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政治文化戦争

明けましておめでとうございます。


ポイント・ブクマ・誤字報告有難う御座います。


今年も暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。

 二条御所でサカバンバスピスの模型が笑っていた。織田家の上洛に合わせて近衛家の家臣となった伊勢加賀守貞助である。そして彼の横に座っているのは前関白近衛前久。


 彼等は織田家と朝廷の強大なパイプ役にして都の事に対する相談役だ。朝廷が織田家との連携を考えた結果として幕府の残滓と武家との関わり深い朝廷の重鎮を選んだのである。そんな彼等は帰ってきちゃった足利左近衛中将義昭を前にしていた。


 三者同様、全員が全員が青筋浮かべてる。


「ジジイコラ何でココおんねんホンマこんコラジジイ」


 青筋ビキビキ義昭がサカバンバスピスに問うがまぁ言葉通りクソ弩ストレートな喧嘩腰。


「勅使の付き人に御座いますので」


 顔の中心に影が差すサカバンバスピス伊勢加賀守貞助が笑顔で答える。義昭の青筋が一つ増えた。


「……勅使を近衛にさせるっちゅうんはアレか。朝廷は喧嘩売ってんのかって聞いてんねん」


 サカバンバスピスがヘッと見下した顔をし代わりに勅使たる前関白近衛前久が口を開く。


「いやぁ二条さんが断られたもんやから仕方なくやね。まぁやっても無い事で追放されたら堪らへんし手早くいこか。即位料と御服費用の献納を頼みに来たんや」


 飄々と言ってのける。義昭の青筋がエグい増えていく。


「〜〜〜〜〜ッッッッッ!!!」


「あ〜ららぁ怖いわぁ」


 全然怖くなさそうに言う前関白近衛前久。その横でサカバンバスピスがメチャクチャ煽ってた。厳密に言うと顔の横で手を広げてヒレのようにヒラヒラさせてる。サカバンバスピス七十歳児の所業だ。


 因みに二つの意味で空気になってて二つの意味で同席しなきゃいけない長岡兵部大輔藤孝は死んだ目をしていた。


 みたいな事やってる頃ちょい離れた妙覚寺。


 コッチはコッチで織田家の三人が朝廷の勅使を前にして唸っていた。


「ふむ、二千貫程なら何とか此方で賄いましょう。しかし仙洞御所となると……」


 信長が言葉を濁せば勝三が頷いて。


「下手すりゃ四千貫くらいですかね。まぁ銭の方は如何とでもなるでしょうけど何処に建てるかとか色々ありますし。何より人手も足りません」


 京都所司代村井民部少輔貞勝が扇を顎に当てながら。


「うむ、今は都の防備に畿内の各地で城を建てておりますじゃら建材どころか食い物まで高い。金があっても人も物が無ければ建てるに建てられますまい。それに他の場所から移築するにも都の守りも疎かには出来ませんからな。弱りましたぞ」


 織田家は朝廷と協力する気満々だ。と言うか即位礼を行う事で義秋改め義昭の箔付をしようとしている。まぁ何時もの朝廷と将軍への機嫌取り事っちゃそう。


 どっち付かずに見えるだろうが織田家的には武家として幕府と喧嘩は最悪に備えた物、最悪になっても良いんじゃね感は凄いけとしてもだ。


 そう言う空気を察しつつ権大納言山科言継は表情にこそ出さないが内心でえぇ……って思った。これは幕府を捨て切らない事じゃなくて金の方に対する反応である。


 出せない額じゃ無いだろうとは思うんだけど六千貫をそんな些事みたいな扱いされると朝廷の為に割と頑張って金集めてた身としてはえぇ……って思っちゃう。


 尚、出所は堺だったりする。将軍が都に帰ったし三好家と通商だけでも再開させてってお願い(現金と現物)があるからヒリ出せた代物だ。とは言え本題ではないので傍に置き問題提起。


「近江の木材も随分と採りました。余り木を切りすぎると土砂崩れが起きますよ。大和も大概ですし此の際、ウチで使う予定だった木材を流す形にしましょう。で近江では飛騨や伊賀の材木を使いましょうか」


