織田家の次代
「やっぱり、こう。練習用のヤツだとダメだな。重いわ流石に」
ゴッと勝三の持つ黒鉄の鉄柱が地を突く。形状的に思い浮かべ易い物を挙げれば鉄バットだろうか。ただし全長は勝三の二倍を超えてて全てがガチの鉄製である。
鍛錬に使っていた一本を代用で持って来た代物だがこれは戦場で使うには重過ぎた。破壊力と強度は申し分無いが戦場で実践となれば勝三でも疲れるし愛馬大黒も嫌がる。何よりも振りが有り得ないくらい遅くなるので隙が大きくなるのだ。
そんな勝三を見る目は二種類。羨望と何アイツ頭おかしいって言う、まぁ気持ち相対する物だった。比較的と言う注釈は必要だが前者は若いので後者は一定以上の年齢である。元服前後が凡そその分水嶺だろうか。
「あ〜疲れた。早く金砕棒できねーかな。馬鎧も発注してるし仕方ないけど.......」
半裸で彫刻の様な肉体を汗ビッチョビチョにした勝三が井戸に向かい水を浴びる。これから勝三はある会見を行う事になっており袴が濡れても問題がなかった。寧ろ相手の立場を考えると汗まみれのがヤベェ。
勝三は広場から戻り一張羅と裃を纏って使者の元へ向かった。そこは勝三が面倒見てる軍勢が駐屯する大覚寺城、厳密に言うと城ではなく寺の一室だ。まぁこの時代の寺なんて極論言っちゃえば掛かってくんなら殺すぞって絵面なので城と似た様なモンである。寧ろ色んな意味で要塞化された寺のが殺意高いかも知れない。
……本筋に戻るが、その一室にて勝三を待っていたのは二人。勝三に比べればアレだが一般的に言って大男と、彼の主人だろう和やかで温和な印象を受ける男だった。注意点として和やかとは言うが弱そうな雰囲気は皆無だ。侮り難い雰囲気が見え隠れしている。
「お待たせ致しました荒木殿」
勝三はそう言って入室した。
「おお、これはこれは御噂は予々。待たせたなど等、寧ろお会い頂き恐悦至極に御座います少弐備前守様」
二人が首を垂れ温和な爽やかイケメンとしか言えない男が口を開く。朗々と滑らかに流れる声は男女問わずに耳心地良い物。どころか場合によれば太鼓持ちと言う印象を受けかねない言葉さえ不快感が無くなる様な清涼な響き。
まぁだが半端に知識があるんで勝三は目の前の男に対して表にしない警戒を解けないし解きようが無い。
爽やかイケメンの名前は荒木弥助村重、名乗ったか微妙になりつつあるが、道糞さんつった方が有名だろう。主家を裏切り乗っ取って更に家臣の口車に乗り主君とダチを裏切り家族と家臣を残して逃げた男。まぁその口車に乗せた家臣も大概だが勝三の警戒心は相応である。
荒木弥助村重は顔にニコニコと笑みを貼り付けた顔を下げるが内心は凄かった。
まぁ何せブルってる。厳密に言うとウンコ漏れそうなほどビビってた。と言うか怖すぎて逆に身体の震えが抑えられてる程に緊張で身を凍らせていた。だって下克上ブチかましてさぁこれからだって時に織田が攻めて来て嫡男の教育代わりに御隣さんが擦り潰されたのだ。ほんで嫡男率いる摂津攻略軍の動きが活発になれば今すぐ降伏しないと死ぬってなる。だいたい既に荒木弥助村重自身の領地ってか城が敵の矢面にあるのだ。ほんで三好三人衆も城に篭ってんだから一国人領主が対応できる訳ねーじゃんって言う至極真っ当な理由。見立てとしても摂津とか織田家的には攻略が当然なのだから強ち間違いない状況。そんな状況で嘘みたいな武勇と剛勇を轟かせ見た事もない程に巨大で屈強な男が出てくりゃガクブルよ
ンな内心が分かろう筈もない勝三は警戒を深めつつマジで困った苦笑いを浮かべ。
「その様な物言いをされては恐縮するばかりで。この様な田舎者に官位など都が落ち着くまでの一時的な物に他なりません。一先ず御用件を伺っても?」
