戦前
感想、ブクマ、ポイント、いいね、誤字報告ありがとう御座います。
暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。
お詫び
良くやらかすコピぺミスを修正し切れていませんでした。取り敢えず修正しましたがアレな状況での修正の為、申し訳ありませんがちゃんと修正出来てるか確認する時間がありません。後で見直します。
クソ読み難くくて笑えねぇ......
(´・ω・)やってもーた
「あ“ぁ”〜がわ“い”い“〜!!!」
評定を終えた勝三は待望の無病丸と帛を抱っこし、ものっそい顔ニッコニコさせてた。両方から顔ベチベチされながらの笑みで、初めて会うくらいなのに泣かれなかったのは大きい。
二人をニヨニヨ見ていた勝三はハッとして妻二人に視線を向ける。その顔は仕事向きの顔になっていた。若干やわらかいしペチられてるけど。
「秀子殿、幸殿、そちらの方は如何ですか。必要な物とか無いです?」
その問いは憂いの色が大きい。
「大丈夫ですよ。山科家の方々が助力してくださいます。寧ろ昔より楽になったくらいで」
「大隈守様や佐渡守様も随分と骨を折ってくれましたけど公家の方が居ると段違いですからね。葉室の奥方様は此方を思っての上は承知で少々厳しいと思いますが……少々」
織田秀子がチラッと目線を合わせれば有馬幸も頷き。
「ええ、少々」
珍しく、と言うか勝三は初めて二人の妻の疲労の滲む、こう、なんと言うか。疲労の滲む顔を見た。これは極めて珍しい事である。
ま明かしちゃうとアレ。山科家へ葉室家よりから嫁入りした勝三の義母は旦那に負けず劣らずパワー凄かった。後ろ盾ウヒョーって。
彼女達山科家の女性達は息子娘の立場向上と業務円滑化の為に絹取引に必要な公家のやり方とかを内藤家に超教えてくれるのである。
百の善意で齎される怒涛の激烈スパルタ異文化儀礼教習とか、人生賭けてる服飾の勉強しにくる目上の相手はマジヤベェのだ。
と言う訳で言い難いが他の仕事に影響が出る可能性もう含めて二人は対応を願う。加えて大変だったと話し頷いて欲しくなってしまうのもしゃーない事。まぁ勝三からすれば二人は気を遣い過ぎな所が随所に見られる。
一頻り聞いてから最後に。
「では山科家には御礼をしておきますよ。その時に一言添えておきます」
まぁ塩梅が難しいトコではあるが贈り物ついでに勝三が能天気に自分が不甲斐ない所為で妻達を休ませてやれない何て言っとけば色々大変なんだなって勘繰って緩くしてくれるだろうって割と安直な目算を語る。
まぁ安直と言っても実際に内藤家って手掛ける事業が多過ぎてバカ忙しい。当主は兎も角も内藤家で事業を担っていない者の方が少ないのだ。マジで赤子以外はみんな何かしらの仕事がある。
絹産業、紡績、服飾、木工、作事、硝石、造船、水運、観光、産鉄、印刷業。これに武家の仕事とくればそら朝廷の要請で仕事増えるなら気遣の範疇で信長の命令として勝三が今更婚姻結ぶ事になるわって量。勝三も遠征の準備に入る必要があり二人の妻に任せる仕事も必然的に増えるのだから。
「申し訳ありませんがお願いします」
秀子が言えば有馬幸も揃って申し訳なさげに軽く頭を下げた。勝三的には気にさせる程の事ではない。軽い気持ちで対応できる事ではないがこれも仕事だし家の大事。
何より。
「まぁ俺達も忙しいですから。ホントに」
勝三がそういえば少なくとも加減はしてくれると確信出来た。嫁二人の安堵っぷりスゲェ過ぎて勝三的にはマジで御苦労様って感じ。尚、三人ともに顔ちょっと煤けとる。
「あ、そうだ!春日井の織物職人達が今年の春蚕の出来が素晴らしいと。勝三様がいらっしゃるのを楽しみしていましたよ」