 権大納言山科言継が微妙な気分で居ると勝三が材木について話を付ける。


「釘をどうしますか。蹈鞴場など作ればまた禿山が出来上がる。鉄砲の分を削るしか有りませんぞ」


 そして村井民部少輔貞勝が鉄の議題を上げ。


「そこは仕方ない。……いや堺に装飾を省いて鉄砲を作らせるか。足りない分の人手は都に駐屯させている兵を使って賄うとしよう。幸い都の阿呆供(破落戸)も乱暴狼藉を働いて勝三に殴られるより作事で雇われた方がマシと理解している。兵で十二分補える筈だ」


 信長が秒で解決した。天下人ってコレだよなぁってのが権大納言の感想だ。力を落とす前の足利家がこんなノリだったのだと聞いた事がある。兎にも角にも二、三年は掛かろうとも譲位は確実に出来そうだとホッとして心の底より。


「本にありがたい事や。主上もお喜びになりますでしょ」


 さて聡い歴々は疑問に思わないだろうか。


 いくら朝廷行事でも織田家と幕府が別々に行動して朝廷が間を取りもってるのはおかしくね?と。その考えは正しく正しい順序で言えば朝廷が幕府に頼み幕府が織田家に命じるのが手順として正しい。コレ案の定というか何というか義昭が余計な事をしたのだ。


 将軍が帰ってきた時に御成と言うのがある。


 早い話が幕府の戦いで一番活躍した家臣の屋敷に将軍が出向き信頼してるよと言う宣伝をする慣例だ。コレを義秋は織田家の屋敷じゃ無くて松永家の屋敷でやるって言い出したのである。信長は状況を察していたが正直忙しいからまぁいっかみてーなノリだったのだが周りがドン引きした。


 ていうか朝廷と松永家がガチで嫌がったのである。特に都の事について知らない事がない松永家からすれば巫山戯ンなって話だ。それが将軍の織田家に対する試し行為と見抜いても許可できない。


 だって今の都で織田家の顔に泥を塗るとか自殺行為でしかないもの。松永家にその気がなくても周りがどう見るかって話よ。


 都の有力者が三好家の頃は庶民には将軍家のが人気があった。だが今の都は完全に織田家のが人気で、そんな事したら将軍に巻き込まれて都が敵になりかねない状況だもん。だから松永家の相談を受け織田家が対処しようとして都荒れたらヤベェと朝廷が仲介を申し出たのが現状。


 ンな訳で譲位の話がある程度形になると信長は其方の話を聞きたがった。


「御成の方は何とかなりそうです。少々の口裏は合わせていただきますが」


「其方については即位料を織田家に払って貰う故に大人になるよう伝える手筈です」


「うん、まぁ元からコッチが出すしか無かったが霜台殿を安堵させられるなら安いものだな」


 ま、早い話が織田家が幕府の代わりに金を出すんだから大人ししく織田家の接待を受けろよって朝廷が話を付けるって事。まぁ幕府に金ねぇから断れないし即位の事だから朝廷が前に出てくれたおかげで織田家は金で済む。織田家はあくまで忠臣であると言う内面通りの外面を外して喜ぶ者は将軍以外に都にはいないのだ。


「あ“〜疲れた、さて」


 勝三は一通りの交渉を終えゴキンゴキンと何か鉄骨的な何かでもヘシ折ってます?って人体から発しちゃダメな音を首から鳴らして帰路に着いた。帰路に着いたっつーと印象が変わるんで実直に行ってクラウチングスタートからのクソ早ダッシュ。その足取りは非常に疾く力強いもので例えれば猛進ってのが正しいだろう。


 んで顔は切迫の極みだった。まぁ勝三がこう言うノリの時は大抵が親族関連の事である。早い話がおめでたラッシュだ。しかもコレ内藤家一族に限った話じゃない。


 とどのつまり織田家の地固めが始まった事で一箇所に長期滞在する事が増えた織田家臣団に夫婦の時間ができたのである。勝三の記憶との大きな差異で柴田権六勝家に嫡男が出来てたがあの木下藤吉郎秀吉にも寧との子供が生まれてんだからヤバイ。時代と身分から言い方はアレだが娘だけど此の両名の実施が出来たと言うのは超慶事である。


 まぁそれはそれとして勝三は二人の嫁さんが居る本能寺に向かって堀川に残像残して猛ダッシュをブチかます。もう本能寺の壁をオメー忍びかマ◯オだろって3段ジャンプで飛び越え何か慣れちゃってる見張りに一言帰りましたと言って屋敷代わりの一棟に直行。


