助影継が居れば正常化できたろうに。海を割って進む総大将が爆誕だ。
何がタチ悪いって勝三がデカ過ぎて二、三人分のスペースが必要だから混乱してる粟屋越中守勝久が『アレ?そうなんだ』って納得しちゃってるし割としゃーない事である。
尚、やらかしてる奴の息子二名は二人して顔を手で覆っている。授業参観に来た親がバリバリに浮いた格好してる子みたいな居た堪れなさがあった。親が超気張ってくれたのは分かるけど恥ずかしいが過ぎる的な。
いや、うん、周りとしてはドンマイ的な一言を捧げたい感じ。
「む……」
勝三が敵の港に大筒をブチ込んでいた敦賀丸の帆柱に攻勢開始の旗が登るのを見た。
「行くぞォッ!!」
勝三がブンと、いやまぁ厳密に言えばバッシャアと金砕棒を降って走り出す。
法螺が響き太鼓が乱打され各所の伝馬船が一挙に進み出した。
本当にお願いだから首から下を海水に浸した状態で船と並走しないでほしい。
「お、おおおおおおおおおおおおおおお?!」
これは廃墟と化した港町に控えていた敵将の声だ。気炎じゃ無くて悲鳴よりだけど。まぁ当たり前である。だって海から鉄の塊が迫って来たら訳わかんねーもん。絵面完全に鉄の海坊主やぞ。普通に怖いわ。
「良いか竹束を確と構えよ!!敵が上陸してくれば大筒は撃てん!!各々が狙い撃て!!」
とは言え歴戦たる上杉家の将、元は信濃の出だが武田家に追い出されて以来、川中島にも出て生き残った男は良い指揮を取る。
織田家の砲撃が終わり揚陸を始めたと同時に迎撃に出たのだから完璧だ。
海面を滑る様に進む伝馬船。其れに並走するどころか先導する勝三。船から白煙と弓矢が飛び始め迎撃の矢玉と交差を始めた。磯の香りに硝煙と血の匂いが混ざっていく。
「オッシャやったるぜェェェェェェェッ!!」
ほんでコイツ本当に雑音だろ。上陸の絵面ガ◯ダムに出てくる水泳部やぞ絵面が。マジ北極に強襲でもかける気ですか。
いや魚津城に強襲かけてんだけど。
勝三が進めば海から生える様に首元から始まり胸、腰、両の足。海から出ていた金砕棒とを担いで片手で竹束を掲げて浜を進む。伝馬船もまた浜に半ば乗り上げ弓鉄砲の牽制の合間に兵が飛び出た。
「退くぞ!!」
だが敵は即座に無事な港町へ退いていく。意固地になって遮蔽物を薙ぎ倒された場所で、しかも三分の一の兵力で戦う愚など犯す様な手合ではなかった。勝三は割と珍しい事に思わず舌打ち。
「二陣が来るまで気張るぞ!!楯持ち槍衾は敵の迎撃に注意しろ!!長柄は下が砂だって事を忘れるな!!」
敵の迎撃がないのなら火砲の揚陸を確実にすべきという判断だ。此処は浜であり砂の先は廃墟で更に先は港町である。此処では槍衾の展開が不可能と言っても良い。
槍衾とは地面に石突を突き刺す事で形成できる物だ。当然だがそれは砂浜で展開できる物では無い。槍が固定出来ず馬の重さ勢いを受け止めさせられないのである。
だからこそ、だ。
「そら、そうするわな」
顔を顰めた勝三の視線の先には魚津城東側より現れた騎馬隊。
「鉄砲隊、死にたくなけりゃ合図あるまで撃つなよ!!間を開けて散開しろ!!」
想定内の最悪である。長篠の三段撃ちのイメージがあるだろうがアレも柵、もっと言えば野戦築城じみた防衛設備ありきだ。鉄砲のみでは騎馬の突撃は止められない。単純に質量が違う。
要は馬や人を銃で殺傷できても慣性で轢き殺される。車や自転車でも良いがどんな物も直ぐには止まれない。その例えで言えばバイクを拳銃で撃ってタイヤをパンクさせるか人を殺せても避けなきゃ死ぬよねって単純な話。
まぁ普通はそこまでしないが戦局を変え得る目標(勝三)が居れば、価値は十二分以上にある。
「皆、迎え討つな!!落ち着け!!未だ撃つなよ!!」
勝三の兜に隠れた横顔に冷や汗が伝う。想定出来た事であるし覚悟もあるが気合いが要る事態だ。何せ百近い騎馬を敵が用意するなど想定を大幅に超えて多過ぎた。百近い騎馬武者を捨て札にすると普通は思わない。
