なんか、こう、ちょっと遅いんだよねぇ
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暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。
摂播五泊が一つに建つ播磨国明石郡魚住城。播磨に物資を揚陸するにうってつけ故に湊として繁栄する地。そのすぐ近くの住吉神社にて歓喜を炸裂させる浸る男が一人。
「そうか、成る程こうか!!こうやったんやな!!これが将軍の戦いやったんや!!」
その様は狂喜、狂った様に笑うのは義昭だ。
己が掌、ただ筆を操り文書を生み出すだけで数多ある勢力を転がす心地良さ。それは信長という枷が取れ始めて得た快感、陶酔してしまう様な権力の愉悦。飢えて渇く程に望み願った末に漸く得た己の力。
そう義昭は現在バチクソに手紙書きまくってバラ撒いてた。急にどしたんコイツ感が凄いだろうが槙島城でボコられてから色々あったのである。まぁ端折って言えば畿内で身売りじみた行いをしてまで助力を乞うてガン無視されまくったのだ。
そりゃ誰が信長と朝廷を敵にすんねんっていう話であったが義昭は超絶諦めが悪かった。
上洛と下向を繰り返し死の間際まで都に帰る事を諦めなかった祖父や父親の血を色濃く継いでいたのだ。最初こそビビったし心折れかけたが一周回って父親なんて初手から機内から放り出され播磨で始まり近江で終わったのだと逆に「やったったるァラァオラァ!!」ってなっっていた。
そう。どれだけ都から蹴り出されても諦めなかったのが義昭の父。そんなマジで諦めの悪さったらハンパねぇ父親の足跡を辿る様に奮起したのだ。何より二百年続いた室町幕府を自分の代で終わらせるとかクソほど恐ろしい事は無い。
そんな義昭が目を付け同時に義昭に目を付けたのが大友三玄斎宗麟だった。コッチは早い話が毛利家との戦いへの打開策をほっしたのだ。余りにも毛利家にボコボコにされて消炭になりつつある大友家の権威。そして遠交近攻と言う常道から織田家と毛利家を手切にさせたかった。故に毛利治部少輔元就の死の合間を縫う様に大友家が乾坤一擲ガチったのが現状の結果だ。
……長くなったんで要約すると義昭がはっちゃけて空手形連発し、大友家が藁にもすがる思いで手を回したってだけである。
「フフフ」
義昭は笑う。始めて己の足で立ち上がった赤子が歩き回りながら浮かべる様な笑みで。
「フフフフフ……うお?!」
まぁコイツ頭おかしくなったんじゃねぇのって顔した家臣がいたんで直ぐ止まったけど。
「な、何やねん吃驚するやろ。何見てんねん新右衛門」
義昭は恥ずかしいのとか色々。現代的に言えば厨二病患者を見る様な目で見てくる家臣にガーと騒ぐ。その先で微妙な笑みを浮かべた心底頭の良さそうで、事実として頭の良い家臣。柳沢新右衛門元政が何事もなかった様な体で。
「いえ、まぁ何というか。随分な御尊顔でございましたので」
義昭の額にピキっと青筋浮いた。
「ンッやねんその言い方腹立つわー。ハッキリ言いや」
「では実直に申し上げて吐瀉物を撒き散らしそうになるくらい気色悪い顔でした」
「……いや言い過ぎやない?!」
「まぁ事実で御座いますので」
「ゴフゥ……」
「如何なされました?」
「辛辣すぎて血ぃ吐くかおもうてん」
「成る程、吐瀉物ではなく血反吐ですか。ウワきったね。塩撒いとこ」
「いや、容赦無しか!!」
彼等はこのやりとりが出来るほどに仲が良かった。今の義昭は弱小クソ雑魚ナメクジだが深い絆を結ぶ家臣がいる。厳密にいうと共に各地を流浪し共にひもじい思いをした供ではなく友とも言うべき存在が。
まぁ柳沢新右衛門元政は要領が良いんで割と小旅行くらいのノリで楽しんでたけど。
「まぁそれはそれとしてや新右衛門。どや拙僧の策、これは上手くいく思わへん?」
柳沢新右衛門元政は顎に指を添え軽く首を傾げながら考え。
「常道ならば上手く行くと思います。このバカこんな策を思い付くのかと驚嘆致しました故に。しかし相手が相手ですので如何にも不安が拭えませぬ。槙島城の大鬼のせいで太鼓判は押せませぬ」
