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息付く暇もない。マジで無い。誰も無い

いつも感想、ブクマ、ポイント、誤字報告、有難うございます。


お陰様で百話行きました。


なんか記念に短い話でも後書きにと思ったんですが時間無くて無理でした。


という訳で二話のせます。


あと二話ともクソ長くなりました。


そんな感じですが暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。

 二条御所で織田家の面々の悉くが寸暇惜しんで忙しくしていた。そんな中で勝三は兵糧の運搬や都の治安維持を処理し信長に報告へ向かう。その道中の廊下で塙九郎左衛門尉直政を見つけ挨拶しようとしたらスゲェ速さで走っていった。


 勝三が首を傾げて部屋に入れば信長は労を労い新たな案件の説明をしてから一瞬間を置いて口を開く。


「あ、そうだ勝三。今回の褒美に伊香と浅井の二郡を預ける。頼んだぞ」


「え?」


 さて勝三が伊香と浅井の二郡を加えられ二十万石になろう北近江の大規模な領地を任されたのには理由がある。それは何一つ変哲な事は無く純然たる褒美と人手不足に加え近江水運の円滑利用の為だった。


 何せ代官に任じられた郡は丹羽五郎左衛門長秀が治めていた地だ。彼が若狭ならびに敦賀の支配を任され丹後平定に向かった事で手一杯なのである。当然だが管理する余裕がない彼の補佐と補助も勝三の重要な仕事だ。


 さっき超絶ダッシュしてた塙九郎左衛門尉直政も勝三の伊香浅井二郡と同じである。唐突に領地ブン投げられて岩室長門守重休の補助を任された状況。今の織田家にはそれくらい余裕が無い。


 また頼まれた案件になるが勝三の場合は都への派兵も行わざるおえない。何故ならば都に近い中で最も安定した織田家の支配行き届く地だから。他の近江領は戦の傷深く伊賀は山中、大和も同じとなれば当然だった。とすれば京都に駐屯せざるおえなくなるのは当然である。


 まぁしゃーないのだ。だいたい信長だって隈凄い。と言うか一番忙しいのは信長。


 何せ石高換算で三百三十万石の既存領地に加え五畿内周辺凡そ百万石増えてるのだ。収入が増えたってんじゃ無くて処理案件が増えてる段階なのだ。厳密に言うと面倒なので端折るが急に仕事が四割マシなってんだから。


 て、訳で。


「承りました」


「すまんが頼むぞ。都に家族を呼ぶと言い。金は出す」


「やったぜ!!」


 さて数日後。


「まだ今浜城にも入ってないのになぁ……」


 勝三がニコニコ言えば。


「ですねぇ……」


 織田秀子が何処か嬉しそうな苦笑いと共に頷く。当然だが秀子だけで無く都には有馬幸も居るし息子達も居る。そして今浜城は父母に任せている状況だ。勝三がイソイソと親族を呼ぶ為に作った屋敷もホテルどころか空家である。


 まぁ新居のしゃーない状況はさておき織田家臣団の都出向者は本圀寺などの寺か二条御所で生活する事になった。秀子などは奥向きの全てを取り仕切り有馬幸も勝三の連れてきた兵士の妻達の代表として食事の準備を采配していた。家長としてそちらの確認も必要な勝三は一先ず。


「秀子殿、女中や中間達は如何ですか?水に慣れない何て事は」


「一先ずは大丈夫でしょう。都が珍しいみたいで燥ぎ過ぎない様に言い含めておきましたよ。尾張で買った絹を売って儲けてる者まで居るくらいですから」


「……うん強か、で良いのか?あー幸殿は市場に行ったそうですが大丈夫ですか?」


「勿論です。三条五条七条の鳥売り達と渡を付けると意気込んでいましたよ。既に菜売りは集めて話を付けていて聚楽蕪菜などが手に入りそうです。彼等からは騒乱は無くなるし稼ぎにもなるから数年は居座ってほしいと言われたそうで」


