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マ? マ。 (意訳 マジで? マジ

ブクマ・ポイント・いいね、有難うございます。


暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。

「此度の事、理解は出来ます。しかし何も無しとは参りますまい。それは御理解頂けますな勝三殿」


 硬質な言葉は上座に座る勝三へ向けた物。その言葉を受け額を掌で掴み抱えていた勝三は溜息を漏らし頭を下げた。完全に織田家の瑕疵なのだから当然だ。


「申し訳御座いません一任斎殿。中務大輔(小早川隆景)殿にも此れ等をお届けいただけますか。重ね重ねお詫び申し上げます」


 勝三がそう言うに合わせ傍に控えていた賀島弥右衛門長昌が書状が乗った盆を差し出す先は四十に届かない齢だろう僧侶だった。


「この不動院瑶甫(安国寺瑶甫恵瓊)。確と謝意を受け取りました。書状も必ずや届けましょう。どうか御頭をお上げ下さい」


 言葉によって上がる頭と不動の頭。二人の視線が交差した。深甚な瞳が交差する。


「ハァ〜……」


「ハァ〜……」


 二人が疲労に塗れた溜息を漏らした。もう完全に同じノリである。とは言え勝三は姿勢を正し。


「いや、全くもって真に申し訳御座いませんでした……」


「いや、そも何方が先かと言う話で御座いましたし……」


「いやいや、とは言え事は事ですし……」


「いやいや、此方も三村が手間で故……」


「いやいや……」


「いやいや……」


 長ェいやいや交差が終わって安国寺瑶甫恵瓊が茶に口を付けてから。


「浦上の方は随分と従順なようですな。てっきり此度の事に是幸と攻め寄せる物と身構えておりましたがそれが無かったのは驚嘆に値しました。あの暴れ者がよくもまぁ、と」


 そう言って感心気味に床を、正確に言えば地を指差す。勝三の陣所は備前で栄える岡山城下町より栄え福岡の市をも越えよう繁栄を見せる西大寺であった。宇喜多家の領地内に食い込んだ中立地であるが浦上にとっても宇喜多のとっても重要な要衝中の要衝である。そこを半ば占拠するのは驚きだった。


 まぁぶっちゃけ此処くらいしか織田家の軍勢を受け入れられないってだけだけど。備前とか上国(豊かな国)ではあるが石高で言うと二十二万石ぽっちである。国中から兵を掻き集めて五万と五千ほどな訳でそれを考えれば国の集められる五分の一の兵力。主力という多くの兵を駐屯させられるのなんか海に面した此処かギリ岡山城下くらい。


 だが毛利家からすれば浦上とか言う狂犬が尻尾振って宇喜多と言う新進気鋭のやり手が最大限配慮している絵面ではある。特に浦上家など毛利家からすれば兄や尼子家との戦いでケツ持ちしたったのに噛み付いてきやがった奴で相当骨を折ったのだ。言って仕舞えば自分達が飼い慣らせなかった猛獣な訳で感嘆するのは当然だった。


「そこは一任斎(安国寺恵瓊)殿の御助言のお陰かと。後は浦上家と宇喜多家の和議締結を済ませ主力を都に返せば終いです。もう一踏ん張りですね」


「その通りですが本当に宜しいので?当初の予定とはだいぶ変わってしまいますが。此方としては有難い限りですが」


 予定では宇喜田家を滅ぼし勝三が岡山城へ入り中川八郎右衛門尉重政を城代にする形の統制が想定されていた。それを毛利家と比較的良好な関係の宇喜田家に変えると言うのは織田家からの提案とは言え譲歩が過ぎるように感じる。詫びと言う体裁はあるが故にこそマジで良いの?的な戸惑いがあるのも事実。


「まぁ織田家としては都の安全が保障される事が第一義ですし、俺としても四国や山陰に何かあった時に直ぐ援軍に向かえます。また朝廷にも毛利家に配慮をと請われている上、我等としても毛利殿とは争いたくは御座いません」


 そう織田家にとれば勝三が早期に手隙になるのであれば山陰および四国の早期安定化を鑑みて良い事だ。毛利家にとっても豊後大友家と因幡山名家を中心に備前浦上家と能島村上家と言う包囲網の解体が進むのだから悪くない。当然これは朝廷に影響力のある毛利家に対する大きな配慮と大きな貸しになる。


「そう言って頂けるのは全くもって有り難いことです。そこまで言っていただけるのであれば此方も気をつけねばなりませんな。浦上家家臣ではあっても美作の三村よりは宇喜田家の方が信用出来ると考える次第で。此処までして頂いて事が起きれば主上と織田殿を落胆させてしまいますから」


