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いや、ちょ、え?速すぎない?

ブクマ、ポイント、、いいね、誤字報告ありがとう御座います。


今回は見難い地図があります。


それでも良いよって方は暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。

「じゃ擦り潰すか」


 左右に馬廻や腹心達を侍らせ勝三は言う。彼らしくない表情で彼らしくない淡々とした声で。よく晴れた青空の下の黒い残骸広がる焼け野原の中。


 眼前には播磨三大城郭の一つ三木城。この城は台地に館と櫓を建てた代物、そう聞けば貧相に聞こえるかもしれないが規模が異様であった。本丸に入る為の二の丸があり、その二の丸に行くには曲輪を二つ攻略する必要があるのだ。また曲輪に行くまでも坂を進み寺を一つ越えねばならない。


「いいか抑えてた大筒ここで全部使うぞ。鉄砲も弓も全部だ。織田家をナメたらどうなるか播磨全土に知らしめろ。門に取り付いてからも敵の反撃を許さず三日の内に門を全部吹き飛ばせ」


 織田家家臣は当然の事と頷く。しかしそれ以外の者は俄には信じ難いと表情が物語っていた。それこそ唯一、黒田官兵衛祐隆が不可能では無い事を察して呆れている。


「み、三日か内藤殿」


 浦上遠江守宗景が思わず言葉を吐露し勝三は頷く。


「ええ浦上殿、最大で三日です。確かに三木城はデカいが今は時が無いので本気で行きます。最初の門は跡形も残さず昼夜問わずに攻め続ける。残った弾薬は此処で使い切る」


 浦上遠江守宗景は頷く事しか出来なかった。


 何せその目で確と見て耳で聞いたのだ。美嚢川から揚陸された大筒十二門。素焼き弾薬七十二発、鉛玉弾薬二十四発。それに鉄砲の弾薬はもはや冗談の様な数だった。何でも英賀城を落とした船の大砲を一隻分まるまる持ってきたらしい。


 あの英賀を落とした大筒達が投入される。


「なら内藤殿、先陣に儂を加えてくれんか」


 浦上遠江守宗景は織田家において新参者である。そう言う状況で立場を良くする為に一番良いのは功績を上げる事。あんだけのモンの援護射撃があるなら功績を挙げ易い。


 それを分かっている勝三は頷いた。


 たぶん三木城西部の縄張り?

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ◯◯◯◯◯〓〓1111111111111

 ◯◯◯〓〓〓1〓〓〓1111111〓〓〓

 ◯◯〓〓11〓〓凸〓1111111〓ーー

 〓〓〓111〓22〓1111111〓ーー

 〓11111〓〓門〓1111〓〓〓〓〓〓

 〓〓〓11〓〓〓橋〓1111〓3333〓

 ーー〓11〓222〓〓〓〓〓〓門〓33〓

 ーー〓11〓222門222222〓33〓

 ーー〓門〓〓〓〓〓〓222222〓〓〓〓

 ーー〓11〓22222222222222

 ←ー門11〓〓門〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 織ー〓〓〓〓2222卍〓ーーーーーーーー

 田ーーーー〓〓〓〓門〓〓ーーーーーーーー

 軍ーーーー坂坂坂坂坂ーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ←織田軍は西に布陣

 凸本丸館(ゴール地点)・卍雲龍寺(スタート地点)・凡その高さ123


 勝三は焼き払った城下町の先を眺める。この日の攻撃を担当する者達の陣容は先陣に播磨衆と浦上家、敵の攻撃に備え逆撃を与える林新次郎通政、弓鉄砲と大筒の総指揮を任された湯浅甚助直宗、それらを総括督戦する篠田右近大夫正次だ。


「法螺吹け」


 勝三の号令に答えた法螺を合図に軍が動く。


 先ずは雲龍寺のある曲輪へ向かって牛に引かせた大筒を押して坂を登る。牛には船の防御に使う様に鎧をバラして被せ置き楯を背負わせてだ。また坂近くの反撃に備え西門の前には林新次郎通政が控えた。敵の迎撃が始まるが今は置き楯を構え亀の様に耐え時折大鉄砲や鉄砲で嫌がらせをするしかない。