有馬幸がそうだと言わんばかり手を叩き嬉しそうに言う。
春に取れる蚕は桑の葉の出来が良く鯔の詰まり良い餌を与えられるおかげで上質な絹が沢山取れる。その絹から選りすぐり反物を作り上げて主上と信長へ献上するのだが今年から勝三本人からの慰労と春日井郡に帰る口実として祭りにした。献上する反物を会所に飾り関係各位に酒を振る舞うってだけだけど。
まぁ北陸のアレコレで予定大分短縮になったんですが。
「そりゃ楽しみだ。白雲の人達も中々会えないし。養父殿にもなかなかなぁ……」
勝三はちょっと申し訳なさそうに笑う。それこそ手紙は方々にバカ出すが尾張まで帰るのはなかなか出来ないのだ。距離的にしゃーないけど悪いなとは思うって話である。特に義理の親ともなればもうちょい顔を合わせるくらいはしときたいのが人情だ。仲悪いとアレだけど有馬家と内藤家はそんな事ないし。
「父上も忙しいのは分かっておりますよ。お互い様といえばその通りですし」
気にする事は何一つないと言わんばかりに有馬幸がフォローした。勝三が忙しいのは昔からだし有馬家も地元有力者として忙しい。こういうしかないが色々としゃーないのだ。
勝三はともかく地元有力者とか言われても何すんねんってアレだろうが雑に列挙すれば行政との折衝と催事の差配や御近所諍いの仲裁に仲人や跡見に孤児の世話と民間主体の防災なんかである。
まぁ時代的に半民半官の色が強い。その上でより密接に民の立場に近い為に人付き合いと言う物が非常に重要な仕事たり得た。そうすると当然だが時間は食う。
「それより北陸の方で湊を作ると言う話ですが春日井に寄る余裕は作れるのですか?」
何なら有馬幸は気まで使った。実際遠いってのも大いにあるが。
「港を作る場所はある程度想定出来てますから大丈夫。どちらかと言うと柴田様が尽力なさってる逃げ隠れた一揆勢の対処の方が重要なんです。俺はもう加賀金沢、能登福浦および輪島、越中伏木の四ヶ所を藤堂殿を代表にして派遣し確認して貰ってる最中です」
「まぁ既に候補が上がっているのですか?」
秀子が驚きと共に言う。
「ええ柴田様と丹羽様から参考にと纏めた物を頂戴してます。それに能登は前田殿、越中は神保越中守と言う方から注釈まで頂いて。確認に向かわせこそしましたが一揆鎮圧で各所に赴かれた方々ですからそう間違いはないでしょう」
「成る程」
「まぁ俺の仕事は一揆残党の殲滅と職人と人手の移送と拠点の確保です。北陸は軍勢を送るのに苦労しますから直ぐに行っても邪魔になっちゃいますからね」
勝三が遠征に出る前に対応すべき事を話し終えれば夕刻が迫っていた。織田秀子はふと山科稀が出掛ける事は本人から聞いたが未だ帰ってきていない事に気付く。今日の治安は良いが夜中出歩くのはあまりに危険だ。
「そう言えば稀殿は?」
「明日、権大納言様と朝廷行って活版印刷について会談しなきゃいけないんで印刷機の確認に時間がかかってるかも知れません」
で。
「婿殿。此れが嫡子の参議言経。それと薄家の養子に行かせた蔵人以継に御座います。此方は葉室参議頼継の娘にして妻。と、葉室家当主の義兄弟と甥です」
言葉を発するのは上座の権大納言山科言継。
んで勝三は。
「えっと……初めましてェ」
公家に包囲された。
勝三はビビってる。
銃口砲口は平気だ。
権威圧のがヤバい。
下手な兵より怖え。
「えっとそれで葉室家の方々は一体どうなされたんです?」
思わず聞くよね。だってヤベェもん。今にも死にそうなのに目が血走ってる人が居る。今にも死にそうな死臭のする様な男が勝三に赤い瞳の強張った顔を向けてんだ。
怖い。