荒木弥助村重は正気を疑った。本物の化け物か気の触れた阿呆か等と考えながら顔を上げる。応仁の乱の頃より荒れてない方が珍しいくらいだから畿内の者なら荒木弥助村重の感想はホンマそれって物である。
ともかく荒木弥助村重は口を開く。己の命の為に、己の立場の為に、己の宝物の為に。平静を装った表情で。
「私が求めるのは本領安堵で御座います。良く申せば我等の城、人、物をそのままに織田家の皆々様が末席に加えて頂きたい。有り体に申せば既に我等にとって勝敗は決し如何かお許しを戴きたいのが本音」
此処で朗々と流した言葉を切って笑み浮かべ指を三本立てた。
「私には三つ織田家の方々に献上できる物が御座います」
そして穏やかに笑う。
「一つ、我等の武力。二つ、死んでも良い本願寺への使者。三つ、御悩みであらせられよう幕政の助成人」
勝三が片眉を上げた。二つ目までは分かるが最後は意味がわからない。幕政を手伝うと言うのであればそれは降伏する者として少々傲岸な発想だ。要は幕府の中枢に自分を入れろと言っていのに等しいのである。
「備前守様の疑問は御尤も。それにお答え致すには此方の中川瀬兵衛が適任に御座います」
そう言って荒木弥助村重が傍に避け、そこに錆びたブリキ人形みてーな動きで大男が。
「し、紹介に預かった。中川瀬兵衛や」
そう言って一礼。返礼すれば割と厳つく勝三とそうは変わらないか強いて言えば年下に見える。その中川瀬兵衛清秀は酷く緊張していた。勝三は何かよく分からないが一先ず。
「内藤勝左衛門に御座います」
返礼を受けた中川瀬兵衛清秀は更に一礼して口を開く。
「内藤様、私の従兄弟には高山ジュストが居ります。松永様に仕えるダリオ叔父上とは一瞥の機会があったと伺っておりますが相違御座いませんか」
「松永様の、懐かしい。確かに顔は存じています」
「鼻で御座いましょう?」
「……はい。立派な鼻でした」
勝三にも分かる程に二人がスンゲェほっとした。
「その縁故に助命を嘆願し結果、私の元で幽閉しております。またジュストに頼まれ二名の幕臣を三好三人衆に内密で匿っています」
勝三は微妙な顔をしそうになった。勝三としては正直に言って幕臣とか邪魔なのだ。つか現状いない方が良いまである。
貧すれば貪すと言うがマジで幕臣は貧乏。仕方ない部分もあるが信長が天下平定に重要と考えている清廉と公平を心掛ける外聞の妨げになる。早い話が政治の潤滑油とも言えるイメージ戦略上クソ邪魔だ。もっと言えば気分的にも実情としても手続きが煩雑になってしまっていけない。
その雰囲気を察して慌てた様に中川瀬兵衛清秀は。
「細川殿と三淵殿御兄弟に御座います」
マジ話が変わってきた。
この兄弟は幕臣と言う存在において稀有な文武両道と言える兄弟だ。それこそ六角家出身者からアイツらなら使えるし使った方が良いと言われている程に。また他の幕臣については邪魔と切って捨てられるが両名は大きく話が変わってくる。
何せ義秋を救った張本人であり義秋の忠臣にして京兆家と言う名門を継ぐ。また数少ない比較的正統な裁きを下し朝廷との繋がりも有ると言う大義名分の欲張りセット。彼等が信長を立てるのであれば実情はさておき建前として無理筋とも言える信長の副将軍就任と幕政運営の印象を随分とマシな物に出来るのだ。
雑に言えば味方の武家や信長本人でさえ、しゃーないのは分かるけど如何なのコレ?って印象がまぁしゃーないんだろうなコレってくらいには変わる。
その程度かとか言っちゃダメだ。その程度が重要な状況。荒木弥助村重はニコニコと。
