月下月影 視点ってモンの印象の変わりっぷりってマジすげぇよなマジで
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今回は微妙な布陣図があります。
それでも良いよって方は暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。
その主従は非常に絵になった。異常なまでに絵になった。異様なまでに絵になった。
主は齢二十程の美青年。
従は齢三十程の美丈夫。
主は男である。だが月下美人と言う言葉が相応しかろう白く美しい透き通る様な肌。容姿は絶世と言えば過剰だが貴公子然とした佇まいと穏やかさがある整った優しい雰囲気を漂わす。特に極自然に礼儀作法と知識知見の垣間見える一所作一動作にこそ月明かりの如き美しさがあった。
主の名は尼子孫四郎勝久。
従もまた男だ。彼は例えれば、そう。蒼天に白く鎮座し闇夜にて輝く月そのものである。弦月の様にスラリとした鋭く練られた体躯に満月の様な圧倒的存在感を誇る男。鋭利な瞳に艶やかで眩く月光の様に輝く宵闇の様な黒く輝く髪。天井知らずな剛力を誇り天上に届こう勇士は頑健な肉体を持ちながら洒脱にして何処か浮世離れしていた。
従の名は山中鹿介幸盛。
彼が近隣の地図を指す。
鳥取城の周辺を記す物。
たぶんザッとこんなもんやろ布陣図
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◯ーーーーーーーーーー山山ーーーーーーー
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◯ーーーーーーーーーーーーーーー山山山山
◯ーーーーーーーーーーーーーーーーーー山
◯ーーーーーー山山山山山ーー凸凸凸ーーー
◯ーーーーーーーー山山山山ーーーーー凸ー
◯ーーーーーーーー山山山山山山山山ー凸ー
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◯ーー凸ーーー凸ー凸ーーー凹凹凹凹山山山
◯ーー凸ーーーー凸ー凸ーーー凹凹山山山山
◯ーー凸ーーーーー凸ー凸ーー凹山山山山山
◯ーーーーーーーーー凸ー凸ーー山山山山山
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凸・木下家
凸・内藤家
凸・丹羽家
凹・鳥取城
「ご覧ください」
山中鹿介幸盛の凛然としつつ軽やかでありながら耳を捕らえて話さない声。その一言で全ての者の視線が地図に向く。
「ご覧の様な形で織田勢は山名家が鳥取城を囲んでおります。南の麓を木下、北の麓を丹羽、そして千代川に内藤が布陣している」
「成る程な。総大将を彼の大鬼が守っていると言うことか。城を落とすより難しいわ」
声を発したのは尋常ならざる立ち姿の男。特筆する程の背丈もないが腕を組む様、ただそれだけが大山そのものに立脚されて尚、その足で立っていそうな頑強さを迸らせる立原源太兵衛尉久綱が要点を発する。
「だが、これを抜かねば城の救援は儘ならん」
その言葉に山中鹿介幸盛は微笑みさえ浮かべて軽やかに頷く。
「左様、故に。私は内藤家の軍勢を壊滅させようと思っています」
誰もが目を見開く。山中鹿介幸盛に真意を問う様な目を向けて。ただ立原源太兵衛尉久綱だけは鋭く地図を眺めていた。そして内藤家の駒を摘み取る。
「これが狙いか鹿介」
どうだと問わんばかりの顔。立原源太兵衛尉久綱の問答がわりの表情に山中鹿介幸盛は正解だと頷く。
「策としては我等は少数の斬り込み隊と混乱した敵を撃滅する本隊に分ける。斬り込みは当然私が行いましょう」
反論は無い。
「我等はこれより内藤家の兵を狙い撃滅いたします。天下名だたる大鬼、内藤勝左衛門。此れを討てば織田は尼子家を許しますまい。それこそ毛利家の助力さえ利用して燼滅するでしょう。故に我等の精強さを知らしめるに止め、しかし織田の主力たる男のその四肢を捥ぐ。我等の勝利はこれしか御座いません」
