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相互不理解

ブクマ・ポイント・誤字報告有難う御座います。


今年は御愛読有難うございました。来年もやっていくので暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。


皆さん良いお年を。

「……あれぇ?」


 勝三は文書の山の中で首を傾げた。因みに場所は都である。都における織田家の宿所として利用されてる妙覚寺。


 やってる事は署名反判子マシーン。都の決まり事や契約悉くの事。署名だけなのに仕事が減らずアホ増える。


「なんで俺まだ都にいんの?」


 うん。分かってる事だが絶妙に納得できない状況だった。しゃーない部分は有るんだけど超忙しいのマジ何でって感じ。まぁ何せ畿内とかの統治でヤヴェから。


 マジで。


 結論から言うと石山本願寺降伏後の状況クソ過ぎて配置整理が必要になった。織田家の重臣連中の状況を一門衆に元六角家や徳川家を抜いて五万石以上の土地裁量を放り投げられてる連中が複数誕生したのだ。純粋に統治と戦闘の能力と大領を預け得る名声を鑑み選出された者たちを上位陣からサッと連ねると以下の通りで。


 三十六万石、摂津一国を岩室長門守重休。

 三十六万石、若狭丹波二国を丹羽五郎左衛門長秀。

 三十万石、近江尾張四郡を内藤勝三長忠。

 二十万石、尾張三河三郡を佐久間右衛門尉信盛。

 二十万石、伊勢五郡を滝川彦右衛門一益。

 七万石、近江一郡を柴田権六勝家。

 六万石、和泉二郡を塙九郎左衛門直政。

 五万石、丹後三郡を木下藤吉郎秀吉。


 正直言ってマジで統治ブン投げた。もう一国二国任されちゃった岩室長門守重休や丹羽五郎左衛門長秀とか特にブン投げられてる。本願寺との戦いは終わったのに周辺に攻められる状況に備えたのだ。


 さて、この中で勝三とか石高増えてないのは勝三が無理って言ったし実際に無理だからである。織田家も内藤家も人手がねーし勝三くらいは(気持ち)手隙にさせて都で働いて貰わないとヤベー。何より勝三は物流と商工業を纏めて統括し織田家全体の収入源にしてるから下手に動かせないのだ。


 現状で琵琶湖水運とかが勝三の手から離れたらマジで崩壊する。そりゃ落ち着いたら引き継ぎも出来るだろうけど今やっちゃうと冗談抜きで死人が出かねない。物流が止まって食い物の移動が止まるというのは分かり易い話だろうし、絹や木綿を始め物品の運搬が滞ったら一体何人の職人が食いっぱぐれるか考えたくも無いだろう。まぁだから勝三が死ぬほど都の政務を手伝ってんのだ。


 因みに実質的な京都所司代に任じられた村井吉兵衛貞勝は人間やめてる。彼の頭はスパコンじみて彼の腕は職人じみた。


 信長?朝から晩まで慣れねー儀礼作法で永遠と面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会面会……以下略。


 公家や有力者との面会が信長。それ以外は家臣の仕事だった。勝三の受け持ちは商い関連が多い。


「殿、言付け。伝えて参りました」


「ああ、有り難う仁右衛門(増田長盛)。大山崎は何て?」


 勝三はハンコマシーンのまま問う。増田仁右衛門長盛は頭を下げ。


「話を聞く気は有ると。殿の御提案の通り周辺の油座が行う抜荷の厳罰と上がり(上納金)を減らしてくれるのなら目を瞑るそうです。織田家の蓮著は必ず欲しいと」


 その中で大山崎油座の件など勝三が処理する案件は特に火種とならない細心の注意が必要な物だ。この大山崎油座で言えば下手を打てば神人が強訴を行うらしいので勝三と言う武を交渉に立った。まぁ脅しといえば聞こえは悪いが、とどのつまり何事も無く都を安定させたいから。


「そりゃあ良かった後デカいのは宇津か。未だ行方が掴めないんだよなぁ。鬱陶しい」


 あと時折だが丹波への援軍、禁裏領山国荘の警護も内藤家が担っていた。宇津右京大夫長成ってのが逃げてしまったからだ。これは朝廷の要請で万里小路惟房の依頼を信長が受けた形である。丹羽五郎左衛門長秀がクソ忙しいから落ち着くまでは禁裏を護るのだ。