尚、勝三の取った対応というのは侍筒を持たせた勝三の精鋭鉄砲隊を損害を許容して連れて来る事だ。要は突撃は喰らうがその前に絶対に道連れにしてブッ殺してやるってノーガードの殴り合いじみた発想。
上杉家の港襲撃による被害と兵站計画の見直し、またその機動力を警戒しシラミ潰しにする必要性、それらが合わさり一番損害の少ない手がこれだった。
「さぁて、と。本庄弥次郎殿だったな。鬼神殿は」
勝三は竹束を捨て金砕棒を強く握った。馬蹄は砂に吸われて鳴らないが濁流の様な一塊が幾束の立髪を靡かせて迫り来る。幸いなのは砲撃に晒された港町からの攻撃がない事だ。
敵の姿、顔さえ見える。見覚えのある姿。見覚えのある大身槍。
織田家は出来得る万全を成した。其れと同じく敵が揚陸を騎馬で迎える万全で迎えるのは当然だ。それにしたって選りに選ってって人選。
「未だだぞ!!!!!」
敵騎馬群が勝三に矛先を向けた。
そしてゆっくりと速度を上げて来る。
馬の息遣いと騎馬武者の戦意が肌を焼く。
勝三と共に並ぶ銃口と穂先が揺れた。
精兵たる彼等でさえ焦燥が襲う。
「落ち着け!!!!!」
勝三は金砕棒を振り上げた。
敵の笑顔が見える。敵の決意が見える。敵の馬の感情さえ見える。
両軍勢のその距離は一町半。
「撃てェッ!!!!!」
瞬発式の火縄銃が本領を以て放つ狙撃の白煙と轟音と衝撃。
味方鉄砲兵が捲れる様に遁走の如く走り心許ない槍衾の背に隠れる。
敵の馬が即死し鎧武者が落馬しそれらを飛び越え蹴り飛ばし迫る敵の騎馬。
「オラァアアアアアアア!!!!!」
勝三は目と鼻の先に迫った馬の顔目掛けて金砕棒を振り下ろした。
潰れ海老反って叩き潰された馬の上の騎馬武者は吹き飛び、亡骸となった軍馬の後脚は後続の馬を蹴り飛ばす。
勝三の前で渋滞が起き避けられぬ者と速度を落とす者が生まれた。
「速度、突破力が無くなればヨオ」
間髪入れず踏み込んで金砕棒を振る。屍を踏み越え屍を生み出して人馬諸共に周辺全て悉く。良き馬も良き兵も良き将も一振り殴殺にて鏖殺。
「内藤勝三此処に在り!!!!!!!」
敢えて叫べば敵が集る。それに黒が落ちて赤が舞う。破裂し炸裂して散る。
「ガアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
黒い鎧に身を包み血濡れた大鬼が激昂した様な咆哮を挙げる。全身から血を滴らせ全身から矢を生やし全身を鳴動させて進む。力在らん限りに震い奮って振る。
「ケハハ……俺よか余程に鬼神だろ」
ボソリと、しかし耳に。勝三は赤い顔に浮かぶ眼光を声へ向けた。余りにも長い切先が見え振る。
ギン、では無くガン!!
そんな音を立てて金砕棒と大身槍とが交差し響く。剣戟ならぬ槍棒の交差は一瞬で騎馬は即座に西へ向かう。
「願わくば次ァ確り殺ろうゼええ!!大鬼ィッ!!ケハハハァ!!」
砂を撒き散らす鬼神が突破した騎馬を率いて消えていく。勝三は大きく長く、何よりも強く息を吐いた。大型の蒸気機関車が停止したかの様な。
鉄の身体が弛緩する。金砕棒を担いで。鬼神の背を眺めて。
「えぇ……。一合でスゲェ疲れるんだけど。嫌だよあの人と戦うの……」
本当マジでスッゲェ疲れた顔で言った。自身の鎧に刺さった矢を引っこ抜きながら。そしてふと気づく。
「なんで東じゃ無くて西に?」
此の前の事がある。非常に気になった。だがそれどころじゃない。
「殿、敵が鉄砲を!!」
兵が叫べばブッ壊れたの向こう。無事な港町から矢礫が飛び始めた。流石にこれだけの時間があれば体制を立て直すのは当然。
「ッチ!!二陣は?!」
「今向かって来てます」
振り返れば伝馬船が漕ぎ出していた。
「おお早いな、こりゃあ助かる。あの数の騎馬を出したら敵の迎撃はもう無いだろ。俺達は街に取り付くぞ!!」
そう言って勝三は竹束を取りに行き楯持ちと共に前へ。怪我人は浜の淵に集められ残った弓鉄砲が魚津城周辺の港町へ牽制射撃。足軽に長柄や鉄砲隊が走って突っ込む。
