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二つの関門後編

ブクマ・ポイント・いいね、ありがとうございます。


今回はアレな地図があります。


それでも良いよって方は暇潰しにでも見てってください。

 ヴァヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォオ……と山田川の西岸の山中でバカみたいな話だがバカみたいな音が轟いていた。


 星間戦争の物語に出てくる酷く残忍な(グリーヴァ◯)将軍みてーに金砕棒を回してる男が居るせいで。


 そのあんまりな光景。頭上で金砕棒を回し何かもう黒い後光を背負った様な勝三の元へ訪れた前田又左衛門利家は思わず問う。


「……なぁ先達。ソレ何貫あるっつったけ?」


 前田又左衛門利家のその問いに内藤家の諸将は遠い目に。問われた方は終ぞヴァヴォ音をチュイーーンとドリル的な甲高い物に変え。


「コレは四十貫《約150㌕》 です。凄い軽いんですよ!!」


 ……黒い円を背景にニコニコの勝三(総大将)に周りは彫像みてーになった。心なしか除夜の鐘の様なボーン……と言う鈍く重い音が響いた気がする。四十貫《約150㌕》を軽いとか人間の言って良い言葉じゃ無い。


「……そうか。まぁ、いいや、うん、それよりだ。安田館から三本の狼煙が上がってんだろ」


 前田又左衛門利家が何とか思考を切り替えて言えば勝三もまた真剣に、深刻な状況だと言わんばかりの言葉に同意して重々しく頷く。


 黒い御幸(鉄塊ブイーン)を背負いながら。


「アレには目を疑いました。敵が突破してくるのもそうですが何より真柄殿がその突破を許すとは。上杉家の武名は本物ですね」


「ああ、んでそろそろ山田川と井田川の合流地から物見が戻ってくるだろ?早めに状況を聞きてぇんでちょっくら邪魔させて貰うぜ」


「どうぞどうぞ。悪いが白湯を!」


 勝三が控えていた小姓に頼めば前田又左衛門利家ちょっと申し訳なさそうに。


「お、ワリいな」


 諸将がお椀に白湯を注がれ軽い水分を取った所で伝令。


「上杉軍が此方に向かってきております!!」


 誰もが想定通りと言う表情、何せ勝三は渡河地点を見つけてから陣取った。ガン無視された事に気付いた時点では追撃と富山城保持に兵力が足らなかったのだ。故に周辺に物見と伝令を出し狼煙をあげて後詰の到着と共に網を張る事にした。


 万一に北の海から帰ろうと言うのであれば大砲乗っけた船を回し、勝三自身は渡河地点の証左たる船橋を見つけた南に陣取った。此方に来れば西は呉羽丘陵の壁で東は井田と山田に加えて神通の三つの川。必ず通らざる負えない場所である。


 如何な軍神と言えども空を飛ぶ何てのは土台不可能だろう。海から逃げるのであれば砲載せた戦艦が関門となり、山から逃げるのであれば鉄塊を持った勝三が関門となる。富山城を無視された時点で次善策としてその備えを勝三は差配した。


「さ、気合い入れて行きましょう」


 勝三が言えば次郎、浦上遠江守宗景、伊賀左衛門尉久隆、後藤摂津守勝基と与四郎元政、中村大炊助頼宗が立ち上がった。


 数は前田勢加えて凡そ五千。尚、勝三が出る代わりに富山城には後詰が入っていた。神保安芸守氏張だ。


 勝三達の起動は単純。敵の通り道に横陣を敷いてあとはモグラ叩きである。敵の主力を叩けるだけ叩く。


「見えたな」


 遠くの軍勢が見え千坊山から降り布陣も終わっている自軍の元へ。


 勝三は最奥だ。前田勢は山側で少し下がり孝恩寺()家と篠原家を前衛に。勝三は次郎の軍勢と並んで浦上家、伊賀家、後藤家を前衛とした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 山ーー山山山ーーーーーーーーーーー◯ーー