 コレ実質的に朝廷とも関わる必要が出てるって言う状況である。勝三は実際に朝廷との接点が生まれており信長は吏僚衆以外にも腹心三名には自身の代理を請け負ってもらう気だった。それは信長が畿内との接点を持つと腹を決めた故に必要な事である。


「取り敢えず山国荘が安定した事を万里小路殿との面会で伝えて、その後は絹の事で山科殿と相談だな。殿に伝えておこう」


「手配しておきます」


 増田仁右衛門長盛は睨み上げる様に言った。気の利く小姓の為に言っておくと単純に身長差と目つきの所為だ。それを分かってる勝三は熟く。


「助かるよ」


 と、そう礼を言った。なにせ実際にクソ有能なのだ。内藤家の吏僚として交渉から実務まで何でもござれである。


 樋口三郎兵衛直房と石田円済正継を近江に残し水運を田中久兵衛宗政、山内吉助康豊、三輪五郎左衛門吉高に任せている事を考えれば都の事務一切合切ブン投げらて平気な面してんだから天才だ。


 まぁ人事がアホだけど地盤の近江ガチガチにしないと内藤家どころか織田家がまるままヤベー事になるからねマジで。


「はぁー息抜きに金砕棒でも振ろっと」


 ともかく勝三はそう言って一休み(鍛錬)を始めた。生まれもっての修練モンスターである。だってもう金砕棒が黒い円盤になってるもん。




 さて織田家が実質的に統治している都であるが武家以外の評判という物を朝廷、寺社、町衆と分けて見てみよう。


 先ずは手っ取り早く町衆と寺社だ。都には山ほどどころか山より寺社がある。


 今回とある織田家とは関係がほぼない中立と言って良い寺での事を覗いてみようと思う。


 ちょうど某所某寺某坊さんと彼と妙に縁のある都の住人たる男が話していた。都の住人らしくそれなりの格好の両名である。


「なー禿さん」


 そう縁側に座り椀の白湯で口を濡らした男が寺の雪化粧を施された庭を眺めながら横で同じく水を飲む某坊さんに語りかけた。


 某坊さんは白湯の入った椀を口から離して淡々と何処か滑稽そうに。


「禿さんってなんやコラ。せめて坊さん言えや念仏唱えたらんぞコラ」


「仕事せぇや酒呑み禿げ様」


「ハッ倒すぞコラ。で、何や、商いか集りか祭りでもないんに来るっちゅうなら何か聞きたいんやろ。何やねん」


「あぁー。流石は禿げや。禿げ様や」


「ブチくらわしたろかホンマ」


 某坊さんは日頃の付き合い通りにツッコミを入れながら、対して日頃は楽観的な筈の男が晒す困惑気味の表情を見て相談を待った。しかも某坊さんと男は此のアホなやり取りが好きで本題に入るのが異様に遅いが悩みの深けければ省略される間柄だ。付き合いの長い某坊さんが見るに直ぐ本題を切り出しておかしく無いと言う見立ては正しい物だ。


「まぁアレや。色々聞きたいねん。織田さん事や」


「ふむ、まぁコッチもあんま知っとる訳やないけど一先ず言うてみ」


「また直ぐに変わるんやろうけど何時迄保つかな織田さんは。お寺さんは知らんけどコッチは正直言うて今はやり易いねん。延暦寺の事もあって聞きにくいんやけど」


「成る程なぁ……」


 某坊さんは深く頷いた。やり易いと馴染みの男は言うが、これはとどのつまり生き易いのだ。都の人々にとり仰天の出来事なのだが織田家が都に駐屯してから昨今、人生では先ずあり得ない事に往来で刀を握る事が全く無いのだから。


 都は長い事荒れていた。それが常態化していたのが今までだ。当然だが治安とかクソの極み。


 此の時代の当たり前として口論からの殺傷を経て戦争という流れは枚挙にいとまがない。


 しかし織田家が見廻りを始めてからは先ず口論という段階の事象がマジでゼロになった。


 いや何でってなるだろう。だから想起してほしい。子供の頃に怖い話をされた時の事を。


 都の住人はそれに近しい恐怖を抱く。口論とかしてると鬼が来るから。(駄目)と言われる。金砕棒を回し空間を黒く染めながら。


 ゴリゴリでムッキムキのクソデカい鬼みたいなのが鉄柱振り回してブラついてたら悪い事してなくても何か黙って様子を伺うだろう。何が言いたいって勝三の軽いトレーニングを市中見廻と勘違いしてんのだ。そりゃあもう悪口の言い合いなんてできねぇから治安クッソ良くなるよコエーもん。