戦場であれば残心にて対応できた程度だろうがココ都なんすよ。思いっきり平時に受けるノリじゃねぇ。鬼気迫って大鬼もビビるて。
「紹介に、預かりました。権中納言頼房に御座います少弐殿。単刀直入に、話を」
勝三の印象を流用し言葉を濁さず言うが齢五十にして死人だ。彼は生気というものがない、霊鬼と化して居ない事が不思議な男。文字通り以上の必死さで勝三に縋るように。
「我等、葉室家は……」
そう言うと長い時を使い呼吸を整える。権中納言などと言う立場の公家。存亡とは程遠いようにも感じるが勝三は気を使って疑問は挟まない。
目の前で自重を支えるのも辛そうな男の言葉を断つのは気が引ける。
「失礼、した。私は見ての通りな上に息子も体調を崩すことが多くなってきた。許されよ」
深呼吸。
「我等は朝議典礼について少々詳しい。故に此度の朝議典礼の記録は残さねばならない」
言葉が途切れ大きな呼吸、繰り返されるソレは喘鳴とも言うべき。命に燈を燃やしながら紙束を前に。
「これは我等の記した記録、織田殿の齎した此度の全て。また先例との差異。其れを記した物だ」
そう言って沈黙する。
権大納言山科言継が引き継いだ。
「婿殿、装束等は我らが纏めておいた。婿殿には此れを刷り相国殿に献上してほしい。堺版や大内版とは違い枚数は多くても構わ構わへんと聞きました」
「それは、ハイ。大丈夫です」
既存に木版印刷は版画を想像してほしい。一方で勝三のは活版印刷だ。あいうえお、時代に合わせて言えば。いろはにほへと。一文字一文字を作り其れ等を並べ替えて印刷する。
まぁ出来上がるのは比較的簡素であり漢数字も小字で、ファ◯コン版のドラクエのテキストの様な物だ。が、全く同じ物しか写せない物と様々な文章を写せる物と言う明確なメリットがあるのだ。まぁ技術的なアレでゴシック体っぽいから長文が読みにくいけど。
それを信長から主上へって形で朝廷に献上する。これに関わる事が出来るのは公家と大いに箔が付くのだ。大袈裟でもなんでもなく命を削る価値がある。
「さて婿殿。此度の事を含め昇殿する必要もあるかもしれん」
権大納言山科言継の言葉に勝三はゾッと。
「北に行かれる迄におおまかな儀礼を叩き込ませて頂こう」
「我等も明応の政変より葉室は力を失ったが力を貸そう」
「葉室殿の家祖は夜の関白にして十代今出川の将軍に近侍した記録がある。故に、これ程に心強い事もない」
「幸い息子は小言を言う右小弁が仕事故、礼儀は躾けてある……」
勝三は頷く。
頷きながら思った。
公家コワ。
さて勝三が北陸へ向かう前に儀礼レッスンを受け何とか良い感じに公家の女衆へ嫁さんの状況を伝えてる頃の越後国頸城郡春日山城政所。
「ケハハハハハハァッ!!オイオイしみったれた面が雁首揃えてんなおい!!蟄居してた俺が一番真っ当な面ァしてんぜ!!」
ズカズカと揚北衆の一人が重臣達の間を進んでいく。手には瓢箪を持ってグビグビと飲みながら隙の一つも無い歩みで最奥。軍神の前にドカリと腰を落とす。
齢三十六と言うが見てくれは非常に若々しく髭がなければ青年の様。だが何よりも特筆すべきは力満ち満ちた尋常ならざる荒々しさ。
身の丈は大きいが特筆する程ではない。よく鍛えられているが人の身である事に相違無い肉体。しかし内包する力が一帯を迸る。
人の形をした激発しそうな抗えぬ力、今にも噴火しそうな火山の様。
知りて尚、人の身では誰も気が抜けず、誰もが恐怖を感じる類の男。
「おう。来てやったぜ軍神さんよ。ケハハ!」
彼は鬼神。越後のもう一柱。力の権化。
本庄越前守繁長。
瓢箪置いて鬼神の眼が軍神見据えて嗤う。
「遠路はるばるな」
