小説家になろうのオープニングムービー
屋敷の裏庭で大きな子供が目を見開き震えていた。脂汗を垂らし大きな眼は収縮して揺れている。
「やっぱり間違いない。この記憶は……本物だ」
凡そ尋常ならざる事実に驚愕し心身共に一欠片も動かせずにいる。そのグチャグチャの感情が少年の瞳から漏れ落ち地を濡らした。時が止まったかの様な少年がふと思わず空を見上げれば晴れ渡った空に浮かぶ太陽が少年を見下ろしている。変わらない、記憶の中に有る先の世界でも何一つ変わらない太陽が少年を慰めた。
涙を拭う。前世の記憶の中に残る敬愛すべき若殿の人物像が、どうにも今生きる現実の彼と一致せず首を傾げていたが事実を受け入れる他無い。
「加納口も事実だった。あの全てを飲み込んでしまいそうな殿が唯の敗北どころか与三右衛門様や大叔父様さえ討ち取られる大敗北をした。小豆坂も、美濃との同盟も、殿の病気も……」
少年には未来の記憶が有った。産まれた頃から四百年も後の、少年にとっては先の世界を生きた記憶がだ。そんな記憶を思い起こしてもう一度、大きく震える。恐ろしくて仕方ない余りにも無情な事実が少年の恐怖を非道な迄に揺さぶる。
「内藤家はどうなるんだ……。父上は、母上は、三郎様は」
後の時代の事を前世と言うと違和感があるが兎も角、先の時代の記憶の自分は歴史好きだった。
戦国時代を題材とした信長が野望と言うSLGから興味を持ち、ライトノベルの硝石作成の方法を調べる程度になり、今の美濃や尾張である岐阜や愛知に旅行に行く程度のだ。
知識の程度で言えば年号は忘れているが織田家の出来事はある程度だが諳んじる事が出来た。
「俺はッ……!!」
その記憶で読んだ書に父の存在は有るが諱も伝わらず自分自身の存在などは書にさえ無い。そもそも大人衆という立場の自家の記述がある時期を過ぎた途端に全くと言っていい程に無くなっていた。
確かに長兄は戦さの傷が悪化して死に次兄は夭折、後継は自分しかいないが敬愛すべき若殿の領土の広がりを思い起こせば恐ろしい可能性に思い至る。即ち父も少年も死に、家は断絶する可能性が高いと言う事だ。
「嫌だ……」
更にその先に待つのは敬愛する若殿が討たれると言う非業の結末。
「嫌だ、死にたく無い……。父上にも三郎様にも死んでほしく無い!!」
思い起こす。とても良くしてくれた青山与三右衛門や叔父達の無念の表情を浮かべた生首が父や敬愛する若殿と重なる。
「嫌だッ!!」
少年は自身の発した声と共に倒れた。