 山ーー山山山ーーーーーーーーーーーー◯ー

 ーーー山山ーーーーーーーーーーーー◯ー◯

 ーーーー山山山ーーーーーーーーー◯ーーー

 ーーーー山山山ーーーーーーーー◯ーーーー

 ーーーー山ーーーーーー凸凸凸ー◯ーーーー

 ーーーーーー山(本陣)凸凸ー凸凸ーーー◯ーーー

 山山ーーーー山山凸ーーーーーーー(船橋)ーーー

 山山ーーー山山山ーーーーーーー◯ー◯ーー

 山山ーーー山山山ーーーーーー◯ーー◯ーー

 ーーーーーーーーーーーーー◯ーー◯ーーー

 ー山山山山山ーーーーー◯◯ーー◯ーーーー

 山山山山ーーーーー◯◯ーーー◯ーーーーー

 山山山ーーーー◯◯ーーーーーー◯ーーーー

 山山ーーーー◯ーーーーーーーーー◯ーーー

 ーーーーー◯ーーーーーーーーーー◯ーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 =船橋だった場所

 凸軍勢


 一応、山みてーな丘陵の西部に道があるがアッチは長沢城という城から見張ってあり、大軍が来れば寺島牛之助盛徳が即座に出撃し迎撃される手筈だった。


 つーかアッチは普通に袋小路に出来ちゃうからね。南北から挟めば軍は逃げれない。長沢城は山城だし水もある。


 隘なる形(ファッキン険阻地)には我先ず此れに居れば(先に陣取ったら)必ず(ぜってぇ)高陽に居りて(日の当たる高所取って)以って敵を待つ(んで敵待っとけ)()敵先ず之に居れば(敵に取られてもーたら)引きて之を去りて(サッサと退いて)従う事勿れ(戦うの止めとけ)。である。


 尚、馬謖っぽいけどちゃんと水場もあっから大丈夫だ。


 勝三は立場的に、後方に在り前は見えない。


 だが感覚的に敵の接近がわかった。


 空気、或いは匂いか音か。


 勝三は言う。


「浦上殿の将兵って結構勇猛だよな。なんか素振り始めてるのいるし。……アレ浦上殿本人じゃね?」


「そん……な。ホントだ……。えぇ……」


 横に控えてた賀島弥右衛門長昌とかマジ吃驚してる。


 まぁともかく一番分かりやすい指標は自分達の前にいる友軍の反応だ。大概は騒めきが消えてピリ付いた空気を晒し始める。そりゃあ命の切った張ったを前に巫山戯るアホは居ない。