黙し閉眼して家臣達の言葉を聞いていた尼子孫四郎勝久が双眸を開く。
「此度、敵の攻勢を頓挫させるには敵の至強を挫く必要がある。しかし敵に死力を尽くさせぬ為に大鬼は残すと、そう言う事だな。それは可能なのか鹿介、源太兵衛尉」
それは全て分かっての問いだ。分かった上で生まれ持った気質からの家臣を案じる問いだった。二人の勇者は泰然と肯首。
尼子家の主君たる男は頷き。
「ならば憂無し。さぁ行こう尼子の至宝達。杵築の神々が我等を見ていよう。鹿介、先陣は任せる。ただ前へ、我等の道を照らす月光の様に」
家臣達がその場で跪き山中鹿介幸盛が。
「承りました御屋形様」
ただ了承の言葉を返した。
下弦の月の前立てに鹿角の飾りの兜を付けた山中鹿介幸盛が先頭を進む。月夜に船へ乗り込んで尼子家の軍勢が白兎の海岸より出てて東へ進む。月明かりを頼りに尼子家の再興を胸に士気高々。
浜に沿って進む数多の小早から溢れ出る幾つもの波跡は流星の軌跡の如く。月光照らす静謐な夜に轟々と闘志を燃やして西へ西へ。
千代川河口まで進めば尼子家の夜目に入る巨大な帆船。アレが名を天下に轟かす織田の一角船かと感嘆する。同時にアレらを鹵獲できればとなお気炎を昇らせた。
「さぁ、月よ。貴方の授けた七難八苦。白兎の浜の宣誓通りまた越えて見せよう」
上陸は速やかにして静か。無音で進み行き身を伏せて背の高い草で身を隠す精兵を集めた先駆けの将兵達。その先頭に立つ山中鹿介幸盛は呟いた。
彼の目には消えた篝火と数名の不寝番達だろう人影が見える。それらは夜番でありながら確りと見張りを果たしていた。その奥には眠る兵と広範囲の天幕が有り内藤家の家紋だろう丸い紋が見える。
「敵ながら天晴れ。天晴れ故に月光が貴公らを照らす。良い的だ」
山中鹿介幸盛が数度強弓を天へ放つ。それは鏃が一度輝き見張り達の命を射抜いた。
開戦の合図である。
弓から手を離し大身槍を握って山中鹿介幸盛が走り出せば続々と兵が出てきて続く。
「兵よ。音を殺し敵を殺せ。それが此の戦の趨勢を決める」
浸る様な月明かりの様に山中鹿介幸盛の言葉だけが広がる。史上最強の英雄の言葉だ。誰が聞き漏らすか。
吉川小早川を手玉に取った英雄の軍略。刮目せよ尼子家に残った僅かながら眩き輝きを。月下に進む不屈の軍勢が最良を選び最良に動き最良に手を掛け。
「ハイ。残念でした」
誰の声か眼前の軍より。
月を雲が隠す。眩く遍くを照らした月光を曇天が覆っていく。理解から絶望。
尼子の軍勢の足元には数百少々の藁人形。それは播磨の村々に配られた兵糧の対価として作られた人形。播磨にて三木城へ追い込まれた民への懐柔策の結果。木下家の兵衛と内藤家の兵衛の献策。
夜襲であれば寝入る兵がわりの囮として十二分な撒き餌を囲むのは鉄砲兵の列。
それは整然とした三列。
「頭を伏せろ!!!」
聞いた事も無い山中鹿介幸盛の緊迫し切迫した叫び。ザァと雨の代わりに矢の音、そして轟天響く数多の白煙が立ち上る。反例など無く反応出来なかった者は易々と絶命。反射的に反応出来た者さえ頭上からの矢礫で傷を負う。
「退け退けェッ!!」
撤退は恥ではない。いや壊滅の見える状況で損切りも出来ない者は唾棄すべき愚物。山中鹿介幸盛は転身。
「あ……」
尼子の軍勢達が吐露した絶望。山中鹿介幸盛は大身槍を強く握る。初めて見る己より巨大で巨大な男。
仲間だった物の死屍累々。中央に月へ金棒を突きつける大男が仁王立つ。頭形兜を手で抑え得心して。
「ヤッベ場所間違えたか。本陣じゃなかったかコレ。ま、良いや来たみたいだし」
振り返っては悍ましい満面の笑み。
「突撃」
彼我の温度差。絶望と楽観。怒り。
「内藤勝左衛門は俺が抑える!!皆、敵を貫き唯逃げろ!!!」
激昂と覚悟を合わせて山中鹿介幸盛は前へ。