 手筒花火の様に大筒を打ち上げるのは効果的だがその程度の反撃が精々。台地に建っているだけに敵の位置が高所過ぎて効果的な反撃が出来ないのだ。故に敵の攻撃は猛烈にして熾烈、当然ながら坂を利用して丸太などを落とし大筒の進行を妨げる。


「最前列ッ!!そう丸太はデカくない!!二列目三列目の奴等は一列目の頭を守れ!!その間に最前列の連中は石と丸太を退かしちまえ!!」


 湯浅甚助直宗が即座に対応させた。対応する時間がない中で最前列を行く機動力の低い大筒の足止めは効果的だ。事実撤去作業中は完全に行軍が止まる。


「よし!ヨシッ!!今だやっちまえ!!!」


 嬉々とした声に続いて矢礫の豪雨が降ってくる。だがしかし矢や礫如きなら置き楯で防げるのだ。此方も角度的に撃てないが敵もまた鉄砲を撃てない事が幸いした。


 まぁヤバいのは岩。


 だがそれも半刻(約一時間)程にも満たない間の事。織田家が何カ国で戦い幾つの城を落としたと思っているのか。岩を落とした程度で止まる数ではないのである。


「オッシャァッ大筒ブッ発なせッ!!!」


 最先陣を担う湯浅甚助直宗さえ戦歴で言えば勝三とほぼ同等である。織田家で建てる築城の流行たる櫓を備えた枡形小口や埋門。また階段を多用した作りではない三木城は攻略出来ない程ではない。


 置き楯の亀甲の中で号令一下砲尾に火を捩じ込んで。


 轟音。


 炸裂した白煙が吹き飛んだ門の間から勢いよく漏れ出る。


 亀甲の中では名名が手で硝石臭い煙を払おうとしていた。


 砲金は心持ち赤く燃焼による熱を放っているが未だ平気。


 轟音。


 鉄門でもない様な代物などものの見事に吹き飛んだ。


 白い煙が晴れていき敵の鏃と銃口が見える。しかし敵のそれより先に湯浅甚助直宗が号令を発し弓鉄砲を叩きつけた。入り込むのは別所孫右衛門尉重宗が雪崩れ込んで進む。


「一番の——ぎゃ?!」


「かかってケェや織田んモン供ぉお!こん後藤新左衛門(基国)が相手したるァア!!」


 なんかメッチャ強そうなのがいた。別所家家臣の後藤新左衛門基国という齢三十ほどの国人だ。俺こそ一番槍みたいな筋肉モリモリが槍をブン回して侵入を阻止していた。


「ええい!!あの猪武者を討て!!」


 激昂したのは吉田伊賀守顕久だった。別所主水正重宗の家臣だ。号令と共に十余名が躍り出る。


「ダァッ!!!」


 しかし一吼え一振りにて鎧袖一触。櫓からの弓と合わせて別所勢がゴリゴリ削れていく。別所勢は出鼻を挫かれ体勢を立て直せないでいる。


「何を梃子摺っとんじゃァ!!退け別所の雑魚供ガァッ!!」


 そう言って前に出たのは浦上遠江守宗景。尼子にも兄貴にも毛利にも喧嘩売ってきた男が生来の気性のまま前に出る。前に進んでいれば矢弾なんぞ当たらないと言わんばかりにズンズンと。


守護代(浦上)如きが図に乗んなやッ!!」


「黙っとれ雑魚(赤松)分家(別所)ェッ!!!」


 別所主水正重宗がブチ切れて手柄争いが始まった。こんなクソ狭いトコでする事ではないが対抗心のおかげで戦意は折れない。相応の被害は出るも前に前に押し込んでいく。


「切り込み隊、下がれ!!」


 曲輪の半ばまで推し進んだところで湯浅甚助直宗が声を張る。浦上遠江守宗景と別所主水正重宗が即座に撤退指示を出した。最前線で槍を振っていた後藤新左衛門基国がポカンとして怒髪天。


「二人がかりで逃げるんけ腰抜けェッ!!」


 背中に向かって吼えた。そして激昂のまま駆け出す。余力を用いた追撃である。


 だが背を追った先に見えたのは銃口と砲口。


「撃て!!!」


 轟音白煙と共に炸裂するのは鉛の銃弾と大筒に詰められた石礫である。斉射された銃弾は後藤新左衛門基国を撃ち抜き拡散した石礫は兵を薙ぎ倒す。それは後藤新左衛門基国とて同じ事。