「良かった。糧食の確保がは中々に難しいですから。鬼夜叉、絹千代は如何だ?杉左衛門(口中忠就*)に迷惑をかけてないか」


 勝三は必要な話を終わらせて久々の息子の方へ向いた。割と唐突な勝三の問いに織田家の血のなせる技か母に似て非常に整った顔の鬼夜叉丸が頷く。子供らしく非常に愛らしいちょっと照れ臭そうな顔で。


「大丈夫です。父上の絵本を読んで貰いました」


「新しいのを書いてくれませんか?」


 続いて有馬幸に似て朗らかな雰囲気を持つ絹千代が続いた。クソでかい勝三のおかげで違和感が無いが二人共に五歳児とは思えない背丈なのは内藤家の血の成せる技。大きな掌で勝三は二人を撫でながら。


「よし解った。明後日には書いて彫師に渡しておく。十日後には読めるようにしよう」


「それと父上」


「ん?」


「俺たちも素振り一緒にしていいですか?」


 鬼夜叉が遠慮と期待を込めて問えば絹千代も目を輝かせる。勝三は父性本能爆発した非常に幸せでキショい顔をしながら、


「……絹千代もか?」


 二人の息子が揃って頷けば勝三はニヨニヨした笑みを深めた。琴線に触れない場合は正直有り得ないくらいキショい顔で。微笑ましそうに袖で口を隠す秀子は琴線に触れてるらしい。


「そうだなーしょうがないなー。でも最近は特に朝早いからな。無理はするなよ?」


 と、まぁ父親と同等かそれ以上の親バカ反応を示して勝三は頷いた。そんな幸せな朝の時間が終われば勝三は仕事へ向かう。漸く熟れてきた都での一日が始まるのだ。


 今日は自己鍛錬兼京都警備として重しを担いで都を走り回る。何かやらかしてる連中がいたら辻ラリアットの刑をかました後に縛り上げて重りの代わりにして引き摺っていく。何でか知らんけど都の住人に好意を持って大鬼の辻引きと呼ばれ受け入れられてた。


 この見廻りが始まって以来、口論の上の殺傷沙汰がほぼ無いなった程だ。逆に喧嘩売ってくる婆娑羅者とか歌舞伎者も発生したが良い募兵になる。まぁ全員が秒でラリアットに沈んで市中ズリズリ後にだけども。


 そして今日も三人ほど人攫いを重しに加え市中引き回しランニングして戻り、身支度を終えてから政所へ向かう。着るのは物持ちの良い勝三にしては珍しく卸したばかりの薄緋色に染まった鬼絹の裃である。白の内藤家の藤三巴の家紋をあしらった物でその下の白い木綿の小袖の袖には白い糸で立ち昇る炎を刺繍してあり、また背には黄色い目が輝く黒い鬼の面がデカデカと刺繍されていた。


 そんな格好で政所へ向かい、その扉を開ければ塔が連なる壁。


「勝三殿、市中見廻り御苦労様です。唐突で申し訳ございませんが油座の者達との交渉を頼めますか。大山崎の神人達が油座として相談があると」


 政所の文書タワーの最奥から村井吉兵衛貞勝に今日の仕事を頼まれた。勝三は慣れた様に一礼して。


「承知しました」


 勝三はそれだけ残して足早に出て行く。そうしなければすれ違う数珠の様に廊下を進む人達の邪魔になるから。そして何よりこの絵面が当然であるくらいには忙しい織田家、その中でも村井吉兵衛貞勝の時間は貴重なのである。控えていた小姓の一人に油座の神人の居場所を聞いて部屋に入った。


 その座の話と言うのは義秋が出した関銭津料所役免除の特権継続の礼を前置きにした他商人の油取引の禁令発布の依頼だった。


 こう言う話は都で非常に多い。


 で商いに関した事となると勝三が取り持つ事が多いのだ。理由は言わずもがな琵琶湖の水運を任され商売の事に関して織田家で最も見識があるから。また何せ勝三に睨まれると琵琶湖水運で不利を被る為に商いをする者は強く出れないのだ。