 まぁ逆に過剰に昂るのも居るっぽいけど。軍神がナンボのもんじゃーい、とか。手柄は此の儂のもんじゃあ、とか。何かエゲつねぇ絶叫してるけど。浦上遠江守宗景って人が。


 閑話休題。


 その浦上勢が動き伝令が勝三の元へ。


「大殿、我等浦上勢。交戦開始いたします!」


「御苦労様です吉右衛門尉(中島隆重)殿。敵の動きあればまた願います」


「はは!」


 戦術的には浦上家、伊賀家、後藤家で上杉勢を受け止め前田家で横からブン殴る。勝三と次郎は前衛の補佐、その必要がなければ前田家の補佐だ。


「さて上杉家。強ぇのは分かるけど。どんなモンかな」


 前衛から続々と伝令が走ってくる。


 其れ等は等しく交戦開始の言伝だ。


 流石の上杉将兵も疲労困憊らしい。


「今のところは大丈夫そうか」


 勝三が必要な暇を持て余して呟く。


 己等と呵成刀槍剣戟は少々遠目だ。


 そんな折に前田勢より伝令が来る。


「内藤様、我等包囲に入ります」


「承知しました。お願いします。御武運を右近(前田秀継)殿」


「辱く!存分に手柄を立てさせて頂きます!」


 そう言って騎馬が進み出した前田家の軍勢に向かう。視線を前に戻せば戦いの音がやや迫ってきていた。敵勢の粘り強さが伝わって来る様だ。


 日笠源左衛門頼重が横からやって来る。元は浦上家の家臣だったが父次郎兵衛頼房と兄弥左衛門頼則は主家に付いて播磨に。若い彼は備前に残り次郎のトコで働いていた。


「大殿、敵の勢いが強うなって来よった!このままじゃ突破されかねんで、我等ぁこれから伊賀殿と後藤殿の援軍に向かいますけぇ!」


「分かった!浦上殿の事は任せてくれ」


「承った。御免!!」


 更にしばらく。目の前の浦上勢が少々、圧され始めた。勝三は更に目を凝らす。


 前田勢も押してはいるが一手足りない。


 少し考えて。


大炊助(稲田影継*)殿、浦上殿の背に。才蔵(可児吉長)も前進して前田殿の補助を頼めるか」


「本陣が薄くなり過ぎませんか?」


 稲田大炊助()影継が一応といった感じで諫言する。一応は自勢力内の戦いで突破さえされなければ問題ない。それに多少の敵が突破しても備一つ有れば十分戦えるし逃げられる。


 常識的に考えれば小言一歩手前。心配性にすぎると言う話だ。要は警戒を緩めぬ為の一応の言葉。


「もしもの時は逃げるよ。二人共よろしく!」


 故に勝三も軽く返す。


「ならば行って参ります」


「失礼する」


 稲田大炊助()影継と可児才蔵吉長が己の備を率いて前進した。それを見送っていると賀島弥右衛門長昌が嘆息、思わず。


「しかし、軍神と呼ばれるのも頷ける。まさか未だ崩れないとは。上杉家の将兵は熟く異常だ」


 周りの者達、そして勝三も頷き。


「だよなぁ。下手すりゃ二度三度と戦ってアレだぜ。意味がわからん」


 二人の耳から漸く上杉軍の呵成が遠のく。勝三が感嘆を主としながら呆れも含めて。


「ほんと異常」


 何が異常って呵成が聞こえる事だ。敵勢力奥深くに切り込んで三回目の戦闘とかアレ。


 現代的に言えばトライアスロン三周どころじゃねぇから上杉軍。|スプリントディスタンス《超泳いで超漕いで超走る》ってか直ぐにでもデスなんですくらいの所業。


 ンな事やって何で未だに叫べるん?って話。そら何アイツら(上杉軍)怖……ってなる。


 だが、流石の上杉軍も潮時の様だった。驚異的な事であったが脅威的ではない。あくまで人であったらしい。


 ジックリと呵成が遠のいているのだから。


 遂には勝三の本備に前進の必要性が出る程に押し始めた。本備から割いた軍勢が上手い事入れ替わり敵を休ませず、対して味方を休ませている。勝三自身も前に出て戦う必要性さえ感じない程の前進。


 入れ替わる様に馬の足音さえ聞こえる。


 そう、二、三十程の一隊。


「ん?なんで馬蹄の音」


 勝三は振り返る。本陣というか見張りの為に登った千望山の方角。騎馬と槍と弓矢。


 先頭の大身槍握った軽装の男と目が合った気がした。何せ遠過ぎるし面具を着けてて顔が見えないが。


「回れーーーーーッ、右!!!!!!」


 勝三が指示を出せば長柄弓鉄砲の兵達がその場でクルリと身を翻し騎馬隊が馬首を回す。バキバキに練り練って練兵された精兵はあまりにも即座にその方向を反転させてみせた。本備の兵馬は当然ながら金と時間と手塩にかけているが故に当然だが精兵の面目躍如だ。