「互いに統制は難しそうですね。無理な願いですが波風が立たないで欲しいものです。ホントに」


「熟その通りです」


 お互いに領地が接するより両属的な国人が間にいる方が万倍やり易い。御近所トラブルなんてのはいつの時代も有り、当然ながら戦国時代でも儘有る事だ。んで戦国時代の御近所トラブルはすぐ刀出てきて殺傷沙汰である。


 どんだけ穏当でも一人は死ぬし易く拗れて戦争になるなんて耳にタコが出来るほどありふれた事。そりゃもう当然の如く血みどろ確定みたいなトコあるからゼッタイにソッチの方が良いのだ。距離感を間違えるとモメるから仲良くしたけりゃ程よく距離を取っとくに越した事はない。


「そう言えば四国の方は如何なのです?物外軒(三次実休)の息子達の話はてんで聞きません。篠原だのの腹心連中の名ばかりが耳に入る」


「あー、御子息は少々、俺達も篠原殿や赤沢殿と折衝している最中です。四国に関しては難儀しそうで一先ず水軍での援助が主となるかと。現状のままならば山陰が先になりますね。その時は私も控えておきますし兵糧も融通できる様にしておきますよ」


 四国は些か以上に不安があった。四国の三好家は三好物外軒実休の息子達が治めている。しかし実態としては重臣が補佐と言う形で統治を行っており昨今その補佐役と息子達の間が不穏なのだ。戦の準備自体は凡そ済んでいるのだが開戦は遅れている。その辺り含めて状況の整理を岩室長門守重休が頑張ってた。


 つーか岩室長門守重休が割り込んで無かったら普通に内乱起きてたと思う。まぁ勝三は知らないが記憶の方では実際に補佐役二人ブッ殺されてたりする。まぁ此処で重要なのは毛利家の東部安定に勝三が賛同しているという話だ。


「それは助かりますな」


 そう熟、安国寺瑶甫恵瓊はホッとしたように言う。毛利家の山陰の担当者はハッキリ言って木下藤吉郎秀吉が嫌いだった。大将の丹羽五郎左衛門長秀は良いのだが副将格と反りが合わない。


 一方で勝三は安国寺瑶甫恵瓊の所感たぶんメッチャ気が合う。山陰担当も好悪で外政を蔑ろにする様な人物じゃ無いがやり易さって意味で雲泥の差があった。脳筋じゃ無いが筋力と筋目を愛好する武人型の人間だから。


 まぁ兎も角その後も二人は世間話と情報共有と擦り合わせを行いお開きとなった。


「では一任斎(安国寺恵瓊)殿、お疲れ様でした」


「諸々の事、忝う御座います備前殿」


 さて内談を終え勝三は一先ず西大寺で備前播磨各所との調整を行い合間時間に門前町で備前刀とか備前焼を買い漁ったり二ヶ月ほど商売に勤しんでいた。


 鬼絹とかの取引も行う。


 この辺は都の流行り物として出品して飯のタネにしていた。つか端的に西大寺へ宿泊料を払っているのも有る。そりゃもう兵数が兵数だから飯とか考えりゃしゃーねぇ。


 当然っちゃ当然の事だ。


 数が数故にちょっと足りないとか遅れたでも大変な事になる。それこそ船一隻が遅れりゃそれだけで大事だ。そう言う時は西大寺から食い物を分けてもらわなければならずタダって訳にもいかない。


「お、これも良いな……。やっぱ備前刀は良いの多いわ。大包平を見た時なんか度肝を抜かれたもんだけど好みによっちゃ同等の代物がゴロゴロある。コイツなんかは良く切れそうだ」


 そう言って勝三は刀掛けに数十本と立てかけられた一本を戻し次の刀を眺めていく。整然と並ぶそれらは正に名刀の類で手元が反っている物が多い。備前伝福岡一文字の刀達で流石は美濃伝や山城伝と並べ五箇伝とされる々が揃う。


 勝三は正直言って刀に詳しい訳ではない。頑丈で斬れるのであれば何でも良い派だ。だが美濃伝や山城伝と言う名刀を見る機会は出身や仕事の関係上非常に多かった。与三の大身槍は大和伝で五箇伝ほぼ見ており見る目はあるのだ。


「でぇれぇ照れるのう。良い目を持っとるわ少弐様は。まぁこの手入れも良うされとる美濃伝の之定を見りゃ当然かの。にしても目の保養になるのぉ〜。練られ細かい地金に刃文には覇気さえ感じるわい」