 故に。


「幕府が既に出した禁令の整理で手一杯ですので」


 と、お役所仕事な返答で済む。


 特に都で権益拡大を狙う者にとり勝三は非常にやり難い相手だ。例えば賄賂なんて物は目の前でアホほど輝く絹の服を纏った男を相手に対して博打である。馬子にも衣装なんて言葉も有るが宣教師の事例を見れば分かる様に此の時代では敵面の効果があった。それこそ服装一つが侮り難く只者ではないと言う印象を抱かせる一助となっているのだ。


 まぁ勝三なんて何着てても唯者じゃなくて化け物だけどそこは置いといて。


 服装の印象から得る富豪と言うのは一定の才能が無ければ成れない物だ。特に乱世で豪奢な装いをするとなれば少なくとも軍備整い兵民まで潤し加えて納得させるだけの何かが必要。それに必要な才と来れば特級の人物に睨まれるのは競合者に突かれる必殺の隙となりえた。


 だから賄賂と言わず付け届けを渡されそうになっても。


「申し訳ございませんが受け取っても何も出来ず、また受け取ってしまえば何も出来ないのに金を受け取る愚か者と謗られます。私だけなら未だしも織田家までもがその程度と侮られては耐えられませんので」


 と、言われて仕舞えば機嫌を損ねる前に引き下がるしか無い。まぁ勝三的には失礼の無い様に一丁羅着とこかくらいのノリなんだけども。ほんで、まぁ同時に信長の妙に潔癖な所と合わされば説得力も出る。


 そんな訳で最近の勝三は都の有力者との面会が主任務だ。肩凝る事この上なくおうち(今浜城)帰りたい仕事だった。


 さてではその今浜はどうしてるか。そう問われれば勝介が稲葉山に戻り与三達が采配している。まぁ当然っちゃそうだ。


二郎()。ご苦労様」


「おう、オメーもな与三。しっかし勝三の野郎も大変だなこりゃあ」


 さて勝三は四郡の主人だが都に出向中だ。となれば代官を置く必要があった。簡単な話が母の叔父の寺沢家に春日井郡を任せた様なアレである。配分は坂田郡が青山家、浅井郡が岩越家、伊香郡が毛利家だ。


 岩越二郎高綱()が勝三に同情したのは視線の先、手元に答えがある。いや答えと言うには少々ならず迂遠な代物だが都から届いた発注書と言えば良いだろうか。早い話が中立や半ば敵だった水軍の取り込みの為の荷運びの依頼書なのだが大半が酒や絹や什器だったのだ。


 当然だが絹に関しては窓口は勝三になる。岩越二郎高綱()からすれば公家と言う別世界の人間との交渉は尻込みするものだった。特にクソ忙しい現状で新しい価値観と触れ合うのだからそう間違ってはいない。


「まぁ勝三にゃあ頑張って貰うとして。これで浅井郡の安養寺の猪之助も文句ねぇだろ。有難うよ与三」


「どういたしまして。水軍衆は気が荒いから気を付けてね二郎」


「おう。全く刀振ってりゃ良かった頃が懐かしいよ。領地治めるのが大変なのは知ってるけどさ」


 二、三話をして岩越二郎高綱()が帰ると少し経って入れ替わりで 毛利藤十郎忠嗣()が入室した。


藤十郎(*毛利忠嗣)。ご苦労様」


「あ“ーも”ーやだー。俺侍大将で良いって言ったじゃあーん!めんどくせぇーなー!!」


 岩越二郎高綱()は親族の集まりで年長であった。その為か気質か、或いは家風か知らないが常に感情の発露は穏やかだ。だが 毛利藤十郎忠嗣()は豪炎か爆発の様な心情の発露が基本なのである。


「うん。雨森家も伊香郡も確り治ったね。はい御苦労さま」


 まぁ仕事は確りやるけど。 毛利藤十郎忠嗣()は続けて。


「ああ、あ。それと井口家の残党の一部が蜂起しようとしたくせぇぞ。朝倉から密書が届いたみてーなんだが内輪で揉めて相談してきた。まぁ蜂起前に報告したんで首謀者切腹でお咎め無しにしといたぜ」


