表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

140/160

初手かましったったらエエねん

明けましておめでとう御座います。


昨年は感想・ポイント・ブクマ・いいね誤字報告などなど色々と有難う御座います。


そして今回はバカ長くなった上にアレな地図があります。


こんな感じですが今年も暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。

 勝三は富山城へ到着した。最低限の指示を出して職人達を残し急行した形だ。敵が撤退し入れ替わる様に入り込んだ形である。その急を要する状況下に在った拠点を防衛していた総大将。彼に喧騒の中で出迎えを受けていた。


「……大丈夫です?」


「よ、余裕よ」


 勝三の問いに答えたのは佐々内蔵助成政だ。越中国新川郡富山城は神通川を背にし街道の交差地点に近い最前線。要所故に襲撃が続き聞いていた以上に疲労困憊している。


 一応は笑顔ではあるのだ。だが屈強な武人が乾燥昆布の如きカピカピ加減でプルプル震えてた。そも先ほどまで戦っていたのか姿も戦塵に塗れた甲冑のまま。それこそ血に濡れたままの槍を杖にしてる有様だ。正直マジ過労で死にそう。


「内蔵助殿、伏木に駐屯の予定でしたが話を聞いて交代に参りました。一時後退して職人の防衛を変わっていただけますか?」


「助かる、ぜ、勝三……流石に、疲れた」


 それだけ掠れたか細い声で言うとズリズリ落ちて眠り始めた。勝三は未だ後片付けを続ける城中の状況を見て頷いて。


「先ず飯の準備だ。内蔵助殿達の分もな。沢山作っとこう」


「承りました」


 控えていた稲田 大炊助()影継が即座に差配を始めた。勝三は佐々内蔵助成政を担ぎ上げて館に運ぶ。道中で見つけた家臣の一人だろう男に。


「失礼、内蔵助殿を運びたい。それと飯炊きは何処ですれば良いか教えていただけますか。我等の物と共に皆様の物も作りますので」


 声を掛けた相手は兵への指示を終えてから振り返り。


「む、敵が退いたかと思えば援軍は内藤様でしたか。殿を運んで頂き感謝致す。厨は此方に御座います」


 そう言って先導を始める。


「感謝します。えっと……」


「ああ、私は坪内加賀(勝長)に御座います」


「おお!朝倉家の突撃を受け止めた!お噂は予々」


「あ、照れますな。いやぁ、そんなこと言われちゃうと。えっへっへっへ」


 雑談を交わしながら案内された厨で作業開始した。そして佐々家の将兵と飯を食い、休んだ彼らと別れた勝三は富山城の保持に務める。先ず物資の搬入を行いつつ受け取った周辺情報確認を皆で行う。


 兵達には休憩を取らせ将達は広間に集まった。上座の勝三が纏めた情報を確認しながら。


「越中の主力は一向宗だ。義絶された教如を下間丹後法印(頼総)が担いでる。と言うか三奉行として下間の三人、按察使頼龍、丹後法印頼総、筑後法橋頼照が居るそうだ。そこに越前国人、加賀国人、越中国人、本願寺の残党が加わってる」


「数は?」


 次郎が問えば勝三は呆れた様に。


「内蔵助殿が曰く七千から一万だ。あと何か派閥が出来て凄いらしいぞ。コッチにとっちゃ悪い意味で」


 この場に居る皆がドユコト?みたいな表情を向けてくる。勝三は溜息を一つ。


「敵の切り崩しに石山から派遣された慈敬寺の顕智(佐賢)って人がいたそうだ。その人が任を全う出来なかったって侘びながら細く教えてくれたそうなんだが……。なんかグッチャグチャに派閥が出来てて、その主導権争いに此処が狙われてるってよ」


 全員が嫌そうな顔をして全員が納得した。要は手柄争いに必死になった敵の対応を佐々家はやるハメになったのだ。そりゃあ此処を守備していた佐々内蔵助成政、彼程の男が疲れる訳である。