「うん、確かに槙島城の一面に槍の畑できとったもんな。今考えてもおかしいやろアレ。正気ちゃうぞ……待って今、拙者ん事バカって言った?」
「金銭とはなりますが大友の援助も十二分。三好の方は篠原の兄弟に隙を見つけましたから十全。後は鞆の浦に入港し毛利家さえ巻き込めれば間違いは無いのですが、さて」
「ねぇバカ言うたやんなお前コラ」
「大友への義理は我等が鞆の浦に赴くだけで十二分果たせましょう。毛利は混乱いたします上に如何に昵近といえど文書如きで備後を空には出来ますまいからな。北陸一向一揆は問題なく長宗我部も釣れるでしょうし後は島津ですか」
「コラ話逸らすなコラ」
「北条の為に佐竹等にも御内書を渡すべきですな。奥州にも必要ですし、ささ筆をお持ち下さい」
「無視かコラ。泣くぞコラ。大樹本気で泣いてまうぞコラ」
「まぁ大樹。策とは重ねて放ち敵が死ぬまで繰り返すものです。今回の上手くいくか不安な貴方の策で終わりでは無いのですから」
「オォォォオオオン!!」
「さ、結果は気になりますが鞆の浦まで船旅ですな。その前に鱸とか鯛くっとこ。さ、行きますよ」
主従は船に乗り備前に向かう為に立ち上がった。柳沢新右衛門元政が懐から小袋を出してパラパラ。
「本気で塩撒くんかい!!」
「清めですよ清め」
「誰が穢れやクラァ!!」
さて端的に言えば義昭は大友の助力で三好長治を利用し阿波に隠れ策を巡らした。義昭の策動は織田軍と、黒田家などの織田家協力者を殲滅し勝三を殺す事で毛利家を味方に引き摺り込む策。最終的な目標としては北陸一向一揆や後北条、大友、島津、長宗我部で信長包囲網を作る事だ。
上手くいくかは……どーだろーね。
ただ織田家としては非常に面倒な手合いになったと言う事だ。
播磨国飾摩郡姫路城。織田家の改築により石垣と三層の天守を備えた城は現在は最前線となっていた。副将の篠田右近大夫正次が指揮を取り播磨国人の攻撃を防いでいる。
「やはり敵に小寺がいるぞ。向こうに行くのなら止めはせん。忠義も有るだろう」
総大将の言う小寺とは小寺官兵衛祐隆の主君の事である。故に篠田右近大夫正次は今迄の関わりから敵方に行く事を認めた。味方のふりをして敵に寝返る可能性はそもそも考えていない。
「心遣い有難てぇ。確かに小寺まで名乗らせてもろうた恩があるわ。じゃけぇ忠義を尽くさせてくだせぇ。息子の事頼みまさぁ」
「ん?」
「殿様ァ破滅の道を歩んどる。俺に説得する機会をくれんかな右近大夫様」
織田家の味方は数少ない。伊川城主の明石左近将監則実、阿閇城の別所孫右衛門尉重宗、龍野城の赤松弥三郎広秀だけだ。所在も凡そ播磨国の西部である。
織田軍の将兵は陸路を寸断された事で平静を欠いていた。それでも敵を跳ね返す程度の能力がある。だが同時にジリ貧な事に相違無いのだ。
小寺官兵衛祐隆が帰らず数日の事。姫路城の東に北から南へ流れる市川のの東岸に着々と軍勢が集まってきていた。数としては五千ほどで姫路に駐屯する兵の倍に相当する。
「北からも敵が来たか。と言うことは一色殿も身動きが取れんのだな」
篠田右近大夫正次は天守の欄干を強く握る。市川に浮かぶ船の数を見るに千ほどの軍勢を乗せた船が川を下ってきていた。敵陣近くに船が続々と停泊していく。下船していく軍勢が向かう先は小寺家の陣営だった。
その陣営の大将たる小寺加賀守政職は割と物分かりが良く気風のいい男である。何せ他所からやって来た見ず知らずの黒田家を身内に引き込み小寺を名乗る事さえ許したのだから概ね間違いない。要は合理的な物の見方が出来、決断力も十二分に有していたのだ。
「存分に恨んでくれ官兵衛。今この状況で織田家に味方する訳にはいかんのだ。小寺が終わってしまう」
総大将は天幕の中で一人、悔恨に満ちた表情で弱音を吐いていた。小姓の一人さえいない程に徹底した人払いまでしてまでだ。そこまでしなければならないのは偏に自分の状況を十二分に理解しているから。