「それで良いよ。厳しくし過ぎてもだし。勝三も言ってたけど浅井残党じゃなくてウチの部下にしなきゃ人手が足りないし。あ、上坂殿ー!」


 与三は上坂伊賀守意信へ決済束を渡して。


「禁制の承認が終わったから樋口殿に回しといて。それと勝三の言ってた代文割符は出来た?」


「は、鋳物氏が作り上げました。後で持って来させましょう」


「よろしく」


 勝三が導入しようとしているのは額面の小さな藩札や羽書的な物だった。戦国時代は割符と金銀銅の銭と米やが経済取引における決済手段だ。しかし最近は庶民層において取引が尋常では無い数に増えている。特に近江平定を経て出稼ぎの為に村民の移動が活発となり船の隙間を使った旅客需要は取引を酷く煩雑にした。


 相場としては船倉に押し込める形で五十文から七十文程で船頭達と出稼ぎに出る者達の個人交渉だったのだが、一々銭を数えるのが大変だし荷の出し入れの邪魔で今津座奉行所に船頭達が相談してきたのだ。そこで今津座で旅客船を運行して出稼ぎに出たい各村落に乗船切符的な奴を発行すれば色々と手間減るなって思い一先ず割符を作った。


 まぁ切符である。


 また同時に勝三は大口の契約などでは既に使われていた割符や証明書が紙幣の様に使われている事に気付いた。織田家全体で物も者も取引が多く船だけではなく全ての取引がジャラジャラしててクソかったるい。何より敦賀堺と両港と遮断された期間が有った所為で完全に銅銭が不足していた。


 早い話が村民とかのレベルで決済手段が不足して経済が混乱しそうになっていたのだ。そこで信長に相談し色々話してたら前世の御札を思い出し此の切符に船賃と同じ五十文と交換出来る様にしたらお札的に使えんじゃね?と思い付いた結果である。


 船賃か正貨と交換出来る兌換紙幣、と言っても良いのだろうか。いや知らんけど。


「と、言う訳で割符は一束十枚でしか売れないけど内藤家の手が空いたら銅銭と交換するから。此の一枚は良銭五十文、悪銭の内で上がころ銭、宣徳銭、焼銭、古銭で百文。中が恵明銭、大欠銭、割銭、擦銭で二百五十文。下が打平銭、南京銭は五百文で交換するから細かいのは奉行所で確認するように」


 そう言って与三は村の代表として切符を纏め買いに来た坂田郡各地の村長達と五百文と十枚の紙束を交換してく。


 それは左上に五十文と大きな楷書で消灯する金額、その反対の右上には壱弐参肆伍と五桁の発行枚数が記されていた。その下には勝三の描いた今津丸の絵と竹生島神社に奉られている市杵嶋姫命イチキシマヒメノミコトをイメージした女性の顔が左右に書かれている。今津丸と女神の合間には与三の証印が押され漆で固められた札の様な割符の片割れとなっていた。


 船賃が一定額となり船頭との問答が不要になったと言う触れに喜び、銭と交換出来るという漆で固められた札に村長達は見入る。


 続けて与三は今津丸の代わりに二百石くらいの一角船が書かれた物を出し。


「あとコッチは良銭十文と交換する。上銭なら二十文、中銭なら五十文、下銭なら百文と交換だ。当然だけど五枚集めれば船に乗れるし、今津の市でなら十文として使えるよ」


 正味、苦肉の策だ。足軽連中への知行も一部を此方で払う事になっている。しかし与三の目の前ではサッサと奉行所へ行って五十文と替えてしまう者もいた。


 当然のこと試験的なもので上手くいくかは分からない。




「その……内藤様、少々相談致したい事が御座います」


 勝三が呼び止められたのは都が安定してきた頃。時期にして永禄十四(1571)年ないし元亀二年の弥生(3月)の事で有る。呼びかけたのは北畠左近衛中将具房、改名して北畠左近衛中将信雅だった。