 そも戦略的にも此処は重要だ。何せ織田家の渡河を防ぎたいなら先ず潰さねばならない拠点なのだから。それに加えて政治的な付加価値が付いてしまった。


「てな訳で襲われる理由は分かったな。まぁ気合い入れて確り気を付けていこう。一向宗も柴田様のおかげで窮鼠だ。上杉家に自分の有用性を解らせなきゃなんねぇし。そんなのに噛まれちゃたまらねぇ」


 そもそも上杉家と一向宗は元々は敵同士。富山城が一向宗内での権力争いの延長線上で、一向宗が窮鼠であるが故に攻略出来た際の恩恵の多い。正に恰好の御馳走となったのだ。


 窮鼠な一向宗にとり富山城が美味しいチーズになったのだ。時代的に言うなら()だろうか。この時代に()()を食うイメージ無さそうだけど。


 まぁ兎にも角にも富山城の保持は生半可な覚悟では足元を掬われかねなかった。


「んで越中で名の通った上杉家の将は河田豊前長親ってのだそうだ。椎名何とかって矢鱈しぶとい男の籠る松倉城を落とした戦上手らしい。加えて松倉金山も任されてるって言うから相当なやり手だな」


 さて、勝三が引き継ぎ作業をしている頃。ちょうど話題に出された河田豊前長親は前線である太田本郷城で酷く退屈な時間を過ごしていた。


 それを表情に出しはしないが「あー、じゃまくさい(面倒くさい)。ほんまにじゃまくさい(面倒臭い)」と澄まし顔で鎮座する。


 彼の目の前には一向宗。


 先ず辟易とした本願寺教如光寿と、同じくどころか露骨にゲンナリした下間按察使頼龍。彼等は派閥争いに終始する現状にダレて何より危機感を抱いており、前者は昔の決断を若さゆえの過ちと思い始め、後者は想定した着地点から悪化していく状況に恐々だ。


 何せ今の一向宗は纏まりが無い。


 先ずは本願寺教如光寿を敬う者と一先ずの要石と見る者と神輿と見る者だろうか。次に死んでも織田家に報復したい者、織田と戦い失地奪還を果たしたい者、戦って妥協点を見つけたい者、諦めてるが逃げ場のない者。最後に後の事を考えている者と考えていない者と大別すればそんな状況だった。


 まぁ凡そという話である。ダルいんでもうちょい簡単に纏める。


 現状で敗北を受け入れる事が破滅を意味する為に妥協点を得る為に戦う。これが一向宗首領たる本願寺教如光寿および彼の補佐にして一向宗三下間の一人たる下間按察使頼龍。


 本願寺教如光寿を主としつつも自分が滅びてでも戦う徹底抗戦の姿勢を崩さない下間丹後法印頼総と己の立場を守る為に必死で戦功を熱望する下間筑後法橋頼照。


 この三下間はあくまで本願寺教如光寿を立たせた上で、つまり本願寺教如光寿の状況と彼の考えにある程度従う考え。逆に本願寺教如光寿の価値は理解しつつも知ったこっちゃないと言う者も居る。


 漏らしこそしないが不満があるのが確実なのは上杉家と戦ってきた杉浦壱岐法橋玄など対上杉家の戦線を担ってきた者達で彼等は独自の動きこそ無いが燻っていた。


 割と顕著なのが七里三河守頼周で下間筑後法橋頼照と共に越前に派遣されたのだが、地元の人間に嫌われた挙句に良いトコ無しでボコボコにされ、こう言う言い方すっとアレだが死ぬだけで済むと錯覚してる無敵の人だ。


 また表向き敬うし価値も理解するが、取り敢えず焼かれた寺と寺領を取り返したい。基本的に領地奪還以外は如何でも良い越中の勝興寺顕幸佐廉、瑞泉寺顕秀佐運。この二人は実際のところは特に上杉家との同盟に非常に強い不満を持ちつつ失地奪還の邪魔すんなら誰だろうと殺すぞくらいの心持ち。