チュインと勝三の竹束を鉛玉が滑る。左右から敵を狙った白煙と轟音と鉛玉が出た。砂浜を前に前に走る。
交戦距離は何時もと同じ距離だが浜と言うだけで異様に長く感じる物。また酷い疲労に遅い速度は敵の攻撃を受ける時間を延ばしてしまう。実際に生命の危機に瀕する回数も多い訳で疲労による心的負荷も加わるのだ。
「オルァ!!」
勝三は金砕棒で家屋を叩き潰す。金砕棒は破城槌代わりに使う事もある。とは言えものの見事に木っ端微塵は如何かと思うが。
鉄砲を撃たせない様にしながら勝三は叫ぶ。
「火の準備は?!」
「直ぐに!!」
市街地戦とか付き合ってられん。火縄様の火鉢に松明を突っ込み燃え盛るそれを投げまくる。雨も降っていなかった為か瞬く間に燃え広がった。
「……え、燃え過ぎじゃない?」
そして、まぁ、うん。超、燃えた。燃えたってか燃え過ぎたって感じ。火を付けた織田家側が呆然となるくらい燃えまくる。
「た、退避ぃ!!!」
勝三達は慌てて伝馬船の元へ引く。勝三は振り返って
「ちょ、えぇ……燃えすぎだろ。火薬か油にでも引火したのか?」
改めて言うが魚津城は湾と二つの川に沼地に囲まれる四方が水場の城で要はメチャ湿気った地。
だが此処数日は晴天で在り風もあった結果だろうか。
エグい燃え続けた。
ほぼ丸二日。
織田家の想定では湾側から揚陸する事で実質的な城の外曲輪の攻略を端折り、また湾側の港町を逆に障壁として確保したかったのである。
そら敵も燃えたままにはしねぇ訳で言っちゃあアレだが程よく燃えてくれりゃあ良かったのに炭しか残ってねぇ。
「いやぁ、酷い絵面だったなぁ……」
一面黒く染まった元港町を眺めながら勝三が言ってから飯盒船から受け取った陣麺を口に含む。代わって一足先に食事を終え箸を椀と指で挟んだ滝川左近将監一益が笑いながら。
「いやオイ、やったなぁ大鬼じゃねぇか。まぁ予想以上に燃えやがったがよ。何日燃えるかって賭けが始まるとこだったぜ」
「いや吃驚しますよ。あんだけ燃えると。火、こわぁ」
用心しなければってノリで恐々言う勝三に滝川左近将監一益どころか周りの者、特に歴戦の者達が微妙な顔になって動きを止めた。
滝川左近将監一益は困った様な、悟った様な顔で。
「……そうだな。でも正直お前の方が怖いと思うぞ。人間止め左衛門とかに改名した方がいいってオマエ」
「……あの、ええ……半分本気で言わないでくださいよ」
「いや騎馬隊を一人でグチャグチャにする奴が吃驚するとか、何普通のこと言ってんだって吃驚する様な事言いやがったもんで、ついな」
「騎馬隊じゃ無いですよ。騎馬武者十三人ですって」
「……今更だけどホント人間やめてんな。お前に突っ込んで来た騎馬がいきなりひっくり返ったの。アレ何なんだ?」
「最初のですか?」
「いやソッチは金砕棒振り落としたからだろ。その後の名乗りをあげた時のよ」
「あー。アレは馬の足が前に出るのに合わせて金砕棒の先端を関節に置いたたんですよ。つんのめってそのままひっくり返った感じです」
「何かの参考にっては思ったが、うん。俺には無理だな。長巻やら薙刀で脚を切るわ」
で、その対面。河尻肥前守秀隆が頭痛を堪えるように頭を抑え織田右近衛大将信忠が勝三に羨望の眼差しを送る。河尻肥前守秀隆は傅役として溜息で心を落ち着けてから。
「良いですか若様、勝三のアレは武士の中の武士たる所業。しかし将の所業としては必要事とは言え少々度が過ぎています。貴方が成るべきは将を統べる将。どうかお忘れなきよう」
「え〜……。私も前線で戦いたいのだが。騎馬隊倒す」
「ダメだつってんでしょホントもう!!」
「ヤダね!!」
「あーもーまた我儘言い出して!!」
「私だって武士だ!!武家の棟梁としての面目があるだろ!!傳兵衛だって前線に出て手柄を立ててるんだぞ!!」
「だーから立場が違うってのに此のバカ様!」
「何だとジジイばーか!!」
「爺は良いですがジジイは止めろォ!!!」
まぁ、ともかく魚津城の戦いは炎の沈下を合図に第二幕が始まろうとしていた。