 備前長船福岡の福岡一文字の刀匠の一人たる横山七郎衛門祐定が勝三の宝を繁々と眺めていた。


「此れと此れ以外は頂きます。んで何本か注文打ちで打ってもらえませんか?金に糸目は付けませんよ」


八右衛門(長船清光)が言うとった通り剛毅なもんじゃ」


「最近、褒美集めが大変なんです。領地はホイホイあげれないし。だから良い物はいっぱい欲しい……」


「……それで焼物やら刀やら買い漁っとちゃんか」


「ええ。もういっそ絹や木綿みたいに窯元とか刀匠集めて褒美様の上物を作って貰おうかな。全国から集めた刀匠集団とか最高の褒美になる気がしてきた。どうです?」


「え?あぁーうむ。御朱印でも貰えるのであればウチは構わんが……」


 尚、信長も最近この感じだ。例えば鬼絹も生産品の数割を織田家に税として納入してるが褒美として非常に重宝されてる。土地は有限だかんね。


「やった。じゃあ折角だから明日は備前刀腰に刺してくか。どれにしようか」


「何処かに行かれるんか?」


「ええ、ちょっと岡山城に」


 天正二年正月二十日、備前国御野郡岡山城。


 二匹の獣が相対している。


 方や老いたる獣が座していた。兄に噛みつき赤松に噛みつき尼子に噛みつき毛利に噛みついて尚生き残る老いた獣。目の前の獣を食い破らんと欲する。


 毛を逆立たせ唸り声を挙げ寸前の様で其処にあるのは浦上遠江守宗景。


 相対する若き獣もまた座していた。愚直に問題を処理して義理の父から娘婿達を殺しその身を大きくしても未だ足らぬと涎を垂らす飢えた若き獣。己の首元を狙う老いた獣を静かに見定めていた。


 身を潜める様に其処に在るのは宇喜多三郎左衛門尉直家。


 だが彼らは添え物だった。この場に於いてはたかだか獣畜生だ。一角では有り優れた物達ではある。


 だが此の講和の席で彼等に発言権など無い。


 お座りしてる可愛いワンワンだ。


 不動院一任斎(安国寺瑶甫)恵瓊、内藤備前守長忠。此の両名の会話に入るには余りにも力が足らない。あと普通に自分の首絞めるし無理。


 そして巨躯が動く。


「じゃあ浦上家は備前の和気、邑久の二郡。宇喜多家は備前の磐梨、赤坂、津高、上道、御野の五郡でよろしいですね?」


「ええ勿論。では宝印を翻し(起請文を交わし)ましょうか」


 コッチはメッチャ淡々としてる。


 マジ事務作業。


 因みに起請文とは約束したからね!神様見ててマジで!!みてーなやつ。


 尚、今回の内容としては俺達マジ約束破ったりしねぇから織田と毛利ズッ友、もし約束破ったら八百万の神様の神罰喰らう覚悟あっからマジ卍。ってノリである。


 まぁ指切りげんまんレベル100だ。


【 敬白 起請文之事


 吉備国の事 此れ毛利家に於いては浦上家和気邑久の二郡を認め護る事 織田家に於いては磐梨赤坂津高上道御野五郡を認め守る事 


 此れ万一有れば双方相応の詫びを奉る可し


 右の如く合切を交わし認め候 故に毛利織田の双方は盟友にして刎頚の間也事


 右此の旨背くに於いては日本国大中小神々 富士 大山 出雲 伊勢 津島 熱田 天照大神 牛頭天王 牛玉所大権現 各神仏の御罰を蒙り今世万病に苛まれ来世地獄に成り可く申し候者也 仍如件


 正月二十日


 備前守 長忠 花押

 血判


 一任斎殿参    血判 】


 勝三と不動院一任斎(安国寺瑶甫)恵瓊が起請文を交わし、浦上遠江守宗景と宇喜多三郎左衛門尉直家が起請文を交わす。また勝三と浦上遠江守宗景が起請文を交わし不動院一任斎(安国寺瑶甫)恵瓊と宇喜多三郎左衛門尉直家が起請文を交わした。


 さて以上の事を終えれば食事である。


 大内塗りの盆の上。備前焼の大皿にとどめぜ(煮込み寿司)を盛り、鰤の雑煮を盛って、皿には飯蛸の味噌和えを盛る。瀬戸焼の徳利に酒は児島の物でツマミのはサッパの酢漬けだ。