「御兄弟とジュスト殿は有岡城の茶室にて過ごしておいでです。なに、ああは申しましたが我等を末席にお加え下さらぬとて御三方は此の荒木弥助村重が身命を賭してお送りいたしますので心配には及びません。御許し頂けぬのであればその後に摂津の男として抗うて見せましょう」
そう内心を隠して茶目っ気混じりに不敵な笑みを浮かべて見せた。勝三が無知なら魅了さえされたかもしれない。
が、やっぱ勝三としてはコイツ割とクソ野郎なんだよなぁって言う印象がある。勝三は今生きるからこそ先の未来の印象に拘り過ぎるのは良くないと思う。思っているが内容が内容だけにバイアス、早い話が色眼鏡がかかってしまっていた。
まぁ今回は寧ろ良かったかもしれない。信長でさえ有無を言わせぬ好印象を受けるだろう笑みだ。どう言った手合いか不明な現状では十分に警戒すべきと言える。信長でさえそうなら色眼鏡のない勝三なら直ぐに落ちただろうし。
勝三は務めて淡々と。
「それは豪気な。ならばその時は御一門の世話は命に変えても私が見ましょう。まぁとは言え摂津安定は願っても無い事。確認はしますが案じる事も無いと存じます」
そう答えて二、三話せば解散となった。
その帰路、有岡城の門が見えたところで荒木弥助村重は大きく息を吐く。
「……いや怖過ぎるやろ」
もう顔真っ青でプルップル。真冬に全裸になってもこうはならないだろう程。馬を並べる中川瀬兵衛清秀が首取れんじゃねーのってくらい頷く。
その様子に納得と驚愕を同居させて荒木弥助村重は素で問う。
「参考までに聞きたいんやけどアレ勝てる?どうなん?」
中川瀬兵衛清秀は全身を粟立たせ。
「一対一なら気付かん内に殺される。兵を持ってなら十倍で何とかや」
荒木弥助村重が顔をワッシィッと顰め。
「ほな誰も勝てんやん」
この後に荒木弥助村重は降伏し残った摂津国人の有力者たる有馬出羽守国秀も降伏。織田出羽介信重の初めての攻城戦が始まった。彼は軍配を手に左右に並ぶ者達を見て先ずは監軍という名目のケツ持ち二人に。
「ではジ、河尻肥前守は私と共に畠中攻め、内藤殿は川口で根来と雑賀の方々を頼む」
「承りました」
「承知」
河尻肥前守秀隆と勝三が頷けば続いて奥に座る十数名、軍議の場に出るには軽装と言うか僧兵や神人の服装で参陣する者達へ。
「紀州。根来の方々、雑賀の方々。撃てば撃つだけ報酬は弾む。頼んだぞ」
そう言えば傭兵達がバラバラの返答をまとめて行い頷く。
最後に腹心達へ頷く。
特に若衆での年長たる坂井越中守、団平八郎忠政、下方弥三郎貞弘、加藤辰千代、佐々清蔵、高橋藤丸、村瀬虎丸、毛利岩丸、山口小弁にだ。最後に森三左衛門可成の子である森傳兵衛可隆に。
「川口砦、確と差配してくれ」
また織田出羽介信重に付けられた前田玄以勝基、斎藤新五郎利治と派遣された福富平左衛門尉秀勝、猪子兵助高就達へは目礼をして立つ。
「さ、方々」
諸将の顔が彼等の大将にして次代の織田家の棟梁に向く。
真新しい赤の大鎧を纏いその甲冑の前立ては蝶である。流麗で穏やかながら鋭くも万里を見渡し、それでなお若さ故の熱を内包する切長の目。スラリと通った鼻に品のある口と女人が己を恥ずかしがりかねない程に白い白い肌。
逞しき貴公子と言う言葉が適当だろう気品と情熱と共に軍配振り踏み出す。
「かかろうか」
諸将が腹底から応と答え若君に続いて各々の持ち場に散っていった。
「いやぁ〜若様も確りしちゃってまぁ。最近の子は凄いわホント。思わず応って答えちゃったもん。天性の大将だねアレは」
「へぇ〜そこまでかよ勝三」