 これに撫で斬りにされるから仕方なく戦ってるのとか色々いる感じ。


 ……要約すれば織田家と戦う事以外に何も纏まってないクソみてぇなバラバラっぷりで戦いを続けてるのである。


 終点を想定してない、想定できない、そんな戦いに身を投じていた。


 マジでウンコだろコレ。曲がりくねった道で|ドラッグレース《爆速直進マシーンダッシュ》してるより酷いよ。道の先は死しかねーもん。


 そんな彼等の軍評定を上杉家の代表として河田豊前長親は耳を傾けざるをえない。


「待ちい。渡河は危険過ぎるやろ三河守(七里頼周)。この寒空やったら川に落ちたら無駄死にや。大筒使うて三方から着実に攻める他無いやろに」


 耳を傾けて最初に発された言葉は正気を疑う様な問いかけ。その言葉を投げかけられたのは酷く肥えた僧侶。小欲知足せーやって感じ。


按察使(下間頼龍)殿は呑気な事だなぁ、上方に残っていたと言うのに。田舎に染まった私としては急ぐべきだと思うが。勝興寺(顕幸佐廉)瑞泉寺(顕秀佐運)の二方はどうよ」


 大欲不足って感じの七里三河守頼周がニヤニヤと問いかけた先は無骨な男二人。越中大規模寺院の主だった織田家ブッコロし隊隊長の二名だ。


「世迷言ちゃ()ともかく渡河には賛成や」


「うむ。西岸ちゃ()我等の土地。案内ちゃ()任せて貰おう」


 彼等は領土奪還の可能性が僅かでも有れば断らない。寸暇どころか命さえ懸ける。故に当然の返答に笑み深めて七里三河守頼周は言う。


「ほら見ろ按察使(下間頼龍)殿、彼等の勇気と心意気を汲むべきじゃ無いか?」


 いっそ勝ち誇った様にさえ言う七里三河守頼周へクソ冷めた真顔を返す下間按察使頼龍。


「言うて奥にはアレ(・・)が居んねんで?」


「いや、うん……うん」


 七里三河守頼周がぐうの音出ないどころか全員御通夜みてーな空気になってしまった。


「ほら見ぃ!!言い出したんやからもしもン時は三河守(七里頼周)が相手するんやぞ!!無理やろ!!」


「いや、うむ......まぁ」


 富山城攻略の一手。停滞を続ける包囲の打開を名目とし本願寺の戦力を削るような発言。それを以て上杉家との仲を深め立場を向上しようとしただけで自分の戦力低下は望まない。そんな七里三河守頼周は何も言えなかった。故にこの話は終いとなる。


「ンー、まぁ待たれい。按察使(下間頼龍)様」


 しかし停滞するかに思えた評定にて声を上げる者が一人。上杉家の河田豊前長親に複雑な好悪混ざった感情を抱かせる声。一向宗内で三下間の次に発言力がある優れた采配能力を持つ男。


 唯一、七里三河守頼周の目が増悪に燃えた。しかしそれ以外の誰もが驚きを持って目を見開く。下間按察使頼龍は頼もしさと不安を混じらせながら名を呼んだ。


壱岐法橋(杉浦玄任)はん……」


「それは此の玄任が出よう。ンー、あの連中も因縁深いのだ。石山を奪い取った織田とも、我等を襲う上杉とも、ンー、同等にね。状況の打開は私も望むところだよ」


「無粋は承知で言わせてや。危険や、アンタさんがおらんなったらお終いやぞ。主力なんは勿論、指揮官は貴重や」


「ンー、それでもだ。危険は承知で私は滅ぼさねばならないよ。悍ましき仏敵をね。流石に敵の増援が城に入った現状。振り出しに戻った状況のままでは此方が持たない。それも事実だ」