あの真黒な大鬼は己以外どうしようも無い。
手立ては突撃の勢いを殺す即接敵から乱戦。
「我、山中鹿介なりッ!!」
吼えて進む。勇戦は常の事。徒士戦は慣れた物。
「——ッ??!!!!!!」
ゴっと。天そのものが落ちてきた。それは錯覚だが過言では無い。
鉄塊。人の振るえる筈の無い。人が振ってはならない黒鉄。直下。
それを避けた安堵は無い。即座に飛び跳ねて距離を取る。横薙ぎ。
前を過ぎたそれに全身をぐっしょり濡らす。顔を上げれば大鬼だ。
彼は立っていた。金砕棒を杖の様に握って。場違いな笑みと共に。
「御高名は予々。内藤勝左衛門に御座います山中殿。さて、では尋常に」
ズンと半歩構えて金砕棒を高く持ち上げる黒い大鬼。次の瞬間にはドゥと地を砕いて飛び掛かり迫る。敵の腹に大身槍を即座に突き出して。
「——ガッ?!!!!」
顔に、兜が潰れんばかりの衝撃。二度三度と地面に身体が叩きつけられる。震盪する頭を気合いで保たせて立ち上がれば金砕棒を脇に構え其れを握る手の逆。平手打ちを終えた体勢の大鬼がいた。
「何と素速い突き。与三と訓練してなかったらやられてましたよ。ん?」
「鹿介様を守——」
迫る黒い大鬼の前に戦友たる兵達。だが次の瞬間には黒い残像が塗り潰す。そこにいた友は忽然と消えた。
それでも恐れず囲い攻めかかるが担いだ金砕棒を首支点に腕を引き落とす様にグルリと回し体砕き飛ばす。
一転した金砕棒を脇に抱え込み前に射出。飛び行かぬ様に再び脇で止めれば金砕棒が顎を穿って真の落し。
瞬く間に果敢なる戦友は消え去った。屍だけが増えて血の一つ着いていない大鬼が佇む。呼吸を一つ。
何も無くなった空間を過ぎながら慈しむ様。超然とした面持ちのまま進む。黒い大鬼は笑み浮かべながら。
「敵ながら天晴れ」
歩みは止めず。血払い位置が変わる金砕棒は黒。人を無に帰すソレ。
何と言う暴虐だろうと山中鹿介幸盛は思う。余りにも酷い仕打ちだ。
敵は当然の様に即死の一撃を放つ。それも己の大身槍以上の間合い。
あんな代物だ。しかし速さも敵が上。では諦めるかと問われれば否。
逆だ。全く逆だ。勘違いも甚だしい。寧ろ此の勲は月に捧ぐべきだ。
曇天が晴れゆく。黒い大鬼の頭上から月光が満ち満ちていく。前へ。
「刮目しろ!!!月よッ!!!!!」
相対し大身槍を持ち替え、握り、放つ。投槍に向かぬ其れを膂力で大鬼へ一直線に飛ばして愛槍の石突きを追う。駆け走りながら刀を抜いて。
「ウ、オオオオオオオオオオオオオオ!!!」
眼前を行く大身槍が黒く塗りつぶされる。合わせて飛び掛かり太刀を首目掛け突き出そうと力を入れ——。
ッド。
山中鹿介幸盛の意識は途切れた。
彼の不幸は一つ。自身に並ぶか、それ以上の化け物を知らなかった事だ。凡百なら振るか突けば死ぬ。一流なら二、三合で死んだ。それが今までの常識。ただ知る事の出来なかっただけの例外が偶々今起きた。山中鹿介幸盛に何ら瑕疵の無い事。故にこれは不幸であった。
ドシャァ……と。長引きこそしなかったが感嘆する敵が地面に叩きつけられる。残心、即座に飛びかかってきた敵兵を薙ぎ払った。そのまま金砕棒をグオングオンと振り回して敵を殴り払って雲が作る月の影を背に進む勝三。
「いやぁ残党って言葉。間違いだろコレ。強過ぎない?」
勝三はつくづく思う。敵の実質的総大将は前情報からすると今倒した。あと数年も鍛錬すれば己や真柄十郎左衛門直隆にも匹敵しよう男。それが倒されて尚も敵の将兵は挑み掛かって来る。それら挑んでくる者達を悉く殴り払った頃には空が地面以上に赤く鮮やかに染まっていた。
「さて、片付けすっか。雨降る前に」
敵の介錯と捕縛に鹵獲。其れらが終わったのは昼頃だ。鳥取城からの攻撃もあったがそれも難なく丹羽軍に屠られた。
物量による圧殺。常道たる強者の戦。感慨も無い撃滅。
勝三の人外と評すべき武力、其れさえ織田家の力の一端。その現実は鳥取城の将兵と民の心を枯れ枝より尚易く折る。