「前へーーーーーーー!!」


 大将を失った別所勢に湯浅甚助直宗の声が響き白刃と穂先が襲いかかる。数的不利に形勢不利が重なればどうしようもない。狭間は竹束で塞がれ櫓や城壁の上からの攻撃は弓と弾丸で牽制して。


「壁を撃ち壊す!!大筒を出せ!!しっかり守れよ!!」


 小慣れたように牛が大筒を引っ張っていく。幾度かの轟音と白煙を撒き散らして木製城壁がこじ開けられた。そして第二の曲輪にワッと切り込んでいくのは浦上衆だ。


 先頭は浦上遠江守宗景。


 彼の知る情報からして最も利口なやり方だが織田家に全賭けし過ぎである。つーか嫡男赤ん坊なのに前線行くなやコイツってツッコミを誰かすべきだ。一番槍は誉だが限度ってモンがある。


 ただ何と言うか悲しいかな。


 浦上家は一番槍に相応しい勢力しか持たないと言う現実もある。確かに守護代だけど自力とか権力的にはもう普通に一家臣と変わんない。それを自覚しているからこその無茶と言うべき行動だった。


「オラァ別所のクソ雑魚供ガァッ!!」


 太刀を振り奮って進む。その先は二手に分かれている。より高所にあり櫓を多く配置し織田軍の入った曲輪へ攻撃できる西の曲輪へ続く門。もう一つは本丸へと続く曲輪への門であった。


 それを見て湯浅甚助直宗は即座に。


主水正(別所重宗)殿は本丸へ!!」


 敵勢が意外と少ないことに気付く。


「承知した!!感謝する!!」


「抱え大筒を持つ者は両名に続いて門を破壊だ!!鉄砲隊は敵に攻撃をさせるな!!」


 別所主水正重宗は湯浅甚助直宗の派遣した抱え大筒を連れて門前へ。櫓の攻撃から見様見真似で抱え大筒を持つ男達を守る。轟音と白煙と鉛玉を抱え大筒がズンと放つ。


「俺に続けェーーーーーー!!!」


 吹き飛んだ門の中央で叫ぶ別所主水正重宗の左右からワッと兵達が刀や槍を持って走り出す。


 そして彼等は足を止めた。


「……山城守(別所吉親)様」


 呼ばれた本人はそう声を発した兵をジロリと睨み。


「愚弟は何処じゃア!!!」


 大喝した。


「此処にいるぞ兄上」


 硬直した兵の間から現れた弟にスっと目を細めた別所山城守吉親は吐き捨てるように笑った。


「織田は随分と気を使ったようじゃの」


「一番槍は俺が頼んだのよ。見るに兵も集められておらんのやろ兄上。もう此処らで終わりにせんか」


「此処まで来れば既に意地の話や!!」


 そう言って切り掛かる兄。別所主水正重宗はその一太刀を捌ききれず刀を叩き落とされてしまう。それに気を取られてしまい足払いを受け尻餅を付いた。立ちあがろうとするが起き上がりに合わせるように首元へ切先が伸びる。己の喉元から峰を添い鍔を経て手を見て目を合わすは兄の顔。感情混ざる般若の様。