「……分かった。せめて帰って来てや。頼むで」


 下間按察使頼龍は渋々だが頷く。兵は減らしたくないが上杉家から大規模攻勢が可能かどうか確認があったのだ。物資兵糧どころか住居さえ賄って貰っている上に曲がりなりにも同盟者として対応してくれる相手からの確認である。即ち一向宗にとれば命令だ。


「富山城攻めちゃ()派手でなけりゃなりませんね。城を攻めて敵の目を出来得る限り引く必要がある。しかも長期的にや」


 空気を入れ替える様に発したのは奥近江守政堯。杉浦壱岐法橋玄任と同じ加賀大将の一人だった男。この二人は戦友である。


「……近江(奥政堯)殿の言葉。ンー、ご尤も」


「……感謝を」


「……される事では無いねぇ。ンー」


 気安いやり取りを聞きながらも下間按察使頼龍は覚悟を決めて頭を回す。


「せやったら三河守(七里頼周)が目ぇ引く役はやりや。人に危ない橋渡らせるんやからな。そんくらいせなアカンで」


「……いや、ああ……わ、分かった」


 と、まぁ九割方ツルツルさん達が並び微妙な空気で話し続けるのである。しかも彼らの内の三分の一とは殺し合った仲な訳で、敵意を向けられながら自殺志願の話を聞かなきゃいけない。マジで河田豊前長親は終わってくんねぇーかなって感じ。


 そんな考えを幾度したか。それも分からなくなって漸くツルツル達がクルリと本願寺教如光寿へ向き若い大将が立ち上がった。話が纏まったらしい。


 大枠は聞いてたが、うん。


 渡河は分かる。城攻めもだ。だが、さて富山城の後方撹乱が上手く行くとも思えない。


 河田豊前長親は無理じゃね?と思いつつ自分が言うと意固地になりそうだし今は水を差してしまう。まぁ口を噤むっきゃない。


 って訳でムキムキ禿頭ボーイを眺めた。


 彼は戦に関する事柄が関わると河田豊前長親的には結構様になる。仏家感より武家感のある男だ。何せムキムキ逆三角形だし。


「良いか皆の者!!我等こそ今生の四天王(仏法守護神)、織田の邪鬼畜生供を踏み潰して前に進む!!各々全力を尽くせ!!」


 唐突にも感じる。が、悪くない。若さ故の熱気を撒き散らし。


「出陣!!!」


 端的に号令一喝を下した。


 翌日の富山城。本丸に建てられたデカい館に内藤家の諸将が集まっていた。何かメッチャ動きが有りそうだったからだ。つーか目と鼻の先に兵が並びバカみてぇな量の物資の運び込みとかされてんのだ。そら攻めてくるんだろうね的な感想しか湧かないし濛々と白煙が伸びてりゃ軍糧か攻城の準備かなってなる。だから本丸櫓にみんなで登ってから集まった。