正直、現状挙兵したのは播磨の凡そ六割が反織田として立った所為だ。小寺家の領地は凡そ播磨中央東側で位置関係的に親織田として立てば三方を敵に囲まれる状況だった。それも真っ先に別所家や荒木家の侵攻を受ける様な状況では選択の余地が無い。
織田家と言うか内藤家は恐ろしいがそれでも三方を敵に囲まれる状況を選択するには至らなかった。何せ曲がりなりにも現将軍と毛利家も反織田と言うのだから最終的は分からないが現状で織田家側に有利な点が見受けられないのだ。反織田として立った播磨国人の大半が同じ様な理由だがしかし切実に苦悩していたのである。
だが捕え荒木家へ送った小寺官兵衛祐隆の言葉が忘れられない。
「後生じゃ殿!!絶対止めた方が良い!!英賀の戦いを見た俺が言う!!ありゃ人間じゃねぇんじゃって本当に!!内藤家だけは敵にしたらいかんのじゃ!!殿の為にも小寺家の為にも播磨の為にも挙兵を止めてくれ!!」
こんな事を何時も何処か飄々として自信に溢れる男が縋り付き涙さえ流しながら訴えるのだ。最初はいきなり過ぎて如何したんオマエって思ったが余りにもガチで言ってくるから途中から怖くなった。異様に挙兵を勧めてくる荒木家の送って来た連中と共に有岡城へ向かったが時既に遅い。
「小寺家の為だ……戦わねば!!」
小寺加賀守政職は恐怖している。だがそれは己が見た光景では無く人伝いに聞いただけの話。だからこそ至って当然の選択を信じ今この瞬間を生きる為に覚悟を新たにした。
「加賀殿!!」
その覚悟を決めたのを図った様に塩田城主の小寺主水正隆則が現れた。
「加賀殿、櫛橋殿で打ち切りかと思っとたがまた味方が増える。それも市川を下ってきた連中は相当な数じゃ。こりゃあ出雲殿や伊勢殿だけじゃ無さそうじゃぞ。下手をすれば山名も軍を持ってきたかもしれん」
「そんなバカな……」
「いやバカな訳あるか。織田に取られた生野銀山を取り返そうとしたんじゃろうて。気合い入っておるぞアレは。何せ三千はおるぞ三千」
「あ、おい加賀殿?!」
小寺加賀守政職は天幕を飛び出した。おかしいのだ。その数は。
確かに但馬国の山名家が反織田として立つ理由はある。銀山や但馬の独立を考えれば頷ける話。だが三千ともなれば但馬国の総戦力に等しく他の軍勢と合流していたとても外征に出せる数では無い。
また反織田で赤松や別所が立ったのは確かだが其れでさえ出兵の準備の最中。とすれば答えは一つしかない。
「今迫る軍勢は敵だ!!」
本陣は少々小高い。北に目を向ければアレだけの数の軍勢だと言うのに騎馬が無い。更に目を凝らせば装備が余りに質実剛健がすぎる代物。
「ど、如何言う事だ加賀殿」
急に出てきて援軍を敵だと叫び固まった総大将を吃驚眼で見つめる男に小寺加賀守政職はギョッとした。最南端に布陣する櫛橋勢の大将たる櫛橋豊後守伊定である。
「櫛橋殿、何故ここにおる!!早ぅ手勢の元へ行け!!櫛橋の軍勢がやられるぞ!!」
「な、なに?!」
「陣替えじゃァッ!!」
小寺加賀守政職の叫び声に合わせて小姓馬周りが慌てて駆け出す。味方しか居ないと錯覚している各国人へ敵の襲来を伝える為に。即応果断と言うべきそれはしかして遅い決断だった。
慌ただしくなる播磨国人連合に迫っていた軍勢が鎧纏う精兵を先頭に集め駆け出した。その迫る敵軍のダッシュは余りにも早過ぎる。
アレだ。凄い雑に言うとマラトンの戦いみたいな事が起こった。敵だと思っていなかった播磨国人衆は、先ず全力疾走かましてきた敵に何事かと困惑したのである。気付く前にブン殴れば良いじゃないがダメだったんで気付かれたから対応される前に殴る。
余りにもあんまりな暴論をマジで実践されたって事だ。
接敵目前で弓兵が足を止めて矢を天へ。孤を描く矢の雨と共に直進する兵。彼等の先頭にはクソデカ鉄柱振り回しながらクソ走るクソデカ武者。
暴走したエヴァ◯ゲリオ◯でももうちょい理性的な顔してる。この中にツッコミが出来る方はいらっしゃいませんか。
「い、急げ!!槍を構えろ!!」
陣所の位置関係で先陣になったのは櫛橋豊後守伊定の軍勢だった。ただ不運な事に大将が着陣報告に本陣へ行ってる。だから息子の櫛橋左京亮政伊が指揮をとっていた。