 だがそれでも弟は吠える。


「意地で小三郎を殺し!!!別所家を潰すんか!!!!!」


「違う!謙りが過ぎれば無侮られる!!故に意地を見せざる負えなくなったのだ!!!貴様の所為でや!!!!既に別所は家名しか残らん!!!!!」


 別所山城守吉親がガっと顔を怒りに染め。


「お前の言葉足らずでなァッ!!!!!」


 そう叫んで顔面を蹴り上げる。まぁ、もう言うてコレどっちもどっちよ正直。兄は早とちりだし弟は連絡不足だ。


 別所家内で割れたらダメなのに両者ちょっとずつダメな所が悪い具合に噛み合ってしまった。


 気を失った弟を一瞥して視線を上げる。


「物量には勝てんのう。頭を下げい!!」


 鉄砲隊の斉射が二の丸を襲った。その後は織田兵の津波に流される。本丸まで後退はしたがそれが限度。


 西の曲輪は陥落、本丸前の最後の要害たる二の丸が落ちた時点で三木城は開城した。


 この間、二刻半(ざっと5時間)である。


 陣屋で閉目し顰めっ面で鎮座していた勝三はその報せを聞いて言った。


「え、早くない?」


 超、目ぇパチパチさせながら言った。うん。


 正直すごいアホっぽかった。そんな御大将に与三が呆れたような顔で溜息を漏らし口を開く。


「そりゃ勝三、弾薬どんだけ余ってたと思ってんの。播磨から備前まで攻め潰す気でいたんだから当然でしょ?それを甚介が惜しみ無く使うんだから、まぁ早いのは確かだけど」


 言外にそのアホみたいな顔はやめときなと首を振る。勝三は鼻水垂れてたら完全に終わってたろう表情を止め訝しげに。


「え、つっても火薬の大半は他の戦線に回すように言ってなかったけ?」


「いや、忙し過ぎて普通に手が回ってないって。それに万一に備えて弾薬は交渉中は送り返せないでしょ」


「あぁー。言ってたなそういや。交渉締まってからって。すまねぇ、御内書の所為で記憶なくなってた」


 ヤッベ忘れてたと交渉に意識を割き、その交渉の最中で爆弾(御内書)が炸裂してた所為で記憶がブッ飛んでた事を自覚した勝三は素直に謝る。


 みんなあーってなった。


 そら忘れるてあんなん。


 まぁそれはそれとして。


「じゃあ切腹見届けてから俺等は東進して摂津の荒木を擦り潰す。右近大夫(篠田正次)殿には播磨の保持をお願いしようかな。織田に従わない連中は撃滅しちまえば何とかなるだろ。たぶん」


 取り敢えず簗田右近大夫正次を三木城城主とし別所小三郎長治を雲龍寺に幽閉し別所山城守吉親は切腹という形で決着とした。


「先ず山城守の切腹だな」


 切腹は別所山城守吉親の願望である。織田家側としては仇が取れれば良いので了承した形だ。後を考えれば断る必要が無かった。


 先ずもって別所山城守吉親が播磨造反の始点であった事に違いは無く自刃なら問題無い。また己の自刃を対価に別所小三郎長治および降伏する者の助命を願ったという体裁が取れるが逆を言えば取らせてやったのだ。これは別所家家臣で反織田色の強い者達を降伏させやすく戦後別所家の所領を削るのに色々と楽だ。まぁその上で此の際もう織田家一色に播磨を染め直すが。


 ともあれ切腹である。これはまぁ何と言うか最後くらいは、という情けなどが合わさった結果としてだ。見聞する事になった。


「此処で良いんで?」


 情と言うのは侭ならないものだ。勝三にとり目の前の男は早とちりな卑怯者、愚かな仇でしかないのである。しかし責任を取る気概と恥を捨て芯を通した懇願を見せられた。それだけで死際に気を使うくらいには心を許してしまっている。それは生死が隣り合わせ故の慣れか生来の心根か。どうも難儀な代物だ。


「構わん。城を清めるのも手間じゃろう。儂の死場所は此処が良い」


 別所山城守吉親は勝三に答え血の滲む包帯の上に死装束を着て良く晴れた三木の空を見上げた。そして参列する検視役の織田家臣達や最後を目に焼き付ける事を許された縁者たちを見て木板の上に腰を下ろす。目の前には四方の上に短刀が載せてあった。


 吐息を一つ。正面で仁王像に鎮座する勝三へと視線を向ける。そして短刀を掴む。


「少弐様よ。開城に応じた者の命は取らん。相違ないな」


「当然」


「安堵したわ」


 白刃の切先を腹に捩じ込み横一文字。


「……ッグ」


 腕が固まり介錯を受けて首が落ちた。


「御見事」


 勝三の小さな呟きが寒い風の中響く。


 天正二年如月(2月)の末、別所家は主水正家を残し滅亡した。これから数日をかけて多可、神東、加西、加東、美嚢、印南、加古、明石の八郡が織田家の物となる。一方で勝三は一路東進し沿岸部の城と言う城を薙ぎ払った。


「勝三、無事で何よりだ」


 そしたら信長に会った。場所は織田方に付いた桑原右衛門尉貞也の播磨桑原城だ。勝三はキョトンと。


「お久しぶりです……」


 ちょっと見当違いな発言をして頭を下げた。

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― 新着の感想 ―
[一言] これだけスムーズにけりついたら官兵衛さんも後遺症まではないかな……
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