「要はアレや。織田さん家が何時まで都を抑えてるか。それと此の状況が変わらへんか知りたいんやな?まぁ訴訟の処理も始まって税をせびられるのも随分減った聞くしな。何より税を払えば確り守ってくれるんやから雲泥の差やわな」


 某坊さんが問えば男は頷いた。


「その通りや。税もそやし城造る言うて乱暴者や孤児も減って商いのしやすさったらないわ。元は武士や言うても餅屋の渡辺さんも報われたそうやしな。やから周防の何とかみたいに直ぐ帰ってもうても困る。祇園の祭りも禁止せえへん言うてたしな」


「まぁ数少ない娯楽や。粋な織田さんは祭りを奪われへんわ。三好の殿様の良いとこを真似とるらしいけど」


「やっぱりそうなんやな。俺らんトコやと聞いても風聞どころか憶測程度しか分からへんねん。寺やったらもう少し詳しいんちゃうかって思うて」


「成る程なぁ。まぁ端的に言うて先先代(足利義輝)ん様時とちゃうからな。長持ちしそうやと思うけど」


「その心は?」


先代(義秋)が織田さんと喧嘩しようっちゅうアホウやなかったら大丈夫やろ。寧ろ先代がやらかしても畿内を織田さんが治めてはるしな。万一があってもエエように都の周りに兵を駐屯させてるらしいし」


 某坊さんの言葉を咀嚼した男は安堵の吐息を一つ。


「そら有難い事や、有難うな。そんでそっちはどうなん?」


 今度は気遣わしげに問う。町衆としては世話になってる寺社以外に対する感情は普通か無いに等しい。だが延暦寺は京の祭りと言えばな祇園祭の大元と言う事もあり多少は情報が入ってくる。


 仏家にとれば同業者が燃やされたのだ。馴染みとしては其方の方面で案じていた。馴染みの男の心情を察した某坊さんは敢えてケラケラ笑って。


「それは大丈夫よ。織田さんは話分かるし本圀寺もようやっと見返りが来た言うてたわ。まぁ南蛮との商いん為にか切支丹とか言うのも出てきたけどな。寧ろ近江での楽市に参加し易くなったんは助かるで。今迄よりはマシどころか有難いくらいやな」


 寺社は商売と密接だ。そして商売に手を突っ込む事で力を得た織田家とは競合する事も有れば協調する事も有る。少なく今は都やその周辺での再開発で非常に好景気を享受していた。


 現状は様子見中だが中立的な寺社にとっては悪くないと言う評価が一般的だ。とどのつまり寺社と町衆にとっては織田家は非常に好ましいと言うのが評価である。


 最後に朝廷だ。


「さてさて関白(二条晴良)さんはどないする御積もりかな」


 扇で口を隠し言葉を発するのは権大納言たる山科言継である。彼と火鉢を挟み悩ましげな表情を浮かべる二十歳ほどの貴人が頷いた。


 こちら誠仁親王殿下だ。


 主上唯一の御子息である。


 マジで玉体レベルマックス。


「私も二条が義秋と縁を結んどるのは知っとる。けど義秋、と言うより足利が将軍のままより織田家の方が良うなる思うのよ。山国荘もそうやし勧修寺の井家荘、貴方の山科荘の事を考えると余計にや」


 誠仁親王殿下は極めて信長に対して好意的である。と言うのも親王宣下の金を集めて貰ったからだ。つか神輿に金ねぇから信長家が出す何時ものアレ。


 後まぁ誰だって強さには憧れるじゃん?


 てかもう織田家にこそ都を差配して貰いたいと考えている。また勧修寺家や山科家も領地の係争が比較的納得できる形で決着して好意的だ。延いては主上とその周辺も織田家に対して都運営を任せたいと考えていた。


「……世間話では、御座いますが」


 山科言継は織田家から献上された綿入れ(長半纏)に包まる殿下から目線を逸らしながら言った。特選の鬼絹を茜と紫で出した深緋に染め上げ背に深梔子の下染に紅花を染め重ねた黄丹の菊紋。裏地に絹そのままの美しい白地を残した逸品だ。


 主上と殿下ならびに各王子が寒く無いようにと献上された代物である。目線を合わせていないと言うのに着るべき玉体が纏うが故にか鮮烈な深緋に燃やされる様な心地になりながら山科言継は口を開く。何とも清浄な物を汚してしまう様な心地になりながら朝廷の立場を考えて苦渋の思いでだ。