「ッチ……突撃!!!!!」


 軽装の男が槍を前に吼える。それは二十倍に突っ込む選択だった。控えめに言って勝三達は驚いた。


 が、それで尚も淡々と金砕棒を地に突き立てる。益荒男に相対して勝三は気を昂らせながらも淡々。


「中間は山の方へ避けておけ!!」


 勝三が指示を出す。命令無くとも銘々が強弓を抜く。それを確認して己も続き。


「弓構え!!」


 敵が背後から来たせいで兵の先頭は勝三である。もうこうなったら数と勢いで潰すしかねぇのだ。その勝三の即応の結果たる鏃の整列に対して。


「なっ……?!」


 大身槍を握る敵から驚嘆の声、そして面具の下の顔をヒン曲げた。


 孤月の様に細められた目、孤月の様に吊り上げた口、鬼神の相貌。


「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!」


 そして喜色の狂気を乗せ呵呵大笑、強力で凶悪な狂喜の呵々大笑。


「良ィッねぇ!!凄ェッ良いぜぇオイッ!!その金砕棒オメーが内藤カァッ!!」


 勝三は戦意を高めて弓を強く握り矢を番え。


「俺は内藤勝左衛門!!」


 弦をギッと引き。


 面具の下に浮かんで尚わかる敵の戦意に染まる笑みへ向け絞る。


 敵の勢いは増す。


「やっぱお前か!!お前が大鬼か!!俺は本庄弥次郎だ!!楽しもう!!楽しもうぜ!!楽しもうやァッ!!!!!」


 敵の咆哮へ弓弦を解放した。


 ド、と白い円と衝撃を残して天に消える短槍と見紛う矢。


 勝三を以てして急いた一射。


「ケヒャハハハァアアアッ!!!!!」


 大身槍一閃。


 槍同士が交差した様な衝撃が鬼神の腕を迸り雷鳴の様に広がった。


 震える心身。


「ケハッ!!!」


 それは戦意に依る物。


 鬼神は大身槍を引き戻し脇を視点に大きく広げて勝三は金砕棒を地より抜いて肩に。


 甲斐八升が進み出す。


「続けェッ!!」


 勝三の号令で騎馬隊を先頭に軍勢が進む。


 それは超加速と言って良い程の弾ける様な走り出しであった。


 だがしかし群体にして軍隊の動きであり先頭が速く後ろになるにつれて遅い。


 故に何処か緩慢にも感じるが接敵は即座一瞬の事に相違ない。


 両大将のカチ合い双方横薙ぎを狙う構え。


「ダアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


「ケェアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 金砕棒は穂先を狙い大身槍は馬脚を狙った。


 得てしてそれは間合いこそが勝敗を定めて結果は一合の交差。


 衝撃と轟音は超重の鉄塊同士による物だ。


 たった一合、即ち武器同士の衝突である。鬼神の巧妙なるは想定外の金砕棒の速さに瞬時対応し大身槍を僅かにズラして刃を守った事だ。勝三もまた気付き穂先をヘシ折ろうと力を込めて無理やり軌道を変えたが僅かに届かず。その一瞬の双方が心技体を統合した交差を過ぎて尚も両大将は得物を振るう。


 何故かと問えば将に続く馬廻の迎撃。


 数的余裕のある勝三は全て薙ぐ。それこそ残った敵は三騎。対して鬼神はそう呼ばれるに相応しい暴れぶり。大身槍の剣の様な穂先を風切り独楽の様な音を立てて回しナマス斬りにしていく。そして倍する敵の騎馬の濁流の中で勝三の馬周りを十人討ち又は倒した。


 互いの一隊が離れ馬足を緩めながら同時に。


「上っ手……何あの人。速攻で対処してきた」


「強ぇ……何だアイツ。振ってる途中でかよ」


 血濡れの勝三と矢塗れの鬼神が同時に呟いてまた同時に馬の進行方向を決めた。鬼神は凡そ直角に、勝三は大きく弧を描く。それは残存兵力の差と状況だ。


 鬼神の前には勝三の残した本備えの槍衾、勝三の前にはだだっ広い土地。鬼神の背には二騎で勝三の背には三十余騎だ。鬼神は背を気にする必要が薄いが勝三は玉突き事故が有り得る。