「二人ともォオオオオオオオ——グッフゥ」


 一棟に向かって一直線にダッシュしてた勝三がくの字に折れて飛んだ。その勢いのままにズザァーと地べタを滑りヤ◯チャになって止まる。そんな勝三の上には小さな童女がドヤ顔で乗っかっていた。


「流石は淀!!」


 すっげぇ嬉しそうな聞き覚えのある声。


「ゴフッ……。しばらくぶりで御座います五の姫様」


 勝三が戦場でも出したことの無い声を漏らして自分の横っ腹に跨りキャッキャしてる童女を脇に立たせる。此のロケット頭突き童女は織田市の娘の淀ちゃん三歳である。その元気発剌三歳児にも勝三は頭を下げ。


「清洲の姫様も御壮健の様で何よりでございます」


 さて織田市とその娘が何で勝三の宿所に居るか説明しよう。何て事は無く織田市の暇潰し兼ノリである。……うん何でって感じだろうけど待ってほしい。


 割とちゃんとした理由もあるのだ。早い話が淀姫と有馬幸の息子絹千代との婚約の為である。内藤家の絹産業の大規模化に伴い織田家の血を入れようと言う話。


 織田市の娘の淀姫を信長の養女にして内藤絹千代に嫁がせる事で織田家内の絹産業の保護を計ったのだ。これは織田家の収入源たる白雲村の織物を護り更なる投資をする為であり将軍の差配している西陣織に劣るものでは無いと示す為だった。まぁちょっと規模とかが余りにもデカくなり過ぎててやっかみとかあると面倒くさいから自衛の為にって話。


 尚、個人的な感情に目を向けるとアレ。勝三は息子の心情を前提に畏れ多くも妹分との約束反故にした詫びになる。織田秀子や有馬幸的にはより織田家との接近なる加え博識な一門の増加。織田市的には身の振り方が定まり娘の将来安泰。信長的には最お気に入り同士の縁組に織物生産の大規模化ヒャッハーと言う誰も得する状況。


 婚約を結んだ当人的にも当然これは子供的な感覚であるが、絹千代は活発おもしろ頭突き娘、淀殿は気の良い兄ちゃんと一緒になるもといずっと一緒というのは悪くないと思ってる。鬼夜叉の方は信長の娘が入るのは決定している事だ。


 まぁしかし。


「その……姫様、到着は明後日では?」


 勝三が問えば淀殿を抱っこした織田市はニカっと笑い一瞬でその顔を漬かり過ぎた梅干しみてーな照れ顔にして。


「都の食い物は味が薄いからな。邪魔させてもらった。自分でも食い意地が張っているとは思うが」


 勝三はあぁー……ってなった。生活様式の差とか色々あって都の食べ物は地方に比べて薄いのだ。一例を挙げれば武家と公家の何方がより身体を動かす印象があるかとか丁度良いかもしれない。


 そりゃあ公家の中には北畠家の先代当主程とは言わずとも武芸を修める者もいるが武家は生死を問うような世界で生きる為の武芸を修めてナンボ。文字通り死なない為に常に体を動かすのだから汗をかき塩分が欲しくなるのは当然のことだ。その当人や縁者からすれば薄味の物こそ新鮮で手が掛かっており上等と言う都の料理には慣れが必要だった。


 ンな訳で織田市は非常に申し訳無さそうに。


「都で持て成してくれる方が多いのは嬉しいのだが出てくる料理出てくる料理がどれも味が薄くて辛い」


 まぁ力を持つ者の親族との縁を紡ぐ利益を見据えたもので100%善意や好意と言うわけでは無いだろう。だがそれでも100%の悪意では断じて無いし縁を結ぼうとしてくれる相手の持て成しだからこそ辛いのだ。


 そう極端に例えるなら病院食。100%の善意で出来た食事でさえ舌に合わねば三日で飽きる。美味いものもあるし残しはしないがラーメンとか食いたくなると言うアレ。慣れれば美味いんだけど今の織田市だいたいそんな感じ。


 現在の本能寺は織田家から都に出向してる者が多く宿泊してるので尾張風味の食事が三食出る。実家の味とまでは言わないがやっぱ地方地方に特色が有りそれ故の味覚の差ってのはある物で舌に合う味は安心する物だ。