「さぁ飯だ。今日は酒も出そう。包囲も終わりだろうからな」
故に降り出した雨の中で呟いた勝三の言葉は現実となる。
まぁカッコ付けて言ったけど籠城側の開城理由の一つとして有りふれた理由。やっと来た味方が目の前でグチャグチャに撃滅されたんだし当然っちゃ当然。耐えた先に未来があるから籠城なんて事が出来るのに其れを断たれたのだから。
それも援軍が勇名を馳せていた最後の希望ならば尚の事。
さて翌日、首実験である。中央に丹羽五郎左衛門長秀、左右を木下藤吉郎秀吉と勝三が固め床几に座る。彼らの前には空の蓙。
「神西三郎左衛門、ですか」
首桶並ぶ天幕に引っ立てられた男の一人を見て丹羽五郎左衛門長秀が言った。状況的な理由で討ち取った規模が規模なんで首実験も一日かかる。今日は捕縛した連中との面合わせで内一人に神西三郎左衛門元通という者がいた。仕方ない事だが山中鹿介幸盛に比べれば地味である。
木下藤吉郎秀吉がニコニコと。
「丹羽様、この者は出雲神門の神西城城主だった剛の者ですよ」
丹羽五郎左衛門長秀は頷き。
「ふむ成る程、剛の者ですか。では確実に腹を切って頂かなければ。介錯は私がやっても良い」
「確かに尼子家は強かった。確と殺すべきですね。草の根分けてでも探しましょう」
確かにと勝三も続いた。
アレ?と思えばそれは正解だ。
織田家のノリじゃ無い。
これは毛利家との折衝の結果だった。ゴリ端折るが毛利家に貸を作る為に尼子家を木下家麾下に置く事になったのだ。その流れで丹羽五郎左衛門長秀と勝三が尼子家鏖殺発言をして木下藤吉郎秀吉が掬い上げる。
毛利家の唐突な瑕疵を勢力の少ない木下家の戦力を増やす事で相殺しようとしてるのだ。それもこれも覚醒手紙モンスター義昭の所為で毛利家は足利家を手放せなくなってしまった。細かいのはまたの機会として家中統制とか九州の戦いの一区切りとかが大きな理由。
閑話休題。
「さて」
勝三が立ち上がる。
ズン、と。神西三郎左衛門元通はゾッと。
金砕棒を軽々担ぎ。
「手緩い真似はやめて強者には敬意を持って当たりましょう。鏖殺して残す尼子家は毛利家の者達だけで十二分。徹底的に縁者悉くを引っ立てれば探し出せない事はない」
「殺すのは勿体無いのう」
勝三が動きを止め振り返る。その視線の先には木下藤吉郎秀吉。
「内藤様、儂はこの連中が欲しい」
「藤吉郎殿、気持ちは分かります。ですが毛利家に面目が立ちません。俺も正直言って困ります」
「でしょうな」
丹羽五郎左衛門長秀が当然のこと故に勝三の言葉を肯定した。木下藤吉郎秀吉は困った様に顎を撫でてさっきから百面相してる神西三郎左衛門元通をチラリと見る。もう少しだなと考えながら己の顎を撫でるのをやめて口とを開く。
「では東に配すれば問題御座いますまい。何より追い立てて身を隠されるよりは何処にあるか知れた方が安堵出来ましょう。毛利家に借りが出来る分は儂が穴埋めを致します」
「ふむ、居場所が知れるのは悪くないが毛利殿がどう思うか。いや、何と言ってくるか分かりませんよ?今は何もしなくても私達が優位な立場ですが」
勝三の淡々とした返し木下藤吉郎秀吉は困った様に。
「そう言われると弱い。しかし勿体無いとは思いませんか。何より儂は人手が欲しい」
勝三は考える様に沈黙した。人手が欲しいは織田家共通の願いだと言わんばかり。代わりに丹羽五郎左衛門長秀が口を開く。
「まぁ木下殿も私も因幡を落とした後は遊撃になりますから遠征に出る者と残る者が必要ですからね。とは言え外交を拗らせぬコツは即ち腹を割って語らう事で毛利家に伺う必要が有るでしょう。さて優位な状況を捨て骨を折っても良いですが先ずは尼子家の考えを聞くべきですか」
六つの瞳が神西三郎左衛門元通を捕えた。
丹羽五郎左衛門長秀が口を開く。
「一度、貴方方で話し合うと良いでしょう」
まぁ、てな訳で尼子家は木下家に組み込まれ因幡は普通に陥落して織田家の勢力下に置かれる事になった。