「俺さ。あんま籠城の経験ないんだよね。困ったわ」


 腰を下ろした勝三が言った。


 その心底困ったと言わんばかりの言葉に何が面白いのか皆が笑う。と言っても何が面白いのか分からないのは勝三だけだ。左脇に座ってた次郎が少々茶化すような笑みで。


「まぁ、お前はアレだよな。城守るってか城壊す専門だよな。壊して造るよな」


「破壊神かな?」


 勝三がおいおいと、そこまでではないと言わんばかりに返す。しかし次郎はヤレヤレと首を振り変わって渡辺甚兵衛任が呵呵大笑。何なら深々と頷いてる奴ばかり。


「アッアッア!あながち間違ってはないのう」


 渡辺甚兵衛任は気を遣って言うが勝三なんて大概の人に破壊神としか思われてない。


「えぇ……」


 勝三が不満より困惑って呻き声を漏らせばクソ爆笑だ。


 備前備中美作(ほぼ岡山)で味方になった者達以外はしょうがねぇなこの殿はみたいな笑い方してる。


 一方で伊賀左衛門尉久隆、後藤摂津守勝基と与四郎元政、中村大炊助頼宗とかは手柄欲しくて反応する余裕がないのか硬い。


 因幡攻めとか讃岐遠征とか手柄挙げる機会なかったかんね。


「まぁ良いや。兵糧も燃料もしっかりある。ちっと寒いが川もあるし恵まれた籠城だろ」


「ほんと綺麗好きじゃのう殿は」


 渡辺甚兵衛任が少しの呆れを含めて言えば皆が頷く。勝三はそれこそ冬であっても鍛錬の後は水を浴びるのだ。汗を拭うくらいなら皆やるが寒いし最悪死ぬ。それくらい綺麗好きだと認識されてた。


「いや大事でしょ。軍令で城の中、厠以外でウンコしたやつ斬首。病気になるから」


「厠……増やしたもんな」


「東は次郎に頼む」


 神通川は勝三の記憶の時代では真っ直ぐだが戦国時代では大きく弧を描いている。南から大きく東に向かって進み西に向かって戻って北に向かうのだ。富山城は西部北部を神通川に守られ攻め難く順当に攻めるなら東と南から攻める。


「俺は大手門に陣取って南面を担当する。西は浦上殿に頼んでも」


「おう、任せて貰う。船橋は如何するんじゃ」


「最初はそのままで」


「まぁ道理じゃな」


「さて、じゃあ要警戒って事で鉄砲矢弾を倉から出せるようにしとこう」


 それから数日。スッゲェ数の裹頭が来た。だいたい五百程の数。敵全軍では七、八千ほどである。全体として見れば甲冑の数さえ少なく槍は不揃いで刀を主兵装としている者も少なくない。


「ありゃあ……。たぶん歴戦って程度じゃねぇな。平気で死兵になれちまうぞ」


 勝三は確信を持って言った。遠目にさえも見える程の士気。柴田修理亮勝家と越前から戦い続け、徹底した追撃を経て富山城攻城戦からも逃げ延びた男達。それが己の前に整然と並び熱気を挙げている。装備の疎らだからと侮る程に戦の経験が少ない訳ではない。


 何よりの問題は黄金に輝く数門の大筒だ。


 それは臼砲という類の砲身の短い比較的経済的かつ簡便に作れる大砲が大半である。それこそ鐘を作る技術があれば頑張れば出来る代物。この問題は高い角度で弾丸を射出し曲射された攻撃は壁を越えるのだ。特質上その飛距離が短いので使う方にも使われる方にも注意が必要だった。


 次郎の対応する敵の攻勢地点は東の二点で川沿いの隘路と東門。勝三の対応するのは南の一点たる大手門と西から回って川沿いを進む隘路と西門だ。


「伝令を」


「は!」


 東西に確認すればおそらくは臼砲を使って大手門をこじ開ける積もりのようだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー◯◯

 ーーー◯◯◯◯=◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

 ー◯◯◯◯◯◯=◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

 ◯◯◯◯◯◯◯=◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ーー

 ◯◯◯◯ー◯ーーーーーーーーーーーーーー

 ◯◯◯ーー◯ー◯ーー◯◯◯◯◯◯ーー◯ー

 ◯◯◯ー◯ーー◯ーー◯ー門ーー門ーー◯ー

 ◯◯◯ー◯ーー◯ーー◯◯◯◯ー◯ーー◯ー

 ◯◯ー凸ーーー門ーーーー門ーー◯ーー門ー

 ◯◯ー凸ーーー◯ーーーー◯◯◯◯ーー◯ー

 ◯◯ーーーーー◯ーーーーーーーーーー◯ー

 ◯ーー凸ーーー◯◯◯◯◯大手◯◯◯◯◯ー

 ◯ーー凸ーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーー凸()()凸ーーー凸凸

 ー北ーーーーーーーーー凸凸凸凸ーーーーー

 西4東ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ー南ーーーーーーーーーー凸凸(本陣備)ーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ◯河川および水堀・=船橋・凸本願寺軍