「と言う訳で此の状況で悪いが何か食べさせてくれ勝三」


 織田市の物言いは断られる前提、と言うか断られようとするかの如く冗談めかした物。だが割と切実というか懇願混じりに塩っぱい物が食べたいと言う感情が滲み出た物だった。勝三はともかく信長だって慣れてきて出汁の旨味を理解出来たのは最近だ。まぁ、しゃーねー。


「丁度、今日は伊勢から新鮮な伊勢海老を運んで来て貰ったんで」


「……え?」


 織田市が凄いビックリ眼になった。おっきいお目目が更におっきくなる。ほぼ子猫。


「勝三、お前それ幾らしたんだ」


 勝三の黒目がスーと横に。


「……黙秘で」


 今度は織田市があぁー……ってなった。まぁコイツ言えねーレベルの金使ってんなって事は浅井家の内内の事を取り仕切ってた身としては察せちゃう。特に織田市なんて奥向きの人事権から御用商人の選定を完全に握ってたんだから何を言わんや。


「帰りました秀子殿、幸殿。気分は如何ですか」


 そう言って織田市や息子達を連れた勝三は嫁さんの部屋に入った。未だお腹に変化の無い二人の妻が入ってきた者達を迎える。絹織物を広げた艶やかってかもう極彩色みてーになってる部屋で秀子が。


「旦那様、お帰りなさいませ。市様、二人の世話忝う御座います。おかげさまで気分はとても良いですよ」


「それはよかった。幸殿も大丈夫です?」


 勝三がそう言って幸の方に視線を向ければ嬉しそうに。


「はい。今日なんか何時もより調子が良いほどです」


 二人の妻の体調が良さげな事が分かれば勝三は息子達の方へ。


「それと鬼夜叉、絹千代。約束の絵本だぞ」


 パッと笑み浮かべる子供二人。勝三の名誉の為に注釈するが仕事の息抜きで描いたやつである。内容は俵藤太の大百足退治をちょっと内容変えて漫画化したものだ。


 尚、木版印刷の原本でもある。与三の提言によって勝三の暇潰しで書いた本を今浜の湊で刷って売る事にしたのだ。この俵藤太の本で未だ二冊目で実際に売ってるのは一冊だけだが地味に売れてる。


 そんなこんなの後に家族団欒プラス織田市親子で伊勢海老メインの御馳走を食った。それは彼女達を産屋の屋敷。略して産屋敷のある今浜城へ帰す為の送別会にほかならない。まぁ帰るの十日くらい先の正月に間に合う様にって話だけど。


 と、現状このように勝三の都での生活は割と充実していた。まぁ直ぐに家族帰っちゃうけど。言うて出産だかんね、しかも死にかねない戦国時代の、寂しいとか言ってる場合じゃねぇ。




 その頃、越前国足羽郡一乗谷城。


「俺は戦うのは反対だ。サッサと降ればいいだろう。少なくとも越前がある内にな」


 大評定で口火を切ったのは大野式部大輔景鏡だった。この場に居るのは大小の越前国人と彼等を統べる朝倉左衛門督義景。大概の者は大野式部大輔景鏡の言葉に屈辱から安堵と幅広い感情を添えて同意していた。


「巫山戯るナァ!!!!!!!!」


 だが一人、後の無い老人がいた。既に正気とは思えない表情で白毛を逆立たせて唾を撒き散らし刀の柄を握って激昂している。それは敦賀伊冊景紀だ。


 血涙さえ流さんばかりの充血した赤い瞳を大野式部大輔景鏡に向けて。


「腰抜けめ、そんなに織田が怖いか!!」


 吼える。だが大野式部大輔景鏡にとり、その字面としては吠えるの方が正しい。いやはっきり言えば越前の皆がそう思っている。故に大野式部大輔景鏡は憐憫さえ浮かべて口を答えを口にした。


()敦賀郡司殿、口を閉じられよ。その言葉は余りにも面目を傷付けるぞ。宗滴様も草葉の陰で嘆いておられる」


 何時もの鬱陶しい蝿でも見る様な目でも無ければ礼節を微塵も感じぬ言葉でも無い。故にこそ火に油を注いだ。


 だが正論故に何も出来ない。


 まぁ前にも言ったけど敦賀伊冊景紀の息子が織田家に一戦も交えず降伏したのだ。これが一戦交えて大損害を出したとか、援軍が全く来なかったとか、または援軍が撃滅されたとかなら未だ納得できた。時代に立場と言えばそうなのだが武士にとって恥をかいて一戦もせずに降伏と言うのは余りにも情け無い。