岩越二郎高綱が内藤家から貸出した曲がり鋤を確認しながら言った。此処は織田家が浦江城を落とした後に川を埋め土手と櫓を建てた陣地だ。勝三の方は軍忠状ならぬ……何と言おうか、作事状とでも言おうか。曲がり鋤を使った感想文を読みながら勝三は。
「ああ、若様が命令を出せば戦おうって気になる。そう言う雰囲気ってのは大事だろ?」
「御屋形様は付いていこうって感じだったが若様はこの人の為にって感じか。確かに見てくれも申し分無いしな」
「そりゃ三郎様と御方様の子だし」
「確かに。次代も安泰そうで何よりだ。若様にゃ確り育って貰わなきゃな」
「違いない。よし曲がり鋤は問題なく全部帰ってきてるぞ。全部が鉄じゃ無い割に数本くらいしか壊れてねぇ」
「コッチも終わり、使い心地すげぇ好評だぜコレ。また近江に城を建てるんだから国友に仕事を回せそうだな。こうなると絹織は北に移すか」
「人手を考えるとそうの方が良いな。藤十郎は泣き言言うだろうが」
「アイツにゃ悪いがもう一部将って立場じゃ居させてやれねぇよ」
さてそんな話をする勝三と次郎を少し離れた場所から森博兵衛可隆と団平八郎忠政が並んで二人を見ていた。
森傳兵衛可隆と団平八郎忠政。彼等は織田出羽介信重の同年代の腹心たるべく付けられた者達で傭兵と共に銃撃戦を行う部隊の大将と副将だ。それだけ立派で才能に溢れた若人であるが、現在は大◯選手を見る野球ボーイみてーな顔してる。
団子の様に丸い目と顔に団子みてぇな目を持つ団平八郎忠政が森博兵衛可隆の肩を右手で掴み揺らす。
「は、傳兄貴。は、早く聞きに行かなくて良いのかよ!」
ユッサユッサされてる美丈夫と言う言葉が合うだろう若人。父に似て居るが燻銀というにはまだ青い。そんな森傳兵衛可隆は如何にかこうにか口開き。
「う、うう、うるさいよバーカ。俺きき、きん、緊張してあ、足ががががが」
やっぱ若い内って如何しても目立つ物に目を奪われるかんね。織田家の若い連中にとればそりゃ勝三なんて◯谷選手みたいなもんだ。目が眩む程の相手が居ればなんかコミカルな問答もしゃーない。
ヌッと半眼が二人の若人の間に現れる。ゆっくり三つ数えるくらいの時間。若人二人が気付いてビックゥ!!ってなった。胡瓜にビビる猫みたいだったマジで。
そんな二人を面白く思いながらも表情は変えず、しかし与三は気持ち口角を上げた。
「勝三〜!領地の話は後にしなよ。二人が来てるよ」
そう言って二人の背中を押す。その身体の何処からって力で押されて躓きそうになりながら二人の若人が前に。勝三は振り返り小さく頭を下げて。
「これは大将殿、副将殿。御用件は何でしょうか」
なんかプルプルしてた森傳兵衛可隆は急に自分のほっぺたパーンして頬当ての硬い音を響かせ父譲りの目で。
「戦の準備が終わりました軍監殿。検分を願いたく」
勝三が引っ込んでいた天幕から出る。監軍が隠れていたのは若人達が自分達を頼らずに出来る程度を確認する為だった。彼等にはやらせてから如何してもな間違いがあれば裏で伝えると言う手順が必要だ。
そう人材育成とは気遣いが不可欠。
特に次代の幹部ともなれば基本的な事を教えるのは勿論、名を傷つけない配慮と名を上げさせる機会は与えねばならない。一先ず若衆に手配させて様子見の後に、如何しても直さなければいけない場合、裏で伝えて説明の後に本人に直させるって言う話。
「おお流石に手早い。では早速見回りに行くとしましょう」
勝三は緊張している二人の配置した兵や武器弾薬の配置を見ていく。勝三の見たところ特に問題らしい問題はなかった。兵個人の怠慢というかズボラさに少々の苦言を呈した程度と言えば十二分だろう。
「では俺も配置につきます」