とは言え既に個人の資質でどうこうって状況ではない。だから結果如何で彼の事を兎角言うべきではないと思う。トラック突っ込んできて逃げない人間は居ない。
まぁトラックってか勝三なんだけど。
「あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“!!!!!」
野太い悲鳴の大合唱。一当て何処ろか見ただけで逃げる兵。雪崩でももうちょっとゆっくりでしょって勢いで迫る内藤軍。
その先頭にて勝三は無言で金砕棒を振り回していた。ただ何時ものアホっぽい笑顔とか真面目な顔では無い。厳密に言えば目付きが違った。
彼の走るに合わせて紅蓮の眼光が二条伸びる程に血走っていた。黒い鎧と中天より全てを照らす強い太陽が生む影が勝三を黒く塗るがそれを眼光が貫いている。ただ全身を黒塗りにした様な勝三の顔を見なかったのは幸運だったろう。
「……ロス」
ヤケに届く呟きを発する勝三の顔面ビキビキの血管浮いててメッッッチャ怖いもん。
そう勝三は激怒した。必ず彼の邪智暴虐ウンコタレ勘違い策謀家気取り将軍の腹に一発かまさなければならないと決意した。そも勝三は戦においてあんまし怒りとか覚えない。勝三はただの信長のファンである。信長さえコケにされなければが少々の事では基本的に怒らない温厚な男だ。割合おおらかで気風の良いアホでヘラヘラしてるのが常である。けれども流石に限度があった。
まだ迷惑かけんのかテメェ的な怒り。だからまぁ目の前の播磨国人衆は程の良い八つ当たりにボコボコにする事にしたのだ。そらもう全力ダッシュで。
小寺軍先陣は蜘蛛の子を散らす様に逃げるが勝三の精兵はフル装備に金砕棒と土俵担いで走るのが基礎鍛錬。何が言いたいってどんだけ頑張っても逃げ切る事などは不可能だと言う事実だ。走れ勝三ってか走れ敵兵的な状況であり走ってる勝三と走らされてる敵兵だよコレ。
己が足で大地を踏みしめながら勝三は振る。
金砕棒が右から左に、左から下に、下から上に、上から下に、下から右に。五芒星でも描くように振られたそれは人を木の葉のように敵を散らしていく。鳴動する大鬼の肉体が大地を揺らし止まる事なく迫り迫る。
人塊が人肉に変わる侵攻。
「イヤアアアアアアアアアアアアアア!!」
もう櫛橋左京亮政伊は超逃げた。正直マジで無理だ。戦うって状況じゃねぇ。
捕まったら死ぬタイプの鬼ごっこだコレは。
こう言う状況を潰走という。特に今回の場合は士気崩壊を起こした兵士が味方に助けを求めて玉突き的に混乱が拡散された状況。まさに特級の中の特級というべき不幸で陣形の維持さえ不可能になった最悪最低の物。一ちゃん利口なのは恥もクソ無い外聞かなぐり捨てて唯々と逃げる事だ。まぁグチャグチャとした長話を要約すれば。
全軍敗走という極めて深刻な結果を生じた。
播磨の武士は将軍をブチ殺し|天下の趨勢を決める戦い《大物崩れ》で主力を務めた者達だ。でもちょっと今回のは流石に無理過ぎた。いやてか誰でも無理だと思う。常識的に考えて。
「ゼェア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“!!!」
もう人間の言葉発して無いもんアレ。ビッチャビチャだもん絵面ヤバ過ぎだって。屍山血河ならぬ血染屍鎧って感じだよアレ。
人海を血飛沫に変えて激昂のまま進み憤怒のまま割る。
それを目にした総大将の小寺加賀守政職は余りにもあんまりな状況に頭真っ白になった。彼を守る為に災害の如き大鬼の前へ出る者達が次の瞬間には消えて掌が伸びる。視界が黒く染まり顔面が潰れそうになり首の骨が伸びる音がした。
「官兵衛殿の養父だったなアンタ」
音圧とかそう言うんじゃ無い物理的な力を、まぁ顔面鷲掴みにされてプラーンしてるから力は感じるけど……そういうんじゃなくて威圧感的な意味で重過ぎる問い。
「むぁい……」
恐怖を動力源に何とか小寺加賀守政職は答えを返す。
「ちょっと詳しい事聞かせて貰うから面貸せや」
もう武将ってかヤの付く職業って方が頷ける勝三に連れてかれた。
誰も、そう皆んな何も出来ない。
けど思った。
降ろしたげてよぉ!!