 大手門前に陣取った本願寺軍先鋒総大将は下間筑後法橋頼照だった。七里三河守頼周と共に加賀へ送られて反乱を受け鎮圧して以来は発言力を低下させ続ける男。彼の麾下は七里三河守頼周と戦意の高い慈敬寺法印権大僧証智佐増および即証院智興。


 その背に陣取るのは本陣で本願寺教如光寿を最奥に置き下間按察使頼龍が指揮を取る。麾下は教行寺証誓佐栄、鈴木出羽守重泰。


 西側には加賀門徒衆の奥近江守政堯、笠間兵衛家次、徳田志摩守重清。


 東側は下間丹後法印頼総と坪坂伯耆守包明が回っていた。


 尚、迂回軍は杉浦壱岐法橋玄任、勝興寺顕幸佐廉、瑞泉寺顕秀佐運、超勝寺顕祐教芳だ。


「砲の準備を急げ!!悪口を止めるな!!」


 ブヨブヨの七里三河守頼周が重そうにしてる馬の上で騒ぐ。まぁ劈くような声に騒ぐなどと露悪的に言ったが兵を急かすのは仕方なかった。攻城とは複数箇所から攻撃し敵の攻撃を分散させる物。


 要は他の攻勢点と足並みを合わせなければならない訳で。サッサと準備を終える必要があった。


 置き楯を用意し、その裏では鉄砲に火薬を詰め玉を込め、同じ様に弾薬を込めた臼砲を二人で掴み上げる。火縄を伸ばして火を付けて息を吹きかけていた。それらの先では悪口を飛ばし挑発だ。


 先ず有り得ないが逆上して城から出てきてくれれば最高である。ただでさえ富山城は水の上に浮いた様な堅城だから。マジで悪口言う連中も割と必死。


「出てこい柴田の金魚の糞がァッ!!」


「おーい!!成政ァッ!!穴を捲ってサッサと逃げやがったかあ!!」


「仏罰を与えてやるぞ!!お前らがやった事以上の事をな!!九族の首を並べて地獄送りにしてやる!!」


 七里三河守頼周は兵達が割と切実に、それこそ余裕を持って七町(約770㍍)程の距離を取り、それだけ遠くの敵へ必死に悪口を飛ばすのを見る。


 どれ己もと酒を煽って喉を潤し。


「信長は公方に尻尾を振っていたかと思えば朝廷に尻尾を振る内股武士だ!流石は田舎者の海鼠武士よ!!婆娑羅気取りの化粧武士の下に居て恥ずかしくないか!!」


 フンと鼻を鳴らし兵に続けと視線をやる。


 そしたら。


 バン!!


 と、ビックリするぐらいにデカい音がした。


 反射的に音の方、富山城へ視線をやれば何か大手門が開いてる。


 うん、あの、どう見ても全開。


 七里三河守頼周はこれまでに無く、そしてこれからも無いだろう大きく見開いた御目目、それをパチパチさせた。


 と、言うか一向宗全軍がそうである。


 何せ開いた門の中央に黒鉄の騎馬武者が陣取っていたのだから。


 遠目にもアレちょっとデカ過ぎないって弓を握り掲げた大武者。


 たぶん八尺五寸くらいのイかれた弓。


「いくぞおおおおおおおおおお!!!!!!」


 こっちまで聞こえる敵将の声に七里三河守頼周は思ってそのまま言った。


「いや、行くぞじゃないが」


 と。まぁ、言ってるどころじゃ無いのだが、しゃーないと思う。だってコレ籠城側が初手突撃指示って意味わかんねぇもん。籠城前に待ち受けて一戦とかなら分かるけど籠城始まってはおかしいって。