勝三はそう言って自分の持ち場である後方の後詰の位置へ。強いて言えば鉄砲隊を前線に出しているが本人は櫓から見物と洒落込むのが仕事である。置き楯で囲った櫓や並ぶ木柵と土俵が敵城福島城を覆っていた。
並ぶ銃口砲口は膨大だ。尾張各所、国友、日野に加え堺からも掻き集めた銃砲達。勝三の居る川口砦だけで二千を超える鉄砲が有り、佐久間右衛門尉信盛が入っている楼岸砦と合わせれば五千丁に及んだ。
敵勢の物も合わせれば万に届くやもしれない程でハッキリ言って双方がイカれてる。
「壮観だな与三、二郎」
左右の与三と次郎に勝三が言えば返答は無かった。いや、正確には答えたのだが織田出羽介信重の軍配一振りで火蓋が落ち言葉を掻き消した。
音しかない。銃声と砲声が中央の本陣から放たれたのを合図に左右も続き白煙を吐く。辛うじて聞こえる鉄砲組頭の掛け声だけ。双方の城砦から白煙が伸び広がり、壁や柵に土俵の一部が時折弾け飛ぶ。
余りに淡々と白い死地が広がっていく。敵味方の砲声が弾け当たった物を薙ぎ倒す。狭間筒が頭を炸裂させて彼岸花を添えた。
双方の銃撃の中で敵拠点に取り付く予定だった部隊は一歩とて出れない。故に銃砲によって大鋸屑と亡骸を量産していく両陣営。鉄砲の熱も暴発も置き楯の合間から撃つ事で考慮しない。
特に織田の銃撃は撃った三人から四人の控が居て撃ち終えた者が下がり即座、弾込めを終えた者が入る形で代わる代わる射撃し止めどなく永遠続く。
半刻、一刻、一刻半。それは余りにも長い時間、余りにもくどい時間、余りにも異常な時間。遂には鉄砲や一部の大筒に加え鼻と耳が仕事を放棄した。
織田の砦より法螺の音が重なっていく。川だった大地を呵成が津波の様に飲み込み進む。
城の残骸、兵の亡骸、全てを踏み潰して福島城の残敵を根切りにする。特筆すべきは織田家や根来衆ではなく雑賀の傭兵達だ。しかし本丸の小さな城館を前に攻勢が止まった。
「疲れた」
精強な傭兵達の亡骸を前に一言、門を後ろに佇む男が一人。無駄に体力を使わない為に赤い金砕棒を杖代わりにして身を支え眼光鋭く敵兵を睨んでいた。細身に見える筋骨隆々な体躯と獅子の立髪が如き縮毛を持つ岩成主税助友通だ。
彼は獣の様でありながら理知的な瞳に違わず現状全て理解していた。故にせめて武士としての最後をと立っている。
「さて、困った。根来でも怪しいと言うのに雑賀では話にならん」
敵目を向けながら。
「鶏冠井孫六殿、飛騨守、大炊助。合図するまで弓鉄砲は控えてくれ!!」
「承った!!」
鶏冠井孫六政益の言葉に頷く岩成主税助友通へ向けて鉄砲が向く。それを見て吐息を漏らし凡そ同時に亡骸の一つを掴み上げて盾とした。兜弾け飛び銃声の残響を耳に残し白煙が立ち込める中で盾を放り捨て金砕棒を握って。
「ゼァッ!!!!!」
横薙ぎに金砕棒を振る払えば防ごうとした刀と腕が砕け散り、続いて振り下ろせば敵討飛び掛かってきた頭が炸裂。
だが即座に第三波が迫る。
雑賀衆は同村の友輩が死んだ怒りは忘れずも一人二人では敵わぬと見て冷静に三人が飛びかかった。
「流石はッ!!」
岩成主税助友通が地を砕かんばかり一歩踏み込み。
「サイカヨォッ!!!」
黒塊一振。黒が扇の様な影を残して兵を通れば赤い波飛沫が舞う。岩成主税助友通が暴れ周るのを終えれば死屍累々を通り越して屍山血河となっていた。
雑賀衆の攻撃が控えめになると敵が退いていく。一休みを期待したが直様に新手が現れてしまう。
「置き楯で壁を作りおるか。気が滅入る精強さだな。だが漸く話が出来そうだ」
旗は木瓜、織田家の軍。
岩成主税助友通は大きく息を吸い。
「三好家、岩成主税助だ!!開城交渉を願いたい!!」