「大内塗り、ですか。良いですねコレ。幾つか買えませんか?ウマウマ」


「御用意致しましょう。ウマウマ」


 まぁ味わえるのは勝三と不動院一任斎(安国寺瑶甫)恵瓊で後に二人は気が気じゃ無いけど。


「あ、そうだ。皆さんに土産持ってきたんで持って帰ってください。ちょうど届いて良かった」


「織田家の重臣が御用意くださった品とは。何はともあれ期待してしまいますな、有難い事で御座います。この不動院瑶甫(安国寺瑶甫恵瓊)御礼申し上げますぞ」


「一任斎様の申される通りじゃ。少弐様の御用意してくださった土産か。中身は何じゃろうかな」


「そ、そそそ……そそそその通りじゃ」


「フッ緊張しすぎじゃろて浦上殿よ」


「ア“ァン?」


「オ”ォン?」


 まぁ微妙な感じではあるが織田家と毛利家が仲が良ければ割合何とかなる。つーか浦上家と宇喜多家が仲良くするのは無理だ。宴と言うにはギクシャクしながら食事が進んでお開き目前といったところで足音。


「何んじゃあ孫左衛門尉(中島雄政)。今は宴の最中じゃぞ」


 入室した少年を見て片眉を上げたのは浦上遠江守宗景だった。


「殿、申し訳御座いませぬ。此方を」


 半ば叱責のような言葉に怯む事なく中島孫左衛門尉雄政は浦上遠江守宗景の元へ行き書状を出す。


「何じゃ一体……」


 浦上遠江守宗景が呆れと怒りを滲ませて言いながら視線を上げたが中島孫左衛門尉雄政の表情に小言を止めた。


 余りにも鬼気迫る表情だったのだ。周りに詫びを入れてからバサリと文書を開く。そして目を見開きゾワリと身体を震わせる。


 勝三は目を凝らした。皆とても反応故にそうだ。だが勝三が他と違う事が一つ。


『……御内書じゃね?アレ。てか、義昭って書いてね?アレ』


 勝三は内心で首を傾げた。義昭は三好左京大夫義継の預かりにな後、なんか紀伊国の熊野あたりをウロチョロしてた筈だ。何か京都に帰ろうとしてる感じ。


 ザッと言えば紀伊国人とか熊野本宮とかに信長倒そうぜって言って帰ってって言われて、また三好左京大夫義継のトコに帰ったくらいで情報が途切れている。


 三好左京大夫義継ならば御内書は出させない筈だ。少なくとも播磨や備前に出させる様なヘマはしないだろうと思う。てゆーか考えててヤベェなって思った。


 その懸念を肯定する様に浦上遠江守宗景が身を不動院瑶甫(安国寺一任斎)恵瓊へ向け当然の様に、いやそれどころか臣下の如く恭しく頭を下げた。


「毛利殿の御覚悟は此の浦上帯刀左衛門尉(遠江守)、重々に理解致しました」


「どう言う事ですかな?」


「鞆の浦に大樹をお迎えし上洛の大義を得た御様子故」


 さしもの不動院瑶甫(安国寺一任斎)恵瓊とて硬直してしまう。だが状況を即座に理解して。


「私には寝耳に水、存じ上げぬ事です。また大樹が鞆の浦に参ったとても織田殿と争う気は御座いませぬ。内藤殿と共に書状を拝見させて頂きたい」


「勿論で御座います」


 浦上遠江守宗景が頷き書状を広げれば不動院瑶甫(安国寺一任斎)恵瓊と勝三はズンと立ち上がり覗き込む。


「あんボケタレガァアアアアアアア!!!」


 坊さん感ゼロな反応が不動院瑶甫(安国寺一任斎)恵瓊。


「ヒッ……」


「あ、あうあう」


 んで浦上遠江守宗景と宇喜多三郎左衛門尉直家が悲鳴をあげてガチガチになるくらい血管浮かせてんのが勝三。


 その勝三の眼がヌラリと不動院瑶甫(安国寺一任斎)恵瓊の元へ向かった。怒りが収まらない為か血管を浮かせ睨み返す様に勝三へ視線を返す坊主へ問う。


一任斎(安国寺恵瓊)殿、毛利殿の御判断はわかりませんな?」


 ツーと禿頭に汗が伝う。問われた事、それは当然の事だ。故に自分が如何するかを問うているのだと察して。


「現状では御屋形(毛利輝元)様や後見の御両人(吉川元春と小早川隆景)が受け入れる事は有り得ませぬ。しかし口惜しい事に此の状況であれば動かぬ事しか出来ませぬ事お詫び申し上げる」


 そう言って勝三に頭を下げた。


「よ、よかっタァ〜」


 そうヘニャヘニャ声を発したのは浦上遠江守宗景だった。


 彼は現状は宇喜多もとい毛利の勢力内な為に同調しつつ何より先ず毛利家の意図を探ったのだ。状況と立場からして毛利家側が将軍家の書状通りの行動を起こすのならば浦上家にとり事態は深刻である。万一にも肯定されれば出来れば同調は見せつつ命をかけて勝三を逃すくらいの覚悟は決めてた。