「恐れ多くも臣の独断に御座いますが義秋と織田殿の交渉の代理を勤めたいと愚行致しております」


「その様な事をすれば朝廷に、いや、成る程そうか。言継、その方は敢えて義秋を都に戻す積もりやな?」


 殿下の言葉に山科言継はこんな事を耳には入れたく無いと言う思いと共に座りが悪そうに頷く。


「叡慮に御座います殿下。我等に不満はあれど朝廷の言葉やったら義秋も妥協せざるを得へん。織田殿の意図する形で義秋を戻しても畿内の政治は将軍の手で回る筈もない」


「まぁそしたら幕府の為に織田殿に統治を任せるって話を持ってくって事やろ?」


「は、幕府は有名無実。名さえ失う訳にはいかへんと心得ます。あの公方もその程度は弁えておりましょう」


 誠仁親王殿下は熟思う。藤原、平氏、源氏、北条、足利が時代の権力者となった時も同じだったのでは無いかと。……源氏と足利に関してはなんか勢いみたいな感じあるけど、まぁきっと。


「積み重なった変化が都度の対応と今までのやり方で対処出来なくなって対応に迫られた訳や。それさえ難しいんに義輝は味方にすべき者を排除しようとして滅茶苦茶になったんやから全く。そう考えれば義秋も不憫なもんよな」


「畏くも慈悲深き大御心かと。まぁそれはそれとして都の安寧の為に大人しく退いて貰いませねばな。足利には」


「うん。それはそうや。織田殿やったら塩梅良くやってくれるやろ」


 と、朝廷はグダグダな幕政に辟易としてるが故の反動で全体的には織田家に対して好意的だった。




 淡路那賀郡平島城の東にある西光寺。此の寺は平島公方の菩提寺である。義秋は此処に軟禁されていた。


 まぁ軟禁されてるつって扱いは悪くない。実際に最近は腹一杯に飯食って太ってきてる。特に南蛮人から献上された金平糖を食いまくりワイン超飲んでる。


 ただ今は参議勧修寺晴秀と侍従日野輝資と権大納言山科言継を前に血管ビキビキに浮き上がらせて唾を拡散していた。


「お前らが間違いを認めえ!!平島が将軍になった前例なんぞ認められるかァッ!!」


 人は昔から重大な物事の選定には殊更に前例を重んじる。それは良い結果の踏襲と悪い結果に対する対応の簡便さと言う当然の理由。故にこそ前例というのは大きな意味を持ち義秋はそれを論拠に反発していた。


 そう義秋にとり阿波公方の足利就任は悪い方向に大きな意味がある。早い話が自分の代替品が出来てしまったのだ。何より危機感を覚えるのは織田家と言う自分の担ぎ手がそれを容認しようとしている事。


 当然それは朝廷に対しての遠慮という事は理解している。だが有力者が幕府に対しての遠慮を無くし首の挿げ替えを行う等それこそ幾らでも前例があるのだ。首の挿げ替えなどされれば島流ならば良い方で朝敵からの抹殺のという未来さえ否定できない。


「先ずは近衛の追放や!!あの裏切り者やろ朝廷を動かしたんは!!」


 確かに義助の将軍就任を強力に推進したのは近衛家である。グダグダな幕政に辟易としてた朝廷が駆け足気味とはいえ規定通りに事を進め、都の治安維持に気を使った三好三人衆の朝廷工作を受け入れたと言うのは有る。だがやはりそこには近衛家の全責任を取ると言う言質付きの二条家ならびに足利家への意趣返しと都での復権を狙った活動ありきの話。


 まぁ朝廷に対する一番の不審と言うか不信な点は此処だった。義秋が唾をショットガンの乱射の様に飛ばす前で権大納言山科言継は扇で口元を隠しながらどうにも気の抜けた顔で聞き流す。そうして公方が黙ったのを見て扇を閉じ頭を下げた。