 スーパーおデブな元伊勢国司である。


 色々あって今は公家として京で過ごしていた。色々を雑に言えば公家の所持に強く加えて伊勢国司を名乗る本願寺の面倒なのがいるからだ。北畠左近衛中将信雅は戦をしたく無いし伊勢が荒れるのを良しとせず協力を申し出たのだった。


 ともかく。


「これは中将様。どう言った御用件でしょうか」


 勝三はそう言って振り返った。七つ下のプヨプヨ中将の事は割と好きである。ちょっと前に家族や信長達の為にカステラ作って仲良くなったのだ。


 そして数少ない押せ路(オセ◯)で良い勝負が出来る相手でもある。最近知り合った公家や商家はおろか遂には息子にもボコられたからね勝三。押せ路(オセ◯)クソ雑魚丸だから良い勝負が出来る相手は貴重なのである。


 そんな相手なのだが表情がすぐれない事に気付き割と仲が良いつもりなので何か良くない報せでも持ってきたのかと不安になった。


「その、さる御方が此方を銅銭と変えてくれと」


「……ウチの割符?いや、構いませんが何故公家の方がこれを」


「その……さる御方の鉄火場にて近江の水軍衆の船頭が不運に見舞われたのです。それで仕方なく此方を受け取ったそうで。さる御方も喫緊で金が入り用との事と頼まれまして」


 勝三は溜息を漏らした。鉄火場とはすなわtq公家が家を賭博場として貸し出し船頭がカモにされたって事である。推奨はされていないが数少ない公家の収入源で断つのは難しい。


 勝三は頭痛を堪える様に。


「承りました。何方か存じませんがさる御方には余り大っぴらに為さらぬようお伝えください。十文札十枚ですので下銭一貫をお渡し致します。申し訳ありませんが良銭は今無いので」


「辱い」


 という事があった。その十日ほど後の事。


「その、内藤様。少々宜しいですか?」


「おや中将様。林檎の砂糖タレ(林檎ジャム)を作るのは明後日で御座いますよ」


「いえ、その。先日交換頂いた割符があったでは無いですか」


「ああ、賭博場に住むさる御方の」


「ええ。その御方です。先日の割符の事で相談があるらしく……」


「ふむ?」


「えー何でも大津へ借款の返済で手間取ったそうなのです。何でも持って行った銭だと一貫とは認めないとかなんとか。それで問答になった際に割符の取引を見られたそうで」


「ん?」


「その悪銭鐚銭を使って問答を行うより楽だから何枚か買う事は出来るか、と。また大津で取引を行いたいそうなのです」


「え、ええ……まぁ出来ます。出来ますが良いんですかねこコレ」


 勝三が紙幣もどきを発行したのは近江での支払いの簡便化と金銭不足の解消を目指した為だ。ただそれは近江と言う琵琶湖の水運が身直にある場所限定の代物になれば良いなくらいの考えだったのである。都の人間が欲しがると言うのは正に慮外の事でしか無かった。


 まぁこれは此の時代の銅銭の価値が一定でない所為である。現代的に言えば貨幣コレクターの主義趣向で経済を回す様なもんだ。例えばギザ十は十一円とか言われたら決済の確認行程が増えてウザい事此の上ない。それならまだしも昔の五百円は使えませんとか言われたら普通にキレる。


 が、此の時代はそんな鬱陶しい取引がデフォであり、どころか大体がその銭なら倍払えみたいなのばっか。一々良貨だ悪貨だとクソ怠い交渉という過程が加わるが勝三の割符は少なくとも近江でその過程を飛ばせる信用があった。近江は東から都へ向かう物資の窓口であり当然の帰結として公家の中で流通しつつあったのだ。


「それでは失礼致します内藤殿」


「御苦労様です中将様」


 そんな事があった二日後の事、丹羽五郎左衛門長秀により丹後丹波が攻略された。


ふぉひふぁひは(時が来た)


 口一杯に|林檎の砂糖タレの包み《林檎ジャムのクレープ擬》を口一杯に含んで信長が言った。口内の甘味の塊ともいうべき代物を非常に惜しむ様に飲み込んで。

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