 生馬の目を抜いてきた男の世渡りである。


「ホントよかったぁ〜」


 現状のマジ泣き一歩手前みたいな絵面はダサく見えるかもしれないが実態覚悟ガンギマリだしそうしないと乱世なんか生き抜けない。


 つーか何より勝三が怖過ぎて脱糞するかと思った。マジで若干涙目になるくらいはしゃーない感じはある。それはそれとして浦上遠江守宗景は勝三へ向き直り。


「内藤殿、事は一刻を争います。私なぞは一任斎殿がいた故に選択を誤らなかったが播磨の連中はそうもいきませぬ。我等浦上も露払いに兵を出しますぞ」


「感謝いたします浦上殿。では一任斎殿、やるべき事が出来ましたので失礼致す」


 そう言って勝三は三者へ向かって一礼し立ち上がった。


「これは播磨は織田家の物ですなぁ」


 不動院瑶甫(安国寺一任斎)恵瓊が義昭への怒りはそのまま、しかし目の前から去り行く恐怖に怯えた様な声で発した。




 さてその播磨でああるが予想通り浦上家に渡された様な御内書がバラ撒かれていた。


 クソやばい事に毛利領が遠い事で事実誤認および楽観論が生じる下地があり、また勘違いを助長する様に摂津の荒木信濃守村重が反織田として立った事が伝わる。


 そもそも此の地には赤松征伐の恐怖が根付いており将軍の権威と言う物に対する忌避感とそれに相当する恐怖心が強く御内書効果は否が応にも効果覿面。


 そして黒田家がデカい顔すんのが気に入らない者が多い事に目を付け御内書の内容は播磨守護を赤松家に、播磨守護代を別所家に、黒田領の大半をを小寺家になんて代物だった。


 播磨国人の思考を開けっぴろげに言えば織田家と勝三は怖い。だが勝三は主力と共に備後に居て毛利家と浦上家が味方なのであれば勝三が戻って来れる状況では無かった。加え荒木家が立ったのであれば親織田を貫けば周り全てが敵になる確信があったのだ。


 いやそうはならんやろって冷静ならなってた筈の思考回路。こう何というか信じられないくらい絶望的にダメな方に行っちゃった集団心理だか群集心理だか。赤信号みんなで渡れば皆ミンチ的な道を歩んでしまっていた。


 播州騒乱は余りにも完璧に。余りにもウッソだろオマエって感じで始まった。当然あまりにも完璧すぎた故に織田家の被害は大きい。


「喉元過ぎれば暑さも忘れるというが数ヶ月で勝三殿の強さを忘れたか」


 岸勘解由信周が泰然自若座したまま呟く。彼の鋭く威圧的な眼光の先には銘々刀を抜いた武者達の合間。宴を開き岸勘解由信周を誘った別所山城守吉親を捕らえている。その彼は怒りに染め上げた眼光で岸勘解由信周の視線を受け止めていた。別所山城守吉親は鼻を鳴らし。


「確かに奴は恐ろしいが居場所は備前だ。然しもの奴も毛利浦上に囲まれてはひとたまりもあるまいよ。簗田如きならば恐ろしくも無い」


「勝左衛門殿を見ていないとそうなるか。しかし何が不満で立ったと言うのか。元より我らと親しくしていた訳では無いが随分と周到だ」


 岸勘解由信周は淡々と問う。別所山城守吉親が激昂して刀を抜いた。


「黒田の小倅と別所の姫の婚姻など認められるか!!我らがいつ貴様ら如きの臣下となったと言うのだ!!」


 そう怒号を飛ばし部下達を押し退け刀を振った。だがそれは瞬時立ち上がった岸勘解由信周に受け止められる。そして困惑気味に。


「それは其方の申し出だろう」


「何!?」


 気の緩みに岸勘解由信周が刀を押し返す。だが次の瞬間には数多の刃がその身体を貫いていた。口から血を垂らし己が身体を一瞥した岸勘解由信周は溜息一つ太刀を横薙ぎ二人を殺し。


「連れは二人か。全く老いたものだな。我ながら」


 そう淡々と言葉を漏らし立ったまま絶命。別所山城守吉親はその光景を絶望しながら見ていた。だが即座に立ち上がり。


「いや、もう戻れん。そも織田に付いては荒木に殺されるわ。愚弟重宗を討つぞ!!」


 此処から雪崩を打った様に播磨各所で織田勢に対し挙兵。後に曰く所の播州騒乱の幕開けである。

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