鬼神の嘲笑に軍神の微笑。
「ああ、よう来てくれたな」
軍神の言葉に鬼神は溜息。
「はぁーあ、と。まぁー態とらしい演技はもういいか。俺はアンタが確りするならアンタに従うし、アンタの敵がアンタより確りするなら敵に従う。それだけの話さね軍神さん」
「当然だろうな。だーすけオメは私について来い。褒美は望むがままさ」
「この大戦の後に上杉家が残ってりゃあな。ケハハハハハハ!!まぁ良いや。で、何処を攻めんのよ。蟄居してたんで知らねぇからな」
「まぁ、初手は決まってる」
「あー、じゃあ、ただの散歩か。肩慣らしにもならねぇな」
荒々しく悍ましく馬群が駆ける。銘々が松明を持ち家々に放り投げて村の中を進む。そして蔵は空に人は首に。
取り留めない戦国の日常。とは言え人取りどころか殺すあたり特に酷い光景が広がっていた。これは上野国の北条領での光景だ。
「あの軍神が此処までしなきゃあ勝てねぇのかね。まぁ勝てねぇんだろうなぁ。そら勝てねぇわ」
荒々しい乱階の相、燦爛たる白い髪と髭、剛強堅固な肉体の老将。北条城城主大胡城城代北条丹後守高広は冷めた目で此の世の地獄を見ていた。彼は上杉家と北条家の両属に近い立場である。
「……気に入らねぇ」
彼は既に隠居の身だ。二度も軍神へ反旗翻し二度も許されている。故郷から遠く離れた地で隠居した野心家だった男。だから不愉快。
「軍神が情けねぇ真似を」
乱取りならばそれは政略戦略戦術の類。蝗の様な下劣な所業にも意味はある。ただ目の前の頷ける策、当然の帰結は故に不愉快。
「オイ!!」
「は」
機嫌そのまま。がなる様に声を張れば静かな声。己の思った以上に感情を発露した北条丹後守高広は恥と自責を覚え。
「あぁ怒鳴ってすまねぇな。ついでに悪いが俺と倅がどうするか北条さんに伝えといてくれ。この毛利丹後はこれ以上は動けんってな」
「承知しました喜多条様」
伝令役が立ち去ると北条丹後守高広は深く不快な溜息を一つ。
「軍神、な。似合わねぇよ。そんでオメェにも似合わねぇぜ下野守。こんな狡っからいのは」
届くわけもないが彼の目線の先に居るだろう名将に不満を吐露した。
今の上杉家の将兵とは武田家と北条家を始めとした強敵達と血で血を洗う戦を繰り返し生き残った化け物である。今残る勢力は往々にしてそいう者達だが同じ相手と五度六度と戦った上杉家と武田家は稀有な間柄と言えるだろう。とどのつまり軍神の家臣とは龍虎の争いに揉まれ戦の酸いも甘いも知り尽くした名将精兵で戦に冠する事で狂う事は稀なのだ。
上杉家の家紋の下で将が合理を下す。
「全て奪え。全て殺せ。田畑は四方から火を掛けよ。家屋は風上から火を掛けよ。全て悉くを焦土とせい」
斉藤下野守朝信が淡々と冷酷な命令を下す。周辺の村々から牛馬を集め船を沈め仕上げ。特に此処は川近くで徹底した焦土化が必要。
焦土作戦といえば住民が受ける凄惨な光景と将兵の狂気に目が行くだろうが重要なのは敵の行軍をどれだけ不可能に出来るかである。
要はインフラと輸送力の破壊。この時代では峠道を塞ぎ宿所を壊し井戸を埋め杭を抜いて船を沈め人畜を殺し田畑を焼けば良いのだ。
それ等は当然だが人として生きるのに必要な物を踏み躙る事こそ肝要で乱世の人間の常識にして当然の所業。余りにも平常に繰返す。
「下野守殿、参りましたぞ」
声かけに頷いた斉藤下野守朝信の視線の先には北条家の軍旗がはためき、その軍中の旗下にて集うのは三人の男が並んでいた。
藤田阿房守氏邦は北条家における上野国の責任者、多目周防守元忠は北条家の精鋭五色の一たる黒備えの頭、北条上総入道道感は北条家最強の武将だ。
後の世に上杉征伐と呼ばれる戦いの初戦が始まった。