 寧ろツッコミを入れられただけ凄い。


 他はだいたい理解出来てなかったから。


 ドッと数十騎の騎馬隊が直進してくる。


 夢か幻か、いや全然マジな事だけど。


「う、うわぁ!!こっちくんな!!」


 武器なんてほぼ持ってない罵声を叫んでいた兵達が我先にと逃げ出して、その恐怖が伝播した鉄砲隊が恐怖で引き金を引き更に伝播する。


「バ、馬鹿者!!!」


 七里三河守頼周が絶叫するがもう遅い。ドドンドドドンと揃う事なく響いた銃声は酷く疎だ。図体のデカさと恐怖で距離を錯覚した鉛。


 それは何一つ効果を得る事が出来ない。


 一歩、遅れて広がった硝煙で視界は白くなり良く聞き覚えのある矢の空を切る音と生々しい皮を貫き肉を割く音。その合間に時折だがドドドゥッと聞き覚えの無い重く鋭い音が響く。


 踏みとどまる者などなく逃げる。


 壊滅的な潰走。


「ヒイイイイイイイイイイイイイイ!!!」


 もう七里三河守頼周など我先にと逃げていた。周りを馬廻が囲うが更にドドドゥッという音がしてそちらを見れば理解不能。如何見ても槍が鎧を貫き馬の首の手前で止まっていた。


 思考停止した頭、馬廻が崩れ落ちる。


 鎧を貫通した短槍と共に。


 槍が飛んでくる。


「アアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 七里三河守頼周は馬を急かす。もうマジで無理だった。訳わかんねぇけど止まれば死ぬのは絶対だ。もし生きてたら絶対に痩せると仏に誓った。


 と言うか今助けてくれ仏様って感じである。矢が雨の様に飛んできて時折槍が降るのだ。心細さに味方の元に辿り着こうと突き進む。


 さて視点を変えよう。


 個人から集団へとだ。


 つって諄い話である。


 目の前に必死の形相で逃げる味方、その奥に信じられない勢いで真っ直ぐ突っ込んでくる敵。


 これなーんだ。


 答え、連鎖。


 例えば突っ込んでくるのが敵なら迎え撃てば良いのだ。だが味方だった場合は如何したって攻撃は出来ない。じゃあ如何するかって衝突しない様に避けるしか無い。しかし左右には味方がいるのだから必然的に後ろに下がるしか無いのだ。それはどんな意図かはさておき逃走の絵。空気どころか遠くに布陣する味方の判断に大きく係る。


 もうこうなると全軍が撤退って流れになっちゃうよねっていう。


 騎馬隊は矢を撃ち尽くすまで暴れ回り悠々と城へと帰る。


 何なら矢がなくなっても数町は嫌がらせで追ったった。


 一向宗の攻勢は一旦ボコボコにされたのである。


 さて、勝三は富山城に戻ると水を所望して一挙に呷り椀を礼と共に返すと周りを見渡し。


「っつあ〜ッ美味い!!さぁ皆んな気合い入れろよ!!出鼻は挫いたがこれからだ!!」


 将兵が応と呵成を挙げる。


 が勿論、一向宗は来なかった。


 一応は数日警戒体制を維持したがだ。


 勝三は敵の攻勢が完全に終わったと判断。


「え、何で?」


 と、言葉を漏らした。


 その頃、富山城の後方に当たる大崕城。尸の山が堆く積もっている。


「南無三」


 尸の山に一人の男が手を合わせた。真柄十郎左衛門直隆である。一向宗を撫で切り(比喩では無くマジ)したのだ。


「うむ 将は碌に討てなかったか」


 切ったのは雑兵と下っ端の兜首ばかりで「面目ないな」などと考えながら真柄十郎左衛門直隆は兵達を見やり。


「勝左衛門殿の手伝いに行くぞ。必要はないだろうがな」


 ズ、と大太刀を担いで歩み出した。


 コレ一向宗でどうこうすんの無理じゃね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