時世も運もあった。そしてそれを掴む確かな見識を持っていた小寺加賀守政職。彼は姫路城で凄い小さくなっていた。
もう何か可哀想になるくらいちっちゃい。
まぁしかしそれも当然の事。
彼を囲うのは血管ビキビキの織田家家臣。
しかも目の前では血管ビキビキで薄い笑みを浮かべ素振りを続ける勝三がいた。もう一瞬たりとも視線を外さずに永遠と錯覚するほど延々と素振り続けてる。
「さて小寺殿。詳しく話を」
そんな勝三の代わりの尋問を行うのは与三だった。何処か淡々として見えるが付き合いの長い者は分かる。声の強弱の無い平坦な声、アレはガチでヤベェと。
まぁ血管浮かべてずっと刀いじってる岩越兄弟とか目玉ひん剥いて鼻息荒い毛利藤十郎忠嗣とか腕組んで怒りを抑えようとしてる寺沢次八郎道存とかも大概だ。
辛うじて篠田右近大夫正次が抑えてるが岸孫四郎信房など父とは対極な端正な顔を増悪に歪めて今にも飛びかかりそうである。
「宴席に呼ばれた岸殿が討たれたというのは確かですか」
与三がいつも通りの、しかし硬質な鉄面皮で問う。小寺加賀守政職は震えながらも岸佐渡守信周が騙し討ちを受けた事実に肯首した。それこそが中立の立場を取れなくなった最大の理由なのだから否定しようが無い。
「どこまでが敵ですか。東播磨は全てでしょうが、その先は?摂津に加え淡路と阿波も敵ですか」
与三の問いが出た理由は船舶。開戦から毎日のように運ばれていた物資兵糧が届かなくなっている。ここまでくると摂津どころか淡路や阿波さえも反織田の可能性があった。とすれば最悪と評すべき状況だ。その懸念は再びの肯首で事実であると突きつけられる。
「これは困ったな」
林新次郎通政が言った。随分と軽い感じである。だが相反する様に事態は深刻だ。
物資は勿論だが兵糧の遮断、これが何より不味い。定石通り大兵を用いたが故に最も防ぐべき弱点を盤面をひっくり返された事で突かれた形。二万の軍勢を戦後を鑑みて養うアテが消え去ったのである。
篠田右近大夫正次は副将として播磨国に残っていた為に状況を最も理解している故に。
「既に兵糧は一月とて保ちません。船団は有るが運ぶべき兵糧が無い。これは毛利家から融通していた物を加えた日数です」
小寺加賀守政職が目を見開き。
「そ、それは誠か!!!」
その問いに答える者はいない。まぁ当然の事で義昭と荒木信濃守村重の発言が嘘だったと言われた衝撃なんざ知ったこっちゃ無い。騙し討ちを受け急に攻められたのだから織田家側に酌量する意義も価値も余裕も無いのだ。湯浅甚助直宗が微妙な顔をして。
「浦上の殿様に帰って貰うかい?兵糧も渡せないんじゃ格好が付かないし兵糧の節約もできる。後の事を考えたら悪く無いだろ?」
「一理あるが顔を潰す事になるぞ」
ズンと音がした。そちらに視線を向ければ勝三が素振りを終え金砕棒を地面に突き立て仁王立つ。床ミシミシいってる。
「あースッキリした。じゃあ一先ず篠田殿、此処の保持をお願いします。それと林殿は治部大輔様の所へ行って反乱を虱潰しに。俺は十日以内に別所家を下してきますので」
勝三が淡々と言った。
んで皆んな言う。
「ハ?」
……雁首そろって猫ミーム。