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【第2話】入学式

 

「ふぁあ……」


 隣から聞こえる、可愛らしいあくび。つられて私もあくびしそうになってしまいますが何とか抑えました。さすがにこの周りからちらちらと視線を集めている今堂々とあくびをするのははしたないですから。


 入学式、それに校長の長話はつきもの。と、私は実家での唯一の味方であるメイドから聞いたのですが、どうやらこの学校の校長もまた延々と眠たくなるお話をしています。まあ、この学園長は美少女と言って差し支えない容姿なので、男子生徒は釘付けのようですけど。


「ごほんっ、では、これで私の話を終わるわ! 新入生諸君はそのまま教室へと向かいなさい。オリエンテーションがあるわよ」


 可憐な声で学園長がそう締め括るとざわざわと生徒たちが移動を始める。さて、この席に座ってた時点でクラスはわかっていたので迷うことはありません。人混みに紛れてさっさと行くことにします。


「ねね、あなたどこのクラス?」

「……三組ですけど」


 と、席を立とうとした瞬間、肩を掴まれました。振り返ると先程あくびをしていた女子生徒でした。少しくすんだ赤髪にそばかすの散った愛嬌のある顔立ちです。


「よかった、同じクラスね! 私方向音痴だから教室の場所わかんなくって! 一緒に教室まで行こ! ほらほらっ」


 満面の笑みで、ほぼ決定事項かのように話されては断る隙もありません。困りました、なんでわざわざ私に話しかけるのでしょうか……。


「私マーシャ! 貴方も平民よね? 平民同士仲良くしましょっ」

「ああ……えーと、ノルンです」


 いえ、れっきとした貴族です。とは言えず、名前だけ答えて曖昧に微笑む。

 ……そういえば、ルームメイトの名前がマーシャだったような。


 このいかにも押しの強そうな、苦手な部類の彼女とこれから同じ部屋で生活するのですか……。まあ、平民のようですし、偏見のある方よりよっぽどマシですよね。

 うん、贅沢は言っちゃいけない。それに、押しが強くて苦手なタイプでも彼女自体はとても性格が良さそうだ。私、人を見る目には自信あるんです。昔からろくでなしに囲まれて育ったので。



 部屋番号を聞いてみるとやっぱり同じ部屋でした。部屋に着くや否や、荷解きを始める前にお喋りが始まりました。


「いやあ〜っ、たまたま話しかけたノルンが同じ部屋なんて! 運命ね! バディも一緒だったりして……って、バディは魔法士同士では組まないんだったね!」

「はい、それぞれ騎士科と魔法士科の新入生から一人ずつ、運命神の加護がかかった籤で選ばれるので」


そもそも確率的にありえないと思いますけどね……。まあ、運命神の選定に確率論なんて持ち出すのは愚かなのかもしれませんけど。神は生まれた時から信じるのをやめました。


 ちなみに、バディとは騎士と魔法士のふたつの学科の生徒が集まるこの学園ならではの制度です。

 魔法というのは効果が強ければ強いほど使うとき隙が大きくなります。ですから魔獣との戦闘などでは基本的に前衛が必要で__つまり、騎士と組んで戦う。その予行として、学園でも騎士と魔法士でバディを組んで課外授業に挑むわけです。


「バディの決定はいつだったっけ?」

「……ちゃんと学園長先生の話聞いてました? 明後日ですよ」

「えーっ、結構早いんだね」


 そう、明日のオリエンテーションが終わってすぐバディは決定するようです。因みに例年入学式の翌々日、という訳ではなく、運命神の力が強く発揮できる満月の日にバディの選定は行われます。

 その事を話すと、マーシャは興味深そうに頷いていました。……これも学園長が話していたような。


「……ねえ、なんで敬語なの? 同級生なんだし、もっと気軽に話してくれていいんだよっ」


 思わずぎくりとしました。実は私は敬語を使わず話すのが苦手なのです。というのも、実家ではほぼ使用人と似たような扱いだったので……。しかも、令嬢らしい言葉遣いを教わった訳でもないので、なんというか、"中途半端"な敬語しか使えません。


「あ、あはは、同世代の子と話すのは久々で緊張してるんですよ」

「なら、いいんだけど」


 きょとんとした顔をしつつも、すぐに満面の笑みを浮かべるマーシャ。


「私も、魔法のこともこの学校のこともあんまり知らないから結構不安だったんだけど……ノルンは意外と詳しそうだね」

「ぜ、全部学園長先生が話していた内容ですよ? マーシャはほぼほぼ寝ていたから知らないんです」


 部屋に来るまでに話した内容を思い出すと、そういえば平民ではあまり知りえないことをぺらぺらと喋ってしまったような……。

 貴族とバレたらまずいと慌てて誤魔化す。この天然そうなマーシャでも、流石に貴族と分かったらこんな風に話してくれなくなりますし。存外、彼女のこの態度は新鮮で気に入っている自分がいました。


「そっかー……明日からは、ちゃんと聞かないとねっ」

「そうですよ。という訳で、早く荷解きを終わらせて就寝しましょう」


 まあ、私もマーシャも、相当荷物は少ないですけど。平民と同じ量の荷物しか持ってきていない貴族の娘なんて私だけだと思うと悲しくなりますね。


 ……というか、一人部屋じゃない貴族の娘がまずいないんでした。


"中途半端"とあるように、意識的にノルンの口調は少し雑にしているのですが難しいです。あまり貴族然とさせたくないんですよね。


少しでも気になりましたらブックマークの方よろしくお願いいたします。あと、評価なども良ければ!

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