「では織田さんには公方様は帰る気が無いとお伝えしておきます。構いまへんな?」


「っ〜〜」


 義秋は怒鳴り声を上げる事が出来なかった。権大納言山科言継は想定通りの思惑を察して救いの手を差し伸べる積もりで口を開く。


「お気持ちは重々分かります。朝廷も織田さんも帰ってきて欲しい思うとるんよ。先例を作る積もりやなくて対応する余裕がないんです」


「それも納得できんけど三好三人衆の居る都に戻れ言うんか」


 そう。義秋が戻らないのは身の安全。これに尽きる。だが義秋が危険視しているのは言葉とは打って変わり三好三人衆では無い。


 ややこしい話だが織田家が畿内と言う天下の安寧が為に朝廷と協力し、政務を回す為に三好三人衆残党を取り込んだ。その事で義秋の疑心暗鬼が爆発し立場に対する危機感が暴発てしまっているのが現状。まぁ義秋自身の経験に加えて親とか兄貴の状況を知ってれば身を拘束された状況で平静でいろってのは無理な話っちゃそうだろう。


 だが矢張り第三者から見れば違和感を覚える事に織田家や朝廷に対して敵愾心に近い心象を抱いていた。そう都に戻らないのも何とか朝廷と織田家に対抗出来る何かを模索して時間稼ぎしているのである。


 要は現状で義秋は都に戻っても権威も権力も武力も無い丸裸の状態。そんな訳で身を守る程度の主権を取り返そうと軟禁中ながら色々とやってるが情勢安定しすぎてて何の成果も無いって言う。強くなり過ぎた自信の代替品が有り、自信が不要とされている現状で都には帰れない。


 義昭の問いに吐息一つ。


「落ち着いて考えてほしいんです。畿内も幕政も既に織田殿を主体にせな回りまへん。三好三人衆もそれは分かっとる。言うてまえば最悪は織田殿さえ健在なら畿内は安定するんや。そこに公方が居れば盤石になるのは畿内の政を回しとった者には良う分かる事。織田殿が居る限り三好三人衆は公方を手に掛ける様な阿呆やないでしょうに」


「都の主人は拙僧やぞ!!」


「そう思うなら今戻らへんと首を替えられてもおかしゅうない事も分かるでしょうに。ほんで今なら朝廷も織田殿も中将(義秋)殿を公方として迎える事に異論は無いんやから良う良う考えたらどうです?」


「……朝廷は近衛が牛耳っとるやろ。それを排斥せん織田は何してんねん。力でも何でも如何とでもなるやろ」


「織田殿にとっては近衛殿は三好残党や本願寺との交渉に必要や。言わせて貰うけど京兆家の祖(スーパーマン細川頼之)三代(足利義満)さんは良う良う頼った言うで。中将(義秋)殿もそしたら如何かな」


中国管領(細川頼之)なぁ……」


 義秋は考えた。細川頼之の倒し方、即ち織田家の倒し方を。義秋の視点で状況を見れば仕方ない事ではある。まぁ出来るかっつったらンな術無いけど。


 先ず何よりも義秋は朝廷と極めて不仲だ。それは兄の代から続く事である。しかし織田家はその朝廷と非常に良好な関係を維持していた。それこそ家臣に官位を与えた事からしてマジもんの覇者たる大内義興の様に朝廷から直接官位を貰うだろう程の関係だ。


 次いで織田家が三好三人衆と言う敵を許してる事も問題だ。義秋の幕府を破壊したのだから許せよう筈がないって話じゃなくて戦力的に。畿内を乱した者を利用して畿内を治めようとか正気じゃ無いがそれが出来ちゃうんだから。


 くどい様だが義秋に良い感情を抱いていない三好三人衆は朝廷と繋がりがあり、その両名と織田家が協力している状況だから織田家が敵に見えるのは当然の事なのだ。


 まぁ織田家からすれば畿内安定させんのに他の術がねーんだからしゃーねーじゃんって話なんだけども。ま、それはそれとして義秋は少し考えてから。


「……エエやろ、分かった。ただ集めた足軽衆(義秋の私兵)もおらへん。問題は御所の警護もままならん事や。そこが如何にかなったら都に戻るわ」


京兆の現党首(細川藤孝)と三渕殿が二条御所の留守を守っとります」


 義秋はギョッとした。


「生きとんのか!!?」


 今度は余りにも大きな声に権大納言山科言継がビックリした。ビックリしたがまぁ特に表情にも出さず。


「摂津の荒木何某が匿ってたそうで」


「ならエエ。義助の事は向こうで話すで」


 凡そ一月をかけて都に足利左近衛中将義秋が戻り名を義昭と改めた。まぁ織田家も方面軍作るよね。こんなに危険視されてたら。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ホントに気になるってだけなんだけど、「延々と」の意味で「永遠と」とずっと書かれている
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