 それもあって馬足を早めたのは勝三だった。切迫とは言わずとも随分と早い加速である。だが機動力という意味では小勢の方が優位。


「急ぐぞ!!」


 勝三は鬼神を強者認定したからこそ此処で最低でも討ち取っておきたく、鬼神も勝三を強者認定したから早くトンズラこきたかった。


 とは言え馬にも体力というものがあり勝三の乗る甲斐八升とても剛力大黒相当とは言え当然の様に疲弊していて速度は上げられない。


「……ッ流石に果断」


 呟く勝三の視界に鬼神が入った時には既に川に向かって猛進していた。


 そして更に果断な事だが激戦中の味方をガン無視して川へ飛び込んだ。


 それも真夏に子供達が川や海に飛び込む様な無邪気とも言える様相で。


「てかうわ、マジかあれ……」


 続け勝三は半ば呆然と呟いた。


 それはある事に気付いたから。


 鬼神では無く上杉軍の動きだ。


「損切りが上手すぎる」


 軍神は既に対岸に居た。これは余りに意味不明である。いや、それは異常ではあるが異様ではない。あっておかしくない事だ。


 問題は軍神が既に戦場を離脱していて尚、戦線が維持されている事。


 数千規模の軍勢。いや人々が見捨てられる事を許容して戦っている。


 彼等の背に沿う様に進む軍勢。上杉軍の名将精兵古豪だろう男達。井田川へ次々と馬諸共入水し進む。鬼神もそれに合流した。


「捨て奸……」


 異様で有り尋常では無い。有名どころでは島津の捨て奸だろう。勝三の知識にはあったがそれでも目にすれば思わず呆然とする。無論だが似たような事はあった。だが規模が規模だ。


「ッ……呆っとしてる場合じゃねぇ!!弥右衛門(賀島長昌)、伝令役連れて足軽達の指揮頼む!!残りの騎馬は出来る限り敵を射て!!」


 勝三の言葉に正気を取り戻し賀島弥右衛門長昌が頷き馬廻達は慌てて甲斐八升に続くが既に追撃は難しい状況だ。


 そう舟橋を残していれば先回りもできたが真柄勢の事もあり、勝三は万一を考えて舟橋を撤去してしまっていた。


 何より敵の一手が捨て勾であるが故に残存兵の対処が必要で、効果的な追撃が出来る状況では無くないのである。


 要は勝っているのに負け惜しみのように逃げる敵の背に矢を放つしか無いのだ。であるからこそせめて徹底した。


「だが、こりゃあ、なぁ……」


 勝三が矢を放つ。短槍と見紛うソレは小筒の発砲音に似た音を残して弧を描き敵を井田川の案山子へと変えるが焼け石に水。大した効果も無い。


 ……尚、そう思ってるのは勝三だけであるので注意してほしい。


 敵からすれば聞いた事ない音がして斜め前を進んでた戦友が串刺しになってるし、味方からしたら上司が憂いを帯びた顔で人間案山子を量産だ。


 ……メチャクチャ怖いよこんなん。頼れる味方の目が死んでく。


 とは言え馬廻は弓を放ち続けそれも無くなれば石を投げて攻撃だ。敵の数が数で射てば当たり投げれば当たり、打撲と裂傷に矢傷を与えていく。


「結構渡らせちまったな」


 皆が矢を打ち尽くし周りの石も粗方無くなって勝三は呟く。一応言っとくと「いや凄い亡骸浮いてるんですけど」とは馬廻の述懐である。しかし勝三はトコトンしてやられたと言う顔で。


「我ながら情けねぇな全く。はぁー、残敵掃討だ!!」


 気合いを入れ直した勝三の号令で殿軍の包囲を縮めていく。残った武名高名なる上杉軍の殿を最後まで務め上げた気概ある諸兵。流石はと感嘆を加え評する程の敢闘だった。


 既に満身創痍にして身体から矢を生やし己の血で赤く染まる。撃たれて尚も小筒であればものともせず、侍筒で撃たれようと腑引き摺り尚前へ。武器無くなれば掴み掛かり、腕斬られれば噛み付いて、足折られれば這いずり進む。


 敢闘と言う言葉が陳腐になる程に戦った彼等だが多勢に無勢では如何しようも無い。最後の一人が金砕棒に叩き潰され、こうして織田軍と上杉軍の最初の戦いは終わった。


 上杉家の大胆な縦深攻撃に対応した織田家の盛大な包囲戦。織田家側が認識する、その結果である。


 荒川伊豆守長実、小国主水入道頼久、本庄美作守実乃など名だたる将を数名。また小島弥太郎貞興など名の知れた強者数名を討ち取った。それら首級に足軽雑兵の耳鼻を合わせて千と五百二十三。凡そ敵の三割の戦力を削ったと確信出来る程だった。


 尚、首実験の後に将や名の有る者達の首は首桶に入れ丁重に返還され、雑兵の類も井田川の辺りに葬られ後に勇兵塚と呼ばれる首塚が建てられる。


 してやられたがソレはソレだしコレはコレだった。

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