 越前の面々からすれば故郷の面子を潰された様な物で越前者は腰抜け等と思われては心情的にも実利的にも大問題。周囲もそんな風に思っていれば敦賀伊冊景紀の立場など有りはしないし口を開いても惨めなだけ。故に敦賀伊冊景紀は汚名返上の機会を切望しながら怒り狂っていた。


「まま叔父上、落ち着いて」


 朝倉左衛門督義景はそう言って憤怒に染まった化け物のの様になった敦賀伊冊景紀に釘を刺して国人達へ。


「交戦か降伏かの話に戻すと僕ぁ式部大輔の言葉に同感だ。でも流石に今直ぐには降伏できないと皆んな思ってるだろう?」


 この問いには全員あんな腰抜と一緒にされては困ると同様の思考で頷いた。後の世から考えれば想像できない程に反骨心の塊な農民の統制が出来なくなるのだ。そうなっては領主として終わりである。


 まぁ戦国時代の農民って割と代官とかもブッコロすかんね。コレは坊さんの代官の話だがオッシャ出世目指してやったるぜってノリの報告書が段々と苦悩に塗れて行って最後は早く次の代官を送ってくれと言う助けを求める手紙となりブチ殺される代官の手紙とか下手なホラーよりヤバい。階級問わず舐められたら内か外かは分からんけどクビ(物理)よ。


 故に国人達は降伏はしたいが面子を取り戻さねーとヤバいと言う考えで一致していた。面子を取り戻すには手っ取り早く織田家と一戦交えて仕舞えば良い。だが被害を出し過ぎるのも大きな問題であるのは間違いないのだ。


 早い話がクソ難しい戦いをせねばならないと言うのが越前の現状。


「ギョフフフ。悲しいかな当然の事、一戦は交えねばなりますまい。また一戦交えれば戦を止めるのは非常に難しい。難儀の極地となりましょうなこれは」


 そう言ったのは魚住備後守景固。先の金ヶ崎城の戦いで丹羽五郎左衛門長秀の追撃を辛くも防ぎ切った男だった。真柄家の力を十全に活かした撤退戦は鮮やかなもので数少ない声望を高めた者だ。


 元より確かな発言力を有していたが今は以前の比では無い。そんな立場を理解して故に。


「殿は何か策をお持ちでしょうや」


 朝倉左衛門督義景へ皆の視線がいく。そして魚住備後守景固の問いに頷き困った様な顔を浮かべ。


「いやぁ有るには有る。けど僕は戦が苦手だからね。沿岸部は撤退させて近江からの山間の道を、そうだね茶臼山城を本陣にして防衛をっていう基本的な事だよ。最良がそこで織田家を弾き返して終いって形かな」


「ギョフフフ常道多いに結構。私は異存ございませんとも」


 大野式部大輔景鏡も頷き。


「俺も無いな。だが知っての通りコッチは余り兵を避けんぞ。悪いとは思うが坊主供を放置するのは無理だ」


 つか朝倉家にとって一番の問題はコッチだった。越前国(福井県)と隣接する加賀国(石川県北部)が今ちょっとヤバい。何か戦闘の準備を始めたまでは良いが不気味な沈黙をしている。


 ゴミみたいな例えだが殺気満々で目を血走らせてブンブン素振りしてる様なのが横に突っ立てる感じ。そのブンブンモンスターは現在は織田家との戦を終え朝倉家の降伏を補助すると約束した筈の本願寺である。だが異常事態が起きたのだろうと言う事以外は分からなかった。


 そりゃ幕府の斡旋によって和睦はしたが元々は争ってた仲だし本願寺も幕府と喧嘩してんだから警戒すんなって方が無理。


太守(朝倉義景)、そっちに送れるのは三千だ。弟に率いさせるが許してくれよ」


「ああ十分さ。寧ろ坊主の方が何をするか分からないからね。其方は全て任せるよ」


 朝倉家は南条郡茶臼山城を中心にした城砦の増強を急いだ。そんな中で併用されていた元亀と永禄が元亀に一本化。そして足利左近衛中将義秋改め足利左近衛中将義昭が将軍に就任する事が決まった。

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